02-004「異世界ってどんな世界?」
世界観が少しずつ見えてきます。
『この番組は、いつも美味しいケーキのお店、マクダクルホールディングスの提供でお送り致しました。それではまた来週!』
……
『きょ~うもおいし~い マクダクルのショートケーキ~ チャラ~ チャララ~……』
いつもの朝の風景である。
先程の声は家の中の誰の台詞でも無く、大凡80インチ程の横に長い長方形のパネルから流れる映像と音声だ。
元の世界で言う所謂テレビジョンと言う物で、畳程の面積で奥行き5cm程もある分厚い板のような物に台座が付いていると思って貰えば良いだろう。
この世界では「魔導放映機」と言う機械であり、マナビジョンと呼ばれているようだ。
略してしまえばマナビである。
このマナビは放送に電波じゃ無くてマナを飛ばしているのだが、基本的にはテレビと同じような物という認識に間違いは無いと思う。
今俺とシルビアは、グレイブル、セリカ、カレン達と一緒に朝食の席に着いている訳だが、俺とシルビアは人が食べるような食事は不要なので基本的に朝食は食べない。
とは言え家族の食事タイムに自分だけ部屋に籠もっている訳にもいかず、かと言って座っているだけの時間を過ごすのもなんなので、俺とシルビアはマナビを見ながら朝食の時間を過ごすスタイルを取っている。
食べながら見ている訳ではないので行儀が悪い訳ではないのだが、グレイブルとセリカとカレンは見ながら食べてる事になるかな。
しかし最近の番組は提供の殆どがマクダクルホールディングスなので、番組の途中に入るコマーシャルに飽きて来た。
「何かずっとこのコマーシャルだな。他の企業は何やってるんだよ」
「別の局のスポンサーをしているのでしょう。マクダクルホールディングスはそれだけヒュジマナビと言う局にお金を払っていると言う事です」
俺の質問ににべもない返答を返すのはカレンである。
「それにしても、ケーキ屋がこんなに繁盛するとも思わなかったわ。本業のオートマタ製造の方も順調だしね。ケーキ屋が増える毎にケーキ作り専門オートマタのベルモントシリーズが売れるし、ケーキを作る店が儲かれば売り子としてロクサーヌシリーズやシャルロットシリーズが売れるから、もうウハウハよ。ウハウハ」
「カレン……朝からウハウハ言うのはどうかと思うよ? とにかくビャッ子のお陰で我が家の経済状況は劇的に向上したのは間違い無い事だ。本当に感謝してもしきれないと思っているよ」
セリカとグレイブルのやり取りもいつも通りだ。
つい先月、セリカとカレンはマクダクル子爵家に嫁いで来た訳だが、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのマクダクル家である。
結婚式も当初予定していた物よりもとても豪勢になり、来賓には王族や公爵までもが訪れて大変な盛り上がりを見せた位だ。
式には俺が提案したウェディングケーキを出しイベントを盛り上げる事で、結婚関連の方でもケーキの需要を確保しておいたのだ。
引き出物も勿論ケーキの詰め合わせで、それを聞いた参加者達は大喜びで持って帰った。
そこからまたケーキの売り上げが激増したのだが、この世界の人達はどれだけ甘味に飢えてたんだろうな。
「所でさ、今日は天気も良いし、折角だから俺は外に出かけて買い物でもしてこようかなと思うんだけど……」と俺が話し出すと、
「あ! 私も行きます!」と元気よく返事をしたのはいつも通りシルビアだった。
「どこに行くか言って無かったけどいいのか?」
照れくさそうに「えっと……どこに行くんです?」と聞いてきたシルビアだったが、多分どこでも結局はついて来るつもりなんだろう。
最近はどこに行くのも一緒に行動しているしな。
「さっきマナビで隣のイーオン公爵領の巨大ショッピングモールが紹介されててさ、ちょっとブラブラと服とか小物でも見てこようかな~と思ってるんだよ」
「行きたいです! えっと、バスと列車だと1時間半位ですけどどうやって行きますか?」
この世界なのだが、俺的にはかなり不便極まりない。
まず、魔力で動く通信端末(元の世界でパソコンとか言われていた古くさい電子演算器みたいな物)があり、ネットワークで繋がっているのでオンラインショッピングと言う概念があり通信販売も可能ではあるのだが、なにせVR映像で商品が見れないしその場で物が届かない。
はっきり言って1000年は時代が遅れているんじゃないだろうか?
元の世界の1000年前だから、西暦で言うと2000年位だな。
買い物だけじゃなく乗り物も不便だ。
自家用車は自分で運転する骨董品のような乗り物だし、魔導バス、魔導タクシーなんかはあるんだがそれも人が動かしてるんだぞ?
そんな仕事を人がやるなんてオートマタがあるのにおかしな話だが、交通インフラ的に考えて人のように融通が利かないとダメなんだそうだ。
俺としては車の類いは車自身が動くもんだと思ってるので観点自体がズレてる気がするけどな。
この間、余りに面倒なので走って買い物に行くと言ったら「常識的に考えて、乗り物の最高速度より速く走る人間はいません」とカレンに怒られた。
見られたら明らかに怪しまれるから止めろって話だ。
だがこの世界のバスなんかは時速で言うと時速50キロ程しか出さないから遅いんだよなぁ。
俺が乗ってて事故を起こしたモータチェアなんて、時速100キロ程度で巡航するから半分くらいしか出てないって事だな。
まぁモータチェアは高速パイプラインに乗ったら磁力航行で500キロ程出る訳だし比べられる物じゃないだろう。
兎に角、俺が自分で走ると200キロ程の速度で走れるから、正直言って乗り物での移動は怠くて仕方が無いんだよ。
「仕方ないから公共の乗り物で行こうぜ。家には自家用車が無いからな」
そう、マクダクル子爵家には自家用車が無い。
これまで落ち目だった時に自家用車の無い生活を続けていた事から、それに慣れてしまった当主のグレイブルに自家用車を買う気が無いのだ。
一応、運搬用のトラックは何台かあるのだが、そんな物に乗って買い物に出向く訳にもいかないだろう。
いかにこの世界の貴族が平民と大して変わらないとは言え、一応は領地と言う考えがあり家格と言うものも存在する。
子爵家の婦女子が大型トラックを運転して他領のショッピングモールに乗り付けるなんて事があってはならないのであるが、公共の乗り物で普通に移動するのは問題ないようだ。
なんか納得いかないが、そういう世の中なんで仕方ないと思って諦めよう。
「うん、大躍進中の子爵家の当主としては自家用車すら無いと言われるのも癪だし……そうだ、ビャッ子。出かけるついでに自家用車を見てくるといい」
「だが買う訳じゃない。我が家の工房で自動車を作るから参考程度に見てきて欲しいんだ。基本、ビャッ子のアイデアを借りて作り上げたいと思っているんだが、この世界の現時点での技術からあまりにも掛け離れた物は実用化出来ないからね」
この世界は一応は国の単位で車両の登録制度があり、公爵領単位でナンバープレートが交付されている。
車両に関しては一定の検査基準を満たしている必要があるため、俺が元居た世界で実用化されていた走る椅子みたいな車は難しいのだろう。
「マジか! でも、そもそも家で作った車って登録出来るのか?」
カレンが間髪を入れず「出来ます」と答える。
「そもそもオートマタ製造の工房はあらゆる機器の製造が必要となります。そのためマギ演算器やマギチップの新規規格登録に始まり、車両、魔道具等のあらゆる物の製造許可を取得しているのです。ですので、新たに自家用車製造を新規事業として起こす事は難しい話ではありません」
自家用車を自分で作って良いと言われたら、これは心が躍る出来事だ。
男のシンボルは既に無くなった俺も、まだ男の子だって事だな。
「やった! 好きにデザインしても良いんだよな? なぁシルビア、ショッピングモールの前に車を見てもいいか? な?」
「ビャッ子ちゃんは子供みたいですねぇ~。良いですよ? でも買い物にはちゃんと付き合ってくださいね。私はあんまり自動車の事が分からないですから」
俺とシルビアは見ていたマナビを消し、いつの間にか食べ終わっていたグレイブル達の食器を片付けて出掛ける用意を始めたのだった。
◇◇◇◇
それから約二時間後。
早速向かったのは外国車を主に取り扱う自動車販売店である『ヤナンズ』と言う店だ。
高級セダンが売りのメルセウスや、高級スポーツカーメーカーのシェラーニ、それにランドルギーンなんかを取り扱っているとの事だった。
ハッキリ言おう、カッコイイ。
俺の元居た世界の自動車は、基本的にオープンクルーズで透明な障壁の中に椅子があるスタイルばかりだった。
金属の外装に包まれたその乗り物達は、まさに地を這う宇宙戦闘機のようだ。
実際、宇宙戦闘機は自動車と違い障壁だけでは人の安心感を得られない事から、金属のフレームの中に操縦席が置かれるスタイルであった。
「なんかいいな! こうシュッとしててタイヤが付いててさ。これが本当に動くんだって事が素晴らしい!」
「ビャッ子ちゃんは何を馬鹿な事を言ってるんですか? アクセル踏んだら走り出すのは当たり前の機能ですよ?」
「な! なんだって~! 俺の居た世界の車はアクセルもブレーキもないぞ? そんなの付いてるのは運動不足解消用の半自動自転車位だな」
「そんな進みすぎた文明の話をされても困ります~。この世界ではどこを見ても似たような金属の箱が走ってるんですから」
「確かにそうなんだけどさ。なんか車が地面をタイヤで走るなんて、歴史の教科書や博物館でしか見られない……いや待てよ、そう言えばレトロVRゲームであったな。不人気で直ぐにサービス終了したから俺はプレイ出来なかったけど、あの時は昔の自動車に乗れるゲームってので俺もやってみたかったんだよな~。でもこの世界で普通に地面を走る車に乗れてる訳だから、俺、この世界に来て良かったよほんと」
ちなみにビャッ子の元居た世界では、人間の生活空間自体が地表から五十メートル程浮いているのだ。
これは地球の自然保護の観点から徐々に行われた環境改善の一環であり、元の地表にあった建造物は地下か空中に移動、アスファルトやコンクリートも全て撤去され、表面上は大自然さながらの状態となっていて、一般の人間が地表に降りる事が無い世界となっていたのであった。
「ホントにいつ聞いても変な世界だったんですね~。違う星系の星に遊びに行くのが海の向こうの国に遊びに行く程度の話ってのも言われてもピンとこないです~」
「俺も逆にこんなにマッタリした移動方法しか無い世界なんて、どうやって遠くと行き来するのかピンと来なかったぞ? まぁ俺の場合はステファニーの知識やウィッキーさんっていう元の世界の知識データベースもあるから理屈では分かるんだけどさ」
シルビアでワイワイやりながらショールームに色々と並べられた車を眺めていると、奥から身なりの良い初老の男性が此方に声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ、美しいお嬢様方。本日は当店のショールームにお越し頂き誠に有り難う御座います。気になります車が御座いましたら試乗も可能となっておりますので、気軽にスタッフにお声をお掛けください。ところで、お客様はマクダクル子爵家のビャッコ様とお見受け致しましたがお間違えないでしょうか?」
「お……いや、確かにビャッコ・マクダクルは私ですが?」
(一瞬俺って言いそうになったな。危ない危ない、ちゃんとお淑やかにしないと)
「やはり左様で御座いましたか! いや~、私は当店のオーナー兼店長のハシェロ・ミトゥヒシと申します。我がミトゥヒシ家でもマクダクルのショートケーキが大人気で御座います。何でもケーキと言う食べ物はビャッコ様が考案なされたお菓子であられるそうで、あのような素晴らしいお菓子を世に送り出したお方が当店に訪れて頂けるとは……真に恐縮です」
えっと、もしかしたら俺って有名人なのかもしれない……とか思っていたら、俺に変わってシルビアがやり取りを始めた。
「ビャッ子ちゃ……様はケーキ以外にも様々な才能が御座いまして、本日は新たな自動車を開発なされる為、参考に此方で取り扱う自動車を拝見させて頂きに参った次第です。此方では国内外を問わず様々な自動車を取り扱っているとの事、国内の自動車であれば別の店でも見る事が出来ますが、国外の車は取り扱いが少ないので此方のようなお店があるのは非常に有り難い事です」
「ご高名なビャッコ様の従者の方にそこまで褒めて頂けるとは恐悦至極に存じます。してビャッコ様、自動車をお作りになるとは、どう言う事で御座いましょうか?」
(そこで俺に振るか? まあ貴族の子女らしくお答えしてやろうじゃないか)
「簡単な事ですわ。マクダクル工房で自動車を作りますのよ? 現在のマクダクルホールディングスは大きくはケーキ等を販売する甘味店事業と、各種オートマタを販売する工房事業で構成されているのはご存じかと思います。そこに新たに自動車製造事業を増やそうと言うのが今回の狙いですの。そこでライバルとなる自動車製造業の工場に直接お邪魔する訳にも参りませんから、下見として一般販売を行う此方の店舗にお邪魔したと言う訳ですわ」
「なんと! ビャッコ様は麗しき女性の身ながらも自動車関連の知識もお持ちだと言う事ですか」
「そうですよ。ビャッコ様はケーキ等の甘味全般以外にも一般の料理に関する造形も深く、工学も自動車や魔道具だけで無く様々な分野での知識をお持ちになられる才女なのです」
シルビアも偉そうに人の事を褒めるのは良いのだが、流石にちょっと恥ずかしいから止めて貰いたい所だ。
「あ……え~オホン。此方のシルビアが言う程のものではありません。お恥ずかしながら少々囓った程度の知識として知っている程度ですわ。私と致しましては今の売れ筋と今後発表される新車についての情報が知りたいと思いまして、予約販売の状況なんかを教えて頂けると助かりますわね」
初老のミトゥヒシ店長は、少し考えるような素振りを見せたが直ぐに此方に向き直った。
「ビャッコ様、此方も販売店ですのでお買い上げ頂く予定があるお客様のご要望にはお答え致しますが、ビャッコ様にはお車をお買いになる予定は無いかと存じます。ここで協力しないと言う事は簡単なのですが、二つお願いを聞いて頂けるのであれば、此方と致しましては喜んで情報を提供させて頂きたいと思います」
「二つのお願いですか? 私に出来る事であればそれを聞く事は吝かではありません。叶えられる事かは聞いて見ないと判断出来ませんので、是非遠慮無く仰って頂けますか?」
(普通は一つじゃないのか? まぁ無理なら断れば良いいんだけどさ)
「まず一つは、マクダクルホールディングスの自動車製造部門で作られた車の販売についてです。此方の販売に関する事業に、是非我が店舗も参加させて頂きたいのです。当店は本社から見た場合には支店では御座いますが、独自で個別に自動車会社に対して販売経路を構築する事が許されております。ですのでいち早く当支店が優先的な販売を許して頂けるのであれば、此方も大きな利益を享受する事が出来るのです。まず、このお願いが聞いて頂けるのであれば、お望みのリサーチ部分に関しては当店が責任を持って実施し、有益な情報を提供する事をお約束させて頂きます」
「成る程……確かにマクダクルホールディングスの自動車製造部門を立ち上げる予定ではおりますが、販売に関する方向での展開を考慮しておりませんでした。自動車には自動車の販売経路が必要でしょうし、ご協力頂けるのであれば是非お願いしたい所ですわね。では、この件につきましては本日戻った際に私から当主に伝えておきます。契約を含めた手続きを行う必要がありますので、明日以降に当家までお越しください。それで、もう一つのお願いとはなんでしょう?」
「もう一つのお願いについては、実はお断り頂いても構わないのですが、ビャッコ様と従者様のお二人のお写真を、当店に大きく貼らせて頂ければと思いましてですね……宜しければシェラーニの新型スポーツカーと一緒に写真を撮らせては頂けないかと……」
店主としては俺が時の人にでも見えているのだろうか?
別に俺は写真を貼られても文句はないし、今後の自動車販売関連でのやり取りを考えればプラスになる要素を断る理由はない。
「それは構いませんわ。シルビアも良いですか?」
「あ! はい! そんな事より、私なんかがモデルの真似事みたいな事をしてしまっても宜しいのでしょうか……」
シルビアはそこそこ可愛いと思うのだが、本人に自信がないだけなのでは無いだろうか。
もっとも俺自身が人の事を言える程、自分に自信がある訳がないのだが。
「問題無いと思いますわよ? でもそうですね……流石にメイド服のままと言う訳にはいかないでしょう。ミトゥヒシさん、撮影の件はお受け致しますが、衣装なんかはご用意なされてますのかしら?」
「いえ、大変申し訳御座いませんが急に思いついた話でしたので用意出来ておりません。もし宜しければ当店の従業員と一緒に買いに行かれると言うのは如何でしょうか? 勿論、お買い上げ後の服はプレゼントさせて頂きます」
(ふむ、どうせ服を見に行こうと思ってた訳だし、ついでにイーオン公爵領のショッピングモールまで連れて行って貰うのも手だな)
「それは好都合ですわね。私達はこの後、イーオン侯爵様のところのショッピングモールまで買い物に行こうと思っていたのです。宜しければそちらで買い物をさせて頂ければ助かるのですがどうでしょう?」
「ああ、あの巨大ショッピングモールで御座いますか。ええ勿論、そちらでの買い物で問題御座いません。車の手配は此方で致しましょう。従業員の方も女性の従業員を二名お付けしますので、何か御座いましたらそちらにお申し付けください」
そうして二人の女性従業員が俺達の元に呼ばれ、またもケーキの事で感激され握手を求められたりもした。
本当にどこにでもいる普通の女性達なので紹介は割愛する。
ちなみに用意された車はメルセウスのピッカピカ新車だった。
何でも4ドアクーペというタイプの物らしい。
一昨日納品されたばかりの試乗車で、新たなコンセプトを元に売り出した虎の子の車両だそうだ。
他国の車なのだが、本国ではCM効果等で物凄い数の予約が入っているとの事で、これから同じタイプの車両が各社から出るだろうと予想されているのだとか。
確かに流れるような流線型を取り込んだスポーティかつスタイリッシュなボディでありながら、4ドアで広々とした車内に豪華な作りのインテリアはまさにラグジュアリー。
全体的な高級感が非常に高い分、お値段もやっぱりお高いのだろう。
「あら! とても素敵なお車ですわね」
俺は頑張って上品な反応を返す。
間違っても「おぉ! カッケー!!」なんて言わないからな?
ちなみに半ステファニーモードだから受け答えのやり取りを女性化するなんてのも楽勝だ。
「本当ですねビャッコ様。私は車は余り詳しくありませんが、この車両は何というか非常に洗練された美しさがあります」
シルビアもこのメルセウスの新型車両の良さが分かるらしい。
「流石はマクダクル様、非常にお目が高い」と女性従業員達も賛同してくれた。
「ちなみにこの車両は標準構成なのですが、メルセウスの車両にはAMCと言う自社カスタムブランドがあり、そちらのカスタムモデルが非常に人気となっているんです」
(カスタム! マジか。これより格好良い状態で販売されるって事か?)
女性従業員の言う事からすればそう言う事なのだろう。
やはり詳細は聞いて見ないと分からない。
「カスタムモデルですか? それはどう言った物なのでしょう。教えて頂けます?」
「え? あ、はい。AMCモデルになるとエンジンがそもそも違います。標準モデルではV6-3500L~V8-5700Lの魔石変換エンジンなのですが、AMCではV12-6200Lのエンジンとなってます。また、インテリアもスポーティなシート等を選ぶ事が出来るようになります。後はパワーレーンが非常にハイパワーになるため、ブレーキ周りも変更されますしホイールもAMCの専用ホイールに変更されると言った所が主な違いかと思います」
「成る程……それは凄いですね。流石はカスタム車両と言った所でしょうか。そうそう、シルビアには説明が必要でしょうから補足しましょう。V6とかV8とか言うのは魔力圧縮シリンダーの配置と数です。まあV型は並列型よりコンパクトに出来ると言う程度の理解で良いでしょう」
「あとシリンダー数が多い方が魔力効率を上げやすく安定感も増す訳ですがコストは上がりますね。それと3000Lとか5700Lとかと言う数字ですが、こちらは魔力シリンダーの包括容量です。空間に対する魔力比率が固定の場合、より大きな魔力圧縮シリンダーの方が圧縮後の魔力が高くなるのです。その代わり、使用する魔力量も増える訳ですから、魔石の消費量も多くなるので魔石費は高くなってしまうのです。どうですか? 分かりましたか?」
「はい、ビャッコ様。要するにAMCモデルはよりハイパワーでスポーティと言う事ですね!」
「ビャッコ様は流石はマクダクル家の方ですね。オートマタ工房を営むお家柄だけあって工学の造詣も深くていらっしゃる」
「お褒め頂き光栄ですわ。ではそろそろ衣装を選びに参りましょうか。お喋りは車中でも出来ますものね」
この後、俺達は二人の女性従業員達にエスコートされてショッピングモールで買い物を済ませた。
基本的には流行の洋服を数着と、俺の提案で水着を買っておいた。
元の世界のデータベースに過去の一般紙の情報もあるのだが、俺好みのカスタム自動車情報誌では車と写真を撮る美女は水着が一般的なようだったからだ。
女性従業員達にも話を聞いて見ると、車と水着美女の写真は受けが良いらしく大歓迎だそうだ。
買い物を終えて販売店の方に戻ると、赤いスポーツカーが目が眩む程ライトアップされており、周りには明らかにプロの撮影スタッフと思われる人達が集まり撮影の準備を進めていた。
俺達の到着を知ったオーナー兼店長のミトゥヒシが、本日の撮影を担当するカメラマンとメークアップアーティスト、ヘアスタイリストを紹介してくれたのだが、ここでもまたケーキの話になって握手を求められる事になった。
そろそろケーキの話から解放して欲しいものだ。
そして、ここで余り時間を掛けても仕方ないので、シルビアと共にさっさと水着に着替え、メークとヘアスタイルを整えて貰って直ぐに撮影へと移る事になった。
水着姿で現れた俺達二人に、撮影スタッフ達や従業員達から「おぉ!」と歓声が上がったりもしたが、取り敢えずカメラマンの指示に従う形で撮影は順調に終わった。
勿論、普通の撮影なのでチラリもポロリも無い事は伝えておこう。
残念だったな。
撮影を終えた後、俺の好きな車両で家まで送ってくれると言うので、撮影に使ったシェラーニの新型スポーツカーに乗せて欲しいと頼んだ。
本格スポーツカーで2シーター二人乗りの為、俺とシルビアは別の車両で送って貰う事にしたのだが、シルビアの方はランドルギーンの車にしたようだった。
選んだ理由はドアが上に開く車に乗ってみたいからだそうだ。
俺もそっちにすれば良かったかな?
何で自分で運転してシルビアと二人で乗らないのかって言われても、俺、免許持ってないんだよな。
帰ってからグレイブルに車の免許取りたいって相談しようと思ってるぞ。
独特の魔力エンジン音を響かせ、マクダクル子爵家の屋敷に二台の高級スポーツカーで乗り付けた俺達にグレイブル達は目を丸くしていた。
どうやら買ってきちゃったかと思ったらしい。
流石にそんなに馬鹿じゃないし……。
と思っていたらこの二台、自動車作成の研究用に購入する事が決まり、後日納品される事になったのだ。
一般家庭用なら立派なお家が建つ位の金額の自動車なんだけどね。
カレンとセリカが決めた事で、グレイブルも仕方ないと諦めていた。
金ならある! との事だし良いんじゃないかな。
ケーキ特需で儲かったんだろう。
流石、ケーキで儲けた義姉ちゃん達は太っ腹だ。
――いや、ケーキ食べすぎて太ったって意味じゃないですよ? お二人とも素晴らしいナイスバディです!
夜になり免許を取りたいって話もグレイブルから了承を得られたので、後日自動車学校に通う事になりそうだ。
元の世界では車は自分が運転する訳じゃないから免許なんか要らなかったし、人間が動かす機械なんてのは特殊機器だけなので、乗り物の免許なんてのは専門の学校を卒業した技師位しか持っていない物だった。
(星間移送カーゴなんか完全自動航行だったもんな。しかも自動車学校ってのは色々な人が来る所らしいから楽しみだ)
そして翌日、ヤナンズ-マクダクル子爵領支店のミトゥヒシさんがやって来て、グレイブルと正式な契約を結んでいた。
最終的にミトゥヒシさんの支店はヤナンズから完全に独立する形となり、ミトゥヒシ自動車というマクダクルホールディングスの傘下の会社になるとの事だ。
車体製造以外の設計やデザインもミトゥヒシ自動車としてやる形にするらしいので、自動車関連事業全般を担当する訳だな。
更にミトゥヒシさんから先日の写真が巨大なパネルで納品されたんだが、こっちではちょっと大変な事になっているようだ。
なんでもシェラーニに車の写真の利用許可を求めてデータを送ったら、逆にシェラーニ側がから俺達の写真の使用許可を求めて来たらしい。
日を改めてシェラーニの広報担当者が家に来るらしいので、店に貼り出されるのはちょっと先の事になりそうとの事だ。
もうね、俺とシルビアはグラビアアイドルになれるんじゃないですかね。
電子図書館で見た事あるんだが、紙で出来たマンガの最初のカラーページのアレだよ。
あれ?
どっちかって言うとイメージガール……なのか?
うん、そっちの方が正しい気がする。
それと、シェラーニの件やミトゥヒシさんの推挙もあり、義姉達は今後の自社関連CMに俺とシルビアを使うつもりらしい。
このままだと芸能界デビューも近いんじゃないか?
そしてある程度売れた所でスキャンダルで一気に落とされてAVに身をやつす事になる訳だ。
何か先行きが暗いな……。
何時の間にか心の声が本当の声になっていて、独り言で「AV落ちが……」等とブツブツ言っていたら、俺の独り言をしっかりと聞き取っていたシルビアに「アホですか?」と罵られた。
「売れなくなったら止めれば良いだけですよ。ビャッ子ちゃんは心配性ですね~」
そりゃそうだ。
確かにシルビアの言うとおり、嫌なら止めれば良いだけだった。
もはやお金に困ってる訳でもないし、例えお金に困っても飲まず食わずで平気な訳だしな。
お陰で結構気持ちが軽くなったぞ。
「ありがとうな。シルビア」
「いえいえ、どういたしまして。それで今日はどうしますか? グレイブル様達は契約や今後に関しての打ち合わせでお忙しいようですが、私達は特にやる事も決まっておりません。もし特にやりたい事がないのであれば、そろそろ冒険者ギルドの依頼をこなしておかないとライセンスが凍結されてしまいますから、一仕事してくるのが良いかと思うのですが」
「え? もうそんなに経ってる? じゃあ今から何か適当な仕事でも探しに行こうぜ。今日は特にやる事はないしな」
冒険者ギルドのライセンスは半年間依頼を遂行していないと凍結されてしまうのである。
確かにここ最近は全くギルドの仕事をやっていなかった。
折角時間もある事だし、この機会に何か依頼をこなしてライセンスの有効期限を延長しておこうと思う。
この世界は古くさい技術ばかりとは言え、交通インフラも通信インフラもある程度の発達しているのは確かだ。
だが、冒険者ギルドと言う集まりは今もまだ活動を続けているのである。
実際問題、冒険者なんて仕事で生計を立てられる人間は少ないが居ない訳でもないんだよな。
今日、ギルドにどんな依頼が残っているのかは、俺達もこれから行って見ないと分からない。
そんな事を考えながら用意を終えた時、シルビアの方も出掛ける準備が出来たようで此方にやって来た。
グレイブル達に冒険者ギルドへ行ってくる事を伝え、俺達二人は久しぶりの冒険者ギルドへと足を向けたのであった。
次回、この世界の冒険者ギルドというものが分かります。




