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トクソテスの神弓:2

オリベアの日記


ひいひいお祖父様の手記でこの部分は私が見つけた物だ。そして私がひいひいお祖父様の人生に興味を持ち始めた、きっかけのページ…

どうでもいいけどお父様が最近あれこれうるさいわ、どうにかならないかしら…

「いやー、大成功だな!」

布袋に入った金貨を眺めながら笑う。

「驚きましたよ!あんなに弓が上手いなんて!」

ポラリスは感心しきりだ。俺は川の時の意趣返しが出来たので満足満足。

ふと日の落ちかけた空を見上げながらぼやく。

「次は今日の宿を探さないとなぁ」


「すみません。申し訳ないのですが、本日2つ以上部屋が空いておりませんので…」

「「えぇ~~?」」

宿屋の男が申し訳なさそうに空き部屋を指差す。

「運良く二人部屋が空いているのでそこならご案内出来ますので、もし良ければ…」

「少し相談させてください!」

ポラリスがドンと杖をカウンターに置いて俺を端の方に引っ張っていく。

「どうします?」

「いや、俺は別に同じ部屋でも構わんけど…」

途端に微妙そうな顔をする相棒、

「だって仕方ないだろ?どこかの誰かがこれからもあんなに食うなら他のものに充てる金は減らさないと」

当の本人は顔を真っ赤にしながらうぐぐと唸っている。

「お前が決めて構わんぞ、飯代をこれからは二分の一にしていいなら二つ部屋が空いている所を探そう。それが嫌なら二人部屋だ。」

黙りこみ、腕を組む、10秒、1分、10分、

「ふ、二人部屋で…」

まじか、こいつ…


「ここから中に入って来たら魔法で吹き飛ばしますからね!」

足で部屋に線をぐりぐりと引きながらポラリスが叫ぶ。

「はいはい、」

「あ、後お風呂は先に貰いますからね!」

バタンと風呂場に向かったポラリスを見送りふかふかのベッドに倒れこむ。あーー、まともなベッドは久し振りだ…。



7月13日 

今日は迷宮に挑む前の下準備をする事にする。俺が準備している間にポラリスはニメヌスの人々を相手に布教活動を行うらしい。


「おばちゃん、この干し肉もっと安くなるだろ?もしかセット料金とかない訳?」

「ないね、」

頑固者の道具屋のおばちゃんと激闘を繰り広げ、なんとか10個金貨1枚を銀貨8枚にしてやった。

その後もナイフの研ぎ石を買い、詠唱者なポラリスの為に魔力回復薬を買い、水と矢を買い足して、湿気で歪んだ弓の調整を行う。

あちらではポラリスが子供達にアネモス教に関するお話を読み、聖書を配り、大人達には説法を行い、また聖書を配っている。

司祭なだけあって喋りはなかなかのものだ。


結局二日分の宿泊代と用意と今日の飯で昨日の金貨10枚は消えた。

町の武器屋で矢の本数を数えているとき、男が店に飛び込んできた。

「大変だ!トクソテスの迷宮に挑んだ探検隊がまた失敗したらしい!」

思わずその男の胸ぐらを掴む。

「なんだと!?」

男が慌てて手を振った。

「いまそこにたった一人の生き残りが帰ってきたんだよ!ひどくぼろぼろだ!」


男の話によるとその生き残りは今家に帰ったらしい、家を訪ねて生き残った男から話を聞く。

「何のためにいったんだ?」

男はこの町の出身で、別の国『ゴルジアス』から来た探検隊の案内として雇われたらしい。

「ゴルジアスの旦那方は金銀財宝を求めて入ったんだ!あっしはとっととトンズラしようとしたんだけど、前金しか払わねぇ!仕方なく中に入ったら…」

「壊滅したと?」

「あぁ、ひどいもんだったよ。」

ふーむ…流石、神が作った迷宮だ。一筋縄ではいかないようだ。手帳と羽ペンを取り出す。

「どんな仕掛けがあったか教えてくれないか?」

「え!?えぇと…仕掛け弓?っていうんですかね?がいっぱいありやして…」

「ふむ…どんな種類だ?覚えているか?後、迷宮内のルートだな、覚えてるだろ?」


素人には質問が難しかったか…家を出ながら考える。ただし基本的なトラップは分かった。落とし穴、仕掛け弓etc.

「うーん…やっぱり自分の目で見ないとだめだな…」


宿に戻ると先にポラリスがベッドに腰かけて聖書を読みふけっていた。向かいの自分のベッドに荷物を放り投げて腰かける。

「カウスさん」

ポラリスの声が静かな室内に流れた。外から聞こえてくるのものは家族の団欒の声、音楽もどこからか聞こえてくる。

心地の良い雰囲気だ。

「私達が生まれるよりもずっと昔に世界は一つの大陸でそれよりも前は人間が今よりも栄えていたって言い伝えがあるじゃないですか?」

「あぁ、あの有名なやつか。それがどうした?」

ポラリスは聖書から顔を上げずに話す。

「信じてます?」

唐突な質問に戸惑うも少し黙考してから考える。

「うーん…いや、思わんな。大陸が一つだったも怪しいし、人類が栄えていたっていうのは人間は他の生き物よりも偉いと思わせたいが為に作られた嘘だと思っている。なんだよ?唐突に?」

ポラリスはベッドにごろりと転がった。

「今日子供達にお話を読んでいたら一人の女の子が言ったんですよ。世界を作った神様はすごいんだね。ってそれで聖書を読み直したら確かに凄いんですよね、神様。」

「あぁ、確かにな、世界作って生物作り出しちゃうしな。」

「それで私達その神様が作った迷宮に向かうんだ、なんて考えちゃったりして。」

ポラリスが寝転がっているベッドに移動して腰かける。

「怖いか?」

ポラリスは天井を眺めながら答えた。

「…正直分かりません、この気持ちが恐怖なのか、どうか。でも…」

「でも?」

ポラリスがこちらをくるりとこちらを向いた、相も変わらず綺麗な瞳だ。

「ちょっとワクワクしてるんですよ、不思議な事に。」

ふふっと微笑んだポラリスの髪を撫でる。

「言ったろ?お前の事は俺が守るって、」

ポラリスが足を振って勢いよく立ち上がる。

「ですね!所でカウスさん、私言いましたよね?ここから中に入ったら魔法で吹き飛ばすと?」

いつの間にか手に杖を持っているのを見て青ざめる。

「いや、でも!今のは話の流れ上しかたな…」

「問答無用!!」

その晩、宿の一室で嵐もかくやという突風が舞った。


7月14日

今日から迷宮の攻略を始める。迷宮の大きさから丸一日かかるだろう。もしも生きて帰れなかった時のために今までの日記をここに置いていく。もし21日までにこの日記がなくなっていなければ誰か拾ってくれ、我夢が叶わん事を。カウス


「よし、」

日記を書き、人目につくかつかないか微妙な所に置く。トクソテスの神殿は巨大だ、デザインは長方形でシンプルでありながら装飾は見事だ。だが周りには蔦すら張っていない、出来てから2000年以上経っているというのに。

「ん?」

そこでふと違和感を感じる、迷宮前の土だ。

「どうかしましたか?カウスさん?」

「足跡だ。」

地面を撫でるようにしながらしゃがみこむ。

「足跡がない、俺達より先に探検隊が行ったはずだ。」

「風とか雨とかで消えたんじゃないですか?」

「昨日の今日でか?昨日は雨は降らなかったぞ、」

「誰かが消したとか?」

「だとしたらその誰かの足跡は残るはずだ。それすらないし、探検家達の足跡を消す意味がない。そしてなにより…」

迷宮を指差す、

「迷宮が新しすぎる、今日できたみたいだ。」

そこで(たがね)と槌を出して神殿の壁に当てる。

「ちょっと!何してるんですか!?」

慌てたポラリスの顔をみてニヤリと笑って見せる。

「折角来たんだ、名前の一つぐらい遺さないと損だろ?」

「そんな!あなた何考え!」

カーン!という音が響きわたる。そのまま立て続けに鏨をふるい『カウス』『ポラリス』と刻み込む。ポラリスは目を閉じ、耳をふさぎ聖書の一節を暗唱しながらしきりに

「ごめんなさいごめんなさい悪いのはこの人です天罰ならこの人にごめんなさいごめんなさい」

と呟いている。

「そんなに怖がらなくてもいいだろ?俺達これからこの神殿を荒らすんだぞ?」


刻んだ文字をしばらく見ていると反応が現れた。

「おい!ほら、見てみろよ。」

恐る恐る目を開けた相棒の目が点になった。驚くのも無理はない、刻んだ文字が順々に消えていっているのだから。

「え?これは…どういう?」

「時が巻きもどっているんだな。」

刻んだ文字を指差した。

「ほら見てみろよ、刻んだ順番と逆に跡が消えてってる。」

ポラリスの口がパクパクと動き、やっと音が発せられる。

「す、すごい…」

ポラリスの言葉にゆっくりと頷き神殿を見上げる。どうやら、いや、やっぱり俺達はとんでも無いものに挑もうとしているらしい。

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