4日目:不器用な贈り物
ちょっと百合ちっくです。
4.レニィさんには「君と秘密を分け合いたい」で始まり、「不器用でごめんね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以内でお願いします。
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「君と秘密を分け合いたいな」
「例えば、どんな?」
放課後の緩やかな空気が流れる教室で、向き合って座ってただ窓の外を見ているだけの私たちは、今日も他愛もない話をする。
「そうだなぁ……例えば、本当に好きな食べ物、とか」
「ありきたりだなぁ。そんなの、秘密でもなんでもないじゃないか」
「そりゃあ、ただの食べ物ならそうだろうけども、もし人に言いにくいようなものなら、十分秘密になるだろう?」
「納豆とか、くさやとか?」
「そんな臭い物ばかりじゃなくてもいいじゃないか。例えばさ、うどんは関西風じゃなきゃ食べられないとか、お好み焼きは広島風しか認めないとか、そんなだよ」
「それって、ただのこだわりじゃない?」
「でもそのこだわりは、人によっては食の冒涜にすら感じさせる事だってあるんだよ?君、名古屋の道のど真ん中で、『あんかけスパゲッティってパスタじゃないですよね?』って叫べるかい?」
「さぁ?どうなるか想像もつかないのに、叫ぶなんてできないわ」
「そう。どうなるか想像がつかない。だからこそ、本当に好きな食べ物を教えるのはリスキーなんだ。秘密として取り扱ったって問題ないくらいにね」
窓から入ってきたぬるい風が、微笑む彼女の短くカットされた髪の毛を微かに揺らした。
私はその風で巻き上がって、顔に張りついた髪の毛を払う。
「それじゃあ、あなたの秘密って?」
「秘密はたくさんあるさ。教えられないものも、教えられるものも」
「じゃあ、本当に好きな食べ物は?」
彼女は迷ったようなフリを一瞬したけれど、すぐに私に教えてくれた。
「マカロン」
「普通じゃない。どこが秘密にしなきゃいけない食べ物なの?」
彼女は私の答えを聞いて、少し自嘲気味に笑う。
「だって、マカロンって可愛いイメージだろう?髪が長くて、小柄で、柔らかい輪郭で、目がぱっちりとしていて、いつも甘い香りがする」
彼女は私が払った髪の毛を一房手に取って、私を見つめた。
「君のような可愛い、可愛い、女の子が食べるお菓子だ」
「……そうやって、学校にいる男子よりもキザでカッコいいことするから、好きな食べ物はマカロンです。って言えないんじゃない?」
私は髪を掬い上げた彼女の手を払って、ちょっと嫌味っぽく笑ってやる。
彼女はそれに怒りもせず、スッと通った目筋を本当に三日月のように孤を描いて微笑むのだ。
「案外、あなたも私ぐらい髪を伸ばしたら、可愛い女の子になるんじゃない?」
「どうかな?私は君を含め、他の女の子達よりも頭ひとつ大きいし、女性らしいふっくらとした丸みに乏しいから、髪を伸ばしても、印象は変わらないかもしれない」
そう言って彼女は、私とは違うスラリと伸びた手足を動かす。
下校を促す放送が校内に流れ出す。
私も彼女に続いて、立ち上がると参考書なんかで重たい鞄を持ち上げる。
「ところで、君の秘密は何だい?」
私の秘密。
それは当然、彼女に言える秘密で、共有できる方の秘密のことだ。
私は笑って応える。
「そうね……堅焼きのお煎餅が好きよ。海苔のついた」
あれから、何年、いや十何年経っただろう。
気がつけば私は、20代も後半で、平社員から、マネージャーまで昇進している。
高校生の頃、あんなに長かった髪をバッサリと切って、プリーツスカートではなくパンツスーツを身につけて、日夜オフィスで仕事に追われる身。
それが、今の私だ。
一方で、あの時男の子の様に短かった髪をした彼女は、今や見違えるほどのロングヘアーで、フレアスカートに身を包んで、最近、婚約したという連絡と写真が送られてきた。
式は間近で、私にも来て欲しいという連絡と共に。
私は、その連絡に『ごめん。どうしても予定が付かなくて』という返事をした。
本当は、彼女が自分の見知らぬ男の人と結婚してしまう姿を見たくないだけなのに。
私は出席しない代わりに、彼女への結婚祝いを会社の側のデパートで注文した。
淡いパステルカラーが可愛いマカロンのセットを。
まだ彼女と共有した秘密は有効だろうか。そんな事を思いつつ。
「不器用でごめんね」