トクソテスの神弓:1
拝啓・オリベア
また日記帳の一部が見つかったから同封させてもらったよ。金貨は今の価値でだいたい100ドル、銀貨は10ドル、銅貨が1ドルと考えればいいと思うんだ。所でオリベア、君がオーウェンとこっそり会っていたという噂を聞いたんだけど本当かい?だとしたら…いや、なんでもない。
アネモス聖書の十二柱の項目を読むポラリスの声が、雨季を越えたニメヌス大陸の森に響く。
「十二柱とは創世の神の僕で神が世界を創りたもうた時に重要な役割を果たした…」
歩きながらパタンとアネモス教の聖書を閉じる。
「そうそう、神様は奴等を死ぬまで働かせたらしいな」
そんな補足を入れてやるとうぇー、と顔をしかめた。
「ご立派な忠誠心ですねー、でも働いた代償として体の一部や遺物を立派な神殿に神様は飾ってくれたんですよね。」
「んでそこに俺らは今から乗り込むと…」
ポラリスの歩みが止まった。
「……え?」
「え?」
「えぇ~~~!?」
飛び上がってポラリスが抗議してくる。
「だ、だって神殿は前人未到の迷宮なんですよ!?どんな危険な罠が待っているともわかりませんし!し、し、死んじゃうかもしれないんですよ!」
あまりの慌てようにため息をつく
「あのなぁ、危険だって言ったろ?全く…」
「だってぇ…」
涙目になっているポラリスに仕方なく助け船を出してやることにする。
「分かった、本当に嫌ってんならここでコンビ解散だ。町までは送ってやる。後は自力でなんとかするんだな。」
少しぶっきらぼうになった自分の口調にしまったと思いポラリスの方を見ると…ふくれていた。
思わずほっぺを押すとしぼんだポラリスに怒られた。
「なにするんですか!」
「いや、なんとなく…てかなんで怒ってんの!?」
杖で頭をポカポカと殴られるので頭を守りつつ聞くとポラリスが叫ぶ。
「いいですか?相棒たるもの相手を引き留めるべきです!いかないで、とか、何言ってるんだよ!お前の事は俺が守る!とかないんですか!?」
(うわ…こいつ、めんどくせぇ…)
「なにか失礼な事を考えましたね!?」
「なんで分かるんだよ!」
「やっぱり!さ、さっきビックリして怖がって見せたのは演技なんですからね?ぜ、全然怖くないんですから!」
フフンと胸を張るポラリスだがそう言う割には足が震えて変な汗が流れている。はぁとため息をついてからポラリスの頭をなでる。
「分かったよ、お前の事は俺が守るから安心しとけ。これでいいか?」
満足そうにポラリスが頷く
「ため息が気になりましたけどまぁ良いでしょう。頼みましたよ!」
町の目の前まで来るといきなり大きな川が現れた。雨季の影響で増水していて飛び越える事は無理そうだ。
「さて、どうしたもんか…ところでポラリス、お前泳げんのか?」
「泳げません!でも…」
堂々と胸を張るポラリス、ただでさえ存在感のある胸なんだからそのポーズ止めて欲しいんだけどなー。
「しかたない、俺が泳いで荷物を向こう岸に置いて戻ってくるからそしたらお前の手を引っ張って向こうまで連れていこう。」
大事な貴重品は腰のポーチに入れ、その他の物をリュックに詰めて川に飛び込む。泳いで数十秒程で対岸には着けた。
「よし、後はポラリスを…あれ?」
ポラリスがいない、辺りを見回すと川からざぶりと音をたてて出てきた、しかしなぜか一滴も濡れていない。
「?」
すると自慢げに杖を振りながらポラリスが言う。
「どうです?カウスさん?風魔法ですよ、風魔法。大きな風のボールを作ってその中に入って進んできたんです!」
「な、なるほど…」
呆気にとられている俺を見て本当に嬉しそうだ。というよりも…
「そんな事が出来るなら俺も入れろよ!無駄に濡れたじゃないか!」
むぎーっとポラリスの頬を引っ張る
「ほれははうふはんがいけないんれふよ!(それはカウスさんがいけないんですよ!)わはひのはなひをひはないはら!(私の話を聞かないから!)」
ポラリスとしばし睨みあってから頬を離す。
「すまん、今回だけは俺が悪かった。これからはちゃんと聞くよ。」
そう謝ると俺の手に荷物が投げられた。
「分かればよろしい。ではカウスさんを町に着くまでの間、荷物運びに任命します。さ!行きますよ!」
ズンズンと進んでいくポラリスの背を慌てて追いかけた。
町に入ると雨季を越えた事もあり、町は大きな賑わいを見せていた。まぁ後一ヶ月もすれば雨が全く降らない乾季が訪れるんだがな。
「うわぁ!ここがニメヌスですか!」
「そ、ニメヌス大陸最大の国の『ニメヌス』だ。」
ワクワクといった様子のポラリスを引っ張って食事処に入る。
「さて、相棒よ。」
「なんですか急に?」
「折角だ、俺達が出会った記念にパーッといこうじゃあないか。」
「え!お、お金は?」
意外と理性的な所に驚きつつも袋をテーブルの上に投げる。袋からこぼれ落ちたのは宝石や金貨だ。
「お前と会う前に未踏の迷宮を見つけてな、そこから少し頂いてきたというわけだ。」
言い終わるか終わらないかのうちにポラリスは注文を始めた。
こんなに食うとは思ってなかったな…まさかポラリスがあんなにも大食らいだとは…
「お前…遠慮ってものがあるだろ…」
「え?遠慮しましたよ?今腹七分目ってとこですねー。」
「二食分食ってやっと腹七分目なのかよ!?分かったよ!好きなだけ食え!」
そこからさらにもう一食分食べて相棒が満足してくれたのは嬉しいが、このままではそのうち路銀に困る事になる。
「うーん…どうしたもんか…」
その時ポラリスが道を指差して言った。
「あれやったらどうですか?」
その方向では痩せた男が手を打ちならしながら叫んでいた。
「さぁさぁ、誰でもいいからご挑戦を!200歩離れた場所のリンゴを撃ち抜けたら金貨10枚だよ!」
色んな男が挑んでいくが、矢が届かなかったり、外れたりと散々な結果だ。
「まぁ、出来るとも思えませんけどねー。」
そう言って食後の飲み物を飲むポラリスに向かってニヤリと笑う、
「本当にそうかな?おい、おっさん!やるぞ!」
挑戦料の銅貨5枚を払って愛用の弓を構える、多くの男が失敗したのは理由がある、長い雨季の間に矢が湿気を吸って重くなっているのだ。これを扱うにはコツがいる。
風に揺られるリンゴを見ながらキリキリと矢を引き絞り、神経を矢の先端に集めていく。先端に全てが集まったのを感じた瞬間、矢を放つ。
放たれた矢は鋭い音をたてながら真っ直ぐと飛んでいきリンゴのど真ん中を見事撃ち抜いた。
唖然とする男、唖然とする観客、唖然とするポラリス、そして矢に貫かれたまま揺れているリンゴを見て不敵に笑う。
「楽勝」