イクテュエスの帯:4
拝啓・オリベアお姉様へ
お姉様、元気ですか?私は元気です。
お姉様のしょうぞうがは私のしん室にだいじにかざってあります。
手紙を見つけたので入れました。
あとおし花のしおりを作ったのでいっしょに入れました。つかって下さい。
8月14日
神殿の攻略は月の出る今夜行うことにする。昨日は頭を良く使ったから三人とも疲れてしまっていた…。ポラリスは久しぶりに布教に精を出すらしい、俺は攻略準備、キロンは本屋漁りをするとの事。
「…パスタしかねぇ…」
雑貨屋の店頭で頭を抱える。保存食を買おうとしたのだが、どうにもこうにもパスタしか売っていない。いや…確かに保存は効くが大事な水を消費してまで作る程の物かと聞かれれば微妙な所だ。
「まぁ…特産品だし少しぐらい買ってくか、ポラリスも喜ぶだろ。」
財布を取り出して銀貨を一枚取り出したその時、妙な気配を感じて振り返る。しかし店内には日用品を眺める年寄りと玩具を物欲しそうに見つめる子供しかいない。
首を傾げてから俺はパスタの袋を掴んで会計に向かった。
店を出てすぐの水路でゴンドラをつかまえてイクテュエス神殿まで行く。神殿を囲む高さ3メートル程の塀を見ながら侵入方法を考える。
(まぁ、ロープの矢を突き刺して登っていくのが一番確実かな、)
思考にそこで踏ん切りをつけて寝溜めに宿に戻る。
宿に帰るとキロンが本を宿屋の共用スペースの机にうずたかく積んで読書に勤しんでいた。
「よぉ、」
声をかけるとキロンが本から視線をこちらに寄越す。向かいの席に腰掛ける。
「よくこんなにも買ったな…」
本の山は今にも崩れそうだ。キロンが肩を竦める。
「お陰で手持ちはほとんど無いわよ。神殿には金塊がいっぱいってのが本当なら早く手に入れたいわ。ま、それも本に費やすんだけど。」
キロンの言葉に苦笑する。パタンと本をキロンが閉じた。本の題名は『イクテュエス神話』
「ねぇ、カウス?」
「ん?」
「アンタ一体どこから知識を持ってきてるの?イクテュエスの星図の特性とか、しかもポラリスに聞いたらアンタの知識で今まで乗り切ってきたっていうし…」
そこで言葉を切りキロンはぐいと顔を近づけた。
「アンタは一体何者?」
キロンの問に笑みを返し、椅子に深く座り直す。
「トレジャーハンターのカウス=アウストラリス、それだけじゃ納得いかないか?」
不満そうなキロンに先程のイクテュエス神話の本をパラパラとめくる、あった。イクテュエスの星図の特性が解説されている。
「俺の知識なんて本の受け売りだよ。生家に十二柱の本がたくさんあって小さい頃よく読んだんだ。さて!俺は部屋に戻って寝る!」
立ち上がってキロンに背を向けた。
夜、といっても日が沈んだばかりだが…
三人はゴンドラに揺られていた。夏の涼しい風が脇を吹き抜けていく。
「ここでいいよ。」
ゴンドリエーレにそう伝え、舟から降りる。昨日の昼に通ったイクテュエス神殿観光の出入口はもうすでに閉まっているようだ。三人で神殿が沈む湖を囲んでいる塀と対峙した。
「それじゃ…」
「行きますか!」
キロンがパンと手を打った。
「ロープ!」
塀の高い所に紐の付いた矢を打ち込む。3人で紐の先端を掴むとスルスルと紐は縮んでいく。塀の上に立つと、ポラリスが竜巻を作り出す。そこに三人で乗り地面に降り立った。
空を見上げると、東の空で月とイクテュエスの星図が重なりあっている。
「で、どうやって月の光を鏡に反射させて北東の塔のどこかにある月光石に反射させるの?」
キロンが皮肉っぽく呟いたのに対し、俺は1歩二人よりも前にでて無言で弓を構えた。風が途絶えた一瞬をついて矢を放ち、鏡の角度を変えた。
「やるぅ」
「流石です!カウスさん!」
二人の賞賛を聞きながら鏡によって反射した月光を指さした。
「ほら、見てみろ」
月の光は、北東の塔の月光石に当たり、他の塔の月光石に反射しながら湖の中を縦横無尽に駆け抜けていく。月光が反射する度に明るくなる湖を見ながらポラリスが呟く。
「これ…全部計算されて作られているって事ですよね?」
「もはや驚きを通り越して呆れるな…」
すると、ある一点で光が止まった。
「ん?」
「止まったわね?」
「あそこに何かあるんでしょうか?」
ふむ…少し黙考してからポラリスに荷物を投げた。
「ちょっと調べてくる。」
そう告げてから湖の中に飛び込んだ。
湖の中は光の反射で、明るすぎる程に明るい。
(っと、ここか…)
光の反射が止まった所の石は南の塔の湖底に近いところに嵌め込まれていた。石はイクテュエスの紋章が浮かび上がっている。
(でもこれをどうしろと?)
息が切れる前になんとかしたい、ので取り敢えず押し込んでみる。すると、少し押し込んだだけで石は自ら奥の方に引っ込んでいった。
しかし、何も起こらない。
(間違えた…か?)
その時、ズンという轟音が湖を揺らした。慌てて湖から岸に這い上がる。
「お、おい!?今のって?地震か!?」
目の前の二人は何も言わずに湖の方を指さしている。湖の方に目をやると…
「…塔が…沈んでる?」
螺旋状の塔を囲む八本の塔が俺が石を押した南の塔から順に沈み始めたのだ。どうやら塔の下には元から塔が沈むための空間が出来ていたらしい。
そして、塔が沈むのに比例して湖面もどんどん下がっていく。
数分後、湖は完璧に水が抜けきっており、窪んた土地に螺旋状の塔が直立しているのみとなった。たまらず塔に向かって駆け出す。
「あ、カウスさん!待ってくださいよ!」
塔の扉を開けると、螺旋状の通路がずっと上までのびており、それに沿うように大きな楕円形の窓(穴?)が空いている。キロンとポラリスが後ろに追いついてきた。
「はぁ…はぁ…ちょっと…いきなり…走り出さないで下さいよ…」
「う、すまん。」
「それよりお二人さん?あれ、知り合い?」
観光の時くぐった観光者用ゲートからなだれ込んできたのは…
「エンツィ軍じゃねぇか!?」
先程の轟音を聞きつけて来たのだろう。塔の頂上を指さして叫ぶ。
「早く登るぞ!あいつらにつかまるとめんどくさい事この上ない!」
三人で螺旋状の塔を登り出す。しかし…
「結構あるわよ、この塔」
塔の中は松明の一つも灯っていないが、星の山を登り始めた月のお陰でかなり明るい。
登り始めて数分、違和感を覚えて後ろを振り向く?
「兵隊は何やってんだ?足音すら聞こえないってのはどういう事だ?」
「さぁ?周りでも固めてんじゃないの?」
キロンがそう呟いた瞬間下からゴロゴロという妙な音が近づいてくる。
いや…まさか…な…
しかし、重力を無視して登ってきたのは…
「「「岩!?」」」
高さ3m半程の通路を丸々塞ぎそうな岩に背を向け、三人して一斉に走り出す。だが転がり登ってくる岩のスピードは全く衰えずに重力がひっくり返ったかのような錯覚に陥る。
しかもこちらは坂を登っているのだ。追いつかれるのは必然。だんだんと岩と自分達の距離が近づいてくる。
(くそ…どうする…どうする…)
その時、並走していたキロンが話しかけてきた。
「カウス!もしあの岩にヒビが出来たら砕ける?」
「はぁ?」
「砕ける?!」
「た、多分!」
キロンはよし、と呟くと岩に向き直った。何が何だか分からないまま俺も弓を構える。キロンが手刀を構えた、キロンの水色の指輪が光る。
「七転抜刀!」
キロンが叫んで手刀を振り下ろすとどこからか水の塊が現れ、七つに別れると刃の形となり、岩に向かって突撃していく。水刃は岩にぶつかると岩の5分の1程度の深さの七つの傷を入れた。
「トニトゥルーニ!」
続いて電撃を纏った俺の矢がキロンが作ったヒビに突き刺さる。岩の周りを雷が走ったかに見えた直後、轟音と共に中から岩が砕け散った。
汗を拭い、水を飲んでから壁に背を預けて二人で座り込む。
「「…あれ?ポラリスは?」」
消えたポラリスは一体どこへ?!
来週中にまた更新したいと思います。
ご意見、ご感想あれば是非。