02-006 「カトリーヌ達の個性」
さて、カトリーヌのお話です。
免許合宿……ではなく、なんと実は一日で終わった自動車教習所から戻った翌日のことだ。
俺は自宅の――マクダクル子爵邸のリビングで頭を抱えていた。
「おい、カトリーヌ。
お茶を淹れてくれ」
俺がそう声を掛けると、部屋の隅に控えていたメイド服の美女がスッと動いた。
……いや、美女たちが動いた。
「畏まりました」×3
3人のカトリーヌが同時に動き出し、同時にティーポットに手を伸ばし、ガチャンとぶつかって停止した。
「……だから、情報の同期をしてるなら役割分担しろよ」
「申し訳ございません。
優先順位の処理において競合が発生しました」
無表情で答えるカトリーヌ達。
以前説明した通り、カトリーヌシリーズ(1号~13号)は地下の魔導演算装置で制御されている端末だ。
見た目は全員同じ。
ウィッキーさんのデータベースにある「黄金比率の平均顔」をベースに、セリカとカレンとシルビアのパーツを適当にブレンドして作った顔だから、確かに美人なんだが個性が死んでいる。
「ビャッ子、どうしたんだい?
朝から眉間に皺を寄せて」
新聞を読みながらコーヒーを飲んでいたグレイブルが声を掛けてきた。
「あ、グレイブルさん」
「ビャッ子ちゃん、私の事はちゃんと『兄さん』と呼んでほしいな」
グレイブルはニコニコ顔だ。
(えー、なんか今更ながら小っ恥ずかしいんだよなぁ……まぁ減るもんじゃないから呼んでやるか)
「あ~……うん……、兄……さん、
なんというかさ、こいつら見た目が同じすぎて、正直誰が誰だか分からないんだよ。
自分は体の機能的に個体識別番号で把握はできなくはないんだけどさ。
皆はパッと見じゃわからないだろ?
しかも8号みたいに個別に命令したやつはなんか個体として差が出てるけど、それでも普段の業務だと区別がつかないんじゃないかな」
「確かにそうだね。
僕も昨日、廊下でカトリーヌに声を掛けたら、5分後に別の場所で会った時に話が通じなくて困ったよ。
あれは別の機体だったんだね。
中央演算装置でのリンク機能があまり有効に働いていないようだね」
「だろ?
情報リンクの方はサーバーサイドプログラムを修正してほしいかな。
それよりも、今は個体識別ができるように何か目印をつけようと思うんだけど」
俺はポケットから、昨日ショッピングモールの手芸店で買っておいたリボンを取り出した。
色とりどりのリボンだ。
「これを首元につけて色分けしようと思う。
えーと、お前は何号だ?」
俺は一番近くにいたカトリーヌに尋ねた。
「4号です」
「じゃあお前は青な。
で、そっちは?」
「11号です」
「お前は黄色だ」
こうして俺は、屋敷にいる全てのカトリーヌ(非番で充電中のやつも叩き起こして)を集め、それぞれに違う色のリボンをつけていった。
並べてみると、まるでアイドルのカラーバリエーションみたいで壮観だ。
「よし、これで見た目の区別はつくようになったな。
……ん?」
俺は並んだカトリーヌ達を見て、ある違和感を覚えた。
見た目は同じ。
リボンで区別はつく。
だが、なんかこう……「雰囲気」が違うやつが混ざっていないか?
「おい、そこの赤リボン。
お前、なんでそんなに胸を強調する立ち方をしてるんだ?」
赤リボン(カトリーヌ2号)は、バサッと胸を張ってポーズを決めた。
「セリカ様より『イイ女は常に胸を張れ』との教育を受けました。
当機はセリカ様の専属・夜のお世話係としての学習データを蓄積しています」
「……夜のお世話?」
「はい。
詳細なプレイ内容を再生しますか?
昨晩は『子爵様攻め攻めプラン』で……」
「ストップ!
再生しなくていい!
兄さんのHPが0になるだろ!」
俺が慌てて止める横で、グレイブルが「ブッ!」とコーヒーを噴き出した。
「セ、セリカ……カトリーヌに何を教えてるんだ……」
気を取り直して、別のやつを見る。
緑リボン(6号)は、なぜか片手に怪しげな試験管を持っていた。
「お前はなんで危険物を持ってるんだ?」
「カレン様より実験体の確保を命じられています。
ビャッ子様の排泄物、および体液の採取チャンスを常に窺うようプログラムされました」
「カレンさん!?
俺のトイレ事情を狙うのは止めてくれませんかね!?
というか、俺、ニンフなんで普段は排泄しませんよ?」
そして極めつけは、端っこにいる白リボン(13号)だ。
こいつは直立不動なのだが、なぜか目が死んでいるというか、焦点が合っていない。
「お前はどうした?
故障か?」
「いえ。
シルビア様より『労働の喜びとはサボることにあり』との教えを受けました。
現在、思考リソースの90%を『今日の晩御飯の妄想』に割いています」
「仕事しろよ!
ていうかロボットが飯の妄想してどうすんだ!
俺もお前も基本食わないよね!?」
俺は頭を抱えた。
魔導波でリンクしているはずの中央制御AIが、それぞれの専属主人の影響を受けて、変な学習をしてしまっているようだ。
「……兄さん。
これ、放置してるとまずい気がするぞ。
性格データの統合をした方がいいんじゃないか?」
「いや、面白いからいいんじゃないかな?
個性があって可愛いよ」
「兄さん、心が広い……いや、いい加減なのか?
まあ、害がないならいいんだけどさ。
これちょっと実害あるよね?」
その時、リビングの扉がバン! と開いた。
「大変よビャッ子ちゃん!
旦那っち!」
飛び込んできたのはセリカだった。
「どうしたのセリカさん。
そんなに慌てて」
「ミトゥヒシさんから連絡があったの!
自動車製造の件で、王都から監査官が来るって!」
「監査官?」
「そう!
しかも、ただの役人じゃないわ。
『王立魔導研究所』の所長直々に視察に来るらしいのよ。
マクダクル家の技術力が、国の基準に適合しているかチェックするんですって!」
俺とグレイブルは顔を見合わせた。
「王立魔導研究所……。
なんか面倒くさそうな名前なのが来たなぁ」
「ビャッ子、これはチャンスだよ。
あそこの所長に認められれば、自動車事業は国のお墨付きをもらったも同然だ」
「なるほどな。
つまり、俺の技術を見せつければいいってことか?」
「お手柔らかに頼むよ?
監査官が驚いて心臓麻痺を起こさせない程度に……ね」
俺はニヤリと笑った。
カトリーヌ達の個性問題は一旦置いておこう。
今は、この世界最高峰の頭脳とやらに、俺たちマクダクル家の技術力を見せつけてやる時だ。
「カトリーヌ達!
お客様を迎える準備だ!
変な挙動をするなよ?
特に2号と6号と13号!」
「「「畏まりました」」」
一斉に頭を下げるメイド軍団。
リボンの色はバラバラだが、その動きだけは綺麗に揃っていた。
次話から新編かなぁ




