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後編④ 対峙


 59階


「いくよ?」


「来い。」


 ミキがキーを通した。


「体積124万立米まんりゅうべい、3万平米まんへいべい、400トンの屋根を……。」


「東京ドーム!0.3パーセント、水柱すいちゅう3センチ、1.003気圧、1016ヘクトパスカル、900トン!」


 開錠の電子音が鳴った。


「正解。0.0003メガパスカル。」


「……サンキュー。」


「冴えてるじゃん。気持ちいいな。段々面白くなってきたんだけど。」


「……全っ然面白くない。どうにかしてくれ。」


「電車賃分位は楽しまなきゃ。問題自体はわかれば、そう難しくない。時間をかければ誰でも答えられるものばかりだ。」


「時間内に引き出せるかどうかが問題なんだろ。ダメだ……疲れる。記憶って引き出すときの方が消耗激しいのかな……。」


「それは記憶の女神に直接聞けよ。じゃあ、とっとと終わらせて、ガリガリ君でも食うべ。奢るわ。」


「安っ!」





 60階


「最後だ。」


「いや、まだ降りられる。55階からエレベーターに乗れるとは思えないけどね。時間は?」


「まだ20分かかってない。だいぶ余った。会ったらどうする?」


「……誰がいるかだ。会ってから考える。」


 そう言うとルカは、扉に両手をついて頭を下げ、目を閉じた。


「いくよ。」


 ミキがキーを通した。


「机の上にある右から3番目の本はどれ?8択!」


「はぁ!?知るかよ!何処のっ……?」


 ルカが顔をあげてパネルを確認すると、見覚えのあるタイトルばかりが並んでいた。


「……全部持ってる。」


「ほら、居るんだって。お前しか通れないようにしたんじゃないの?あるいは、強運の持ち主か。」


「待て。俺でもわからない。全部JISだよ!?背表紙なんかみんな一緒だよ!」


「運だな。俺が押そうか?」


「……いや、多分……多分、これじゃないかと……思うんだけど……。」


「残り3秒。」


「これでいい!」


 ルカがパネルのボタンを押した。





 展望台で外の景色を眺めていた少女は、開錠の電子音が鳴ったことに驚いて、慌ててエントリーシートを見に戻ろうとしたが、きびすを返して外階段に向かって走り出した。





 扉を開くと、薄暗い通路の奥から駆け寄る少女の姿が見えた。安堵の表情を浮かべるルカを見てミキは、


「お出迎えだ。」


 と言いながら、ルカの足を蹴っ飛ばそうとしたが、ルカが足をあげてよけた。


「ったく、玄関から遠すぎんだよ……。」


 そう呟くと、ルカはその場に座り込み、足を伸ばして後ろに手をついた。


 少女は二人の元に着くと、息を切らせながら思わず、


「何やってんですか?」


 と言ったが、ルカがやれやれといった表情で少女の手を取りながら、顔を覗きこむように答えた。


「こっちが聞きたいよ。」


 少女の後ろからもう一人の足音が聞こえた。初老の男性が歩いてくる姿が目に入ると、少女を自分の後ろに立たせるように、ルカが立ち上がった。


「これはこれは……驚いたよ。知り合いかな?」


「はじめまして、水無月です。」


「……どこかで会ったかな?」


「挨拶が後になってすいません。お嬢さんとは何度かお会いしてます。」


「先ずはおめでとうと言わせてもらうよ。何かあれば聞こう。」


 自分の出方をうかがっていると感じたルカは一瞬、鋭い目付きをしたが、すぐに柔らかい笑顔を作って見せ、穏やかに話始めた。


「……僕、ちょっと考えたんです。昔、児童ポルノ自動通報ウィルスってありましたよね。そんな感じで、強制的に実行されるプログラムが何らかの形で……例えば更新プログラムとかね、全ての端末に届いていて、条件に合致するものを対象に何らかの上書きをするシステムかなぁ……って、僕は思ったんですけど……。」


 男性は穏やかな表情で話を聞いていた。


「嫌いじゃないよ。続けなさい。」


「ちょっと書き加えるだけで読み込めなくなったり、意味の無いごみデータに変えてしまうことが出来るとしたら、そもそも所持してる事自体がまずいデータが消失しても持ってましたなんて自首するような真似出来ないですから被害届なんか絶対出ませんし、問題が表面化する事は無いわけですよね。


それを生成するシステムかまでは考えが及びませんし、ウィルスとそうじゃないものの違いについてとか、責めるつもりは全くないんです。保護が目的だっていうのも、社会的役割についても重々承知してるんです。でも、もう、彼女を自由にしてあげて貰えませんか?」


「不自由はさせていないよ。彼女について何を知っている?」




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