03-002 「三番目の義姉《あね》はボクッ娘所長」
タイトルで丸わかり
マクダクル家での技術視察――という名の「一方的な技術ハラスメント」が終わった後のことだ。
すっかり意気投合した(一方的に懐かれた)メルディ所長は、そのまま屋敷に宿泊することになった。
夕食の席。
マクダクル家のダイニングには、今日も専属料理人が腕を振るった豪華な料理が並んでいた。
「ん~!
この肉料理、最高だね!
ソースの乳化具合が絶妙だ。
これも君たちの技術かい?」
「いえ、それは普通に料理人の腕ですわ。
お口に合って光栄です。」
俺は『ステファニーモード』で微笑みながら、ナイフとフォークを使って肉を切り分ける。
メルディ所長はガツガツと食べながらも、その視線はずっと俺に固定されていた。
まるで実験動物を観察するかのような、値踏みするような視線だ。
(……なんだ?
さっきからジロジロと。
俺の顔にオイルでも付いてるか?)
俺は内心で首を傾げつつも、完璧な所作で食事を続けた。
食事が終わり、サロンでお茶を楽しんでいる時だった。
メルディ所長が不意に立ち上がり、俺の元へと歩み寄ってきた。
そして、ドン! と俺が座っているソファの背もたれに手を突き、顔を近づけてきた。
いわゆる壁ドンである。
「……所長様?
如何なさいましたの?」
「君さぁ。
……人間じゃないよね?」
その場の空気が凍り付いた。
グレイブルが紅茶のカップを取り落としそうになり、セリカとカレンがピタリと動きを止める。
俺だけは表情を崩さず、小首を傾げてみせた。
「あら、嫌ですわ所長様。
私が人間でなくて何だと言うんですの?」
「誤魔化しても無駄だよ。
ボクの目は誤魔化せない。」
メルディ所長はメガネの奥の瞳を鋭く光らせた。
「さっきの食事中、君が銀の大皿を取り分けた時の動作だ。
あの大皿は純銀製で、料理を含めれば5キロは下らない。
普通のか弱い貴族令嬢なら、持ち上げる時に無意識に『身体強化魔法』を使うはずだ。」
「……ええ、嗜みとして使いましたわよ?」
「いいや、使っていない。
君からはマナの流出が一切観測されなかった。
それなのに、君の腕は微動だにせず、完璧な水平を保って皿を運んだ。
筋肉の収縮によるブレも、呼吸による上下動すらもなく、だ。」
メルディ所長は俺の手首をガシッと掴んだ。
「魔法による強化なしで、物理法則を無視したような精密動作。
そしてこの肌の質感……完璧すぎるが故の違和感。
結論は一つだ。」
彼女はニヤリと笑った。
「君は、マクダクル家の最高傑作……自律型オートマタ、つまり『ニンフ』だろ?」
(……参ったな。
このボクッ娘、観察眼が鋭すぎる。)
こうなれば仕方ない。
俺はフゥと溜め息をつき、ステファニーモードを解除した。
「……正解ですよ。
よく気が付きましたね、所長。」
「やっぱり!
すごい!
すごいよ君!
近くで見ても、触っても全然分からない!
中身はどうなってるの?
動力は?
関節の構造は!?
ねえ、ちょっと分解させてくれない!?」
「嫌ですよ!
させませんからね!?」
目をキラキラさせて俺の服に手を掛けようとするメルディ所長を、俺は必死に押し返した。
そこに慌ててグレイブルが割って入る。
「お、お待ちくださいメルディ所長!
ビャッ子ちゃんは我が家の家宝であり、私の大切な家族なんです!
分解なんて許しませんよ!」
「むぅ……ケチだなぁグレイブル君は。
……でも、欲しい。
この技術はボクの研究所に持ち帰って、徹底的に解析したい……。」
メルディ所長は爪を噛みながらブツブツと呟き始めた。
窃盗は犯罪だ。
買収は……グレイブルの様子を見るに、いくら積んでも首を縦には振らないだろう。
ならばどうするか。
彼女はポンと手を叩いた。
「そうだ。
なら、ボクがこの家の子になればいいんだ。
家族になれば、毎日いじり放題だよね?」
「は?
……養子にでもなるつもりですか?」
「違うよ。
よし、グレイブル君。
ボクと結婚しよう。」
その場にいる全員が「はい?」と声を上げた。
「け、結婚!?
私とですか!?」
「そうだよ。
君は貴族、ボクも貴族。
君は子爵、ボクも子爵。
家格の釣り合いも取れてるし、何よりボクがマクダクル家に入れば、王立研究所のバックアップも受け放題だ。
悪い話じゃないだろ?」
確かに、政治的に見ればこれ以上ない良縁だ。
王国の魔導技術のトップが嫁に来るとなれば、マクダクル家の地位は盤石なものとなる。
だが、グレイブルは酷く困惑した顔をしていた。
「い、いや、それは確かに光栄なお話ですが……その……。」
「なんだい?
不服なのかい?」
「不服というか……政治的には大いに納得しているのですが、個人的な感情としましては……あ~、その……。」
グレイブルはチラリとメルディ所長を見た。
小柄で、幼児体型で、色気のかけらもないボクッ娘。
そして次に、豊かな胸を持つセリカと、知的な美貌のカレンを見た。
彼は紳士だ。
決して「ロリは守備範囲外だ」とか「おっぱいが足りない」とは口にしない。
だが、その困り眉が全てを物語っていた。
「……私の好みというか、やはり夫婦となるからには、その……包容力と言いますか、大人の女性の魅力と言いますか……。」
「あー、なるほど。
君、ボクみたいな子供体型じゃ勃たないってことかい?」
「ブッ!!
ちょ、所長!
なんてことを!」
「勘違いしないでくれたまえよ。
ボクとしては『有機物』の君に対して、君がボクに思うよりも遙かに興味がないよ。
ボクの興味は君の作ったニンフと、その技術だけだ。」
メルディ所長は淡々と言い放った。
そして、哀れな目つきでグレイブルを見上げた。
「そもそもさぁ。
ここまで精巧で、理想的なニンフを作れるということはだよ?
生身の女性に現を抜かさず、孤独に技術を研鑽してきた証拠だろう?
ん?
もしかして、抜かす現がなかったとか?」
「うぐっ……!」
グレイブルが胸を押さえてよろめいた。
図星だったらしい。
メルディ所長は、倒れかけたグレイブルの肩をポンポンと叩いた。
「よしよし。
それが技術と時代を加速させるエッセンスってことだからね。
いつの世も、日陰者が時代を作ってるもんさ。」
「うわぁぁぁぁぁん!!
セリカぁぁ!
カレンぇぇぇ!!」
あまりにもロジカルで、かつ慈悲深い暴言に心を抉られたグレイブルは、泣きながら二人の妻に抱きついた。
「よしよし、元気出して旦那っち!
私たちがいるじゃない!」
「そうですわよグレイブル様。
貴方様には私たちがおります。
有機物の良さを、今夜たっぷりと教えて差し上げますわ。」
セリカとカレンは、涙目のグレイブルを優しく撫でながら、メルディ所長に向き直った。
「でも、所長さんのおっしゃることも一理ありますわね。
私たちとしても、これほど話の分かる技術者様が家族になるのは大歓迎ですわ。」
「そうそう!
この家の男たちは技術バカばっかりだから、女同士で技術トークできる相手が欲しかったのよ~!
メルディちゃん、ウェルカムだよっ!」
「話が早くて助かるよ。
それじゃあ今日からボクもマクダクル家の一員だね。
よろしく頼むよ、お姉様方。」
メルディ所長は悪びれもせず、ニカッと笑った。
こうして、マクダクル家に「三人目の妻」が誕生した。
グレイブルの意思(と性癖)を完全に無視した、技術による、技術のための政略結婚である。
(……あーあ。
変人がまた一人増えちまったよ……。
兄さん、強く生きてくれ。)
俺はカトリーヌ4号に「あ~、兄さんに胃薬持ってきてやってくれ」と頼みながら、騒がしくなったリビングを遠い目で眺めるのだった。
姉ちゃん追加、どんぶり一丁です。
萌えもエロもないです。




