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鏡の国のアリス⑩ トウィードルダムとトウィードルディ


 左右から同時に音声が流れた。


「トウィードルディの時計は1秒先を行く。」

「トウィードルダムの時計は動かない。」


 アリスはマイクをつけて話した。


「トウィードルダムの時計の方が好きよ、トウィードルディ。止まっている時計の方が一日2回も正確な時刻を報せるわ。好きな時間で止めておけるしね。」


 解錠の電子音が鳴ると新たなウィンドウが開いた。


「因みに、今の問題、正解あるの?」


「ないわ。AIには機嫌もあるし、機械が人間を騙す事だってあるのよ。どう向き合って行くのか、私たちが考えていかなければならない時代になっているわ。多分、今のは音声認識が働いたんじゃないかしら。」


「まじか。」


 アリスシステムに管理者モードでログインを試みると、モニターに何も書かれていないボタンが何度も浮かび上がった。アリスはその度に絵を描くように、幾つか記号を描いていった。


「パスワード認証なんか使わないってか。」


「パスワード式もパズル式も問題形式も、それを知る者であれば誰でも操作できる事に変わりないわ。結局、一番強い組織が覇権を握って、それに従うしかなくなるものよ。


生体認証は採用してないの。人が鍵になってしまったら物理的な鍵としてしか認識されなくなって、書き換えが済んだらお払い箱。私なりに死なないための努力はしたわ。


物理的破壊を防ぐために方法を残しておく事も大切だけど、乗っ取られる位なら一思いに壊すと示すためにルイスが居たのよ。守ろうとするものが大切なほど、防衛にかかる費用や設備も大きくなるばかり。現状、まだまだ十分とは言えないわよね。


充分な対価の保証から環境整備を考えていかないと。悪用した方が儲かるくらい、技術が買い叩かれているようじゃ、満足な環境は整わないとは思うわ。」


「AIに仕事を奪われるとか、対抗意識を持つよりも、任せられる仕事は頼んで、代わりにAIを守って共生していく道もある……か。不具合を解消したり、不正を暴く事で莫大な利益になるなら、敢えて悪用を選ぶ必要は無いからね。」


「そういう事。どんな理想を掲げた所で、こうして門前払いされてしまいそうになるんだから、情けない限りだけど。」


 左右のスピーカーからトウィードルダムとトウィードルディの音声が流れた。


「「6回勝てば君がクイーンだ!」」


「ポーンから出直せって事ね?十分よ。」


 画面にチェス盤が描かれ、ゲームがスタートした。流れるような早さで打っていき、1ゲーム勝つ毎に追記されるプログラムが赤く表示された画面が出た。


「眠れるバグを呼び起こす為の修正パッチね。」


「書き直してる時間はなさそうだな。」


「アリスはヘンテコなバグだらけよ。自分で言うのもなんだけど、こんなトラップを相手にするくらいなら、1から作り直した方が断然早いわ。」


「え?わざと大量のバグを仕込んでるって事?」


「脆弱性に見せ掛けたバグが実際に悪用出来るか一生分じゃ調査仕切れない程、延々追加され続けたら、諦める他無いでしょ。セキュリティの一環いっかんよ。」


「暗号化と同じ理屈か。コメント行にする手伝いくらいは出来そうかな?」


「残してしまうと次は確実に消滅を呼ぶアリスが出来上がるわね。でも、迷ってる時間はなさそう。ずんぐりむっくりに崩れてしまうのが残念だけど。」






「本体は大きすぎて何処にも行けない。無数のケーブルにがんじからめにされた牢獄だ。」


「そう?ケーブリングはアートだよ。神経伝達組織を彷彿とさせる無駄のないネットワーク技術だ。都会の夜景みたいに信号が行き交うたび、呼応するように点滅するランプなんか、見てるだけでため息が出るほど綺麗だ。俺にとっては、人の顔、形の美しさよりも心に響くものがあるよ。」


「そういう事なのか?私にしか見せられないから、二人だけの秘密にしたいと言っていた。見せてどうする気だったのかアリスを疑った。」


「……その本体って、プログラムそのものの事じゃないかな?どこで見られる?」


「日本で最大級はポートアイランドだが、最寄りでは計算科学技術センターにHA-PACSがある。そこから呼び出せる。」


 ルカはヘンリーに電話した。


「最寄りのHA-PACSを使いたい。」


「10分待て。その間に用意する。」


 手短に電話を切ると、ルカがこぼした。


「灯台もと暗し……か。行こう、キティ。場所は知ってる。」




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