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イクテュエスの帯:5

オリベアの手記


はい!?私に家庭教師をつけるですって!?お父様ったら私の意思も知らないで…許せないわ。

なにが、「今は花嫁も賢くないといけない」よ。それなら考古学の勉強をさせて欲しいわ!


しかもお見合いの計画も立ててるなんて聞いてないわよ!!

ポラリスがいない…あたりをキョロキョロと見回してみるも、やはり姿は見えない。

「多分私達が止まったのに気づかずにそのまま走って行っちゃったんでしょ。」

苦笑しながらキロンが立ち上がった、体をはたいてから俺も立ち上がる。


「あ、そうだ。お前のあの~…水の技ってなんだ?」

先程、岩にヒビを入れたあの水刃はどうやったのか、ポラリスを探しながら尋ねた。

「あぁ、あれ?」

キロンは右手の中指につけた指輪を見せてくる。

「これは水竜の指輪、『ナーリマ』の迷宮で手にいれた…んだったっけな~?」

「曖昧!?」

俺の言葉に対して非常に心外だという顔をしたキロンは、あのね!と叫ぶと塔の壁をコンコンと叩く。

「私は迷宮の宝石、金塊なんてどーでもいいのよ!大切なのは本よ!本!」

熱がこもり過ぎとも思えるキロンの熱弁に少し気圧される。

「そ、そこまで言うか?」

俺が首を傾げるとキロンは何かを言おうとし、黙り、また言おうとしてからため息をついた。

「私、実は昔虐待…っていうのかな?そんな物を親から受けてたのよ。お前なんかいなければ…ってね。不思議な事にそういう事を言われ続けると人間って本当に自分は要らない人間なんだって思い込み始めるのよ。だからどうしても自分が嫌いで…でも本を読めばそういう事が綺麗に忘れられたの。私の本好きはそういう所から来てるのかもね。」

白い月がキロンの横顔を照らし出している。

「そうか…悪い事を聞いたな、すまん。」

俺が謝ると、キロンはアハハと笑った。

「時間ぐすりっていうでしょ?気にしてないわよ。ほら、ポラリスちゃんを早く見つけてあげないと、もしかしたら泣いてるかもよ?」

おどけた様子のキロンに、かもなと笑みを返すと二人でまた塔を上り始めた。それから俺達が半泣きのポラリスを見つけるのは数分後の事になる。


「二人どもどこにいたんですかぁ~」

ポラリスがべしべしと背中を叩いてくる。

「そんな泣くことないだろ…」

「泣いでまぜん~、私はてっきりお二人が潰されたんじゃないがど思っだんでずよ!」

所々鼻声のポラリスの頭をキロンがよしよしと撫でる。

「はいはい私もカウスも生きてるから、大丈夫、大丈夫。」

「良がっだです、ホントに」


ホットしたのも束の間、妙な音が聞こえてくる。

「ん?」

また下からだ。今度は…よく分からない。すると上がって来たのは

「「「水!?」」」

いや、しかしこの塔は螺旋状の通路に沿って楕円形の大きな穴が連続して外に空いているのだ、そこから水は漏れ出して…

「ない!?」

見えない壁に阻まれているかのように水は一滴も外に出ていない。

「とりあえず逃げるぞ!」

「またですか!?」

先程の岩よりはずっとスピードも遅いが、やはり着実に近づいてくる。後ろを見ながら走っていると誰かの背中にぶつかった。

「おい!止まるなよ!」

前を見ると壁。

「……は?」

とても信じられない、ペタペタと壁を叩いても壁は消えない。

(スイッチだ!スイッチがあるはずだ!)

壁、床、天井は…届かないな。もしかしたら俺達の行く手を阻むこの壁自身にスイッチが…


だめだ、分からない、分からない、次の一手は?この場での最適な一手はなんだ?分からない、分からない、分からない。


「…スさん!カウスさん!」

気づけばポラリスが俺の肩を後ろから揺さぶっていた。水位も足首が浸かるほどになっている。

「大丈夫ですか!カウスさん!」

ポラリスの顔を呆然と見つめる。ざぶり、水が膝を越えた。

「ポラリス、俺はどうしたらいい?」

「え?」

「どうしたらいい?」

ポラリスの蒼白な顔を見つめる。その時、ある言葉がフラッシュバックした。

『あなた私を死なせないって言いましたよね!』

それと自分の言葉

『お前だけは絶対に死なさん、俺の意地だ。』

下を俯いて髪をかきあげる。

「よし…」

塔の大きな楕円形の穴が目に入る、もし解決策があるとしたらあそこだ。


腰ほどにまで上がってきた水に邪魔されながら穴に近づく。手を伸ばせば触れるのは間違いなく外の空気…

ゴンという音と共に手が阻まれた。

壁だ、見えない壁が穴を塞いでいる。…駄目なのか?

「ポラリス!お前の風のボールで入口まで戻れるか!?」

振り向きながらポラリスに叫ぶが、ポラリスが首を横にふる。

「途中で魔力切れになっちゃいます。」

今度はキロンに向かって叫ぶ。

「キロン!お前の水竜の指輪とやらでなんとか出来ないのか!?」

「出来るならもうやってるわよ!」

その言葉を聞き、唇をきつく噛み締める。

(神弓に何かないか?ここを打開するような一手が…)


冷たい水が胸の下まで迫る。俯きながら口を開いた、声が震えているのが自分でも分かる。

「すまん。ポラリス、キロン…俺にはどうしようも出来ない。」

その時、水の中の俺の手を誰かが包んだ。顔を上げるとそこにポラリスが居た。

「カウスさん、ありがとうございます。他人の為に頭、使いすぎですよ?」

笑ったポラリスの頭にチョップをくらわす。

「もう他人じゃねーだろ。でも…本当に悪い、お前を死なせないと約束したのに…」

「そうですね、約束は守らないといけません。」

ポラリスの言葉にうぐっと詰まる。ポラリスが俺の手をぎゅっと握り込んだ。

「でも…よくよく考えれば、私はあの時カウスさんに助けて貰わなければ死んでた訳ですしね、しかも普通じゃ味わえない冒険が出来ました。」

ポラリスがにっこりと笑う。

「ありがとうございました。カウスさん。」

その時、俺の頬を誰かが殴った。

「ちょっと!私空気じゃない!混ぜなさいよ!」

誰であろうキロンだ。全員で全員の手を繋ぐ。

「キロンもすまない。巻き込んじまって、あげくこんな所で死なせるなんて」

「ちょっと!何ふざけた事言ってくれてんの?私はね!私の意思でここに来たの!それで死んだとしても異論はないわ」

キロンの言葉にきょとんとしてから笑う。

「そうか…そうだな。俺もそうだ。」

「私もですよ。」

ポラリスがぎゅっと握ってきた手を握り返す。思い出すのは今までの人生。出会って別れて、探して、傷ついて、また探す。

「うん、結局最終目標までは行けなかったが、悪くない人生だったな。」

ついに水が首まで来た。塔の下からは俺達にトドメをさすべく、濁流が流れて来ている。

「あ、カウスさん、」

「ん?」

ポラリスに顔を向ける。

「最後にカウスさんの本名を教えてくれませんか?流石に知らないまま死ぬのは寂しいので…」

「あぁ、俺の名はカウス=…」

言い終わる前に三人は濁流に飲み込まれた。


水中の濁流は激しく、リュックの中の重いものや軽いものがすべて巻き上げられて行く。しかし、離してなるものかと二人をぎゅっと掴んだ。肺の中の空気が限界になり吐き出される。


(…意識が遠く…)

その時、足に痛みが走った。見るとヴィーラから貰ったナイフが足を傷つけて地面に落ちていくのが見えた。…ん?


『俺達の体が巻き上がる程強い濁流なのに何故あれは水流に巻き上げられていない?』


それに気づいた瞬間強烈なめまいに襲われた。世界が廻る、伸びる、縮む…。


めまいから立ち直ると自分の両手はキロンとポラリスに繋がれておらず、自分の首を強く、強く締めあげていた。

「はっ!?」

それに気づいて自分の手を引き剥がす。周りに水なんてどこにもない。それどころか服が濡れてすらいない。

俺は俺と同様に自分で自分の首を絞めあげている掛け替えのない朋友の名前を叫んだ。


「ポラリス!!!!」

今回『…』と『?』と『!』多すぎでしょ(笑)



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