トクソテスの神弓:3
拝啓・オリベア
新たに一部分出てきた手記を送らせてもらうよ。この前の晩餐会はとても楽しかったね、是非また来てもらいたいよ。そうだ!この前行った植物園がとても綺麗だったんだよ。今度一緒に行かないかい?
中に入ると天井、壁、全てが石造りで、下には砂が敷かれている。しかも造られてから2000年たった今も松明が明々と燃え続けていた。
「ほらな?こんな芸当、時間でも巻き戻さない限り出来ないっつの」
目に前にあるのは長い長い廊下だ。二人ともなんとなく黙りこんでしまう。
「それじゃ行きましょ!カウスさん」
元気よく歩き始めたポラリスを押し止めた。
「え?」
ポラリスよりも一歩前に出て外から拾ってきた手頃な重さの石を廊下の真ん中目掛けて振りかぶる。すると石が廊下に落ちた瞬間廊下の床石ががらがらと崩れ始める、ポラリスが慌てて俺にしがみついてくる。崩壊は俺とポラリスのギリギリ目の前で止まった。
「落とし穴だな、基本的なトラップ~」
歌うとポラリスに思いっきり杖で殴られた。
「歌ってる場合じゃないでしょ!?どうするんですか!向こうまでの道が崩れたんですよ?まったく…」
「お前昨日からちょっと情緒不安定じゃないか!?」
そんなやりとりをしながら矢筒から矢を一本引き抜く。
「安心しろって、考えてるよ」
引き抜いた矢の後ろには紐がくくりつけられている。その矢を引き絞り、崩れ落ちた廊下のちょうど真ん中の天井に向かって放った。しっかりと矢じりが突き刺さっているのを紐を引っ張って確認してからポラリスに手を伸ばす。
「ほら、来いよ」
ブンブンと頭を振って嫌がるポラリスを無理矢理抱き抱えて振り子のように飛び立つ
「#.:$'>_$#!^?`。ー≧=′⊇⊥ΙΚ┴!!!!!」
声にならない叫びを上げるポラリスに顔をしかめながら向こう側に降り立った。
「うるさいよ!普通に!」
涙目のポラリスは腰が抜けているらしい、ため息をついて次の進路を見る。廊下の突き当たりには二手に別れており、分かれ道の間には古代語がかかれている。
「左だな。」
そう呟くとやっと立ち上がったポラリスが聞いてくる。
「何でですか?もしかして古代語が読めるんですか?」
「古代語も読めないのに神殿に挑むなんてイカれてる。」
弓の端で彫られている古代語を指す。
「愚か者は右へ、賢き者は左へと書かれている。左へ行くぞ。」
そのまま左へ進んでいくと光が見えた。
「おぉ!カウスさん!光ですよ!出口ですね!え?出口?」
二人して立ち止まった。
「あの…これは…どういう?」
「そのままの意味だろうな、あのまま宝に向かっていくような奴は命が惜しくない愚か者って事だ。」
絶句しているポラリスの頭をポフと撫でてから後ろを向いて引き返す。少ししてから待ってくださいよー!と言いながら後ろからポラリスが走ってきた。
「待った」
再びポラリスを押し止めた、
「え?何ですか?どこにも変な所なんて…」
「正気か!?」
ポラリスの顔を呆れ果てた顔で見つめて少し前の壁を指差す。
「壁にいっぱい小さな穴が開いてるだろ?典型的な仕掛け弓だ。」
無言で壁を見つめるポラリス、俺の顔を見つめ、壁を見つめ、また俺の顔を見つめて
「えへへ…ほんとだ…そ、それじゃあ行きま、ぐぇぇっ」
最後の変な声は俺がポラリスの司祭服を引っ張って歩みを押し止めたからだ。
「お前は鳥頭か!?仕掛け弓なんだからこのまま進んだら危険だろ!」
弓の端で床に敷かれている石の一つを押した瞬間ピュンと音を立て目の前を矢がよぎり反対側の壁に突き刺さった。
「ほらな?」
無言で頷くポラリスを横目に先程弓で押した石床の上に立つ。矢が飛んで来ない事に少しだけ安堵しながら次の石を矢の端で押す、矢が飛ぶ、押したところに足を置く、これを繰り返しながらポラリスと共に延々と歩き続けた。
二人で仕掛け弓の廊下をなんとか渡り終え同時に息を吐く。
「はーーー、なんとかいけましたねー。」
「あーーー、なんかどっと疲れたわー。」
ポラリスとハイタッチをして左に曲がる。が、すぐに行き止まりになってしまった。目の前にあるのは弓矢を象った矢印、そしてそれを取り囲むようにトクソテスを除く十一柱の紋章が彫られた石板だ。
「あ!カウスさん!この矢印!回りますよ!」
ぐるぐると矢印を回して遊ぶポラリスを無視して近くにヒントがないか探す。
「あった!これだな…『トクソテスの神弓が射ぬきしモノは二つあり』どういう事だ?」
しばし考えこんでいるとポラリスが服の裾をちょいちょいと引っ張ってくる。
「なんだ?」
「確かトクソテスって黒の始まる月(現在の12月にあたる)の守り神でしたよね?なら射ぬくモノって黒の始まる月の次…つまり黒が治める月(現在の1月)の守り神じゃないですか?」
ポラリスの言葉にしばし唖然とする。
「あれ?私、また変な事言っちゃいました?」
「いや、それだ!凄いぞ!ポラリス!」
まずは矢印を黒が支配する月の守り神、『アイゴケロス』の紋章に向ける、するとガコンという音と共に矢印が一段下がる。
「「おぉ!」」
しかし問題は次だ、次が分からない…天井を仰ぎ唸っていると天井にあるものを見つけた。穴だ。
「おい!ポラリス!ちょっと頼みがあるんだが!」
「ふふん?何ですか?また推理ですか?この天才ポラリスちゃんにおまかせですよ!」
「いや、そうじゃない。この廊下一帯の松明を風で吹き消してくれ。」
えー?推理したほうが早いですよー。なんてぬかすポラリスを説得し、風魔法を使って突風を巻き起こさせる。
次々に消えていく松明、そして一番向こう側まで松明が消えた瞬間、石の廊下に夜空が広がった。
「うわぁ…綺麗…」
「どういう仕組みか分からんが、天井の穴から光が漏れていたんだな、それが松明を消すことによって夜空のように浮かび上がると…全く、良く考えてるよ。」
天井を指差しながら話す。
「あれがトクソテスの星図だ、そしてトクソテスは十二柱が一柱『スコルピオス』と不仲だったと言われている。理由は分からんが、トクソテスの弟子をスコルピオスが殺したからと言われているな。スコルピオスを恨んだトクソテスは最後の一矢をスコルピオスに向かい放ったとも言われている。んで、星図だ。トクソテスの矢の先端部分にあたる所をそのまま伸ばしていくと…」
「あ!赤い星に行き着きました!」
「あれは、星図ではスコルピオスの心臓にあたる所だ。つまりトクソテスの神弓が射ぬきしモノのもうひとつは…」
「スコルピオス!凄いですね!流石ですよ!カウスさん!」
「まぁな」
すると時が巻きもどったのだろう、松明が次々と灯っていく。残念ながらさっき回した矢印も戻っていたので回し直す。アイゴケロス、次にスコルピオスに向けて回すと矢印がガコンガコンと音を立てて奥に下がっていき、重苦しい音とともに壁が上に上がった。
二人で喜びあい、ポラリスが一歩踏み出した瞬間、床が崩れた。
(しまった!)
油断した己を呪いながらポラリスの手をつかみ靴と壁の摩擦でなんとか落下にブレーキをかける、不幸中の幸いは、穴が小さかったことだろう。しかし体勢からかバラバラと矢が矢筒から落ちていってしまう。
(くそっ!)
なんとかポラリスを引っ張り上げて、自分も這い上がる。
(あ"ーー、助かったーー、)
最早声すら出せずにポラリスと一緒に床に倒れこむ。
ガチャン、その時、何かが動いた。