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後編③ 登りきれ!3


 40階


「0、3、4、5、6、10、12、15のうち、3つを足して21になる組み合わせは何通り?」


「あー……。」


 ルカは壁に手をついて目を閉じたまま、靴の爪先を床に打ち付けながら考えた。


「待った!これ同じ数字……。」


「何回使っても良い。」


「だと思った。5通り。引っ掛けだ。」


 開錠の電子音が鳴った。





 45階


「2、12、30、56、90の次は?」


「いんにがに、さんしじゅうに、ごーろく、ななはち……132!」


 開錠の電子音が鳴った。





 48階


「4はいくつ?10=90、9=72、8=56……。」


「12」


 開錠の電子音が鳴った。


「単純に階段あがるのも辛いな。」


 ルカが苦笑した。


「水持ってくれば良かった?」


 ミキも笑った。





 52階


「世界一長い英単語……。」


「DNA!20万7千!」


 開錠の電子音が鳴った。





 55階


「6、12、48、54、216……。」


「ろく、よん、ろく、よん……。」


 ルカがケータイの電卓を叩いた。


「888。」


 開錠の電子音が鳴った。


 階段をのぼりながらルカがミキに話し掛けた。


「なんか、わかってきた気がする。これ、4回目でしょ?あいつが飛び出したのは3年前。毎年行われるようになったと考えると、これが始まった頃じゃない?」


「新入社員歓迎が嫌で?」


「違う。いや、ある意味そうだ。あいつは歓迎してない。こうやって、ある特定の人材を探してることに間違いはないと思うんだけど、違う目的があるんじゃない?これ……。」


 ミキが少し考えて答えた。


「……お見合いとか?」


「みたいな。かもしれない……と、思えてきた。他にある?引っ込めておけばいいものを、わざわざ引っ張り出す理由。どうしても、そこだけ引っ掛かんだよ。」


「色々とまずいな。これ、世界中でやってると思うよ。」


 ミキが足を止めてケータイでロシア、結婚、年齢をキーワードに検索して読み上げた。


「女性が妊娠し、出産の必要がある等の事情に限り結婚可能年齢を14歳以上とする法案を採択……2002年。」


 先を行くルカが降りてきて、ミキのケータイを覗きこんだ。


「だからか!」


 ルカは手すりを殴り付けながら、昨晩のやり取りを思い出すと同時に、いつかの少女の言葉を思い出していた。


「忘れたい事、山程あるんだろうな……。」


「いや、多分、彼女は超記憶症候群みたいな、元々記憶が消えない症状を持っていたと思うよ。単純に忘れるという事ができない可能性がある。でなきゃ、膨大な量のスパゲッティなんか作れない。」


「消していく仕事なのに、自分一人が永遠に忘れないか……。因果な商売してるよ。そのせいで多分、刹那的な考え方に行き着いちゃう癖が出来てるんだろうな……。」


「ごまかしの利かない記憶力って相当怖いだろうね。見たくねぇもん見せられて、忘れたとは言わせねぇとか脅されたら震え上がるよ。抱き締めてキスしたくなっちゃうね。」


 ミキがルカを見て不敵な笑みを浮かべた。いつものように冗談めいているのだろうとは思ったが、ルカは返す言葉が無かった。





 57階


 ミキがキーを通そうとした時、ルカが止めた。


「ヤバい。……ちょっと気持ち悪くなってきた……。」


 ルカは胸に手を当てて、胸騒ぎに似た不快感を抑え込もうとしていた。扉にもたれ掛かるようにしゃがみこんでしまったルカにミキがフリスクを差し出した。ルカはチュッパチャップスを噛み砕いて棒を捨てると、フリスクをザラザラ出し始めた。


「あいつ、昨日ウチ来て……。」


「……じゃあ、来てるな。」


「わからない……。次は半年も経たないうちに絶対、何か言ってくるだろうと思って……その時の事、考えてたんだけど……。」


「……それが彼女を見た最後でした的な何か?」


「崖っぷちで背中押すな!」


「……ちょっと待て。」


 ミキは2013年の開催日と開催地を検索して見せようとしたが、見たはずのページがヒットせず、他社や部分的に合致する情報ばかりが挙がって焦った。


「なんか、変だなって……。」


 と言いかけて、ルカが自分に呆れたように笑った。


「普通だったら会ってねぇか……。」


「それはお互い様だろ。彼女、何か言ってなかった?」


「……俺があいつをバカにするって。」


「Drive me crazy.」


「は?」


「ユー、ドライブ、ミー、クレイジー!凄く怒ってれば、てめぇのせいでイラつくんだよみたいな悪い意味だけど……。」


「それはこっちのセリフだよ!忘れましたなんて言えねえだろうけど、だからって、昨日今日で思い出か俺は!」


「……そう言ってやれよ。その方がお前らしいよ。」


 ルカは大きなため息をつき、手に出したフリスクを全て口の中に放り込んで噛み砕きながら立ち上がると、大きく口を開き、舌を出した。


「うあ、かっれぇ……。」


 ミキが声を掛けてキーを通した。


「2メートルの高さから液滴を落としたとき……。」


「時速22.5キロ!」


「時間!」


「0.64!」


 開錠の電子音が鳴って、ミキが左手をあげると、ルカが左手で思い切り殴った。痺れる手を払いながら、ミキが聞いた。


「すっきりした?」


「すげぇヘビー。何も考えられなくなってきた……。」


 ルカからしんどそうな表情は完全には消えなかった。




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