イクテュエスの帯:1
拝啓・オリビア様
初めまして、私の名前は明=ハレーと言います。10歳です。この前お願いされたお手紙を贈ります。いつか会いたいと思っています。またお手紙を贈ります。
8月12日
ニメヌス大陸を出て北東に移動する事二週間、山を越え、川を渡り、ついに左手に大きなイクテュエス運河が見える所まで来た。
「この河ぞいに移動すれば次の国の『エンツィ』が見えるはずだ。」
「やっとですか~、もう野宿にも飽き飽きですよ~。」
ポラリスが愚痴をこぼしたその時、ガラガラガラと車輪の転がる音が対岸からしてきた。
「カウスさん、あれなんですか?」
ポラリスが肩を叩いて、大型の馬車を指さす。荷台には老若男女様々な人が乗っているようだ。
「ん?あぁ、あれは多分、エンツィ行きの路線馬車だな。」
「路線馬車?」
ポラリスの言葉に眉をしかめる、箱入り娘とはいえ、路線馬車も知らんのか。
「都市と都市を繋ぐ馬車だ。わざわざ馬を買ったり馬車を雇うよりは安くすむ。」
「だったら私達もあっち使いましょうよ!安いんでしょ!?」
路線馬車を指さしながら叫ぶポラリスにチョップを食らわす。
「あう」
「あのなぁ、路線馬車が通ってるのは得てして栄えてる所だけなんだよ!それに、いちいち移動に路線馬車を使ってたら馬を買うよりも高くつくわ!」
ふ~ん…とまだちょっと不満げなポラリスだったが、馬の様子が変わった事に気づいた。
「どしたの?ポチ」
ポチって馬につける名前じゃないだろというツッコミはさておき、確かにポチの様子がおかしい。しきりと後ろを気にしている。
対岸、路線馬車の後方から現れたのは…
「盗賊か…」
馬車に乗ったやつが御者も含めて3人、それぞれ馬に乗っているやつが3人、対して路線馬車は馬4匹に対して乗客は約9人
「あ〜ぁ、あの路線馬車はもう無理だな。」
俺がそういうとポラリスは助けないと!と叫ぶ。
「いや、ここで妙な事してあいつらに目をつけられるの嫌だし。」
「カウスさん!助けてくれなかったら盾と弓を持ってカウスさんが寝てる間に逃げますよ!」
「それ洒落にならねぇよ!」
「カウスさん…」
「分かった!分かったから!馬の手綱持つの変われ」
ポラリスには二週間かけて馬の乗り方を教えている、それなりには乗りこなせるはずだ。
ポラリスが駆るポチに乗りながら弓を引く。
「サターニ」
走り続ける馬の上で、対岸の動く馬車を狙う。なかなか高難度だ。
「…めんど…」
「盗賊でも殺しちゃダメですよ!」
「はいはい、」
バシュッと的より前方に放たれた矢は真っ直ぐに進み続け、盗賊の乗る馬車の車輪に突き刺さった。
「大当たり~」
矢が車輪もろとも弾け飛ぶ。バランスを崩し、横転した馬車は、後ろについていた盗賊の1人と団子になりながら転がっていった。盗賊が俺達に気付き、何かを叫んでいる。
弓をキリリと引き絞りながら考える。
「えーと次は…これがいいな。ルクス」
作り出された黄金色の矢を盗賊達と路線馬車の間に着弾するように放つ。ドンピシャで突き刺さった矢は…
「ボン」
呟いた瞬間目もくらむ程の閃光を放った。盗賊達の馬が驚いて倒れる。ポラリスが盗賊はもう動けないと判断したのか、ポチのスピードを落とした。自分が追われている訳でもないのに長々と全速力で走ってくれた事に感謝だ。
「よく走ってくれた、ポチ。」
「お、カウスさん!路線馬車の人達が手を振ってくれてますよ!おーい!」
「あー、はいはい、良かった良かった。」
「いやー、良いことした後は気分が良いですねー、」
「うんソウダネー」
エンツィはすぐそこだ。
エンツィはイクテュエス運河の干潟に丸太を大量に打ち込み、その上に建物を建てた、まるで運河の上に作られたように見える都市だ。
建物の美しさや、景色の不思議さから、世界でも指折りの絶景と言われている。
「ふぉぉあああ!」
現にポラリスなんて、感動のあまりわけのわからない言葉を発している。
「私旅に出たら絶対にエンツィとオウカクに行こうって決めてたんです!夢が叶いました!」
この国は、基本縦横無尽に広がる水路を使って、ゴンドラでの移動が主流だ。数少ない厩舎付きの宿屋を探し出してから、酒場で軽食を取ることにする。俺はサンドイッチ、ポラリスは300gステーキだ。
「それ軽食か?」
「軽いですよ?」
「いや、重いよ」
そんな会話をしていると、バンと扉が荒々しく開けられた。客の目線が一斉に集まる。
灰色がかった茶色の髪をボブにして、瞳は金色の少女だ。杖を持ち、リュックを背負っている。その少女は、俺達を見ると叫んだ。
「見つけた!」
「「…は?」」
「あなた達よね?さっき私を助けてくれたのは?」
「アンタなんか助けた覚えないけどな?」
先程の少女は俺達の目の前に座ると、勝手にジンジャーエールをたのんだ。
「カウスさん、あの路線馬車に乗ってた人です。こっちに手を振ってくれてた。」
「あぁ、あれか」
「あなたカウスっていうの?」
少女の問に頷く。
「こっちは相方のポラリス、アンタは?」
「私はキロンよ。これでもそこそこ名の知れたトレジャーハンターなの。」
「だろうな。」
俺の呟きにポラリスが反応した。
「どうしてですか?」
俺はサンドイッチを片手に、太陽の光を浴びて様々な色に光る髪飾りを指差す。
「あれは龍の瞳って呼ばれる最高級品の水晶だ。あそこまで大きな物は俺も見たことがない。かなり高難度の迷宮をクリアしないと手に入らないはずだ。」
「その通り!そこでものは相談なんだけど…」
キロンが顔を近づけてきた。キロンは少し間を置いてから囁いた。
「私と組まない?」
死んだと思われたくないので出しました。近いうちに改稿します。