十日が経過しました
はぁ、クロード様は無事だろうか。
今日でクロード様を見送ってから十日が経過した。
出立して三日目に一度だけ魔法をかけた手紙が届いた。簡単な近況報告と私に会いたいという想いが綴られた短い文面だったが、とても嬉しかった。
でも、それっきり手紙も来ていないし、現在クロード様がどのように過ごしているかも分からない。
そして主人が不在のため、その際の書類の決裁は私がすることになる。
そのため数日間はセバスさんから仕事の仕方をみっちり教えてもらって必死にこなしていた。
最初は他のことを考える余裕すらなかったけど、毎日こなしていると段々と慣れてきて他の事を考える余裕も生まれるものだ。
そうすると、クロード様が無事かどうか、今どこで何をしているのか……
そんなことが脳裏を過る。
「はぁ」
「奥様、少し休憩を取りましょうか」
あ、いけない。無意識に溜息が出てしまったみたい。
「セバスさん、大丈夫です。すみません、ちょっと別の事が頭を過っただけですから」
「奥様は飲み込みも早いですし、私もつい色々と詰め込んでお伝えしてしまいましたから。それに、こちらの書類でひと段落しますし、一旦お茶の時間にしましょう。セットをお持ちいたします」
セバスさんはそういうと私に一礼し、出て行ってしまった。
はぁ、仕事中なのにセバスさんに気を遣わせてしまったな。
そんなことを思っているとあっという間にセバスさんは侍女を連れて戻ってきた。
おお、セバスさん相変わらず仕事が早い。
「奥様、こちらで少しゆっくりされては如何でしょうか。軽食ですがご用意もありますので」
「ありがとうございます」
セバスさんのお言葉に甘えてソファに移動するとふんわりとお茶菓子の甘い香りが漂ってくる。
そしてセバスさんに紅茶を入れてもらうと、ふわっと甘い花のようないい香りが辺りに広がった。
うーん、とってもいい香り。ああ、癒されるわ~。
セバスさんに促されるまま紅茶を堪能していると、セバスさんはゆっくりした口調で私に話し掛けてきた。
「奥様は執務の飲み込みが早いようですが、以前にそういった関係の教育などを受けられていらっしゃったのでしょうか」
う。それを聞かれるとちょっと困る。
だって、仕事についての素地がある理由が『前世で仕事をしていた経験から得たものです』だなんて言えるはずがないじゃない。
前世ではライフスタイルに合わせて何度か転職することもあったので、仕事のために取得した簿記の知識だったり、公文書を作成サポートをする行政書士アシスタントの知識だったり、そういった基礎知識がある。
それに、エステルがたくさんの本から得た知識も相まって、セバスさんの説明が入りやすかったのだ。
「えっと……そうですね。実家ではたくさん本を読んでいたので、予備知識があったんだと思います」
ちょっと苦しい言い訳かもしれないけど、本をたくさん読んでいたのは間違ってはいない。
「そうでしたか」
セバスさんは少し黙り込んだ後に言葉を選びながら話を続ける。
「これからのお話は執事としての戯言にございます。そして奥様に対して失礼な物言いになってしまうことを先にお許しください」




