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Rebellion Cord’s   作者: 倉野海
序章 Day brake’s
5/5

#5 宮廷魔導大隊

「(…ん、いつの間に寝ちゃったのかな…?)」

「(確か私は大きな振動のショックで気が沈んで………そうだアーシェ!)」


 ハッと目を開くとそこには見慣れない光景が広がっていた。幾ら見てもどこまでも続く暗闇が広がっているだけだった。


「アーシェ…どこなの?」



『…彼女は無事ですよ』



 ふと目の前に現れた黒いローブで全身を覆われた者に尋ねる。声色からして多分女性だ。


「…誰なの?」

「…この世の行く末を見定める者です」

「ねぇ、ここはどこなの?ホントにアーシェは無事なの?」

「彼女はこの通り無事ですよ」


 懐から取り出して見せられた水晶玉にはアーシェともう一人誰かの姿があった。


「この隣にいる白髪のきれいな人は?」

「彼女こそ、この世界を破滅に導く者です」

「…え?」


 唐突に告げられた言葉に衝撃が走る。水晶玉に映った可憐な美女が世界を滅ぼすなんて想像もつかなかった。


「そんな…嘘でしょ?私を騙そうとしても無駄よ?だってアーシェは…そんな人とは一緒にいるはずないもの」

「そう、あなたの親友は嘘を吹き込まれているのです。彼女は自分の仲間を探すためにあなたの親友を利用しようとしているのです。そしてあなたの親友は力を使えば使う程、体を蝕んでいきます」

「……そんな…」


 愕然とした。自分の親友が…そんな悪に身を委ねるなんて考えもしなかった。でも、とても受け入れられなかった。


「…なにかの間違いよ」

「残念ながら間違いではありません。彼女は確実に仲間を集め、世界を滅ぼすでしょう」

「…アーシェは…そうとは知らずに手を貸してるの?」

「はい、彼女はそんなことは望んではいません」

「…アーシェを…私の親友を…どうすれば救えますか…?」


 黒ずくめの女性は水晶玉をしまうと、別の球体を取り出した。


「この“哀”のオーブに身を委ねるのです」

「(待っててアーシェ、必ずあなたを助けてみせるから)」


 『“哀”のオーブ』と言われるそれには寂しさや悲しさを表現するかのように冷気を発する珠だった。少女は怯えながらも親友を救うために真っ直ぐ手を伸ばし、その手に掴む。


「…な、なにこれ!?体が呑み込まれて……」

「ヴッ、ヴアアアアア!?」


 蠢く黒いナニカが身体を覆い、頭の中に大切なモノを失った者達の姿が勢いよく流れ込んで来る。それと共に身体全身に電流が走ったような痛みを感じる。


「…これは…本当、に…救う力、なの…?」

「はい、これで世界は救われます」

「(アー、シェ…………)」


 少女の意識は哀しい記憶の中に埋もれながら、深い闇へと落ちていった。




 ❈❈❈❈❈❈❈❈



「街が見えてきた…ってちょっと待って!?」

「どうされたのです………こうも早く再開するとは…」


 ヴィヴァーチェの操縦席からアーシェとシンシアがハルザの街並みと共に目にしたのは、“ディザスタージァイアント“だった。しかし、街の中心部からしか煙が立ち込めておらず、火種もあまり見受けられなかった。多分魔導士が戦っているのだろう。


「シンシア、私が先に街に行って倒して来る。ヴィヴァーチェをお願い!」

「承知しました」


 アーシェは席を立つとパネルに手を翳してドアを開ける。


「『サポートフォース高速飛行(ソニックドライヴ)』起動!」


 勢いよく蹴って空に向かって飛び出す。


「(お願い…間に合って!)」


 ヴィヴァーチェよりも高速で空を駆け抜ける。速過ぎてこれまでの出力では風圧の影響を無視出来なくなっていた。


「(けど、膜を変形硬化させて、空気抵抗を減らせば…!)」


 一瞬にして風圧を完封し、更に勢いよく加速してゆく。そしてあっと言う間に街まで辿り着いた。


「『アタックフォース超光波砲(フォトンブラスター)起動!』」


 シンシアが使っていた砲撃武器を模したモノを手にし、トリガー部分に右手をかける。


「(腕を自然に固定させて…)『倍率補正…標準安定』」

「(標的に狙いを定めて…)『射角修正…終了、ロックオン!』」

「(放つ!)『ファイア!!』」


 手に走る反動で腕が頭上まで勢いよく飛ばされると共に一筋の光が真っ直ぐ標的に向かっていき、標的を貫いていく。そして、最初に倒すときよりもかなり離れた距離にいるのに爆発音が聞こえて来た。


「フゥ…なんとかなった」


 超電磁砲を解除して後ろを振り向くと、近くまで来ていたヴィヴァーチェの格納庫の側面が開いていて、シンシアが赤く光る棒で場所を示していたので、そのまま飛行して格納庫の中へと弧を描くように入って無事着陸した。



「お疲れ様ですアーシェ」


 戻ったことを確認したシンシアは側面を閉じるとコップに入った水を渡され、先頭車両に向かいながら少しずつ流し込んでいく。


「…ありがとう。にしてもアレがこうも早く来るとはね…」

「ええ、私も予想外でした。恐らくですが、あれは対象関わらず人が集まる所に出現している気がします」

「…それなら尚更早く王都にこの情報を届けないといけないね」

「さて、車両はどこに停車させようか…」

「あの高台でいいでしょう。フライトモードで行けば普通に行けます」

「了解、それじゃ早速…」


 席に着いてパネルのレバーの横にあるスイッチを押す。


「『…モードシフト・フライト』!」


 車輪を前から横に倒してゆき、車体は速度を保ったまま宙に浮き、徐々に上昇しながら進んでゆく。パネルには新たに高度と風圧の項目が追加された。


「高度安定、軌道修正よし、…シフト終了。流石磁力、」

「と言っても、すぐに着陸しますけどね」

「…わかってる。これより、着陸シークエンスに移ります」


 レバーをゆっくり下げながら速度を下げ、完全に停滞したことを確認したら徐々に高度を下げながら再び車輪を縦に戻してゆく。そして揺れる草木が生い茂る地面に降り立つ。


「着陸を確認、全車輪ロック、固定完了……着いた」

「それでは早速渓谷に…」

「まずは街の状況確認だよ。ただし、街の人を刺激しないようにね」

「なぜ?今村に行ってもなにも…」

「同じ様に苦しむ人を助けずにいられないでしょ?」

「…そう、ですね」


 二人はその後沈黙したまま真っ直ぐに格納庫に向かい、再び側面を開けるとソニックシュテルンに跨いだ。


「…それじゃ、行くよ」



 飛行形態(フライトモード)に設定済みだった機体は宙に浮き、勢いよく飛び出してゆく。そして開いた側面は自動で閉じていった。


 難なく丘を降り、街の入り口まで向かうと、赤子の鳴き声や誰かが指揮をとる声が徐々に大きく響いて来た。街中に入る前で止まり、飛行形態を解除してソニックシュテルンから降りた二人はそのまま押して中に入った。

 そこにいた人達は自分達のことだけで頭がいっぱいなのか見慣れない私のことなど目に入っていないようだった。


「誰も話しかけて来ませんね」

「うん…状況が状況だから仕方ないよ…」


「そこの二人、見慣れない顔だな?」


 そこにいたのは国が定めた制服を着た正真正銘の魔導士の姿があった。明るめの茶髪は後ろで束ねられていてシンシアと同じ位の背丈のしっかりしてそうな女性だ。


「私はアーシェ、ここから更に南東にあるオセット村の者です」

「同じく、オセット村出身のシンシアです。アーシェの補佐をしています」

「アーシェとシンシアか……待て、貴殿はアーシェと名乗ったか?」

「はい、アーシェ=クロイチェフですが…」

「……ということは、大佐のお嬢様のサーニャ様の親友ですか?」

「はい、その通りです」

「なるほど、あなたが……始めまして、私は宮廷魔導大隊一番隊第二中隊中佐レーニャ=アルテと申します。ところでサーニャ様は?」

「…ここでは話し辛いので場所を移したいのですが…」


 宮廷魔導大隊とはアルコース王国が保有する魔導士達で結成された大部隊だ。陸の一番隊、海の第二隊、空の第三隊に分けられており、その中で幾多の中隊に分けられる。

 そして現状、ここにいる第二中隊の指揮者であろう彼女とこうして話していると流石に周りも気付いたようだ。今ではザワザワと噂でもしてそうな気配だった。


「あぁ…分かった。では付いてきてくれ」

「あの〜中佐、その二人は一体?」


 そこに私達に気付いたレーニャの部下の一人が寄って来た。


「彼女達はオセット村から来たサーニャ様の親友のアーシェとアーシェのお目付け役のシンシアだ」

「(お目付け役って……こっちの方が合ってるかも)」


 寄って来た青年が探るように私の方を見て来る。単純な興味の目だから別にいいんだけど、あまり人にジッと見られたくないというのが本心だ。


「あ〜大佐が話してたあの子か…確かに見た目も聞いた通りだ。あ、僕は宮廷魔導大隊一番隊第二中隊少佐、ディード=アルストだよ。よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「私は二人の事情を聞くため部署に戻る。後は任せた」

『ハッ!』


 ディードと名乗った者を含めた部下達は彼女に対して揃って敬礼する。これ程の統率力…いや、信頼を持つというだけでも優れているのに“中佐”と言う位なのだから魔道士としての実力も相当なはずだ。


「(私は“Cord”たちをまとめれるの…?)」

「そう言えばその二輪車は?」

「私の発明品です。量産化しやすいようにコストを落としたモノを国に売りに行くつもりです」


「……それは後で詳しく聞かせてもらおう。そして恐らくだが、あのデカブツを射貫いたのは君達だね」


「…なんのことでしょうか?(なんでバレてるの…?)」


 なにも言っていないのに見抜かれることに少し恐怖を覚えた。これも宮廷魔導士の観察眼なのだろうか…。


「恍けても無駄だぞ。アレが射貫いかれてから30分後くらいに君体がこの街にやって来た。その間にこの街付近には君達以外いないからね」

「(ただの推理だった…)」

「…見抜かれちゃいましたか。そうです、私があのデカブツを射貫きました」

「さぁ、着いたぞ。後は中でゆっくり聞かせてもらおう」


 目の前には他の家や店と違って大きな建造物が建っていた。街並みに合わせて淡い赤色のレンガで作られていて、至るところに国旗が見られる。


 二人は扉を開けて中に入る彼女に続いて中に入る。地面には濃い赤の絨毯が敷かれていて、違う世界に踏み込んだような気分になった。そしてそのまま真っ直ぐに応接室に向かった。

 中に入ると白くて横に長いテーブルの手前と奥に薄暗い茶色のソファという順に並んでいた。壁には国旗や風景画が飾ってある。


「さ、どうぞ席へ」


 レーニャに促されて二人は彼女と同じタイミングでソファに腰掛ける。


「それでは早速だが、君達の事情を聞かせてもらおうか?」

「はい、質問等は話し終えてからお願いします」

「では、話してくれ」




 ❈❈❈❈❈❈



「…という訳で、私達はこの街にやって来たのです」

「………ちょっと待ってくれ、情報量の多さに頭が混乱している…」


 村のこと、シンシアのこと、攫われてしまったサーニャのこと、ディザスターゴーレムのこと、これからしようとしておること、その全てを話すのにどれ程の時間がかかったのだろうか、窓から見える空が少し茜色に染まり始めていた。


 そして彼女が困惑した表情を見せるのも無理はない。ただのお伽話として語られていた物が実話であったということが特に衝撃的だっただろうと思う。


「…つまり君達はサーニャ様を探すため、封印された“Cord”を探すために旅立ち、この街にやって来たときに我々が対峙していたディザスタージャイアントを遠距離狙撃一発で倒した。…これで合ってるか?」

「はい、信じられないかもしれませんが全て事実です。村に行けば悲惨さが痛い程伝わってきますよ」

「…ようやく繋がったよ。なんともまぁ壮大な話だ………それで、後に国王陛下との会談を望むのだな?」

「はい、辺境の村に住んでいる私がお会いするなんて想像もしませんでしたが…」

「確かに難しいだろうな。けど、大丈夫だ。アーシェの言うように『オセット村の現状とディザスタージャイアントの情報の報告』という名目なら、現場にいた君達の声が聞きたいはずだ。陛下は民を重んずる人だからね」


 実際、月に一度王都の商人を乗せた魔導飛行機が村までやって来て日用品や職人具を売ってくれる。そして村は新鮮な野菜や肉を売ることで生活している。そのように手配してくれるのは陛下あってのことだ。


「で、問題は正直言うとその商売の方だ。この世界にとって君達が広めようとしているそれらは明らかにオーバースペックで、生活習慣さえも変えかねない代物だ。そんな物を世に出して本当にいいのか?」

「はい、現状から言ってしまうとディザスタージャイアントを倒すには特定の魔法しか意味を成しません」


 ミスリル合金で作られた体に火で溶かすことも電気を通すのは難しく、実弾などの物理攻撃はあまり効かない。故に高圧で押し潰すか超光波砲のようか一極集中させた光で焼き切るしかない。だが、両方共コントロールが難しく、持続させるのも個人差が出てしまう。


「ですが、これらを応用した戦闘用魔導機を実装出来れば各隊の均衡を取ることができ、手にしたどの魔導士でもディザスタージャイアントに対応出来ます。もちろん、魔獣などにも対応しています」

「そのための布石と言う訳か…随分ブッ飛んでる。普通なら笑い話で終わるが、素人の私でも設計図を見ただけで分かる。『コレは本気だ、本気で魔導の概念を変えようとしてる』、ってね」

「そうでないと、旅は続けられませんから」

「……それで仮に通ったとして、だ。君達のような優秀な者達を国が野放しにするはすがない。それに対して陛下がどのような判決をするか、そこが本当の疑問点だ。こればかりは私は想像もつかない」

「(私達って優秀なんだ…)」


 こうして言われると実感が湧き……ませんでした。それより、陛下が出しそうな判決を思いつかないと……。


「(あれ?“優秀”ってことはなにかしらメリットになるのでは?)」


 そう思って考え付く限りの可能性を考えた結果、一つの可能性が導き出された。



「…ただの憶測ですが、私は大隊とは違う司令系統の陛下直属の部隊が新たに創設され、その部隊長に任命されると思います」



 その言葉に、シンシアは変わらず硬い表情のままレーニャを見つめるのに対し、彼女は一層困惑の色を深めることとなった…。

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