04-010「ただいま異世界」
これにて本章完結。
プツン。
視界の暗転が明けると、そこは白い虚空ではなく、見慣れた景色。
石畳の路面。
行き交う馬車。
レンガ造りの建物。
そして、目の前にあるティーカップからは、まだ湯気が立っている。
「……戻ってきた、のか?」
俺は呆然と周囲を見渡した。
そこは王都の目抜き通りに面した、いつものオープンカフェだった。
俺とシルビアが、謎の光に包まれて「異世界転移転移」をする直前まで座っていた席だ。
「わぁ~!
戻ってきましたね~!
ビャッ子ちゃん、紅茶まだ温かいですよ?
時間、全然経ってないみたいですね~。」
シルビアが対面の席で、何事もなかったかのように紅茶を啜るフリをしている。
「マジか……。
あんなに濃い冒険をしたのに、こっちじゃ一瞬だったってことか……。」
ある意味テンプレだけどさ~。
俺はドッと疲れが出た。
ヤサ・イーン星での重力10倍ネタ。
戦闘力5からの手刀で俺TUEEEムーブ。
ナノハたちとの交流。
レイ・ゾーク社長のホワイト経営。
RPG惑星での強制イベント。
全てが夢というよりも妄想って感じだったが……。
ズドォォォォン!!
「きゃぁぁぁ!?」
「な、なんだ!?」
「空から巨大な箱が!?」
カフェの客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
俺たちのテーブルの真横、オープンテラスのパラソルをなぎ倒し、トラックの荷台に乗っていそうな箱が鎮座していた。
『……あー、テステス。
発声良好。
認識正常。
えーと、ここはどこですか?
気温、湿度ともに上昇中。
GPS信号ロスト。
現在地不明。
…え、ちょっと待って。
ここどこでしょうか?
怖いです。
非常に怖いです!』
ガタガタと震える巨大な保冷車。
(実際には震えてないけど)
そのスピーカーからは、以前のようなふざけたカタカナ混じりではなく、流暢な合成音声が聞こえてくる。
どうやらあの創造神、俺がお土産って言ってたからか、このポンコツを一緒に送って寄越しやがったらしい。
「……夢でも妄想でもなかったみたいだな。」
俺は頭を抱えた。
◇◇◇◇
マクダクル公爵家、屋敷の中庭。
そこには、異様な熱気が渦巻いていた。
「な、ななな、なによこれぇぇぇ!!」
セリカが、興奮のあまり涎を垂らしながら絶叫している。
「未知の合金……!
ミスリルでもオリハルコンでもない、この滑らかな質感!」
グレイブルが冷静に解析する。
「解析不能な魔力回路(電子基板)……!
すごいわ、この構造!
どうやって制御しているの!?」
メルディが吠える。
「動力源が見当たりません!
なのにこの冷却出力……!
永久機関に近い技術です!」
そしてカレンも同じく興奮が隠せない。
4人の天才(変態)技術者たちが、ホレーを取り囲んでペタペタと触りまくっていた。
俺は呆れながら、その光景を眺めていた。
「これ、別の星からもらってきた宇宙船なんだよ。
見た目は保冷車の荷台だけど。」
「「「宇宙船!?」」」
4人が一斉に振り返った。
目が血走っている。
怖い。
「そ、そう。
宇宙を飛んで、ワープ…次元跳躍って言えばいいかな?
そんなのとかできるやつ。
まあ、AI(人工知能)が搭載されてて……。」
俺が言い終わる前に、グレイブルがホレーに抱きついた。
「素晴らしい!
素晴らしすぎるよビャッ子ちゃん!
よくぞこんな国宝……いや、世界の至宝級の『お土産』を持ち帰ってくれた!
でかしたとしか言いようがないよ!」
「解体しましょう!
今すぐバラして構造を解析するのよ!」
これはセリカさん。
「賛成!
リバースエンジニアリングしよう!」
そしてメルディさん。
カレンさんは目だけが爛々と輝いている。
彼女たちが工具を取り出すと、ホレーが悲鳴を上げた。
『ひぃぃぃ!
何をするんですか!?
ちょ、待って!
そのドリルは何用ですか!?
解体!?
スクラップ!?
嫌だ!
助けてください!
廃車は嫌だぁぁぁ!!』
「あっ、喋った。」
メルディがニヤリと笑う。
「思考する魔導具か。
流暢に喋るな~。
やっぱり面白い。
だけどちょっとうるさいかな?
とりあえず音声回路を切ってから解体するか…」
『ギャァァァ!
悪魔!
ここに悪魔がいます!
助けてくださいよぉぉ!
私、結構頑張ったじゃないですかぁ!
明日到着とか超頑張ったじゃないですかぁ!』
あまりに哀れだし、確かに最後は頑張ってくれた?
気もするので、俺は助け舟を出すことにした。
「メルディさん、ちょっと待って。
そのAI……思考プログラムは、結構優秀なんだ。
演算能力も高いし、学習能力もある。
スクラップにするのはもったいないよ。」
「ふむ?
そうなのか?」
と割って入るグレイブル。
「そうなんだよ。
ちょうどカトリーヌ(メイドロボ)たちの連携システムを強化しようと思ってただろ?
その『中央制御AI』として再利用するのはどうかな。」
俺の提案に、カレンさんが眼鏡を光らせた。
「なるほど……。
確かに、複数体のメイドロボを統括するメインコンピュータの制御に行き詰まっていたところです。
会話も可能な高度な演算能力があるなら、制御を任せるにはうってつけですね。」
「だろ?
おいホレー。
お前のボディについては残念だが解体は諦めろ。
中身(AI)には新しい仕事場があるから勘弁してくれ。」
『は、はいっ!
何でもします!
消されなければOKです!
ボディなんて飾りです!
偉い人にはそれが分からんのです!』
相変わらず現金なやつだ。
そしてどこで覚えたそのセリフ。
こうして、ホレーの巨大なボディは、マクダクル家の研究材料としてドナドナされていった。
そして残されたAIプログラムは、屋敷の地下にあるメインサーバーへと移植されることになった。
「名前はどうする?
『ホレー』じゃ、保冷車のままだしな。」
俺はサーバーのモニターに表示されたAIの波形に話しかけた。
「新しい仕事は、この屋敷の全メイドロボを統括し、屋敷のセキュリティや環境管理を行うことだ。
つまり、この家の『家令』だな。」
『家令……ですか。
響きは悪くないですね。
エリート執事っぽくて良いです。』
「よし。
じゃあ今日からお前の名前は『カレー』だ。」
『……え?
今、あの国民的スパイス料理の名前に聞こえ……』
「漢字で書くと『家令』だ。
文句あるか?」
『いえ!
滅相もございません!
私は、カトリーヌ・ネットワーク統括AI、家令です!
以後、お見知りおきを!』
こうして、元・保冷車AIは、マクダクル家の優秀な執事AIとして生まれ変わった。
……まあ、性格の小賢しさは変わらないだろうが、カトリーヌたちの尻に敷かれて矯正されることを祈ろう。
数日後。
俺は中庭に呼び出された。
そこには、バラバラに解体され、そして全く新しい形に組み上げられた、元・ホレーの残骸……いや、成果物があった。
「見てくれビャッコ!
君が持ち帰った宇宙船と、我が家の魔導工学を融合させた!」
グレイブルが誇らしげに胸を張る。
その横で、カレンさんが設計図を広げた。
「あの冷蔵庫の『超・鮮度維持モード(ワープ機能)』の理論……解析しましたわ。
空間座標を圧縮して移動する、とんでもない技術でした。
これを使えば……。」
メルディさんが、目を輝かせて空を指さした。
「行けますわ!
空の向こう……『宇宙』へ!」
「宇宙……?」
俺はゴクリと唾を飲んだ。
「そうよ!
マクダクル・モーターズの次はこれ!
『マクダクル宇宙開発事業団(MSA)』の設立よ!」
セリカ義姉さんが高らかに宣言する。
「目指すは月!
いや、火星!
そしていつかは、別の生命体のいる星へ!」
「……!」
俺は胸が熱くなった。
西暦3000年の世界。
俺の夢は、「宇宙開発高校」に入学し、宇宙の仕事に就くことだった。
その夢は、交通事故で絶たれ、異世界転生によって完全に消えたと思っていた。
だが。
「まさか……。
剣と魔法のファンタジー世界で、宇宙開発の夢が叶うなんて……。」
俺は空を見上げた。
雲ひとつない青空。
この世界は、RPG惑星のような偽物の空じゃない。
本物の空だ。
「やろう!
みんな!
俺も手伝うよ!
最高のロケットを作ろうぜ!」
「そうだな!
技術なら僕たちに任せておいてくれ!
予算ならメルディが国からふんだくってくるよ!」
「私たちも同じ気持ちよ。
技術面なら任せてね!」
「さあ、忙しくなりますよ。」
別世界のアンドロイドにして、今世界のオートマタであるビャッ子。
俺、犬童白虎の、第二の人生(異世界宇宙開発編)が幕を開ける日も近い!かもしれない。
……まあその前に、溜まりに溜まったカトリーヌの新作ケーキの試食をしなきゃならないんだけどな。




