カルキノスの盾:1
オリベアの日記
オーウェンさんからこの前お願いしていたひいひいお爺様の手記が届いたわ。これでまた少しひいひいお爺様の事が分かるわ、でも若い頃の肖像画はないのかしら、うちにあるのはひいひいお祖母様と一緒に描かれている60歳の時の物しかないもの…
7月19日
3日ほど休んでからつぎの神殿へ向かう、目指すは『カルキノスの盾』がある国『ヒットリア』だ。馬を使って陸路で向かう。
「ニメヌスでの布教はどうだった?」
馬に乗ったことがないというポラリスを後ろに乗せて山を行く。
「まぁまぁですかね、まずはこういう宗教がありますよ~っていうのを知ってもらうのが第一なんで、」
「ずいぶんとザックリなんだな。」
するとポラリスが照れたような気配がした。
「実は私、父が大司教の位についておりまして、箱入り娘だったんです。今回の旅も世界が知りたくて家出同然に飛び出してきたんですよ。」
「大司教!?」
大司教といえばアネモス教では教皇に次ぐ位だ。
「え、てか布教は二の次だったのか?」
そう後ろを向きながら聞くとあわてて手を振った
「い、いえいえ!そんな事ないですよ!」
両手を放したので落ちかけたポラリスをあわてて支える。
「しかしポラリスにそんな事情があったとはなぁ」
呟くとどこかおっかなびっくりポラリスが聞いてくる。
「カウスさんが名字を明かしたくないのも過去になにか?」
「うーん、難しい質問だな…あるとも言えるしないとも言える。」
「ふーん…変なの、あ!カウスさん!綺麗な花が咲いてますよ!」
二人だけだが、賑やかな旅路だ。
7月26日
ヒットリアに着く、ヒットリアでは国に入るための関所を設けている国だ。国の情報自体があまり出て来ない国なので入るまでは何も分からない。
ヒットリアは遠くからでもすぐに場所がわかる。大きな壁が国をぐるりと覆っているのだ、ヒットリアはニメヌスに比べれば小さいがそれでもこの壁を作る時の工事はもの凄いものだったらしい、関所の列に並んで順を待つ。
「あー、おしり痛いです~。」
尻を押さえながら呻くポラリスに苦笑する、
「馬の旅は馴れるまでが大変だからな、鞍をつけても辛かっただろ?」
コクコクと頷くポラリス、すると関所を固める兵士に肩を掴まれた。
「お二人はお知り合いかな?」
警戒しながら頷くと名前と滞在の理由を聞かれる。
「俺はカウス、滞在理由はカルキノス神殿の見学だ、こっちはポラリス、滞在理由は…」
「アネモス教の布教です!」
ポラリスが胸を張りながら答える、すると兵士はいきなり高圧的な態度になり、槍を突き付けられた。
「我が国では異教徒の侵入を禁止している!さぁ列から外れるんだ!」
そのまま列から追い出されてしまう、なんとかまた並べないかと思ったが先程の兵士がじっとこちらを見つめているので無理そうだ。
地図を見ると、近くに小さな村があったのでそこに馬を引きながら向かう事にする。
「すみません、私のせいで…」
トボトボと歩きながらポラリスが呟いた。
「構わんさ、それに…」
一人旅よりは二人旅のほうが楽しいしな、と続けようとしてふと気付く、俺は何故こいつと一緒にいるんだ?ポラリスが入れなくても俺は入れた訳だからなぁ、こいつに一緒に旅をしてくれと頼まれたからか?いや、思い返せばあの時俺は…
「あ、村が見えて来ましたよ!」
ポラリスの声にハッと顔を上げると十何個か家が並ぶ小さな集落が見えてきていた。
村の人々は幸いポラリスの服装を見ても追い出さず、むしろ歓迎してくれた。
困ったような顔をした村長の家にとおされ、そこでヒットリアに関する話を聞くことにした。
「あの国の情報を知らないか?なんでもいいんだ。」
そう言うと村長は困ったような顔でポツリポツリとあの国の内情を教えてくれた。
「あの国は昔から王をたてていたのですな、しかし先王が亡くなり、若い王子が新王となったのですな、すると新王は次々と改革案を打ち出していったのですなあ」
ま、よくある話だ、ただし本題はそこからだった。
「新王のやり方は少し行きすぎでした、壁を作って国の人間を外に出さない、外からの人間も関所を通らなければ入れない、そして己の事を神の代弁者とし、独政をしいたのです。」
「なるほど、異教徒を入れないのはそういう理由か」
「ほぇ?」
首をかしげたポラリスに解説を入れる。
「自分を神の部下として崇めさせてるのに他の上位存在は邪魔でしかないだろ?」
「なるほど…」
「その後、新王は次々と圧政を打ち出していったのですな。」
困り顔の村長がそこまで言った時、ヒットリア兵士が5人程村長の家に上がり込んできた。驚いている俺とポラリスの2人を2人ずつで押さえつけ隊長らしき男が剣を突き付けてくる、
「貴様ら何者だ!」
その男の顔を見ながら淡々と考える、5人、倒せない数じゃないが暴れたらこの村に確実に迷惑がかかる、しかもポラリスが押さえられているので下手な事をされても困る。
(逆らわない方が得策か、)
「旅の者だ、別に怪しいもんじゃねーぞ」
すると兵士達は俺の手をめくり上げた
「ちょっと!何するんですか!」
ポラリスが叫んでいる、何かを確認した兵士は無言で俺達を開放した後、何も言わずに黙々と部屋を荒らしはじめた。
「何やってんだアンタら!」
驚いて声を上げると兵士にギロりと睨まれた、睨みかえすと村長が間にはいってきた。
「うちの村はヒットリアから1番近い村なので、脱国した者がいないかお調べになるのですな。」
「そういう事だ。」
隊長らしき男が俺の前に立ちはだかる、少し睨みあうとフッと笑い、俺に体をぶつけてから出ていった。
その後他の家々も荒らし、馬でかけていく奴らを窓から睨みながら呟く。
「後ろから脳天ぶち抜いてやろうか…」
「だめですよ」
後ろからポラリスが話しかけてくる。
「冗談だよ、」
「私がいる限り不殺、不虚、不盗、不正ですからね!」
「なにそれ」
「アネモス教の基本的な教えです!良かったら聖書読みます?色々教えちゃいますよ!」
「いや、遠慮しとくわ。さて…あの国に入る方法を考えなきゃな。」
家の片付けを手伝いながら、村長に話し掛けた。
「良かったらここら辺の民族衣装を貸してくれないか?二人分」
村長が村民の物をくれたので、ありがたく戴いて、このあたりの民族衣装の刺繍が入ったフード付ローブを身にまとう。着ていた物や持ち物も預けて荷物を必要最小限に抑えた。
「カウスさん、これ持っていってもいいですか?」
ポラリスに見せられたのはペンダントだ、よく見るとアネモス教のシンボルマークが刻印されている。
「旅に行く時母から貰ったんです、風のご加護がありますようにって、」
「んー、んー↓、んー↑オススメはしないがまぁ良し」
諸々迷惑をかけてしまったので村に金塊を一つ置いていくと断られかけたが、無理矢理渡す。
(荷物を盗らないようにとの意味も込めて)
肩に弓と荷物を掛けて、馬にまたがり、ポラリスを後ろに乗せる。
「さて、リベンジといこうか。」
「はい!」
ポラリスも気合い十分といったところだろうか、関所に向いながらポラリスと話す。
「関所では入国目的でなんて言うんですか?」
「カルキノス神殿の見学とでも言えばいいんじゃないか?」
「それって」
「嘘ではないだろ?嘘では、」
「そうですけど…」
関所は北と南の二つ、同じ所を使うと俺らを追い出したあの兵士がいるかもしれないので今回は北を通る。
「そ、そろそろデスネ…」
明らかに緊張しているポラリスの背中を叩いて無言で励ます。
関所は網戸ごしに係の者と話し、周りは3人の兵士に囲まれている。異常な程の警戒態勢だ。
「お二人の名前と出身、後入国目的をお教え下さい。」
太った若い係員が聞いてくる。
「俺はカウスで、こっちは…」
その途端太った男が面倒くさそうに手を振った
「あーダメダメ、苗字も言ってくれなきゃ困るよ。」
……え?