第二話
デジャヴュなんというものは、所詮、類似認知メカニズムの働きによって起こるものだ。記憶の中にある似たような物事と、目の前のそれを重ね合わせて、まるで過去に経験したような錯覚に陥るだけの。
——そうだったなら、どれだけ良かったろう!
日傘を差して、アレクサンドラは思う。
学園の門前に、新学期の今日は異様な人だかりが出来ていた。貴族とはいえ、親兄弟が近くにいなければこんなものだ。まるで“アイドル”のように祭り上げられている六人の王子達が、揃いも揃って集っている。珍しい光景だった。
「ああ、見て!吸血鬼に相応しい、あの美しい御髪を!」
うちの一人が感極まったように叫び、アレクサンドラはちらりと目を向けた。
きっとアルカードのことだろう。闇を切り取ったように黒い髪は、獲物を狩るに相応しい色をしている。吸血鬼にとって、黒の髪というのは王者の色とも言えた。
アルカードは赤い瞳を彼女に向けると、一瞬だけ目を細めて頷く。
アルカード・ツェペシュ。
彼はアレクサンドラの許嫁であり、最も高名な竜の血族の次期当主だった。
アレクサンドラは微笑むと、人だかりを避けるように広場へと足を進める。
少し離れた場所から彼らを眺め、ふと思い立って踵を返した。何故だか、バルコニーに向かいたくなった。高いところから見下ろしたくなったのかもしれない。
だって今日は……今日は。
彼女は階段を上っていく。地面が遠くなっていく。薄暗い室内で、彼女の瞳だけがやけに瞬いて見えた。
今日は!
バルコニーへ続く扉を開け放ち、柵に手を掛けて彼女は門を見下ろした。学生達のざわめきが聞こえてくる。門の前に誰かが立って、こちらを見上げている。
「今日は……『クルースニクの花嫁と、六人のヴァンパイア王子』の、オープニングだものね」
アレクサンドラはうっとりと呟いて、六人の王子に囲まれた少女を見下ろした。