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畑から兵士が採れるスキル ‐レア農業スキルで村起こし‐

作者: 回天

一発ネタです。

 




 平凡な農家である俺、ルック・アントンの朝は早い。


 日が昇る少し前に起きて、畑の様子を見に行く。広いので一回りするだけでも大変だ。


 地面から突き出た太い茎と葉を触ると、だいぶ育ってきているのが分かった。一昨日に花が枯れたので、もう収穫してもいいだろう。これ以上、置いておくと、逆に大きくなりすぎてしまう。


「おーい! ルックー!」


 誰かに呼ばれる。


 振り返ると、幼馴染のミアがいた。


 腰まで延ばした黒髪を、無造作にまとめている。ダボダボの作業着を纏っていても、その豊満な身体を隠せていない。


 ミアは、この村では一番の美少女だ。いつも村の若者たちから声を掛けられている。しかし、彼女は他の男が苦手なのか、俺以外の男にはそっけない態度を取っている。なぜ俺にだけは親しげなのかを聞いてみたら、「ルックはルックだから」とよく分からないことを言われてしまった。どうやら俺は男だと見られていないらしい。


「ミア、どうしたんだ? まだ日も昇ってないぞ」


「そろそろ収穫でしょ。私も手伝おうかな、と思って」


「それは助かるが……、自分の家の畑はいいのか? お前の家も収穫だろ?」


「私が何人かに声を掛けたら、皆が手伝うって言い出して……思ったより人数が集まったから、私がいなくても大丈夫そう。だから私はルックの畑の収穫を手伝うわ」


(それ、ミア目当てで手伝っているんじゃないのか……?)


 俺はそう思ったが、口には出さないことに決めた。何にせよ、畑を手伝ってくれる人がいるのはありがたい。


「朝食を食べたら収穫をするから、その時にまた来てくれるか?」


「うん!」


 収穫をするには体力が必要だ。俺は1度家に戻って朝食にすることにした。



 家に帰ると、なぜかミアが付いてきていた。


「なんでお前は付いてきたんだ?」


「私もルックのところでご飯食べようかな、と思って」


 ミアはニコニコしながら、俺の方を見てくる。


「お前、昨日も一昨日も俺の家でご飯を食べたろ」


「……ダメ?」


 顔をしかめたミアは潤んだ目を向けてきた。追い返そうとしたが、罪悪感が湧いてくる。


「まあ、いいけど」


「やった! ルック、優しい!」


 すぐに笑顔になった。嘘泣きだったようだ。少し腹が立ったが、ミアの笑顔を見ているとどうでも良くなってきた。


「その代わり、作るの手伝えよ」


「もちろん!」





 朝食を食べた後、ミアは「水路の点検に付き合って」だの「森のほうに珍しい花が咲いていたの」だのと言って俺を散々に連れまわし、収穫を始めたのは昼過ぎになってしまった。


「いくぞ、ミア!」


「いつでもいいわよ!」


「「せーのっ!」」


 ミアと共に地面に出ている茎を掴んで、上へと引っ張る。髪の毛、目、鼻、口と地面から現れ、最後に首が出てきた。


 普通に抜こうとすると、その下はなかなか出てこない。下手に力を入れると折れてしまう可能性もある。かといって、掘り返すのは手間である。


 ここで俺の経験がものを言う。鉈を振るって、茎をその根元、頭頂部に接するギリギリのところで切る。すると、その目が開いた。あたりを確認するように首を回し、瞳がキョロキョロと動く。


 俺が「いつまでそこにいる気だ! 早くそこから出ろ!」と命令すると、全裸の男が周りの土を崩しながら這い出てくる。彼は俺の前で背筋を伸ばして立った。身長は俺より高く、筋肉もよく付いている。


(よし、いい出来だ)


 俺は、作物を置いておくために建てられた倉庫の方を指差すと、「あそこに入って、置いてある服に着替えろ! その後は別命あるまで待機! 食事や排泄は適切な場所で適宜行なえ!」と言った。彼は右手をこめかみに当てる敬礼をして、「はい!」と叫ぶと、全力で駆けていった。なかなかイキがいい。


「……何回見ても慣れないね」


 ミアは駆けていく男を複雑な表情で見ている。


「そうか?いつも通りだろ」


「そうだけど……」


「ほら、手伝ってくれるんだろ? 次に行くぞ次に」





 俺が育てている作物、それは「兵士」だ。


 1年ほど前のこと、職業:村人としての俺の成長度合いを確かめるために村長の所でスキル鑑定球を使ったら、俺は「農業(兵士)」というスキルを発現していたことが分かった。そのスキルについて、村長は聞いたことが無く、スキル辞典で調べても記載がない。どうもレアスキルらしい。普通の村人はたいてい「農業」というスキルを持っており、どんな作物でも育てることが出来る。俺も前は「農業」スキルを持っていたが、「農業(兵士)」が発現してからは消えてしまった。似ている名前だが、別のスキルのようだ。


 本来ならば王都の大神殿に行って、スキルの内容を調べてもらうところだが、うちの村は王国の外れにあって、領主でさえもここ10年は訪れていないような僻地だ(税は年に1度、収穫物を街で換金して金納する)。その少し前に両親を失っていた俺は、自分の食い扶持を稼ぐ必要があり、遠い王都へと向かうような余裕はなかった。


 俺は「農業(兵士)」のスキルを得て以来、どんな苗や種を地面に植えても、収穫できるのは全裸の男ばかりになった。見かけは10代後半から20代くらいで個体差がある。少しの水さえ与えてやれば、数日で成長して花が咲き、植えてから1週間ほどで収穫できる。肥料もいらないので、育てるのはすごく楽だった。


 最初は戸惑った。男たちは収穫しても食べられず(というより、食べる気にならない)、逆に食事代が掛かる。裸であたりを歩かせることも出来ないので、服を用意する必要さえあった。彼らに農業を手伝わせようとしたが、全然動いてくれない。村長のところに連れて行ってどんなスキルを持っているのか確認してみたら、個体差はあるが、「射撃(A)」「近接格闘(B)」「斥候」「攻撃魔術(火)(C)」「応急医療」「工兵(A)」など戦闘に関連するスキルばかりで、「農業」や「鍛冶」、「牧畜」など村人向けのスキルを持っている個体はいなかった。


 せっかく収穫した作物を潰すのは農家として心が痛いので、仕方なく村の家々の修理や、怪我をした村人の治療、村の近くに出没する魔獣退治などに使い、その代わりに村人たちから食料を貰った。


 兵士だけあって、村の腕自慢たちも相手にならないほど強いのだが、彼らは自衛や、生産者である俺を守るため以外には、誰かに命令されないと動かない。冒険者や傭兵として使うことも考えたが、危険を冒して彼らを指揮する村人が見つからなかったので諦めた。俺もずっと農業をしてきたので、自分の身を危険に晒したくはない。


 そんな悩みを抱えていた時に、隣国から軍人たちが兵士を集めにやってきた。どうも隣国へ出稼ぎに行く村人の護衛に使った兵士たちに、隣国の指導者たちが目をつけたらしい。俺が「農業(兵士)」のスキルで彼らを育てているのだと分かると非常に驚き、なるべく隠した方が良い、と言ってきた。


 増え続ける兵士たちに辟易としていた俺は、隣国に1500人くらいの兵士を一括で売却することにした。隣国は戦争中で兵士が足りないらしく、彼らは大喜びしていた。彼らは、俺に隣国への移住を勧めてきたが、村に愛着があるから、と断った。残念そうにしていたが、無理強いはされなかった。その代わり、俺が育てた兵士たちは隣国が全部買いとる、という独占契約を結ばないかと持ちかけられ、俺はそれを了承した。また隣国の軍人たちは、村人たちに、俺が「農業(兵士)」というスキルを持っていることや、その効果を話さないでくれたら、各世帯に毎月金貨1枚を与える、と申し出た。金貨が1枚あれば、都市では1週間は暮らしていけるらしい。村人たちは大喜びでそれを受け入れた。


 それからは2週間に1度、隣国からの馬車が長い列を組んで国境を越え、兵士たちを引き取るためにやってくる。こんなド田舎の国境なんてまったく警備されておらず、村人たち以外には誰も気が付いていない。俺が一声、「乗れ」と言えば兵士たちは勝手に馬車に乗るので出荷作業は簡単だ。手間が掛からなくていい。


 1回の出荷のたびに、少なくて500人、多いと1000人以上の兵士たちを卸す。俺が未熟なせいもあって、収穫できる人数がかなり変動し、しかも育ちが悪くて痩せている、あるいは逆に太りすぎている個体が混じっていることもある。それでも隣国は喜んで買ってくれた。非常にありがたいことだ。


 隣国は1人を出荷するごとに、金貨1枚を俺に払ってくれて、非常に良い稼ぎになっている。俺は、そのお金を何かに備えて貯める傍ら、他の村人が育てた作物を買って、出荷を待っている兵士たちの食料に当てた。


 俺が村人が育てた作物を買うようになると、隣国からの口止め料もあって、村人たちにもお金が回るようになり、出稼ぎに行っていた男たちも続々と戻ってきた。しかし、問題があった。そのお金を使える場所があまり無いのである。近くの街へ行くにも、片道で2日はかかるド田舎なのだ。


 お金を貰っても、なかなかそれを使える場所が無い、と出荷作業に来た隣国の軍人に愚痴ったら、村人たちが遠くまで買い物に行かなくて済むようにと、出荷の際に様々な商品を馬車に積んで持ってきてくれるようになった。こんな辺鄙な寒村に2週間に1度、簡単な市が立つのだ。俺も村人たちも大助かりである。


 兵士、という奇妙なものを収穫する俺を、村の人々は最初、奇異の目で見ていたが、兵士たちが建築や応急処置をしてくれるようになると、俺のことを認めてくれた。俺が貴重な現金収入を村にもたらしている今では、村人たちと俺との関係は良好だ。次の村長を俺に、という声も上がっているらしい。


 俺が収穫した兵士たちに関しても、前は何か恐ろしいものを見るかのような目で見られていた。しかし俺が「村人たちからの命令を聞け!」と言っておけば、兵士たちは村人の命令にも従うようになる。何かと便利な存在だと、村人たちは思ったらしい。今では出荷を待っている兵士が村の子供たちの遊び相手になっていたり、老人が物を運ぶのを兵士たちが手伝ったり、と仲良くやっているようだ。しかし、兵士たちを出荷しようとすると、子供たちから「そのおじさんは連れて行かないで!」と泣きつかれることがあったりして、それはそれで困りものである(「作物は、いつかは出荷されるものなんだ」と教えるために、心を鬼にして出荷した)。


 隣国は、この村で俺が産出している兵士たちが非常に役立ち、助かっているので、この村に連絡のための軍人を常時置きたいと言い出している。村長はこれに前向きのようだ。俺も、もっと畑を広げて、より多くの兵士を出荷できるようにしたい。






「ふぅ、今日収穫できるのはこれくらいだな」


 空がオレンジ色に染まる頃になって収穫が一段落した。今日は400人くらいを収穫できた。また明日には苗を植えねばならない。


「やっと終わったぁ……」


 疲れきったミアは、近くの石の上に座って俯いている。


「お疲れ、ミア。助かったよ。ありがとう」


 俺がそう声を掛けると、ミアは顔を上げて笑顔を向けてきた。


「お礼に夕食をご馳走して頂戴!」


(またご飯か、食い意地が張ってるな)


 ミアは最近、朝夜(今の世界では1日2食だ)と我が家でご飯を食べている。今や村で1番の金持ちである俺にたかっているのだろうが、両親が死んで1人暮らしの俺にとって、一緒に食事をしてくれる相手がいるのは嬉しかった。


「分かったよ、じゃあ家に来てくれ」


「うん!」


 一般スキルと違い、レアスキルは子供にも受け継がれる。隣国の軍人は俺に結婚を勧めており、嫁を世話する、とも言ってくれた。しかし俺はあまり気分が乗らなかった。出来れば、ミアに嫁に来てほしい。しかし、村で一番に可愛いと評判のミアは俺なんか相手にしてくれないだろうな、と半ば諦めてもいる。


(ミアみたいな娘と結婚できたらなぁ……)


 俺はそんなことを考えつつ、ミアを連れて家へと向かうのだった。


読んでいただいて、ありがとうございました。


感想や評価をしてくれたら嬉しいです。


この作品とは別の連載作品も同時投稿したので、よかったら読んでください。

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[一言] 隣国というところがなんとも
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