番外編 「坑道最速(切削)理論 頭文字D(3)」
ばんがいへ~ん
結婚式の話?
ああ、それはもう終わったよ。
いつも通り、あっさりしすぎなほどにあっさりとな。
メルディ(新義姉さん)は初夜だと言うのに、グレイブルの寝室ではなく工房に布団を持ち込み、朝まで新型エンジンの耐久テストをしていたらしい。
翌朝、ゲッソリした顔のグレイブルと、ツヤツヤした顔のメルディが出てきた時、誰もが「ああ、そういう夫婦なんだな」と察したもんさ。
さて、そんな色気のない話は置いておこう。
俺たちは今、王都から遠く離れた山岳地帯、シシン・ニッテーツ辺境伯領に来ている。
ここは良質な鉄鉱石が採れる鉱山で有名なのだが、最近は深い岩盤層に阻まれて採掘が難航しているらしい。
そこで辺境伯から直々に「マクダクル家の技術で、最強の採掘用オートマタを作って欲しい」と依頼が来たのだ。
グレイブルとメルディは新婚旅行も兼ねて(という名目で)同行し、俺も納品と調整のために付いてきた。
「おーほっほっほ!
ご機嫌よう、皆様!
本日は絶好の採掘日和ですわね!」
鉱山の入り口に、高笑いが響き渡る。
彼女こそ、今回納品する新型ニンフ、その名も『ドルチェ・ド・デモンズ』。
通称『D・D・D』だ。
見た目は、フリルのたっぷり付いたゴシック調のドレスを纏った、金髪の絶世の美女。
だが、そのヘアスタイルだけが異様だった。
左右のこめかみから伸びる、極太の縦ロール。
その直径は優に20センチを超え、地面スレスレまで届く長さがあり、鋼鉄のような冷たい輝きを放っている。
そう、あれは髪ではない。
超硬タングステン合金製の『対岩盤用ツイン・ドリル』だ。
「おお……!
なんと美しい……!
これがマクダクル家の新型か!」
依頼主のシシン・ニッテーツ辺境伯(筋肉隆々の髭ダルマ)が、ドルチェを見て頬を染めている。
辺境伯、アンタも中々の変態だな。
「ビャッ子ちゃん、説明を頼むよ。」
「了解です、兄さん。」
俺は一歩前に出た。
「辺境伯様、ご紹介いたします。
こちらが重掘削用オートマタ、D・D・Dです。
彼女のツインテール……いえ、ツイン・ドリルは、独自の『多重反転螺旋構造』を採用しており、振動と回転を組み合わせることであらゆる岩盤をバターのように切り裂きます。」
「素晴らしい!
では早速、その実力を見せてもらおうか!」
「ドルチェ、行けるか?」
「愚問ですわ、お父様(ビャッ子)。
わたくしの螺旋に貫けぬものなどありませんわ!」
ドルチェは優雅にスカートの裾を持ち上げ(中にはスパッツを履いている)、坑道の最深部にある硬質岩盤の前へと立った。
ここからが伝説の始まりだ。
俺の脳内には、なぜか激しいユーロビートが流れ始めた。
(デ・ジャ・ヴ! あーい・じゃすと・びーん・いん・でぃす・ぷれいす・びふぉー!)
「行きますわよ!
唸れ、わたくしの巻き髪!」
キュイィィィィィィィン!!
凄まじい高周波音が坑道に響く。
ドルチェの左右の縦ロールが、目にも止まらぬ速さで回転を始めた。
その回転数は毎分3万回転!
もはや髪には見えない。
二つの竜巻だ。
「必殺!
スパイラル・ダブル・インパクトォォォ!!」
ズガガガガガガガガガガガ!!
ドルチェが頭から岩盤に突っ込んだ。
火花が散り、岩の破片が散弾銃のように飛び散る。
速い!
速すぎる!
普通の採掘機が「ガリ……ガリ……」と削る岩盤を、彼女はまるで豆腐の中を進むかのように突き進んでいく。
これぞ『公道』ならぬ『坑道』最速理論!
「な、なんだあの掘削速度は!
ドリフト……いや、ドリルが岩盤の継ぎ目を滑るように捉えている!
これが……『慣性ドリル』だと!?」
辺境伯が驚愕の声を上げる。
いや、慣性ドリルってなんだよ。
ただ力任せに掘ってるだけだぞ。
「ああん!
硬いですわ!
硬くて凄いですわぁ!
もっと!
もっと奥まで!
わたくしをねじ込ませてくださいましぃぃ!」
ドルチェが恍惚の声を上げながら、さらに回転数を上げる。
実は彼女、性格設定に『サディスティック』と『マゾヒスティック』の両方を入れてある。
硬いものを壊すのが好き(S)だが、硬いものに締め付けられるのも好き(M)という、採掘機としてはこれ以上ない適性を持った変態なのだ。
「すごい……。
岩盤からの反動を、首の回転だけで相殺している……。
なんて強靱なネック・コントロールなんだ!」
「いや、メルディさん?
あれ首じゃなくて、体ごと回ってるからね?」
ドリルが回転する反作用を消すため、ドルチェ自身も逆方向に高速回転していた。
見た目的には完全にきりもみ回転するドレスの塊だ。
優雅さの欠片もない。
ドゴォォォォォォォン!!
一際大きな音と共に、分厚い岩盤が粉砕された。
向こう側から光が差し込む。
貫通だ。
「おーほっほっほ!
他愛もありませんわ!
このドルチェ、これしきの岩盤では満足できませんことよ!」
土煙の中から現れたドルチェは、ドリル髪を元の優雅な縦ロールに戻し、煤けた顔で高らかに笑った。
その姿は、まさに戦場に咲く一輪の華(重機)。
「素晴らしい!!
採用だ!
彼女を我が鉱山の主任に任命する!
ビャッコ殿、いや師匠!
追加であと10体、同じ仕様のニンフを頼む!」
「あ、はい。
ありがとうございます。(マジかよ……この変態を量産するのか)」
こうして、シシン・ニッテーツ鉱山には、日夜「おーほっほ!」という高笑いと共に岩盤を掘り進む、ドリル髪の美女軍団が爆誕することになった。
ちなみに彼女たち、掘削が終わった後の整地作業も完璧だ。
なんせ、その縦ロールは逆回転させれば『ローラー』としても機能するからな。
坑道最速の伝説は、まだ始まったばかりである。




