01-003「勘違いのトキメキを味わいました」
押し寄せる羞恥心の波が落ち着いた頃、毛布の中の俺はステファニーの記憶……いや、学習履歴と言うべきメモリー空間から、この身体の機能について復習することにした。
決して、昨日保存したエロ動画を見ている訳ではないのである。
まず、幾つか分かった事がある。
1つ目に「モードチェンジ」についてだ。
現在、モードチェンジのタイプ登録数は4となっている。
先程まで3だったのだが、1つ追加する事が出来たのだ。
どうやら実際に着た服を追加する事が出来るらしく、この世界に市販服の試着が可能な店舗があれば購入の必要はない。
ちなみに最大スロット数は26と少な目。
タイプ指定をアルファベットにしている事が原因だが、着ない服を大量に記録してもメモリーの無駄遣いなので十分な数だと思う。
借りてるパジャマを着ているうちに削除と再登録も試してみたが、非常に簡単だった。
ありがたい。
2つ目に「スキャン機能」。
この機能、どうやらステファニーの機能ではなさそうなのだ。
と言うのも、仕様や使い方なんかは確かにメモリーに記録されているのだが、情報が格納されているメモリー空間が違うのでそう判断した。
走査対象は電波や音波等の元の世界でも常識的な物から、マナ分布なんかの異世界的な物まで様々だ。
組成解析や個体識別なんかでは、元の世界の義体が持つ情報とステファニーの持つ情報の両方とリンクしているようで、かなり便利な機能だと思う。
ま、ゲームの鑑定機能みたいなもんだな。
他にも色々とあるんだけど、そこはまた追々調べるとして……最後に重要な事がある。
これは機能では無く仕様なんだが、俺には食事からエネルギーを得る必要が無い。
ご飯の事を考える必要がないのは楽なのだが、機能的には食べる事も味わう事も出来るので、どうせだったら異世界の食べ物を味わいたいと思うのは普通だろ?
だがな?
どうやら食べると「出る」仕様みたいなんだよな……。
ガバッと毛布を捲り上げながら、ベッドの上で上体を起こした。
(なぜだ……なぜトイレに行きたくなった?)
因みにスモール側だ。
本当だぞ?
渋々ベッドを降りて足元に用意されていたスリッパを履き、廊下に出る。
ここでトイレの場所がわからずに、タイムアウトで"ぷしゃぁぁぁ"するイベントでも良いんだが、ステファニーのメモリーに館のマップがあるので真っ直ぐトイレに向かう事が出来るのである。
(残念だったな! 俺は漏らさんぞ)
まず一番近い二階のトイレに向かったが、どうやら先に使っている人がいる。
個体識別情報だとカレンのようだが、個室内周辺温度や組成解析を見た限りでは長時間のお隠り中みたいだ。
なので待たずに別のトイレに行く事にしよう。
この館にはあと2つのトイレがある!
(しかしカレンさんは便秘気味か? 手に書籍っぽいものを持ってトイレなんて長丁場前提だもんな~)
階段を降りて1階へと辿り着くと、真っ直ぐにこの階のトイレを目指す。
が、残念ながらここでもまた先客がいた。
詳細は省くが、鍵の掛かった個室の中からフガガガとイビキが聞こえている状態だ。
室内からは床を伝って酒らしき物が流れ出ている。
(中でセリカさんが突っ伏して寝てるな……酒瓶は倒れてるしゲロ臭いし……飲みすぎて潰れたとしか思えない……)
ガンガンとノックしたが、イビキの音が定期的に静かになるだけで全然起きる気配は無かった。
ここで問題発生。
俺の貯水タンクから閾値越えのアラートが上がっているのだ。
(く……やっぱり昨日風呂上りに飲んだオレンジっぽいフルーツのジュースか? 確かに美味かった。でも調子に乗って2本飲んだのが失敗だったか……)
何にせよこのままではマズいので、必死で脳内マップから候補地を探す。
(先ずは裏庭の外部設置トイレ、そこでダメならここだ……ここしかない……)
俺は裏庭に出る扉へ向かうと鍵を開けて外にでる。
薄っすらと明け始めた朝の空気が気持ちいい……とか思ってる場合じゃないぞ。
少々内股気味の足取りを気力で動かし、真っ直ぐ向かった先のトイレ。
その入り口には「修理中 使用禁止」の貼紙がされており、扉は釘でしっかりと打ち付けられていた。
「うっそ……そんな情報しらないぞ……」
(クソ、いや糞じゃなくて小だけど、もうあの場所でするしかない)
俺は覚悟を決めた。
キョロキョロと辺りを見回し、生体反応が無い事を確認する。
そして頭を少し下げ気味にして、コッソリと物音を立てないように端にある植え込みの奥へと移動。
だがまだだ。
ここでも再度周辺を確認。
(だ、誰もいない……大丈夫だ。よし!)
俺はパジャマのズボンとパンツを重ねたまま、スルリと膝に下ろしてその場にしゃがみ込んだ。
「あぁ~~~……」
我慢に我慢を続けた後に出すと、自然と声が出るのはなぜだろうか。
胸がドキドキしているのを感じた俺は、「初めてのトキメキ」ってのは「女の子の初野ション」の事だなと勝手に思った。
じょぼじょぼとタンク内のオレンジ溶液を放出し終え、「さて」とパンツを履くために立ち上がろうと思ったその時だった。
重要なある事に気が付いたのである。
(ホース放水じゃないからピッピッってのが出来ん……雫が振り落とせないんだけど女の子ってどうするの!? 拭くもの? は……ないな……仕方ない……こうしてっと、ええい儘よ!)
軽く腰をフリフリして立ち上がり、勢いよくズボンとパンツを引き上げた。
女の子の部分に残った少なくもない残溶液が、パンツに染み込んでいくのが分かる。
肌に触れる部分がちょっと冷たいのが心に染みた。
帰りも無事、誰にも見つからないようにコッソリと部屋に戻る事に成功。
誰かが来ても大丈夫なように、急いでパジャマと汚れた下着を脱ぎ、部屋の備え付けの紙でキレイキレイしてから、モードチェンジでタイプAのメイド服に着替えておいた。
パジャマは綺麗に畳んだものの、染みパンをどうしようか……と悩んでいるところで、カレンがこの部屋に向かっている事をセンサーで察知した。
コンコン、ガチャ。
「おはようございます。ビャッ子ちゃん」
ノックから扉を開けて挨拶する所までの所要時間は約2秒。
前もって扉を叩く意味があったのかを問いたい。
「お、おはようございます。カレンさん」
と何とか返事をしながらも、恥ずかしい状態の下着を後ろ手に隠す。
「そちらの汚れたパンツは回収するのでお渡しください」
(なんで知ってる!)
「バレたというお顔をしていますね? 何故かはあまり意味がないので問答はやめましょう。兎に角、そちらは調査が必要ですので保管させて頂きます」
「調査!? 調査ってパンツから何を調べるんですか!?」
「分泌物ですが? あ、ついでに尿も調べましょう。丁度大目に付着しているようですので」
「クソ、見てたな!」
「いえいえ、クソもションも見ていません。理由は二階のお手洗いにビャッ子ちゃんが来たのが分かったからです」
「大体朝方のあの時間は、一階のトイレはセリカさんの嘔吐用ですし、外のトイレは故障中です。ですので女の子初心者のビャッ子ちゃんなら、何の用意もしないで外に出て壊れたトイレに愕然とし、我慢できなくなって野ションした挙句にパンツを汚して戻ってくるだろうと予測したのです」
「尚、クソッ! の場合も回収しますのでご報告をお願いします」
名探偵の推理にトリックを暴かれた犯人宜しく、俺は膝から床に崩れ落ちた。
「はい……大正解です……ごめんなさい」
後ろ手に持っていた汚パンツをカレンへと差し出す。
カレンはスッとそれを受け取り袋へと回収した。
「そういえば、女の子な体液はパジャマを着せる時に回収済みですので大丈夫です」
それを聞き、先程まで忘れていた昨晩の自身の痴態を思い出してしまった。
余りの恥ずかしさに床へと突っ伏した俺は、暫く顔を上げる事が出来なかったのであった。
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