9031列車 越すに越されぬ三国峠
智暉サイド
日高山脈を越え、音更帯広インターで道東道を降り、一般道に入る。北海道だから、帯広でも積雪が有るかと思っていたが、そんなことはなくいたって普通の乾燥した路面が待っていた。こういう所を走る場合はスリップなどの危険性を考慮する必要はまずないだろう。スピードを上げて70km/hで上士幌町へと足を進める。
今治「案外早く来たねぇ。」
セイコーマート士幌店で朝ご飯を調達。ここで時間は6時を過ぎた。
智暉「集合時間は8時50分なんだよねぇ。どうする。三国峠に行ってみる。」
と提案してみる。
三国峠は帯広と上川の間を通る国道273号線の峠道だ。三国峠の頂上から見える風景は個人的には狩勝峠に引けをとらないと考えている。
今治「ああ。じゃあ行ってみるか。」
智暉「とりあえず、まずはこれ片付けないとなぁ。」
15分ほどでセイコーマートを出発。道の駅かみしほろを過ぎたところで国道241号線から国道273号線に入った。15分くらい走る間に道は上りにかかった。だんだんと人の営みが消えていき大自然が出迎えてくれる。橋を渡ったところで左側が広くなっている場所にさしかかった。
今治「あっ・・・。着いたか。」
智暉「ああ、第三音更川橋梁にね。」
コートと手袋を装備して、外に出た。確かに、ここまで寒いと寒さを超えて痛い・・・。そういう場所なのか・・・。
歩幅を小さくして、川の上に立つ。道路橋から下を見ると、コンクリートのアーチ橋が見える。これも士幌線の構造物だったモノ。第三音更川橋梁だ。
今治「こんな所通ってたんだなぁ・・・。」
智暉「・・・よくここまで通したよなぁ・・・。」
車を止めた方の岸をみる。緑が少ない分、士幌線がどの辺りを通っていたのかがよく分かる。
智暉「さ、写真撮ったら次に行こう。さっさと三国峠の頂上に上がってしまおうぜ。」
ささっと事を済ませて、車へと戻った。車を発進させてしばらく走ると「ヒグマ出没多発 注意」との看板が見える。
今治「ヒグマ出没注意・・・。」
智暉「ここら辺ならいないことの方がおかしいだろ・・・。今は冬眠中だろうけど・・・。」
自然はこちらの想像をすぐに超えていく。冬眠中であることを祈りたいモノだ。
国道273号線の沿線には士幌線の廃線跡をよく見る。先程の第三音更川橋梁から、下の沢陸橋・第四音更川橋梁・三の沢橋梁・五の沢橋梁・第五音更川橋梁・幌加駅跡・第六音更川橋梁・十勝三股駅跡と続いていく。殆どが国道から見えるのであまり時間をとられずに撮影が出来ることは助かるものだ。
そして、駅跡を見て思うのは「よくこんな所に鉄道を延ばした」と言うことだ。糠平の街を通り過ぎれば、国道沿線でさえ人の営みが完全に消える。残されているのは過去の営みを象徴する建物では無く、不自然な広い空間だけ。「大量輸送」の体もなせない鉄道線であることは明白である。そんな鉄道である必要さえない鉄道線が国道273号線と同様三国峠を越えて石北本線上川に接続しようとしていたのはとんだ笑い話だ。
道路には薄らと雪が積もっている。車が走るとそれらが巻き上がり、後ろを見ればまるで東北新幹線のような雪煙がなびく。今度は進行方向を見る。山の中腹に人工物が見えた。
智暉「これからあんな所まで登ってくのか。」
今治「・・・。」
三国峠の頂上はまだまだ遠そうだ。
萌サイド
梓「北海道に行った。」
更衣室に梓の呆れたという声が響く。
萌「うん。凄い行きたそうな顔してたからねぇ。家でそういう顔をされてるよりは行って発散して来いって感じでね。送り出しちゃった。」
梓「いやいや、送り出しちゃったって・・・。ハァ、ナガシィ君本当に分かってるの・・・。子供見るだけでも大変だって事。」
梓は私の友達。旦那さんである大希君の事情でこっちに越してきたのだ。今は友達兼先輩ママって感じになっている。
梓「私も見るの手伝おうか。いくら何でも一人は大変でしょ。というか、そういう話はもうちょっと前に私に言ってくれればよかっただに。見るの手伝っただで。」
萌「ああ・・・それは私の失敗・・・。あんまりそっちまで考え回ってなかったかも。」
梓「まず無理しないこと。私が大変な時は手伝ってくれただで、少しは私にもお返しさせなさい。」
萌「うん。じゃあ、早速だけど今日大丈夫。」
梓「早速ねぇ・・・。なんだったら私の家来る。大希には私から話通しとくけど。」
萌「冗談で言ったけど、本当に良いの。」
というと梓は少し顔を赤くして、
梓「まぁ、私が旦那の生け贄になればねぇ・・・。結構聞いてくれると思うし。」
あっ、運動会の開催も確定するのね・・・。
梓「ていうか、今北海道って大変じゃない。大雪でJRとかも止まってるとかってニュースで言ってたけど。」
萌「そうなのよねぇ・・・。今日もJR全然動かないって話があるのよねぇ・・・。大丈夫かなぁ。今日は「おおぞら12号」乗るつもりって言ってたし。」
と言ったが、
萌「まっ、そうなったらどうにかするだろうし。」
梓「・・・萌ちゃんもあんまりナガシィ君の心配してないのね・・・。」
同僚「鳥峨家さん、永島さん。そういう話はまたお仕事の後に。」
萌・梓「あっ、すみません・・・。」