2話・ステータス
2話です。特に書くことないのでこれだけですすいません
さて、どうしたものか。
あの叫んでいる状態を見てから、待つところ30分。
流石に気づいたらしく、顔を赤くして蹲った。
恥ずかしいのはわかるが、しかしそれは自業自得というか、自分が悪いのではないか?と思った。
なのになんで睨んでくるんだろうなぁこの子は。
見た感じ、歳はそれほどいっていないようだ。12~3歳ってところか?
恐らく彼女は、神に選ばれたうちの1人で、同じことを言い渡されたに違いない。
と思っていた矢先に。
「あんた誰?あんたも異世界の扉開いたの?」
ときた。
異世界の扉?よく分からんが、どうやらこの子も俺の事は一切聞いていないらしい。
「扉を開いたかどうかはわかんないけど、神に言われて異世界転生しては……きたね。君は?」
「……私は、魔法の研究してたら、異世界の扉開いちゃったの。それで、ここに来た。」
なるほど、この子はどうやら神に呼ばれてきた訳では無いらしい。
道理でなんも聞かされてないわけだ。
その少女は、こちらを見つめ、質問をしてきた。
「今神って言ってたけど、神の名前、なんなの?」
「神の名前?あー、えっと……」
こんなの聞いてなんになるのかは分からんが、とりあえず答えておくことにした。
「確か、アメンだったかな……?」
「──アメン!?アメンって……あの!?」
何かおかしいだろうか?
俺は言われた名前をそのまま言っただけなのだが。
「なんでそんな………エジプトの最高神の、アメン・ラー様が!?」
え?そんなすごいやつなの?
ただのじじいだったんだが。
「なんで、かはしらんが、まぁ、そいつに転生されたんだ。それより………」
俺は右手を差し伸べて、ニッコリと微笑んだ。
「俺は四宮勇太。一応、元の世界では作家をしてたかな。」
「えっあっ、えーと……わ、私は……その、賀騒麻央と言います……。ち、中二です。」
そう、自己紹介だ。
麻央も、先程までの目をキラキラとさせた様子もなく、むしろ人見知りが出てしまい、おどおどとしている。
こういうのを見ると、微笑ましく感じる。
可愛い。
そう犯罪的な言葉を心の中で呟いていると、麻央ちゃんがこっちをジト目で見て、言った。
「………ロリコン……?」
「え?」
最初何を言われたかわからなかった。
が、そんな現実逃避を許されるはずも無く。
「……変態。」
「はぁぁあ!?いやいやいやいや!なんで!?俺そんな──」
「私のこと、エッチな目で見てましたよね?やっぱり変態………」
「違うから!そんな目で見てないから!」
俺が弁明すると、とりあえずは納得したのか、睨みながらではあるが警戒は少し解いてくれた。
「まぁいいです。それより………四宮勇太。今から貴様に──」
「はいはい、年上を勝手に呼び捨てにしたり、『貴様』とか言ったりしないの。それに、そんな冗談やってる暇ないんじゃない?」
俺はそういうと立ち上がり、街の方を向いた。
「こんな暗い中いたら、魔物に襲われたりするだろうし……何よりご飯がない。」
一見、めちゃくちゃださいように思われる発言だが、しかしこれは俺にとって、いや、結構な人にとって死活問題だ。
しかし、麻央は平然とした顔で、こちらを見ていた。
この子……ご飯食べずに生きてきたのだろうか?
しかしそんなことがあるはずも無く、そして彼女の言葉によって、希望の表情が俺に浮かんだ。
「あの………食べ物なら、ありますよ?く、口に合うかはわかりませんけど……」
彼女はおずおずとした感じで、とても年頃の女の子、という感じがした。
さっきの堂々とした表情はもう、彼女の中からはるか彼方へと消えてしまったみたいだ。
しかし注目すべきところはそこではない。
彼女は今、食料を持っていると言った。
「ね、ねぇ、食べ物あるって言ってたけど………ここって前の世界のもの持ち込めたの……?」
服装などは元いた世界と同じ服装をしているが、ポケットに入っていた飴やティッシュなどはなくなっていた。
ということは、持ち込めないのだろう、と思っていた。
だが、目の前の少女はさっき、「食べ物がある」と言った。
虚言ではなさそうだし、狩ってきた、という訳でもなさそうだ。
「う、うん。えっと、このパラソルとかも、一応前の世界から……」
「──どうやって持ってこれたんだ!?ってか、持ってこれるなら、携帯とか持ってこりゃよかったぁぁあ!」
彼女の話を遮り、俺は口早に話していた。
彼女は一瞬呆れたような、引きつった顔をしていたが、すぐに真顔になった。
「その、多分だけど………こっちに来る方法だと思います。」
俺は何の話か最初わからなかった。
だが、彼女は、そんな俺を置いて話を進める。
「四宮勇太……さん、は、神様によって転生した。私は、魔術によって移動したと考えれば……」
なるほど、そう考えると、転生、つまり生き返るには他のものは持てないが、移動ならば他のものを持っていけると。
俺もそっちがよかったぁ………。
「と、とりあえずは、食料もありますし………あとは、魔物ですね。街なら確実に安全だから、どっちにしろ街に行くことに……」
「──いや、正直街に行っても変わらないと思うよ。」
麻央が、数々の推測を並べているが、その推測を打ち消すように俺は言った。
「さっきも俺は魔物を出しに使ったけど、実際は街もあまり変わらないんだ。確かに街には魔物は来ないけど、人は来るよね?」
いや、まぁ、街に魔物が来ない、という確証もないのだが。
「う、うん。そりゃ、街だから人は来るけど………」
「だから街も危ないんだよ。いい?俺達の……と言うよりは、俺の敵は、魔物だけじゃないんだ。」
「………ふぇ?」
彼女は、何を言ってるの?と言いたいかのような顔をこちらに向けてきた。
まぁ、わからないのも無理はない。使命を課せられたのは俺だけなのだから。
「実はね………」
俺は仕方なしに、じじいに頼まれたことを説明することにした。
「──なるほど。なら、警戒する相手は魔物だけじゃないってことなんだね。」
「そういう事だよ。むしろ、人が来にくい街の外の方が、魔物だけ警戒する感じで行けるから、街には行かない方がいい。」
さっきまで街に行きたがっていたやつがいうセリフではないが、彼女は納得してくれた。
「分かりました。でも、魔物を倒す術もないと思うんですけど……」
「ん?あー、いや、俺はそのお願いのために力をもらって……」
「──使い方、知ってるんですか?正直魔法についてなら私のが詳しいと思うんですけど。」
「うぐっ………」
魔法でここまで来たような子に言われたら、反論のしようもない。
俺はとりあえず、魔法を使う方法を探ることにした。
「とりあえず、この中で多分戦えるのは四宮さんだけですから………」
「え?なんで?麻央ちゃんは戦えないの?」
てっきり魔法を使って戦えるのかと思ってた。
すると彼女は、ブンブンと頭を振った。
「さっきも言ったように、こっちに来た方法が違います。多分だけど、私は何の職業にもついてないと思います。」
なるほど。方法が違えば仕様が違う、か。
だがまぁ、それならば、と俺は心の中で思いついた。
「最初に作る魔法、人に職業を与える、でもいいかもな………」
俺の職は創世魔術師。魔法を作ることが出来る魔法使いだ。ならば、人に職業を与える魔法も作れるのではないか?と思った。
「………」
しかし、麻央はまたもや、何を言ってるの?という目で見てきた。
「な、なに?」
「いや…………四宮さん、作家なんですよね?」
「え?あ、うん。」
俺はとりあえず答えてはいるが、何のために聞いてきているのか、全くの不明だった。
「なら、ゲームとかってやります………よね?」
「うん………あー、そういうこと?」
俺はやっと彼女の言いたいことがわかった。
つまり、ステータスを見ろ、という事だ。
「………どうやって見んの?」
わかってはいるものの、見方がわからない。
そもそもこれはゲームみたいにステータスバーが出るのか?メニュー画面とかあんのか?
俺は麻央にきいたが、しかし彼女もわからないようだ。首を横に振っている。
「………どうしよ………」
「………ピンチ、ですね……」
今すぐにでも実家のおばあちゃんに聞きたいところだが、まぁ返事くるわけねぇし。つか、おばあちゃん分かんねぇだろこういうの。
とまぁ、頭の冷静な部分がそんなツッコミをした。つまり冷静とは言えないようだ。
「意外とさ、呼べば出てきそうだよな、神様。」
「おおー!それは、思ってもみなかったです!妙案!」
妙なのかよ。名案じゃねぇのかよ。
とりあえずまぁ、有言実行、言ったからにはやって見るしかない。
「えーと………かぁぁぁみさまぁぁぁぁあ!みぃぃいてまぁぁすかぁぁあ!?」
空に叫んだ声は、遠くへと木霊していった。
返事はない。ただの屍……じゃなくて、やはり出ないようだ。
しかし諦めずに、もう一度叫んでみた。今度は言葉を変えて。
「じぃぃぃじぃぃいぃぃぃい!この状況に責任とれやぁぁぁぁぁあ!」
責任転嫁からの上から目線、タメ口。
まぁ、だいぶ失礼なことである。
しかしその失礼なことによって。
『じじいっていうない、おっさんが!わしは一応神じゃぞ!しかもその状況はわしのせいじゃないじゃろ!何を責任とれというんじゃ!』
出てきてくれたようだ。
作戦成功!
しかしどうやって話してんだ?空にいるようでもないし………
と、思っていると。
『ここじゃよここ。お主のポケットの中じゃ。』
と、じじいが言った。
なに、ちっちゃくなっているの?と思ってポケットを探ると、コツン、と硬いものが当たる感触がした。
その硬いものを握り、そして実感する。
「これは…………スマホだぁぁぁあ!ふぅぅぅう!」
年甲斐もなく叫んでしまった。
が、しかしスマホを手に入れた喜びは、恥辱とか、そんなものをも吹き飛ばす威力があった。
『そうじゃ。わしと、そこにおる小娘としか連絡が取れんがな。それで、なぜわしが呼ばれたんじゃ?』
用があったのを思い出し、俺はじじいに聞きたかったことを尋ねた。
「な、なぁ………ここってさ………」
それから暫く、説明と、質問を続けた。
結構な時間、話していた。
『──ふむふむ、なるほどな。そこにおる小娘、賀騒麻央は、魔術によって異世界へ来た、と。』
「そうなんだよ。すげぇと思うんだけどさ……」
『まぁ、今更帰りたいと言っても帰してはやれんがな。存在には気づいておったが、まさかそういうこととはな。』
じじいは納得したように話した。
しかしまぁ、神界?から、異世界の俺と一緒にいる子の気配を感じるとは、流石に神様か。
『そうじゃの、ちょうどよい。賀騒とやら。お主も四宮と一緒に旅をするが良い。力はやる。なんの職業がいい?』
じじいは、俺にも聞いてきたような質問をした。
麻央は、しばらく悩むかな?と思っていたが、案外早く決断したようだ。
「魔法剣士、ですかね。剣を使って戦う近距離要員も必要でしょう。でも、せっかく使えるようになっていた魔法を手放すのも嫌なので……」
『ふむ。あいわかった、その職業にしてやろう。』
なるほど、悩んでいたのはフリではないらしい。よく考えている。
じじいは、俺にした時と同じような呪文を言っていた。
『この者に力を与えよ、職は魔法剣士なり。』
俺みたいに言い直すことはせず、普通に言った。
──ってかあれ?俺の時言い直したってことは、言い直したあとの職じゃね俺。
と思ったものの、確認する手立てもなく、もしかしたら、と恐怖だけがこみ上げてきた。
しかしそのままでいるわけにはいかない。俺は勇気……はあまり出してはいないが、とりあえずじじいに聞くことにした。
「あの、じ……神様、一つ聞きたいことがあるんですが……」
『今お前絶対じじいって言いかけたよね!?』
「その、ステータス画面?みたいなの、どうやって見るんですか、じじ………神様。」
『お前また言いかけたよね!?それで教えてもらえると思ってるの!?ってか認めないの!?せめて認めよ!?』
「やだなぁ、そんなことないじゃないですか。とりあえずじじい、教えてくださいよ」
『言った!今完全に言った!じじいって言ったぁぁあ!』
などという馬鹿な応酬をしているが、しかしそんなことはどうでもいい。
「とりあえず疑問に答えてもらえます?どうでもいい話はほっといて。」
『どうでもいいって言った!?』
「言いましたから。質問に答えてください」
『開き直った!?うぅ………まぁなんじゃ、その質問じゃが………答えは見れる、じゃな。』
ほう………ん?
「いや、俺は『見れるかどうか』聞いたんじゃなくて………見方を聞いたんですけど……」
質疑応答がきちんと出来ていなかった。
じじいもそれには後で気づいたようで、流石に状況が芳しくないと思ったのか、視線を泳がせていた。
「ま、まぁ………あんまりいじらないであげてください……」
麻央がそう宥めるが、重い空気は変わらない。
──そもそも人間にいじられる神様ってどうよ………。
しかしこのままだと話が進まないのも事実、俺はもう一度聞き直すことにした。
「それで、見方は?見れなきゃ意味無いでしょ。」
『わかったわかった。簡単な話じゃよ。ただ一言、『ステータスオープン』って言えば、ステータスが見れる。』
なるほど、そこは単純な設定のようだ。
そもそもゲーム世界に入ったわけでもないのにステータスが見れるだけでおかしくもあるが、そこは異世界、通常とは違うというだけで説明がつくだろう。というかこのじじいのことだ、そうやって言いくるめそう。
俺はじじいのいうことを信じ、ステータスを見ることにした。
「んじゃあ信じて……『ステータスオープン』!!」
俺がそう叫ぶと、目の前にはゲームのメニュー画面のような、ステータスが表記された。
────────────────────
四宮勇太(男・32)
Lv.1
職業:創世魔法師
体力:200
魔力:∞
攻撃力:10
防御力:57
素早さ:210
────────────────────
スキル
語学理解術(Lv.MAX)・妄想術(Lv.21)・全属性魔法(Lv.3)・死んだふり(Lv.1)・交渉術(Lv.42)
────────────────────
エクストラスキル
魔法作成術(Lv.MAX)
────────────────────
おいちょっと待て。
ステータスとしては多分普通なんだろう。ある一つを除いては。
「………魔力無限って、頭おかしいだろ……」
チート魔力な上に普通なステータスって、そりゃ普通のチーターだ。
それだけじゃない。俺がツッコミたい一番のところはスキルだ。
「死んだふりって何!?意味あるのこれ!?あと妄想って……妄想するだけ!?」
ほとんど意味の無いスキルだ。だがまぁ、ほかはほぼチートだと思える。
となると、麻央はどうなのだろうか。チート性能な可能性があるが。
麻央もそう思ったらしく、俺が言う前に呟いていた。
「ステータスオープン」
ひとこと麻央が言うと、俺と同じようなものが出てきた。
────────────────────
賀騒麻央(女・14)
Lv.1
職業:魔法剣士
体力:2821
魔力:4200
攻撃力:3420
防御力:2650
素早さ:1919
色気:一部には8100、ほかには-721
────────────────────
スキル
語学理解術(Lv.MAX)・妄想術(Lv.34)・剣術(Lv.11)・全属性魔法(Lv.2)・おじいちゃんとかロリコンとかを惑わす術<おねだり>(Lv.5)・身体能力上昇(Lv.2)
────────────────────
エクストラスキル
魔剣召喚術(Lv.4)
────────────────────
oh......。
チートはこっちの方だったか。
「普通に強い………のかな?」
麻央は首を傾げて聞いてくるが、そんなの俺にもわかんないんだ、どうしようもない。
「じじい、どうなんです?強いの?」
『じじい言うな。そうじゃな、賀騒麻央のステータスはこの世界では騎士団長レベルじゃ。各国のな。勇者とはいかんが、まぁ、いい具合じゃろ。』
ほう。となると、上の中ぐらいってことか?
………ん?となると俺は………。
『四宮勇太のステータスは魔力がおかしいものの、他がクソじゃ。まぁ、スキルも馬鹿げているがの。死んだふりって、使うと相手からは死体にしか見えんから、敵対されなくなるんじゃよ。』
おお!死んだふり、意外と使えた!いやでも、死体になったら魔法使えなくね?
『その上動き出したらゾンビ扱いされて、味方認定されるぞい。』
使えた。強かった。何このチート。いやほかクソ雑魚だけども!
そう言えば、麻央のステータスで気になる所があった。
「この、おねだりってのはなんだ?強いのか?」
『交渉術に近いな。人間相手には強いぞ。』
「へぇー………俺の交渉術必要なくね?」
『めちゃくちゃ必要。おっさんとかには聞きづらいからのぉ。それに、お前の交渉術、スキルレベル高いから使えるぞ。』
そうだそうだ、このレベルについても質問があった。
「え、ちょっと待て。スキルレベルって、上限いくつなんだ?それに、どうやったら上がるんだ?」
『上限は100じゃ。上げ方は、使えば使うだけ上がる、とでも言おうかの。』
ほう。なるほど、つまり使いまくれと。
確かに魔力∞なら、いろんなスキルのレベルが上がりそうだ。チートやん。
『それで充分か?………と、その前に、いいことを教えてやるわい。』
「………いいこと?」
『そうじゃ。ステータス画面の右下端に、『ステータスバーを表示』というのがあるじゃろ?これで、体力、魔力の消費や、状態異常、バフデバフなどが分かるようになる。押してみろ』
俺は言われるがままに、すぐにそのボタンを押した。
しかし、なんで神様名乗ってるじじいが、バフとかデバフ知ってんだ?
俺の視界の右上端にステータスバーが表示された。なるほど、これは便利だ。
『それじゃあ、頑張って進むんじゃぞ。じゃあの!』
じじいはそう言うと、一方的に電話を切った。
なにか聞きそびれた気がするが、まぁいいか。
途方に暮れるものの、頭はきっちりと作動していた。
とりあえず、ステータスもわかったことだし、次にすることは………。
考えに耽っていると、後ろから麻央がちょんちょんと肩をつつき、いった。
「ねぇ………おトイレしたい………」
………あ。そうじゃん!よく考えてみれば世界が変わったとはいえ俺達も人間なわけで。
人間といえば、生理現象も必ず起こるわけで。となると、おしっこもしたくなる。俺はまだ立ちションすればいいが、女の子である麻央は仕方も、する場所もない。
そうなると、しなければいけないことが出来た。
「………街へ急ごうか。」
俺達の次へ進む道は…………街になった。
街へつくと、それはだいぶと賑わっていた。
「わぁー……!キレイ………。」
麻央が街の景色を見て、そう呟いた。
少し変わった子であっても、そういう感覚は普通の女の子と何ら変わらないようだ。
しかし俺達はそんな景色を眺めている暇なんてない。
そこら辺を歩いている男性に声をかけ、聞いた。
「あの、すいません、公衆便所、もしくは宿屋ってどこにありますか?」
「コーシューベンジョ?なんだそれは?宿屋なら向こうの通りをまっすぐ行ったところに『アルペイン』というところがあるが……」
「そうですか!ありがとうございます!」
俺は言うが早いか、既に走り出していた。
俺はまだ尿意はないが……麻央が今にも漏らしそうな顔をしている。
俺は麻央の手を握り、必死で宿屋に向かった。
まっすぐ進むと、右側に『アルペイン』と書かれた看板を見つけた。たしか宿屋がそんな名前だったはずだ。
俺は迷わずアルペインのドアを開け、すぐにこう言った。
「すいません!一部屋貸してください!一泊でいいんで!あと、トイレ………便所ってどこにありますか!?」
「別に部屋を貸すのはいいが、一泊120円だよ。それと、便所は向こうだよ。とりあえず横の子が漏らしそうだから先に連れてきな。その後で金払えばいいよ。」
そういうと、店員と思しき人は、横の通路を指さした。
その通路をまっすぐ向かい、突き当たったところに、トイレはあった。
「よし、麻央ちゃん!トイレだよ!」
「うう………も、漏れそうで動けません……四宮さん、手伝っていただけますか……?」
「無理!頑張れ!」
非情かもしれないが、ロリコン認定されたくはない。脱がしてとか、〇〇〇とかを刺激しろとか言われかねん。
「うぅ………せめて便座の蓋だけでも………」
「わかった!開けとくから!さぁ入って!」
俺はすぐにトイレのドアを開け、便座の蓋を上げた。
すると麻央はすぐに入って、便座に座った。
「ふぁぁぁあ………」
俺はすぐ出たものの、少し遅かったようで、見てはいないが音が聞こえた。
ジョロロロ、という…………うん、気のせいだ!聞いてない!俺はなーんも聞いてないよー!
ところで、そういえばさっき店員さんがおかしなことを言っていた気がする。
『別に部屋を貸すのはいいが、一泊120円だよ』
………一見すると、おかしなところなんてないように聞こえるが、俺たちからしたらおかしい。
───120………円!?
つまりこの世界では……通貨が元の世界と………同じ!?
いや、もしかしたらものが違うかもしれない。となるとやばいぞ、俺ら無一文だ。
賭けに出るしか………ないか……?
麻央がトイレから出てきてすぐに、俺達はカウンターへと向かった。
「お兄さん方、大丈夫だったかい?そっちのお嬢ちゃんなんて、今にも漏れそうだったけど………」
「あ、はい。大丈夫です。トイレを貸していただいて、ありがとうございます。」
「いやいや、それぐらいは。ところで、部屋、借りるのかい?トイレが目的だったようにも見えるけど……」
よし………ここで俺が間違えたらやばいぞ。
「あの、俺たち遠いところから来たんですけど、同じ円でも、国によって通貨が違ったりするかもしれないんで、一応こっちの国の通貨、見てもらえますか?」
「ん?あぁ、いいよ。別に借りなくてもいいんだけど……まぁ、野宿は嫌か。どんなんだい。見せてみな。」
この人が話のわかるお兄さんでよかった。俺はポケットから小銭を……出そうとしたが持ってないことに気づいたので、麻央に聞くことにした。もちろん小声で。
「120円って、持ってる?」
「持ってますよ。確かカバンの中に……」
そう言って、麻央はカバンから財布を取り出した。
そして麻央から渡された120円をお兄さんに見せると。
「ん、あってるよ。ちょうど120円だね。一部屋でいいのかい?男女で過ごすのに抵抗がないならいいけど……」
「大丈夫です。親子みたいなもんですから………」
年齢的にもおそらくセーフだと思う。多分。
麻央はこちらをちらりと一瞥したが、特に何も言わなかった。いい、ということなのだろうか。
「そう。んじゃ、二階に上がって突き当たり右の部屋ね。飯が食いたけりゃロビーに来な。ここは一応食堂も兼ねてっからさ。代金は、宿代に入ってるから安心しな。」
そう言って、お兄さんは部屋の鍵を渡してくれた。
優しいお兄さんで助かった。そう思いながら、俺たちは二階へと上がっていった。
部屋に着くと、俺たちはすぐに寝てしまった。
寝る場所について、多少言い合いはあったが、結局俺が根負けして、二人でベットを使うことになった。
甘い匂いが鼻腔をくすぐり、なかなか寝付けなかった。
だが、麻央を抱き枕代わりにすると、すぐに寝られた。
俺はある意味、異世界に来られて、幸福だったかもしれない。
そう、薄れる意識の中、思ってしまった。
おやすみ………。