1話・異世界への旅立ち
1話です。普通です。
東京、浅草にある古い一軒家。
そこに俺、四宮勇太は住んでいる。
「あっぢぃー………」
とある夏の日。
それはもはや元気と言えるのかどうか怪しいくらいにダウンしながら、しかし元気に過ごしていた。
暑いというのであれば、例えばクーラーの効いたところに行ったり、そうでなくとも、公園などに行けば涼しくはなるはずだ。
しかし俺はそうしなかった。出来なかったのだ。
何故か。それは、俺が今、仕事をしているからだ。
ちなみに俺のいる場所はクーラーの効いた会社の中でも、工事現場でも無い。
………家である。
家でなんの仕事をしてるのかって?
そりゃ、家でやる仕事といやぁ。
……って待て待て、どこかでニートとかいう声が聞こえたぞおい。
一応働いてはいる。結構収入もある方だ。
でも、家の中でやる仕事だ。
その仕事とは。
────作家である。
そう、俺はラノベ作家。
ものすごい数の作品を生み出し!そして……約200万部も売っているまぁ、少しばかりは人気の作家……と自負している。
とまぁ、そんな訳で、家の外でやるのは無理なのだ。
だってパソコン……ノーパソじゃないし、それに、外に行ってる時間があるなら書いていた方がいい。
てかそうしないと………担当さんに怒られる。
まあ、そこは置いといて。
今は俺は仕事中。だから暑くてもやらなくてはならないの……だが。
『エラー。しばらくお待ちください。』
パソコンがこんな画面を出してたらなぁ………
エラーなんだったら仕事できないんだし、外に行ったりしてもいいじゃないかって思う人もいるとは思うが……そうもいかない。
いつ復旧するかわからないし、実は携帯の充電が切れていて、今現在進行形で充電中だから、いつ担当さんから電話が来るかわからないため出歩けない。
だが………暑い。
正直何があったと地球に問いただしたくなるほど暑い。
その暑さにやられて、喉も乾くわ、眠いわ死にそうだわ………もしかしてこれ熱中症か?
まぁいいや。
「しっかし、パソコンも俺と同じで熱にやられるとはなぁ………」
そうやって黄昏ている時だった。
プルルルルルルプルルルルルル
充電中の携帯が鳴った。
どうやら担当さんから、催促の電話らしい。
俺は携帯を手に取り、通話ボタンを押した。
「はいもしもし」
『もしもし。どうですか、進捗具合は。というか、確か四宮さんのパソって旧型でしたよね?この暑さにやられて動けなくなってんじゃないですか?』
担当さんは笑いながら言った。
なんでそうピンポイントでわかんだあんたは………。
こんな所で嘘をついても仕方ないので、俺は正直にその通りだということにした。
すると、担当さんはまた笑って言った。
『マジですか。じゃあそうですね、編集長に話して、締め切り伸ばしてもらいますね。まぁこの暑さですしね。しゃーないですよ。』
やった、ということはもしかしたら今日はダラダラできるかもしれない。
「いつぐらいで戻るか分かんないんだけど、これ明日になっても直らなかったら修理出した方がいい?」
『そうですね、一応出しておいてみては? でも、その間仕事できませんよね……。じゃあ、修理に出す際は連絡お願いします。編集長と話し合って、発売日延期、ということにさせてもらうと思うので。』
ということは修理に出せば、その分仕事を休めるということか。暑さ様様だな。
……と、言いたいところだったが、そうもいかない。何しろ、俺の収入は本の印税によって賄われている。
つまりどういう事か。要は、その間収入がないので、もしかしたら金欠になるかもしれないということだ。
あれ、やばい俺もしかしてピーンチ?
まぁいいか、その時はその時だ。
「じゃあ、そういう事で。今日は俺は休んでおいた方がいいですか?」
『そうですね、動かないのであれば休んでて結構ですよ。気分転換に外出でもされてはいかがですか?』
そうしようと思っていたところだ。この担当さんは話がわかる。と言うか、ものすごい優しいから俺あんまり逆らえないんだよね………恩がめっちゃあっから。
とまぁ、それはそれとして。
「わかりました、じゃあ、後ほど。」
そう言って電話を切り、俺は立ち上がった。
───外だ!外に行こう!
そう心の中で叫び、玄関の扉を開けて走った。
日は改めて翌日。
パソコンは普通に動いた。
いや、動いたと言っていいのかわからないが、一応画面はついている。
ただし、訳の分からない文字もおまけで、だ。
『おめでとうございます。あなたは神に選ばれました。今すぐ転生できます。』
そんなことを浮かべられても、俺は流石に困った。
一応文字は打てるらしく、試しに返答ができるのか、文を打った。
『仕事の邪魔すんな!冗談言うならせめて執筆が終わってからにしろ!』
こんなふうにだ。
まぁ、これで諦めてくれるだろ。
するとパソコンにあった文字列は途端に変わり、違う文を構成した。
『わかりました。』
たったこれだけである。たったこれだけで、終わった。
何がしたかったんだ?訳が分からん。
俺はそのまま、仕事に入ることにした。
あれから一日は経っただろうか。
小説の方もあと少しで完成する。
一応担当さんにも連絡済みだ。
さて、締め切りを確認しておこうか………。
俺は携帯を開け、メールを確認した。
担当からのメールには、こう書いてあった。
『じゃあ、明明後日まででお願いします。』
……え、無理だろ。
あと10ページ。こんなの無理に決まっている。
しかし締め切りは締め切りだ。
というかこの時の俺はどんなハイテンションになってたんだか、『わかりました!頑張ります!』とだけ書いて送っている。
つまりやらなきゃならないという事だ。
…………きっつぅ…………。
そんな文句も言ってられないか。
俺は再びパソコンに向き直り、作業を続けた。
それから2日経った頃。
ついに……ついに終わった。
締切に間に合って、作品を出すことが出来た。
今は校正チェックも終わり、休憩時間だ。
本来ならば次の話を書き始める所なのだろうが、俺にはそんな余裕が今はない。
ブブブブッ
と音を立てて、携帯が鳴った。
どうやら校正が終わったらしい。担当さんからのメールだった。
やっと気を抜ける。
俺は横に倒れ、そのまま眠りに落ちてしまった。
目を覚ますと……という表現があっているのだろうか、俺は雲のようなところの上にいた。
「な、なんだぁここ。夢か?」
「ここは神の世界じゃよ。正確には、人間界と神界の狭間じゃ。」
独り言をぼやくと、不意にどこかから声が聞こえてきた。
老人のようだ。辺りを見渡すと、そこにある卓袱台の近くに座り湯呑みでお茶をすするお爺さんがいた。
「やっと気づいたか。さて、まずは自己紹介といこうかの……。」
老人はそう言うと目を細め、そして俺を見据えて自己紹介した。
「わしは神じゃ。単刀直入に言う。今から異世界へ行ってくれ。」
「…………は?」
俺は思わず聞き返してしまった。
何を言ってるんだこのじじいは。
「その前にお主の自己紹介じゃな。ほれ、はよせい。」
「え、あっ……俺は四宮勇太って言います。一応作家やってる、32のおっさんっす。」
まぁ、お爺さんほど年はとってないから普通におっさんと呼ばれる。爺やおじいさんは一切ない。
しかし、紹介したのはいいものの、正直言ってよく分からない。
ここはいったいどこなのか。そして、何をしなきゃいけないのか。
というか、俺はどうなってんだ?
「ほっほっほ。戸惑っとるようじゃの。じゃが安心せい。何も死ぬわけじゃない。」
誰も命の心配はしていないのだが。
そもそも、神と言われても、信じられるわけがないし、まず自己紹介しろよ………。
「まぁ、お前さんの思っとることはわかる。信じられんじゃろな。まぁ、仕方なかろうて。」
そう言ってこのじじいは、杖を振り上げそして勢いよく地面に突き刺した。
トンッ、と音を立て、杖は地面についた。
途端に、杖の周りから波紋状の光が正しく波紋のように広がった。
ただそれだけではない。
俺が今立っている雲みたいなところが、広がっていった。そして、それは、まるで家でも形取るかのように、ゆっくりと丸みを帯びていった。
「まぁ、座れい。立ったまま話をするのもなんじゃろ。」
俺は促されるがまま、その場に座った。座った途端、卓袱台の上にお茶が出てきたので、ずず、っと啜った。
「さて、お主に話があるのじゃが。」
神を名乗るジジイは真剣な顔付きになり、こちらを見据えた。
「お主には今から、いや、少しあとから異世界に行ってもらいたいのじゃ。」
「え?はっ、いや、おかしくないです?」
起承転結の結から始めやがったこのじじい。それで分かったらすげぇわ。
「ふむ。まず、そうじゃな、お主は現実世界でさっき眠りに入った。そうじゃな?」
「ええ。締切に間に合わせたので………。」
「それなら、今のところはまだなんの仕事もないのじゃろ?」
「いや、ありますよ?次の話書かなくちゃですし。」
作家って休み多そう、とか言われたりするが、それは間違いである。なぜなら、締切に合わせてやったら、次の話、って感じで書くからだ。
「安心せい、転生したらそんなもんも無くなるわい。」
「いや、その前にやらせてよ!?頭おかしいのな。」
というか、転生って。
多分これは俺の夢なんだろうが、なんだよこの夢。
それに、そもそも異世界、なんて行く気がない。
もちろん夢やロマンがないかと言われると、そうではないが……しかし、やっていける自信もないし、まず、仕事等やり残したことが沢山ある。
そんな、ほいほいと簡単に、「はい、わかりました。」と言えるわけがない。
神を名乗るジジイはそんなことも露知らず、話を続けた。
「実はな、四宮くん。実はその世界、ものすごく平和なんじゃよ。」
「へー、それなら俺も活躍できそう………って平和!?」
「うん、平和。」
まって、平和ってさぁ!?
俺行く必要なくない!?なんで転生させられかけてんの!?
「まぁまぁ、お主の言いたいこともわかる。じゃがな。これだけは頭に入れておいてほしい。」
そう言ってじじいはにやりと笑った。
「平和ってのは、長続きしないもんなんじゃよ。」
「え、それは当たり前なのでは?」
何を自慢げに言ってるんだこのじじい。
「そうじゃな、まぁ、平和って言ったが、言い方が悪かったやもしれんな。」
「……はい?」
「魔王などはおらん。じゃがな……今、悪さをする奴らがおるんじゃよ。いや、魔王もおるにはおるんじゃが、今失踪中でな、そっちはあんま気にせんでええ。」
いや、魔王いるんかい。でも、失踪中って………何してんだ?
それに、悪さをするやつらと言われても………
「その悪さをする奴らなんじゃがな。魔族も人類も滅ぼし、この世界に自然だけを残そうって方針らしいんじゃ。」
「なにそれ怖い。ってか、そういうのって、普通衛兵とかがなんとかするんじゃないんですか?国家の騎士とか……。」
「確かに、騎士の中にも強いもんはおる。でも、それにも限界はあるんじゃよ。まぁ、戦力不足なんじゃな。」
いや、戦力不足って………。所詮相手は人間なんだろ?いや分からんけど。
でも、人間なら騎士だと勝てるんじゃないのか?
「まぁ、そんな理由じゃ。お主は活躍できるぞ。」
「いや、全く活躍できませんけど!?平和じゃないですし!それに、まだまだ質問あるんですけど!」
「なぁんじゃ、まだあるのか。ほれ、言うてみい。」
「いや……相手は人間なんだろ?騎士以上に強い人間なんて……」
「──相手は特殊な力や武器を持った強力な相手じゃ。それに、魔族もおる。敵対関係で言うと、中立などと言われておるが、正直第三勢力のようなもんじゃ。ハーフというより、混沌じゃな。」
「うわぁ………」
俺が引いてるのはもちろん、そのハーフのこともある。だが、それよりも……じじいが何普通に英語喋ってんだよ……。
そんなことを考えていると、じじいがこっちを睨んで言った。
「今失礼な事考えたじゃろ。」
「いや、気のせいですよ。」
「んなわけあるか。すまんの、英語も喋れて。」
エスパーかよ。怖ぇわ。
まぁ、どちらにせよ、俺は行きたくなくなった。
んな奴らに敵うわけねぇし、まず、死にたくねぇ。
それに、何度も言ってるが仕事………。
「安心せい、仕事に関しては、お前の存在が消えることになるのでの。そんな小説も、仕事もなかったことになるわい。」
「えっちょっ………存在が消えるって………」
じゃあ、母さんや妹からも忘れ去られるってことか……?そんなの………。
「どうせ帰れんのじゃし、あったところで邪魔じゃろ。あぁ、それと………」
じじいはこの泣きそうな俺の顔に指を突き立て、そして笑いながら言った。
「──敵うわけが無いこともない。お主には力をやる。好きな職種を選べい。その職種に適応したステータスにしてやる。それと、持ってきたいものを一つ選べ。なんでもいいぞい。お前の想像する剣、とかな。」
え、行くことはもう決定なんですか………?
しかしまぁ、この場合、俺のステータスはチート並みになっていて、モテはやされたりする……のだと思える。
ならば、行っても損は無いだろう。死ぬ確率低そうだしな。
じゃあ……と俺は決心し、口を開いた。
「じゃあ、創世魔法師、でいいですか?」
「うむ?魔法使いか?いいぞ。じゃ、いくぞい。」
そうじじいが言うと、手に持っている杖が光り始めた。
「この者に力を与えよ、職は創世魔法師………偉大なる魔法使いなり。」
途端に、杖のところからまた光の波紋が浮かび上がり、俺の体も光り出した。
暫くして、光が漸く収まったかと思うと、じじいがニッコリと微笑みながら聞いてきた。
「さて、持ってくものはどうする?なんでもいいぞ?」
そう言われると、何をもっていこうか迷う。
ただ、剣を持っていっても意味が無いことだけはわかっている。
まぁ、魔法使いだしな。
魔法使い………うん、決めた。
しかしその前に質問だ。
「これって、セットでもいいのか?」
これができないとまた考え直しだ。
するとじじいからは快い頷きが見られた。
セットでもいいらしい。
ならば………
「───いくつでもかける魔導書、と、その本に書くためのペン、でどうだ?」
「………ほう?ちなみに、魔法を使うには杖が必要ではないからいいが、そんなもの何に使うんじゃ?」
「まぁ、それは見てのお楽しみ、ってとこかな。」
まぁ、本とペンなんだからやることは一つに決まっているが。
……いや、本書くわけじゃないよ?違うことをするのさ。
とまぁ、色々な話をして、出発の用意もできたので、早速転生をすることにした。
いつもの如く杖が光り出し、そして俺の足元に魔法陣が浮かぶ。
おっといけない、行く前に聞きたいことがあるんだった。
「神様、あなたの名前はなんなんですか?」
特にこれといった特別な質問ではない。
ごく普通の、初対面の人に言うにはごく一般的な質問だ。
だが、それが時には役に立つ。
「わしか?わしの名はな。」
そう一息置いて、ニッコリと微笑んでから、彼は言った。
「アメンじゃよ」
じじい──アメンがそう言ったのを区切りに、俺の意識は途切れた。
さて、何度目だろうか。目を覚ますと、そこには見たこともない光景が浮かんでいた。2度目か。
広い平原。その中に何本か立っている大きな木。
遠くに見える、如何にも異世界な街。
まぁ、その街もヨーロッパにありそうだけど。
……………地球と何ら変わんねぇじゃねぇか!
俺は思わず怒ってしまった。
しかしまぁ………怒るよな、これ。楽しみにしてたのに。
魔物はどこにいんのさ…………。
俺が途方に暮れていると、ふと近くから、甲高い笑い声が聞こえてきた。
………男にしては、甲高い。てか女レベルで高い。だが男と俺は疑わなかった。
「ふははははははっ!やっと来たぞ!異世界へ!はーっはっはっはっは!」
なんだこいつ。頭狂ってんじゃねぇの?
その男らしき……あ、いや、ゴスロリ着てるわ………え、女だったの?喋り方男じゃね!?
まぁいいや、そのゴスロリ着た変人は、両手を広げて何やら叫んでいた。
………本当に頭大丈夫か?
「はーっ………….いや、いいな、異世界は。まさか来れるとはな………」
そいつは、まだ頭が狂っているようだ。
よく………わからずに、呆然として、突っ立っていた。
──約、30分も。
☆☆☆☆☆
私は、小さい頃から本が好きだった。
兄の持つ本で、異世界へ転生する、ようはファンタジー小説だった。
その頃から私は、異世界に憧れた。
そして………異世界に行きたいと、強く願った。
もちろん、現実では不可能だ。でも、それを不可能と思いたくなかった。
だから……いつ異世界へ行ってもいいように、鍛えることにした。
まず魔法の訓練。
自分の作った詠唱を唱えて、魔法を放つ。
次に、剣術。
そこら辺に落ちていた木の棒を振り回して、剣のように扱った。
もちろん練習相手は木で作った案山子のような動かない人形だ。人でやるわけにはいかないからね。
そして、世間からは。
───厨二病と、言われ、蔑まれた。
厨二病。思春期特有の、独自の固定概念を持ち、自分には力があると思い込んで奇特な行動をする人のことを言う。
思春期は大抵中学生ぐらいから始まるが、私の場合は小一からだ。
そんな行動をその時から始めていた。
私は自分を厨二病だと認めている。
だが、異世界では、その厨二病がきっと役に立つと信じている。
そして私は、そんな生活をいつも続けてきた。
それは、とある日の放課後。
私は家にすぐに帰り、自分の部屋ですぐに本を開けた。
その本は、『瞬間移動が出来る!?猿でもわかる魔法書』と書かれていた。
若干胡散臭い部分もあるが、しかし私は、藁にもすがる気持ちで買った。
決して衝動買いなどではない。うん。違うよ?
私はその本に書かれていることを、片っ端から実践することにした。
まぁ、この部屋には誰も入れないから、邪魔される心配はない。
そして、一つ目の詠唱を始めた。
六つ目に入り、やはり無理だと思わざるを得なくなった。
期待はしていなかったが、しかしこの現実は心にくるものがあった。
次の魔法で何も出来なかったら、諦めよう、そう思っていた時だった。
床に書いた魔法陣が青く光り出した。
「えっ!?………もしかして……」
そう思って私は、詠唱を続けた。
「──地を眺めし道祖神よ………」
その言葉は、嘘くささが何万倍にも膨れる言葉だった。
なんで魔法で日本の神様?
「──今こそ私の願いを聞き給え………」
上から目線だが願いがこもる言葉。
「──開け!『Gate is a differ world!』!」
私は大声でそう叫んだ。
いや、最後で英語なの……?
しかしその詠唱が終わるとともに、その青白い光は光度を増していった。
次第に、目も開けられなくなるほど光り、光が部屋を覆い尽くした。
「なっ……なに!?」
暫くすると、光は薄れていき、だんだん目も開けられるようになってきた。
目を完全に開けきったその時、目に入ったものは。
──大きな黒い、扉だった。
扉を見て、私はずっと考え込んでいた。
恐らくこれは、魔法が成功したのだろう。
だが、本当に開けていいものなのかも、不明だった。
異世界に行って生きてるなんて事例を聞いたことがないし、まず、私が行って何ができるのか、とも思った。まぁまず異世界から帰ってきた事例がないから死んでるかどうかはなんとも言い難いが。
しかし、これは念願の異世界への扉。
やはり行くしかない、と決心し、準備をした。
服をゴスロリに着替え、小さなパラソルのような傘を持ち、一応食料も持っていく。
準備が終わり、私は扉の前へ立った。
置き手紙も書いたし、多分大丈夫だろう。
私は、その扉を軽く押しやり、開けた。
扉に入ると、そこは想像していた通りだった。
──異世界である。
私は興奮して、つい叫んでしまった。
その叫んでいる様子を、知らない男に見られているのに気づくのは、それから30分してからだった。