03-006 「国営オートレースと超重税」
もう何でもありですぞ。
トッシー・マーエンでのゴーカート成功から数ヶ月。
マクダクル・モーターズの快進撃は止まらなかった。
俺とグレイブルは、次なる一手として王宮へ上がり、国王陛下にある提案を持ちかけた。
「陛下、国民の娯楽と、国庫の潤沢な収入源を同時に満たす妙案がございます。」
「ほう? 申してみよ、マクダクル。」
「『国営オートレース』の開催でございます。」
俺たちが提案したのは、公営ギャンブルとしての自動車レースだ。
速さを競う興奮、賭け事の熱狂。
平和なこの国において、それは爆発的なエンターテインメントになると確信していた。
陛下は二つ返事で承認してくれた。
場所は王都郊外に建設された巨大コロシアム型サーキット、『ロイヤル・スピード・ドーム』だ。
しかし、ここで一つ問題が発生した。
「おい、参加車両のエントリーリストを見たか?」
「ああ……全部『アレ』だな。」
そう。
他社の車が、マクダクル製の『スカイレーン GTL』に性能で全く追いつけなかったのだ。
予選を行うまでもなく、勝負にならない。
結果、どうなったか。
「第1回王国グランプリ、出走車両は全車『スカイレーン GTL』です!!」
そう、史上初の『ワンメイクレース(単一車種限定レース)』になってしまったのだ。
参加する各貴族や商会のチームは、こぞってマクダクル・モーターズから車を購入し、自チームのカラーリングを施して参戦した。
つまり――。
「売れる! 売れるぞ!!
車体本体だけじゃない!
交換用パーツ、専用タイヤ、整備費用!
参加チームが増えるたびに、我が家に金が雪崩れ込んでくる!!」
グレイブルが執務室で、札束の山(文字通りの山)に埋もれながら高笑いしていた。
レースは大盛況だった。
性能差がないワンメイクレースだからこそ、勝敗は純粋なドライバーの腕と、チームの戦略(魔力充填のタイミングなど)に委ねられる。
それが観客を熱狂させ、賭け金は天文学的な数字に膨れ上がった。
マクダクル家には、車両の売上とメンテナンス料、そして興行収益の一部が入ってくる。
まさに「ウハウハ」状態。
笑いが止まらないとはこのことだ。
……と、思っていた時期が俺たちにもありました。
決算期を迎えたある日。
屋敷に1人の男が訪ねてきた。
王宮の財務省から派遣された、ニコニコと笑う小太りの徴税官だ。
「やあやあ、マクダクル子爵。
自動車産業の大成功、誠におめでとうございます。
国営レースも大盛りあがりで、陛下も大変ご満悦ですよ。」
「ははは、恐縮です。
すべては国の発展のためですから。」
「ええ、ええ。
国の発展のため……素晴らしい心がけです。
つきましては、今年度の『税金』の計算が終わりましたので、こちらに。」
徴税官は、分厚い羊皮紙をドンとテーブルに置いた。
グレイブルが余裕の笑みでそれを受け取り、一番下の数字を見る。
「はいはい、納税は国民の義務ですからね。
いくらかな~?
……ん?」
グレイブルの動きが止まった。
眼鏡がズレる。
顔から血の気が引いていく。
「あ、あの……桁が……一つ、いや二つ多くないですか?」
「いえいえ、合っておりますよ。」
徴税官は満面の笑みで電卓(魔導計算機)を叩いた。
「まず通常の『法人税』。
それに加えて、今回は独占的な利益に対する『独占禁止法適用特別税』。
さらにギャンブル関連事業に対する『遊興産業特別徴収税』。
あ、それと短期間での急激な資産増加に対する『臨時富裕税』も加算されております。」
「は、はい……?」
「締めて、利益の『85%』となります。
期限は来週まで。
現金一括でお願いしますね♡」
ドサッ。
グレイブルが白目を剥いて椅子から崩れ落ちた。
「は、8割5分!?
馬鹿な!
あんなに働いて、あんなに車を作って、残るのはたったの1割5分!?」
「嫌なら国営レースから撤退なされますか?
まあ、車両のメンテナンス義務は残りますが。」
「ぐぬぬぬぬ……!!
王家めぇぇぇ!
最初からこれが狙いだったのかぁぁぁ!!」
結局。
マクダクル家は莫大な税金を納めることになった。
手元に残った金もそれなりの額ではあったが、ほとんどは次の研究開発費や設備投資に消えるため、グレイブルの懐は意外と温まらなかった。
俺は、魂の抜けた顔で書類にサインをする兄を見ながら、紅茶を啜った。
(ま、これが『国と商売する』ってことだよな。
胴元(国)が一番儲かるようにできてるんだよ、世の中は。)
「ビャッ子ちゃん……僕、もう働きたくない……」
「諦めてサインしなよ、兄さん。
来年は『節税対策』で、もっと無駄な研究に金を使いまくろうぜ。」
こうして、マクダクル・モーターズは「国一番の納税業者」として、名誉ある(?)称号を手に入れたのだった。




