04-005 「綺麗な花火と、集める系ボール」
正月だしね。
めぞん・ド・ゾーク館の廊下で繰り広げられる、ギニュノセたちによる無限宴会。
その喧騒を切り裂くように、冷ややかな、しかし極めて丁寧な声が響いた。
「……おや。
随分と楽しそうですね。」
空気が凍りついた。
玄関に立っていたのは、この星の管理者(社長)、レイ・ゾークだった。
その背後には、不気味な紫色のオーラが立ち昇っているように見える。
「レ、レイ・ゾーク様!?」
踊っていたギニュノセが硬直する。
ネグリジェ姿のジスミが枝豆を喉に詰まらせる。
レイ・ゾークはニコニコと微笑みながら、指先を天井に向けた。
「貴方達、今は『終業時間内』だとお分かりですか?
なるほど?
どうやら、私の手によって夜空に咲く『綺麗な方の花火』が見たいようですね?」
デス・ハラスメントだ。
笑顔で爆殺予告だ。
「す! すぐに片付けさせますんで!
すんません社長! 自分がいながら監督不行き届きで!」
ナノハが顔面蒼白で土下座する。
すると、ここぞとばかりに調子に乗った男が一人。
イーン君(元王子)だ。
「そうだ! 貴様等のせいだぞ!
レイ・ゾーク様の手を煩わせるまでもなく、この俺が貴様等を『汚い方の花火』にしてやろうか!」
イーン君が掌をギニュノセたちに向けた、その瞬間。
「あ~ん?」
ドスの利いた低い声が、イーン君の鼓膜を震わせた。
管理人、ブランチ・ヒビゴーだ。
竹箒をへし折りそうな握力で握りしめ、般若のような形相でイーン君を睨み上げている。
「……ひっ。」
「ウチの住人に手ェ出してんじゃねぇよ。
掃除の手間が増えるだろうが。
あ?」
「あ、う……ご、ごめんなさ……。」
イーン君はブルブルと震え、子犬のように小さくなって「ヒック、ヒック」と泣き出した。
(強い……。
戦闘力53万の社長より、この管理人のほうがヒエラルキーが上だ……。)
俺たちが戦慄していると、レイ・ゾークは「まあ、ブランチさんが仰るなら」と矛を収めた。
どうやらこのアパートは治外法権らしい。
騒動が一段落した後。
俺はふと気になっていたことを、ナノハたちに聞いてみることにした。
「なぁ、この星ってさ。
やっぱりあるのか?
『ボールを集めて願い事を叶える』的なシステム。」
俺の問いに、その場にいた全員(イーン君除く)が顔を見合わせた。
「ああ、アレのことか!」
「なんだ、知ってるのかい新入り。」
ナノハとギニュノセが頷く。
「やっぱりあるのか!
この世界観だもんな、期待してたんだよ!」
俺は身を乗り出した。
どんな願いでも叶う魔法の球。
元の世界に帰る手がかりになるかもしれないし、シルビアを生身に戻せるかもしれない。
「で、何個集めればいいんだ?
やっぱ7個か?」
「いや、108個だ。」
ナノハが即答した。
「……は?
108個?
多くね?
7個じゃなくて?」
「108個だ。
この星の各地に散らばる『ボン・ノウの玉』を集めるんだ。」
「ボン・ノウ……?
まあいいや。
で、苦労してその108個を集めたら、どんな願いが叶うんだ?
『ギャルのパンティーおくれ』とかでも叶うのか?」
俺がワクワクしながら聞くと、ブランチさんがお茶を啜りながら答えた。
「108個集めたらねぇ……。」
「集めたら!?」
「心が洗われて、煩悩が消えるんだよ。」
「それ違うやつじゃーん!!」
俺は盛大にズッコケた。
「除夜の鐘かよ!
仏教かよ!
なんでSFチックな異世界で、そんな渋い修行しなきゃなんねーんだよ!」
「いやぁ、集め終わった後の清々しさは格別だぜ?
俺も昔集めたが、悟りが開けた気がしたな。」
ナノハが良い笑顔で語る。
だからお前、そんな見た目で保育士やってんのか。
悟りを開いた結果がそれか。
「解散だ解散!
夢も希望もねぇ!」
俺はふてくされて寝転がった。
シルビアが「ビャッ子ちゃん、煩悩まみれですね~」とクスクス笑っている。
どうやらこの星での冒険は、ドラゴン(神龍)を探す旅にはならなそうだった。
ネタまみれでオチつけてみましたよ。




