02-002「やってきた料理人」
人が…人も増えます。
俺は今、マクダクル子爵家の料理人を探すため、街の人材派遣センターの一室で候補となる人材が面談に来るのを待っていた。
「あの~……」
か細い声で後ろから話しかけられている気がする……。
扉は正面にあり、俺は奥の椅子に座っているはずだ。
「す、すみませ~ん……」
間違いない。
これは俺に話しかけているんだろう。
おかしい……。
部屋に誰か入って来た形跡はなかった。
「そこの白髪の人~」
俺はこの声の主を無視する事に決めた。
トントン。
(とうとう肩を叩いてきやがった……物理攻撃とはやってくれるな。仕方ない……振り向いてやるか)
俺が諦めて後ろを振り返ると、半透明のメイドの少女がそこに立っていた。
半透明だけど外見は把握出来るレベルだ。
歳の頃は俺と同じ位だろうか。
背は低く150センチ程しかない。
髪は黒髪。
長いストレートヘアーで前髪の感じで言うとおかっぱだ。
瞳も黒で顔立ちは整っているが、何と言うか地味?
一言でいうと地味目だ。
俺はスッと目を逸らして元の姿勢に戻り、見なかったフリを貫く事にした。
明らかに目が合ったと思うのだが半透明だから大丈夫だろう。
「おっかしいな~。料理人希望の人、早く来ないかな~」
俺が独り言のように呟いていると、その少女がスーッと俺の正面に移動してきた。
どう見ても脚が机を透過している………
「あの……私も、料理人希望なんですが……」
(はて? 俺の希望は料理"人"と言ったはずだが……霊はまだ人か? 人の霊だから人でいいのか?)
「そうですか。では不合格で」
「え! えぇぇぇぇーっ!! そんな~……」
メイド少女の霊はその場で屈み、顔を押さえてシクシクと泣き出した。
(ヤ、ヤバイな……このまま地縛霊になられても困るぞ……)
「あ、いや~ごめん。あんまり透けてたもんだからつい……まだ話も聞いてなかったかな? 取り合えず詳細を聞いてから決めるよ。まあ座ってくれ」
ぱぁぁっと音がするようにメイド少女(霊)の顔が輝いた。
そして泣いた形跡がどこにも残っていないのが明らかに分かった。
(騙された、完全な嘘泣きだった……)
「良かった~。てっきり"また"霊だからダメって言われたのかと~」
「またって……いや、霊だからダメって言おうと思ったんだけど……」
「でも! 話は聞いてくれるんですよね! 嘘は良くないですよ~」
(嘘泣きしてたお前がそれを言うのか?)
「ああ、分かった……聞く聞く。で、お前さ机を透過しちゃってるけど、料理どうするの?」
「実は透過しないようにも出来るんですよ? あ! 信じてないですね? いいですか~えい!」
パァァァン!
……左の頬をビンタされた。
「ほら、ちゃんと触れるんですよ~反対も試しますか?」
「もういい……痛くないけどイラッとするから止めてくれ……それといい加減座ってくれないか?」
すると、メイド少女(霊)は俺の正面の椅子ではなく、透過したまま俺に重なるように座ってきた。
「変わったプレイがお好きなんですね~。憑依プレイですか? どうですか? イイですか?」
「それ、もういいから。な? 早く正面の椅子に移動しやがれ。即不合格にして叩きだすぞ?」
「は~い。私、透過してる時は叩かれないんですけどね~」
(ブッコ……マジブッコ……いや? 死んでるんだよね。多分既に……)
「ちょっと待てよ……? お前座れるの?」
「大丈夫です! 全身実体化しますから」
メイド少女(霊)は俺の椅子から立ち上がると、横に移動してこちらに向き直った。
俺は不気味な重なりがなくなりホッと一安心だ。
暫く様子を見ているとパッとメイド少女(霊)の色が濃くなった。
多分これで実体化しているのだろう、向こう側が透けて見える事が無くなった。
(全身実体化が出来るなら最初から実体化して扉から入って来いよな……あれ? 実体化したら服とかも普通の服なのかな?)
メイド少女(霊)は俺と違いヴィクトリアンタイプのメイド服だ。
タイプBになれば俺もヴィクトリアンメイド型だが、あれはメイド服型戦闘服で中もスパッツ。
俺的には何の楽しみも無い服だ。
しかし目の前には本物のヴィクトリアンメイドが居る。
俺は目の前のメイド少女(霊)のスカートの中身もスパッツなのかが気になった。
(ふむ、一応聞いてみるか? 同じ女同士――俺の中身は男だが――なら問題はあるまい)
「なぁ、お前のメイド服って俺のと違うタイプなんだけどさ。中はやっぱりスパッツとか履いてる訳?」
「え? それって試験ですか? はは~ん。夜のご奉仕の時に物怖じしないか試してるんですね~。良いですか? よく見てださいよ!」
バッ!
と言う音と共に一瞬でメイド少女(霊)がスカートを捲り上げた。
気合を入れたのか、足元は仁王立ちスタイルである。
(あれ?)
「どうですか? ちゃんと下着は清潔にしてるんですよ?」
「清潔なのは分かった。毛も無いし……な? いや、それよりもさ。なんでお前、スッケスケのパンツ履いてるんだ? 具まで丸見えだぞ?」
「え?」
「え?」
メイド少女(霊)は俺から局部が見えなくなるよう後ろを向く。
そして自分のパンツを確認した後、スカートをそっと元に戻した。
振り向いたメイド少女(霊)は更に真っ赤な顔をしていて、目には薄らと涙が溜まっている。
「う、ぅうぅぅ……。パンツを実体化してなかったですぅ……男の子に具まで見られるなんて……もう死んじゃいそうです~……」
(こいつアホだな……)
「別にいいだろ? 女同士……あれ? お前今、俺の事を男の子って言ったよな?」
メイド少女(霊)は何故かスカートをしっかりと押さえつつ、恨めしそうな目でこちらを見ていた。
「どうした? もうしっかり見た後だからいいだろ? もしかして下の毛がないのを気にしてるのか? それもいいじゃないか、俺は好きだぞ?」
「ぅうぅぅ……言いました……だって中身が男の子じゃないですか~……しかもあんまり格好よくないし……もう、最悪です~」
(最悪って……俺が不細工なのは十分分かってるんだよ! だがな! 俺んちはパパが金持ちなんだぞ? って一回言ってみたかったんだよね~。こっちの世界じゃ関係ないし、元の世界でも俺と親父は血の繋がった他人だからな)
「俺の中身が男だって良く分かったな~。俺、異世界からの転生者か転移者なんだよ。向こうの世界で死に掛けて、いつの間にかこっちの世界にいたんだけどさ。なんでか体の性別は女なんだよな~」
「あ、しかもこの体はオートマタらしいぞ? 作った奴らが言うにはほぼ人間で、元とは全くの別物になってるみたいだけど、俺の世界の義体の一部と合体した感じなのかもな……」
「あれ? だとしたら向こうの世界の義体は女の体が用意されてた可能性があるな……あいつら男の俺を死んだ事にして女の体になった俺を養子にでもするつもりだったんじゃないか? 普通に有り得そうで怖いな……」
そこまで独り言で話した後、そう言えばと思いメイド少女(霊)の方を見たら口を半分開けて呆けていた。
「おーい、大丈夫か~。悪いな。独り言が長すぎたか?」
「馬鹿じゃないですか!? そんな話で呆けてたんじゃありませんよ! 死に掛けて異世界ってなんですか!? 私なんて死んだのに! ガチ死んだのにココにいますよ?」
「なんでですか? いや、霊で残ってるのだって珍しいんですけどね? でも、異世界転生なんて街で今流行りの物語ですよ? 流行の真ん中の最先端ですよ!?」
「ズルいですよね? 死に掛け程度で異世界転生して、本当に死んだ私が霊どまりなんてズルくないですか!?」
メイド少女(霊)は机越しながら俺の鼻先までガンガンと詰め寄ってきた。
興奮して喋るのはいいんだが、顔が近すぎて唾が顔に飛び捲ってるんだが……まあご褒美みたいなもんかな?
(しかし、俺が頭を引いてなかったらブチューしてる距離だな。ブチューってしてやろうか? いや、やめとこう……それは冗談としてはやり過ぎだしな)
「あ~うん? なんか、その……ごめんな?」
俺は取り合えず謝っておいたが、メイド少女(霊)はなにやら考え事をしているようだ。
「いえ……そうです! そうですよ!!」
「お、おう? 何の事だ?」
「良~ことを思いつきました! 私って天才ですね! あなたが異世界転生した主人公なら、あなたに"憑い"て行けば私がヒロインって事ですよ~。やった~! 私って"憑い"てるわ~」
「おい……そこは"憑い"て行く、じゃなくて"付い"て行くだからな? しかも最後のも"ツイ"てるだぞ? じゃ言葉が不自由って事で不合……」
「待たんかい!! まだ……まだ名前も言ってませんから! もう~イジワルですね~」
(最後まで言う前に止められたか。しっかし偉くエネルギッシュな霊だな……)
その後、メイド少女(霊)は何とか正面の椅子に着席してくれたので、取り敢えず名前位は聞いてやる事にする。
「じゃあまず自己紹介しよう。俺の名前は白虎だ。家の人間からは"ビャッ子ちゃん"って呼ばれてる。呼び方は好きにしていいぞ?」
「ビャッ子"ちゃんさん"ですね?」
「いや、"ちゃん"か"さん"はどっちかでいいから……」
「じゃあビャッ子ちゃんでいいですか? 余りお歳も変わりないようですので……」
「いいぞ? で、お前の名前は?」
メイド少女(霊)は、「フム……」となにやら考え込んでいるようだ。
そして考えが纏まったのか、漸く自分の紹介を始めた。
「吾輩はメイド少女(霊)である。名はまだない」
(猫だそれ!)
「漱石か? その話ってこの世界にあるの? つか、なんで名前がないんだよ。もしかしてふざけてるのか?」
「違いますよぅ。死ぬ前の名前はあるんですよ? でも私、死んだわけですから元の名前だと色々問題があるんですよ」
「どんな問題だよ?」
「いや~、私。死んだ時にお仕えするはずだったお方にお葬式までして貰って、残された家族も香典しっかり頂いててですね~。その上、生前に前借りで作った借金も帳消しにして貰ってるんですよね~」
(確かに……死んでもこんな状態の霊じゃ生きてるのと変わらんし、しかも働きに来る位だから金は稼げる訳だ。そりゃ貸した方にバレたら金返せって言われても仕方ないよな)
「仕方ない奴だな。俺がなんか適当に名前を付けてやろうか?」
「え! 本当ですか! いいんですか!?」
「おう、いいぞ。じゃ"スケパン"でどうだ?」
「お断りします!」
「なんだよ? ちゃんと四文字以内で収めたぞ? もしかして半濁点は一文字なのか!? うーん、"ケナーシ"ならいけるか?」
「問題は文字数じゃねえんだよ! 馬鹿かテメェ!! ………はぁ……はぁ、失礼いたしました。出来ればもう少し可愛い名前でお願いします。先程のスケスケから名前をイメージするのだけは堪忍してください……」
「お前、……贅沢だな?」
「普通ですから!」
(無毛だから不毛って事だろ? そこでバレンって名付けたいが男みたいな名前だしなぁ。じゃ一文字変えてカレン? は既に家にいるし……ギレンも不味いし……面倒臭いしシルビアでいいか?)
「じゃあシルビアで」
「あ、いいじゃないですか。シルビア……いい響きです。やれば出来るじゃないですか~気に入りました。今から私はシルビアです。宜しくお願いしますねご主人様……いえビャッ子ちゃん!」
「おい、まだ誰も合格とは言ってないが?」
「え? 合格も何も、今の私は霊で分類は不死族の魔物ですから、ビャッ子ちゃんに名前を付けて貰った時点で既に従魔として従属してる状態になってますよ?」
「馬鹿な……ウソだろ?」
「従魔契約は本人同士が納得してて、主人が従魔に名前を付けちゃった時点クーリングオフ対象外ですよ? 私はもはや使用済みの扱いです! 中古車です! 傷物です! でも~ほ~んと残念ですね~。ビャッ子ちゃんは女の子の体ですから、私を使用済みにする事は出来ませんね。残念ですけど~」
(くっそムカつく! 嵌められた……いやハメもハメラレも出来ないじゃねぇか!! くそ~~)
後日、グレイブルに「俺にチ○コありモードを付けてくれ!」と頼んだビャッ子であったが、セリカやカレンを含めた全員に当然の如く却下され実現する事は無かったと言うのはまた別の話。
「大体さぁ、お前、今回は料理人の募集だぞ? そもそも料理出来るのか?」
「お任せください! ちゃんとメイド"見習い"として色々と教育を受けておりますから問題ないですよ? 練習の時は夜のご奉仕の次に得意でした!! どちらも実地前に死にましたけどね~」
「何も出来ない素人と変わりねぇぞそれ?」
兎に角、このままじゃ埒が明かないので人材派遣センターに事情を話してみると、なんとシルビアは募集の張り紙を見て勝手に来ただけで元々関係ないらしい。
霊がやって来るのは偶にはあるとの事だったが、話が成立して従魔になってるのは始めて見たそうだ。
暫くして、当初面談予定だった普通の料理人の人が面談に来てくれたので、無事に料理人を雇い入れる事が出来たのだった。
後から来たのは20台半ばの女性料理人で、元は別の貴族の厨房で働いていたそうなのだが、代替わりした料理長に女性は要らないとクビにされたらしい。
美人じゃないけど可愛らしい女性で物腰もやわらかく良い人って感じである。
体形はスラッと細く背は低め。
髪は赤毛で三つ編みをしておりソバカス顔だったのもあって、てっきり名前は「アン」かな? と思ったら「セーラ」だそうだ。
俺の脳内イメージを修正するのに少し時間が心要だったのは秘密だ。
尚、シルビアも同席していたが「従魔です!」と言うと「そうなんですね~」で終わった。
この世界の幽霊って怖がられてないんだろうか?
「基本的に募集通りだけど、給与や勤務条件なんかの細かな希望や手続きはマクダクル子爵邸で当主と話してほしい。掛け合えば多少は何とかしてくれると思うぞ?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「ビャッ子ちゃん! 私は給料い~っぱい欲しい!」
(セーラさんは素直に返事をしてくれたってのに、従魔のコイツは何を言ってるんだ?)
「お前、俺の従魔なんだろ? 雇用契約もないんだからタダ働きに決まってるじゃん。そもそも金はどこで使うんだよ。あと霊は飯食うのか? ん? 必要なら飯は出してやるけどさ」
「ご飯は食べませんよ! 実体化すえば食べる事はできますけど食欲はあんまりないんです。欲しいのはお金! お金ちょうだい! 使わなくても欲しいんです!! あ、あ~……ご飯じゃ無いけど魔力は要りますよ? な~の~で~、素敵な王子様からの魔力を希望します!!」
(本当アホだわ。貴族にだって王子なんて居ないからな? 王子が居るのは王族だけだからな? いや……まて、まてよ……俺って元の世界では一国の大統領の息子だよな?)
セーラに聞こえないようシルビアにヒソヒソと小声で話しかける。
「……シルビア、元の世界の話なんだが、俺の父親は大統領って言って国で一番偉い人だったんだぞ? そして俺はその長子なんだが……」
「……え? 何それ? 国で一番偉いって事は、国王とか皇帝って事? じゃビャッ子ちゃんがその長男なら第一王子? 王族なの? 皇族なの? 継承権一位なの?……」
「……お、おう? おぉぉ。ま、まぁ……そんな感じだな……」
(嘘は言ってないし、相手が勝手に間違えてるだけならいいよな? 大統領に継承権はないがな)
「……やったわ……玉の輿キタわね。私! 元の世界に帰る時もビャッ子ちゃんに付いていきます! そして魔力ください!!」
「……あ~うん、分かった……宜しく頼むわ。なんかその雑なの嫌だけど……」
(絶~対に元の世界には帰らないつもりだけど、ここは話を合わせておくべきだろうな)
これ以上セーラを待たせ続ける訳にもいかないので、俺達はこの辺で切り上げてマクダクル子爵邸へと向かった。
二人を引き連れて屋敷に到着すると、グレイブル達三人は戻った俺達を大歓迎で迎え入れてくれた。
余りの歓迎ぶりに若干セーラが引いていたが、茶請けに出されたケーキを食べて大感激。
ここで働いてくれるなら俺がそのレシピも教えると言うと、セーラはここで働く事を二つ返事で快諾してくれたのだった。
シルビア?
ああ、なんか拾ってきた猫と同じ扱いだったぞ?
「ビャッ子ちゃん、エサはちゃんと自分であげてください。最後までしっかりと愛情を持って飼うのが飼い主の務めです」
「そうよ~、お粗相したらビャッ子ちゃんが片付けるのよ? 分かった?」
「霊体の従魔とは珍しいね~。ビャッ子の魔力はほぼ無限に近いから相性もいい。いい拾い物をしたね」
セーラとの余りの待遇の差に、さすがのシルビアも目に涙を浮かべて俯いていた。
「まぁまぁ、俺がちゃんと面倒見ますから。あ、シルビアは元々メイド見習いだったみたいですし、ちゃんと家の事もやらせるんで宜しくお願いしますね」
ここで雰囲気に耐え切れなくなったシルビアの我慢が限界に達した。
「……うぅぅ~……うわぁ~ん! ビャッ子ちゃ~んうわぁ~~~ん」
シルビアが棒立ちのままガチで泣き出したので、ヨシヨシと頭を撫でて落ち着かせてやる。
「みんな……流石にちょっと冗談が酷過ぎですよ? シルビアも本気にして泣かないでいいからな」
「……ぅう? グスッ……冗談……なんですか……?」
グレイブル、セリカ、カレンの三人はちょっとバツが悪い感じでお互いを見合う。
そしてそれぞれにシルビアへと謝罪するのであった。
「ごめんね、シルビアちゃん。私はセリカ、ビャッ子ちゃんの姉になるのよ? シルビアちゃんはビャッ子ちゃんの従魔になったのよね? じゃあ私達の新しい家族になるのよ? だからこういったふざけた会話にも慣れて貰おうかな~って思って~。ビャッ子ちゃんは全然平気だったからついね……」
「カレンと申します。大変申し訳御座いませんでした。ビャッ子ちゃんの2番目の姉になります。私も悪ふざけが過ぎたと反省しています。これから宜しくお願いしますねシルビアちゃん」
「当主のグレイブル・マクダクルだ。ビャッ子の兄になる。私や婚約者達の冗談で傷つけてしまって済まなかったね。ただ、霊体が妹のビャッ子と相性がいいのは事実だし、末永く仲良くしてやってほしい。それと私達にとってはシルビアも妹のようなものだ。宜しく頼むよ」
「……私、妹……ですか? 私、死んじゃって……家族の所にも、働いてたお屋敷にも戻れなくて……ずっと一人で……だから働こうかなって……でも霊だし……怖がられて……」
シルビアがまたグスグスと泣き出し、最後の方は何を言っているのか聞き取る事も出来ないくらいに泣いていた。
俺達はシルビアが泣き止むまで待って、落ち着いた所で俺は違う話を振ってやる事にする。
「じゃあ、お前が一番下っ端って事でお茶入れと掃除はお前の担当な!」
「ちょっと! ビャッ子ちゃん!? 私まだ見習いですよ? 家の事をちょっと位は教えてくださいよ!」
さっきまで泣いていたシルビアだったが、俺から降られた理不尽な話で元気を取り戻したのか、ゴシゴシと涙を拭いて反撃の姿勢をとり、二人でギャーギャーと仕事の分配で言い合いを始めたのだった。
「そうそう、セーラさんは通いがいいのかな? それとも住み込みかい?」
グレイブルがセーラにそう問いかけると、セーラは恥ずかしそうにモジモジと応える。
「あの、住み込みでお願いします……実は前のお屋敷を追い出されて、今は宿屋住まいなんです。出来ればすぐにでもこちらにお邪魔出来れば助かるのですが……」
「ああ、問題無いよ? 部屋なら空きがあるからね。カレン? あの部屋は確かすぐに使えただろう?」
急に話を振られたカレンだったが、ちゃんと話を聞いていたようで「問題ありません」と答えた。
「じゃあすぐに荷物を取ってくるといい。ビャッ子、シルビア」
まだギャーギャーやっていた二人だったが、グレイブルに呼ばれたのに気が付きそちらへと振り向いた。
「なんだ?」
「なんでしょう?」
「いや、二階の空き部屋を片付けて欲しいんだが……」
グレイブルの話を聞いた二人はキッと睨み合いを始める。
「良かったなシルビア、早速仕事だぞ? お前のメイドとしての有能さを示すチャンスだ!」
「いえいえ、ここはビャッ子ちゃんが手本を見せる事で先輩としての威厳を示すところではないですか?」
「は? 何言ってんのお前。威厳も何も雑用は新入りの仕事だぞ?」
「お言葉ですがそのような決まりごとは聞いた事がありませんね?」
再度言い合いを始めた二人。
そして家のご意見番のカレンがとうとうキレる事になった。
「黙りなさい二人共!!」
その声に二人はビクリと肩を震わせて停止する。
「ビャッ子ちゃん? お恥ずかしい染みパンツはまだ私が所持していますが、シルビアさんに詳細をお話してもよろしいでしょうか?」
「大変申し訳ございませんでした!」
「片付ける部屋は分かりますね?」
「イエス・マァム!」
「そういう返事は要りません。返事はハイでしたよね?」
「ハイ! ワカリマシタ!」
「宜しい。ではシルビアも一緒に手伝ってあげてくださいね? 最初の仕事ですから無理の無いようにしてください」
「はいぃ! 分かりましたっ!!」
完全に戦意を失っていた二人は、カレンから逃げ出すように慌てて二階へと駆け上がって行った。
「いや、ビャッ子としてはシルビアが来てよかったんじゃないかな? 一気に家族が増えて僕も嬉しいよ」
「そうね~。何だかんだとビャッ子ちゃんの扱いは持て余してた所もあるし、歳の近い子が居ると正直助かるのよね~」
「しかも料理人の方もいらっしゃって一気に賑やかになりました。私達も頑張ってマクダクル子爵家を守り立てて行かないとなりませんね」
「そうだね。二人共、頼りない当主だけど宜しく頼むよ」
「頑張ってね旦那様?」
「旦那様、私も期待しております」
お互いがお互いの台詞で恥ずかしそうにしているが、なんだかんだと仲の良いグレイブル達三人なのであった。
さて、シルビアも来ましたし、二人には何をして貰いましょうかね~




