トクソテスの神弓:4
オリベアの日記
全くバルトったら、私にベタベタと鬱陶しいのよね。私はひいひいお爺様の手記を集めるのに忙しいから男性の方に興味はまだないって言っているのに…
廊下の進行方向側から何かが降りてきた、それは無数の刺をこちらに向けた『壁』
「嘘だろ…」
先程の落とし穴がしまり、石板の仕掛けがあった壁もしまった。これで逃げ場はなくなった。
「おいおい、マジかよ、マジかよ!」
パニックになりかける心を押さえつけて対策を考える間にもじわじわと壁は迫ってくる。スピードがゆっくりなのはラッキーなのか、それとも…
ふとポラリスの方を見ると完璧にパニックになっていた。ぶつぶつと何かを呟いていたがふと立ち上がると
「あなたのせいですよ!」
「はぁ?」
「あなたが私をこんな所に連れてこなければ私は死なずにすんだんですよ!」
「まだ死んでないだろうが!!」
「でも死ぬんですよ!あ!あなた私を死なせないって言ってましたよね!この嘘つき!」
「だから今助かる方法を考えてるんだろ!そもそも俺に付いてくるとお前が言ったんだ!」
「なんですか?私が悪いって言うんですか?冗談言わないで下さいよ!」
肩で息をしながら二人とも黙りこむ。
「分かった、約束してやる。お前だけは絶対に死なせん、俺の意地だ。」
「…誓いますか?」
「あぁ、だからお前も俺を信用しろ。」
少しの間…そうしているうちにもどんどん壁は近づいてくる。もう、後8歩分もない。
「分かりました、誓います。すみませんでした。取り乱したりして、」
「いや、仕方ない事だ。よし、どこかに脱出口を開くスイッチがあるはずだ。風の流れが変な所を探してくれ。」
「カウスさんから見て左の足元あたりの風の流れが妙です。」
即答したポラリスをびっくりした顔で見つめるとポラリスがイラついたように叫ぶ。
「風魔法を使うから風の流れには敏感なんです!早く!壁がもうすぐそこに来てるんですよ!」
ポラリスに言われた辺りの壁の石を押していくとそのうちの一つが奥に引っ込む、すると先程の落とし穴よりもむこうに新しい穴が床に開いた。そしてその穴は…
「「壁に塞がれる!」」
二人で同時にその穴へ飛び込む。その直後頭の上を刺がかすめた。
暗転
あー、頭痛てぇ、どこだ?ここは?あたりは真っ暗だ。リュックから松明をとりだし壁に擦り付けて火を点ける。明るくなった部屋の床に倒れているポラリスを見つけ、揺り起こす。
「ん…むぅ…」
ポラリスの手をつかみ起き上がらせると、祭壇のような物を見つけた。祭壇のくぼんだ所に注がれているのは…
「油?」
そして油が流れる水路?のようなものもあるとなればやることは決まっている。持っている松明の火を油に移すと液体のように火が流れていき、天井の高い部屋に光が満ちる。
目の前に広がるのは無数の財宝だった。
「凄いな、こりゃ」
「わ…」
ポラリスと共に絶句する。大量の黄金板が床に敷かれており、中心には黄金の建造物、その周囲には像や金塊、鎧の用なものも見てとれる。目が痛くなる程だ。
「こういう所って守り主がいたりするのが普通じゃないか?」
「あはは、まっさかぁ。」
「だよな~」
金の山の間を笑いながら歩いていくといきなり影がさし、二人同時に何かにぶつかった、恐る恐る見上げるとそこには背丈が俺の2倍はゆうに越えている大男。
「「う、うっぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!!!」」
二人で抱き合い飛び上がる、反射的に矢を放とうとするも矢筒に矢は一本しか無い。
(そうか!さっきポラリスを助けた時に!)
ポラリスは腰が抜けてしっかりと立てていない。大男の方に攻撃の意思はないらしく動かない、動かない?
「これ…鎧だ…」
「ふぇ?」
全身鎧だ、しかし、普通の鎧ではない。上半身は人間用の鎧だが、下半身が特殊だ。まるで馬の為の鎧の用だ。
「これはトクソテスの鎧だ!これが…あの…泣きそうだ。すごい…トクソテスはこれを着て闘ったのか。スケッチしないと!凄いな…」
スケッチをしているとそこらへんを歩き回っていたポラリスが叫ぶ。
「カウスさん!書物です!何語でしょうか?古代語?」
「持ってきてくれ!」
ポラリスが持ってきた書物の表紙には『トクソテス』
「これは…多分トクソテスの歴史だ。何をして、何を作ったのかが克明に書かれている…。大発見だぞ!」
「え、でもそれって信じる人いますか?新品同様ですし…」
不安げなポラリスに表紙を見せる。
「表紙のこの素材は古文書等にのみ使われている物で今は作成も複製も不可能な失われた素材だ。つまり表紙がこれってだけで十分な証拠だ。あ、持てる金塊は全部鞄に詰めていけよ。しばらくはそれが路銀になるからな」
が断られた。
「アネモス教では盗みは厳禁なんです!私は出来ません!」
キッとこちらを睨みつけてくるポラリスの肩を掴んで説得する。
「いいか?ここの持ち主は死んでいるんだぞ?それも10000年以上前に、だ。」
なおも首を縦に振ろうとしないのでため息をついてから天井を指差す。
「しかも俺らはさっき死にかけたんだぞ!?それなのに見舞金すら貰わずに去るなんて…そう!見舞金だ!見舞金と思えばいいんだよ!」
うーーーん、と悩み続けるポラリス。もう一押しだ。
「確かに悩むのも分かる。だが実際問題きれいごとじゃ生きていけない!世界最大級の発見をしておいて飢え死ぬなんて憐れなめには逢いたくないだろ?な?」
「…うーん……分かりました…」
「ありがとう!」
ポラリスの肩を叩く。
「俺もスケッチが終わったら参加するよ。持てる最低限で構わないから!」
「当たり前です!」
リュックに金を出来るだけ詰め込み、手帳とトクソテスの本を丁寧に仕舞う。しかし…
「カウスさん、神弓は?」
そう、神弓が無い。盗られたか?嫌な予感が背筋を這い上るが打ち消そうとする。他の金に手をつけた跡がない。
「どこだ?どこかに隠されているはずだ。」
とりあえず周囲を見回してみるがやはりそれらしい物はない。
「あの…カウスさん、もしかしたらさっきの石板が何か意味があるんじゃないかなって思うんですよね。」
ポラリスの一言で思い出す。
「あの矢印の?」
「はい」
顎に手を当てて考える。
「『トクソテスの神弓が射ぬきしモノは二つあり』…さっきの石板で弓矢が射していたものは月…心臓…共通点…月は明るい、色は白?黄色?どっちにしても心臓は赤いし、明るくもない…誰の心臓だ?弓矢は戦争や権力の象徴だ、権力が貫くのは弱者…平民の心臓、つまり下の人間、下?いやいや、月があるのは上だ。下にはない……下には、ない……そうか!そうか!分かったぞ!」
叫んで天井を眺めながらうろうろし始めた俺をポラリスが止める。
「待ってください!何が分かったんですか?教えて下さいよ!」
ポラリスをゆさゆさと揺さぶりながら叫ぶ。
「だから神弓の在りかだよ!弓には確かに権利や戦争の象徴だが、反乱のシンボルでもあるんだ!そして反乱で貫かれるのは権力者の心臓!つまり上の人間の心臓だ!そして月は俺らの上を通る!二つに共通するのは…」
「上?」
「その通り!」
恥ずかしがらずに感想くれてもいいんですよ?