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Rebellion Cord’s   作者: 倉野海
序章 Day brake’s
1/5

#1 乱された平穏

 星が生まれた、海が生まれた、生命が生まれた、生命が進化した。…そして生命は進化を繰り返し、二足歩行になり、知恵を持ち、話すようになり、言葉が生まれた。そして、次の進化は生命に何を齎すのか。その答えは定かではない、そう…思われていた…。



 神奏暦82年、人類は進化を迎えた。人は自然の力を操り、様々なモノを変えた。日常も、戦も、そして、考え方さえも…。同時に、人類は滅亡の危機に瀕した。それは単純に、新たな人類が遥かにそれまでの生命を凌駕(りょうが)してしまったからだ。人類はそれらのことを“覚醒者(ヴァリアント)”と呼んだ。

 覚醒者達は、人類を支配しようと人類との全面戦争に突入させた。人類は劣勢を強いられ、とても勝てるような道筋はなかった。人々は祈った、神々が救ってくれるように、導いてくれるように。だが、無意味だった。人類は刻々と滅びのときを待つだけだった。


 しかし神奏暦97年、状況は一変した。人と覚醒者の間に生まれた一人の少女によって、人類と覚醒者は共存する道を歩み始めようとする者達が現れた。

 少女は10歳で十三体の超越者、“Cord”を生み出した。その力は他の覚醒者を圧倒し、数多の覚醒者を(ひざまず)かせ、改心させた。

 そして翌年、人類と覚醒者の戦争は終結し、少女は新世界の王となった。人類と覚醒者は共に荒れ果てた世界の再建をし始め、85年には覚醒者達も人類の一つだと位置付けられた。


 そうして人類と覚醒者の区別はなくなり、誰もが自然の力を操れるようになった。そして、自然の力を操るのに優れた者達のことをいつしか“魔導士”と呼ぶようになった。魔導士達は世界各地で人々を指揮し、対象関わらず多くの国を築き上げた。ときに競り合いが起きても、争いごとに発展することはない。

 これを見た少女は『今の世界にこの力は必要ない。次に人類の脅威となる者が現れるまでは…』と考え、十三体の“Cord”達を世界各地に封印した…。




 それから500年ものときが過ぎた。“Cord”の存在とそれに関することは全てお伽話(とぎばなし)となり、空想の物語とされている。その間、人類が進化し始めたのと同じように動物や植物達も進化を始めた。そして、進化した者達の中には人に害を与える存在もいた。人類はそれらを“魔物”と呼んだ。人々は混乱の世の中魔物と、はたまた人間同士の戦いに明け暮れていた。平凡に暮らせる者など、一握り位の者達しかいない。




 アルコース王国、世界地図の西部にあるガロンシア大陸にある一番大きな国で魔導士の人口が最も多い国であり、別名“魔導都市”とも呼ばれている。


 この世界では農業、建築、更には日常生活まで、どんなことにおいても魔法(スペル)が用いられている。そのため、勉学は基本的に魔法(スペル)に関わることを指していて、それ以外のことは学校でもあまり教えられない。また、学校のことを言う場合例外なく魔法(スペル)について学ぶ魔導学校のことを指す。

 そしてこの国にはその最高峰とされる魔導学校が多く、各地にある魔導学園の修学の過程を修めた者達のみが魔導士に認められる。そして、魔導学園の入学試験は幼い頃から英才教育を受けてようやく合格できるという程の難しさである。


 そしてそのアルコース王国の南東部にある小さな村、オセット。辺り一体が森林で、木の実や(きのこ)が至る所に生い茂っている。その為にリスや熊達も多くいるが、魔物の姿は見られていない。

 王都から遥かに離れた辺境の村に学校などある筈がなく、この村で勉学に(はげ)もうとする者は自分でやるしかない環境だ。

 しかし、この村(オセット)出身の者が受けたら大半が合格しているのだ。一番最初にこの村から試験を受けた者は王都の魔導学園を入学して間もない頃は『田舎者は引っ込んでろ!』という風調だったが、1学期の中間考査の模擬(もぎ)戦で上級生を圧倒してしまい、アウェイ感はつかの間にして消えたらしい。


 そのため、この村は特に有名なモノはないが前線で活躍する者達はここの出身が多い。どうして魔導士になれるものが多いのか。その答えは未だに不明である。



 そんな村の森の景色の中に溶け込むように木製の白い丸型テーブルとその周りに同じく白い椅子が4つ等間隔に並べられていて、その椅子の一つに腰掛けて本を手にする少女が一人いた。

 空のように澄み切った青色の髪、エメラルドのような輝きを持つ緑色の目をして、少し異質なローブで覆われている少女、アーシェは、ページを(めく)りながら静かな笑みを浮かべている。


「…また朝から本読んでたの、アーシェ?」


 少し呆れながら声をかけてくる少女はサーニャ。短めの前髪ののポニーテールで真紅に燃えるような赤い眼をしている。背は彼女の方が少し大きく、白いワンピースを着ていてところどころに自分より少し赤っぽいけどまだ白い肌が見える少女の姿は、なにもしなければ十分可憐(かれん)な美少女である。まぁ、話し出すとイメージが一瞬で潰れるけど。

 そんな彼女は本を親しむアーシェとは真逆で、体を動かすことが好きな活発な女性だ。特に弓の扱いが優れていて、たまに森の暴れ者の(いのしし)を狩って来てはその肉で料理を振る舞っている。


「うん、アーシェも早く本の素晴らしさに気付けるといいね。本は色々なことを教えてくれるよ。知恵だけじゃなくて、作者の意図や考え方に共感したり否定したりできる。そこから発展させて人世のヒントを見出していくのが凄く面白いよ」

「…少しはマシになったけど、私はまだ字がぎっしり詰まってるのを見るだけで頭抱えるよ」


 少し苦笑いしながら溜息をつく。


 そんなこと言いながらも、少しずつ克服しようと一緒に読んでくれるのも彼女らしい。実際、こうして話すようになったのもここで本を読んでいたときに彼女が話しかけてきてからだ。それまでは一人だった空間が、今ではサーニャと何気ないことを話しても笑ってしまって、賑やかで素敵な場所へと変わっていた。私の中ではそんな彼女が特別な存在になっている。


「でも、それを克服しようとする辺りサーニャらしいね」

「そりゃどうも」


 その意を伝えると、照れ隠しなのかそっぽを向いてしまった。ここら辺は普通に可愛いのになぁ…。しかし、そんなこと言うと『余計なお世話よ!』と言われかねないので敢えて言わない。


「ねぇ、お父さん達大丈夫かなぁ…。最近軍にいること多いし」


 どこか寂しげな表情を浮かべる彼女の父親は手練の魔術師で、軍に属している。会ったことはないけど、軍の中では結構名を()せているらしい。


 ちなみに私の父は私がまだ生まれて間もない頃に『世界中旅しながら行商してくる』と父は言い残して家を去った…らしい。けど、そのとき父は複雑そうな顔をしていて、母は彼がなにか重大なことを隠しているとしか思えなかったようだ。そのことを追求しなかったのは、聞いたところで答えてくれないに決まっているからだ。仮に聞けたところでなにか出来る訳でもないからだ。


「サーニャがお父さんのことを信じなくて誰が信じるの?」

「それもそうだね。私が信じなくちゃね」


 再びいつもの無邪気な笑顔に戻る。やはり彼女はいつも笑顔でいてくれないと、こっちの気が滅入る。


「そう言えばなに読んでるの?」

「魔導書だよ。中等魔法(スペル)までなら大概使えるようになったけど、高等魔法(スペル)はこうしてしっかり調べてやらないと出来ないんだ。例えば…」


 アーシェは本のページにコスモスが描かれた(しおり)を開いていたページに挟んで魔法書を閉じる。そして椅子から立ち上がって少し距離を取って魔法名を詠唱する。


「『霹靂の絶槍(ブリッツランス)』」


 するとアーシェの右手には雷を纏った蒼いボディに包まれた槍が現れた。が、それもつかの間ですぐに消えてしまった。


 魔法を使うにはただ詠唱(えいしょう)すれば発動出来る訳ではない。頭の中でイメージを膨らませ、魔力の流れを速めたり遅めたりすることで微妙に調整を加えることで初めて発動出来る。

 そして、魔法は簡易なものから順に初等魔法(ニードリッグスペル)中等魔法(ミッテスペル)高等魔法ホーフスペルの三つに分けられる。位が上がるにつれて習得するための時間も難しさも上がっていく。一例を挙げると中等魔法の一つ、『光波弾(フォトンシュート)(光を一点に集中させて対象を焼き切りながら進む弾を放つ)』を完璧に習得するためだけに平均2、3週間位かかるからだ。

 それが先程の固有(オリジナル)魔法(スペル)場合、その内容を1から自分でやらなければならない。そのため作るには膨大な時間がかかる上に、仮に上手く成功に繋がっても掛けた時間と割が合わないため、誰も固有魔法を作ろうとしない。


 だが、私の場合は頭の中のイメージを数式の様なモノに変換できる。それを仮に“コンダクター”と名付ける。そして、そのコンダクターを読み解くことで魔法を放つことに成功した。最初は訳が分からなかったが、複数の魔法で試すことで法則性を見出せた。


 例えば答えが“3”になるように式を立てたとき、『2✕4+7-12=3』という式が出てきたとする。この式を短く簡潔にしたいなら『1+2=3』や『7-4=3』などと言う風に置き換えられる。

 これを|魔法に置き換えると、文字や数字をコンダクター、“+や-”は繋ぐモノ、魔導回路(サーキット)となる。そして、これらを組み合わせることで“答え”という名の“魔法(スペル)”を使うことができるのだ。

 その為、初等魔法の威力増強や連続性を出すことなら普通に出来るようになった。


「それ絶対改変してるでしょ?まだ15なのに中等魔法使えるだけでもおかしいのに、更に高等魔法に挑戦する上にそんなことしてんのアーシェ位だよ」

「いやぁそれほどでも〜」


 一般的に、15歳の時点ではまだ中等魔法の基本的なモノまでしか学校では習わないらしい。

 だがアーシェの場合、中等魔法を一つ習得するのにたったの3日しかかからなかった。体の感覚というどれだけ意識しても中々変えられないものと、数式の様な簡単に省いたり継ぎ足したりすることができるモノでは、どちらの方が理解りやすく、改善しやすいのかは目に見えている。


「褒めてない!…それに、高等魔法を覚えたいならまだしも、なぜ改変するのか理解できないわ」


 それに対する答えはただ一つ、誰もが一度は思い描き、実現しようと追い求めるがなかなか上手く行かず、追い求めたことさえも忘れるられてしまうようなこと。


「そんなもの、自分だけの“固有魔法(オリジナル)”が欲しいからに決まってるじゃない。サーニャは欲しくないの?」



ーそう、“固有魔法(オリジナル)”だ。



 絵画を描くにしろ、文学を書くにしろ、理論を作り上げるにしろ、それにより生み出されたモノはどんな“駄作(ださく)”でも、“傑作(けっさく)”でもオリジナルとなるのだ。

 それは魔法も同じで、どれだけ欠陥(けっかん)だらけのモノを生み出しても、自分が望んだモノを生み出すために歩み続ける姿こそ、私が望む姿なのだ。


「まぁ(あこが)れるのはわかるけど…私には魔法を上手く使えないから初等魔法しか使えないから」

「あ、ごめん…」


 彼女の魔法のセンスは悪いわけではないのだが、なぜか失敗することが多い。私が固有魔法オリジナルに精進する理由の一つは彼女が魔法を使えるようにするためでもある。


「気にしないで?私も頑張って出来るようになるから」


 力技でやろうとすれば彼女自身が危険に陥るかも知れないのにも関わらず、自分でなんとかしようと無茶する辺りが彼女の悪い(くせ)だ。私も人のことは言えないが、私が固有魔法(オリジナルスペル)試行錯誤(しこうさくご)するよりも危険なことだ。でも、彼女は少しも躊躇(ためら)うことなくやり続けている。実際、少しずつだが使える魔法は増えて行っている。


「お互い、無茶はしないようにね」

「うん。あ、私家の花壇(かだん)の水やり行ってくるね」

「わかった。それじゃまた後でね」

「うん、またね」


 小さく手を振り合い、サーニャが家に戻って行く…、はずだった。

 その刹那、地面に走る衝撃でグラグラ揺れ動き、それぞれバランスを保とうと体を蹌踉(よろ)めかせる。しばらくして揺れが収まり、サーニャの方を見ると彼女は顔を青褪めていて、急に倒れてしまった。彼女の側に寄って確認すると、脈はあるが気絶している。


「(確か揺れの発生源は…)」


 丁度自分の村の方面。多分今村に戻っても悪いことしかないと思い、村を背にして彼女をおんぶするために屈もうとしたとき。


ドオォゥン


 大きな爆発音がしたと思ったら爆風が押し寄せ、二人は吹き飛ばされた。


「『重力増加(グラビテイション)』!」


 アーシェは後ろの木に衝突する前に二人の重力効果を倍加し、地面に着かせることで強烈な打撲を防いだ。しかし、咄嗟(とっさ)にやったことなので打撲(だぼく)せずに着地することはなかった。全身に電流が走ったように急激な痛みを感じることとなった。

 しかし、今は自分の体よりも気を失っているサーニャの方が心配だ。彼女の近くに駆け寄り、脈を確認する。…脈はあるのに、あれほどの痛みを受けてなおまだ目が覚めない彼女に驚きを隠せない。だが、生きてることを確認できただけでもホッとした。


 再び彼女をおんぶしようと屈んだとき、急に胸元が光りだした。それは間違いなく母から貰ったペンダントだった。このペンダントはとても大切なものらしく、『肌身離さず持っていなさい』と母に言われている。

 そして、光り出したペンダントは一筋の光を放ち出す。その光を辿った先に見えたのは…なんの変哲(へんてつ)もない、雑草がチラホラ見えている地面だった。


「嘘…(まさか…地下?)」


 光り出したペンダントに呼応するように地面がスライドするように動き出し、地下への階段が現れた。見るからにとても古そうだが、確実に今の私達にない技術がここにはあった。

 普段なら好奇心を寄せるのだが、今はそんな場合ではない。速く下に行かないと危ない気がしたからだ。

 サーニャを背負い、地下に降りる階段へと向かう。


ーこの行動が、彼女の運命の歯車が動き出す瞬間が訪れるとも知らずに。

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