一粒1000円 【スピンオフ】
2020年 春
「1個1000円!?」
スーパーの青果コーナーで値札を二度見してルカが足を止めると、店員が声をかけた。
「希少価値が高いイチゴで、あまり流通してないんですよ。お一つ如何ですか?」
店員が差し出した手の先には、指環ケースのような化粧箱に入れられたイチゴが並んでいた。
「買えばいいじゃないですか。毎日食べる訳じゃないんですし。10個くらい?」
「10個!?簡単に言うな。1個買うのにどんだけ働くと思ってんの?」
「一時間くらいですよ。」
「違う、そうじゃない。一時間ただ座ってるのとは訳が違う。一時間の間にどれだけの知識と労力を使うと思ってんだ。経済感覚はあるけど、労力をわかってないよ。」
ルカは簡単に手に取ろうとしたアリスを止めた。興味を示した筈のルカを不思議そうに見つめながら、アリスが提案する。
「じゃあ、私買いますよ。」
「違う、だから、そうじゃない。普通、1個買うかどうかだけでも悩むよ?」
「……何が言いたいんですか?」
「お前、少し体使う仕事してみたら?そしたら、何が言いたいかわかり合えるよ。」
「…………。」
キッカケは小さな意見の相違だった。




