第十話
アレクサンドラは眉を下げると、逡巡の後に頷いた。
「クルード……」
「ありがとう、アレクサンドラ」
するとルスヴン——クルードは、徐に身体を見下ろした。
それから手を握ったり閉じたりして、薄く笑う。どうやら肉体の修復が完了したらしかった。
「うん、終わった。服を借りてもいいかな」
「もちろん。ですが今は、私の服しか用意が無くて……」
クルードは微笑みと共に頷いた。
彼女はネグリジェかローブを彼に貸そうと考え、衣装室に向かおうとするアレクサンドラの背中に、クルードが声を掛ける。
「私が着てもいい服なら、どれでも構わないよ。手間をかけさせてごめんね」
「とんでもありません、手持ちはドレスばかりなので……暫しお待ちを」
クルードは首を傾げた。立ち上がると、衣装室へと向かう。
そしてアレクサンドラの後ろ背から覗き込んで、真紅色のドレス達に歓声を上げた。
「まるでガーネットの花束みたいだ!綺麗だね、全部貴方のドレス?」
アレクサンドラは驚いて、腰を抜かしそうになりながら振り返ると、クルードに是と答える。
「素敵だね、これなんて特に襟元が良い」
彼はうっとりと呟いた。アレクサンドラはその様子を眺めていたが、ふと思い立って口を開く。
「……着てみますか?」
「いいの?嬉しいな」
クルードははにかんだ。薄く笑うばかりだった彼が、照れたように相貌を崩す姿は愛らしく、アレクサンドラは息を飲む。
「ど、どれを着ます?入ると良いのですが……」
彼女は見入ってしまいそうになり、話を逸らすようにドレスを手に取った。するとクルードは高い上背を屈め、悪戯っぽく笑う。
「アレクサンドラ。私はね、姿形なんて変えられるんだよ」
彼女はドレスを持ったまま振り返った。するとクルードが立っていた場所、そこには真珠のように輝く少年がこちらを見つめていた。