カルキノスの盾:6
オリベアの日記
お父様の書斎にこっそり入る事が出来たわ!鍵もかけずに出掛けるなんて、どうかしてるわね。
ひいひいお爺様は綺麗な翡翠色の瞳に、真っ黒な髪の毛ね、日焼けしてていかにもトレジャーハンターって感じがするわ。
目が私とそっくり!
ひいひいお祖母様と一緒に並んでて凄く幸せそう…いい絵だわ。
少女が机(宝箱?)の引き出しを開けると中には書類が詰まっている。しかし、少女が指さしたのは書類ではなく、引き出しの淵だ。
「ここ、数字が刻まれてるわ。」
なるほど、確かに数字が刻まれており、引き出しを手前に引くのと比例して数字が小さい順に出てくる。
「で、これが?」
そう聞くと少女は四つの引き出し全てを開けたどれも数字が刻まれている。
「この机の天板の下に妙な空間があるわ、この4つの数字を合わせれば天板が開いて中の物が見えるはず。」
「………壊すか、」
「ですね!」
ポラリスと一緒に壁に飾ってあった剣を持つ、その瞬間、少女に思いっきり掌底をかまされた。
「ごフッ…何故俺だけ…」
床にうずくまって呻くと頭上から少女の声が降ってくる。
「アンタ人の話を覚えときなさいよ!」
少女はポラリスが持っている剣を持つと机に勢いよく振り下ろした。
カッという音ともに剣が机とぶつかるが、剣は全く刃が通っていない、ほんの爪の先ほどの長さで止まっている。その後少女は、天板の隙間に剣を差し込んだ、梃子の原理でこじ開けるつもりだ。少女は全身で剣を上に上げるが、剣はパキンと軽い音をたてて真っ二つに折れてしまった。
「番号当てるしか開ける方法はない、か…」
適当に1234に合わせるが、開かない。1111に合わせる、また開かない。
「日が暮れますよ!」
ポラリスの言葉に頭をガシガシと掻きむしる。さてどうしたものか…
「奴の誕生日とか?」
「誕生年ですかね?」
誕生日…は流石に分からなかったが誕生年を入れてみるが、やはり開かなかった。どこかにヒントがないかと三人で探し回る。
机の裏を見ているとある刻印を見つけた。『カルキノス神国歴0034造』
「おい!」
二人を呼んで順々に見せる。
「カルキノス神国歴…ってまだ0000なんじゃないですか?」
ポラリスの言葉に頭を振った。
「多分自分が生まれた年からカウントするつもりだったんだろうよ。全く、とんだナルシストだぜ。」
そしていや、まさかと思いながら棚の数字を0034に合わせてみる。
カチリ、という音と共に天板が開いた。ポラリスがつぶやく。
「新しい王様は…あほなんですか?」
同感だった。
天板を開けるとそこには…
「だぁりゃっしゃーーー!!!」
「これで二個目ですね!やりましたよ!カウスさん!」
二人でピョンピョンと飛び跳ねる。
「これがカルキノスの盾…本当にあるなんて…」
黒を基調とした円盾に金の二重円、中心にはカルキノスの紋章を持つ蟹が鎮座している。持ってみると恐ろしい程軽い。
「すごいわね…この盾…」
武器屋の娘だからだろうか。少女もしげしげと眺めている。
「あ、カウスさん!紙がありますよ?」
そう言ってポラリスが差し出してきたのは古代語を写し取った紙だ。きっと台座の物だろう。王が必死に現代語訳したであろう紙もあったが、酷い訳だったので破り捨てた。
カルキノスの盾を持ってそっと部屋を出る。するとバタバタという複数の足音が聞こえてきた、
「大きな声が聞こえたのはこちらか?」
まずい!兵隊達だ!早く立ち去ろうとした瞬間、
「きゃっ!?」
ポラリスが転んでしまう、見ると足をくじいたようだ。近付いてくる足音、仕方なくポラリスに盾を持たせてお姫様抱っこをする。
「ひゃっ!?」
ポラリスが声を上げるが仕方ない。その時!廊下の角から兵士達が顔を出した。
「「「あ」」」
三人そろって固まる。兵士も少し動きを止めた。1秒、2秒、3秒
「暗殺者だ!!捕らえろ!!!」
「「「ぎゃーーー!」」」
脱兎のごとく駆け出して階段を降りる、途中で声を聞きつけた兵士達が下からも登ってきたので、廊下に移動し、ポラリスを抱えたまま少女と走る。後ろから兵士が出てくると弓を構えた。まずい!?
飛んできた矢をポラリスを動かしてポラリスの持つ盾で防ぐ。カンカンカンと矢を曲芸のように矢を防いでからさけぶ。
「ポラリス!盾を投げろ!」
「えぇ!?は、はい!」
ポラリスは盾を投げた、砲丸投げのように、押し出すように。綺麗な放物線を描きながらそれはペタンと俺達と兵士達の中間に落ちた。
「馬鹿野郎ーーーー!」
「ごめんなさーーーい!」
何がなにやら分らないという顔の兵士達の隙をついてポラリスをお姫様抱っこから肩に担ぎ、弓を構える。
「フューモス!」
生成された灰色の矢を盾の奥側の縁めがけて放つ。矢は狙い通り盾の端に当たり、盾が俺の足元に転がってくる。そして、その後矢は、床に突き刺さると白い煙幕を貼り始めた。
「これはな!」
盾を蹴りあげて左手で持つとフリスビーのように投げる。
「こう使うんだよ!」
飛んでいった盾は数人の兵士を打ち倒し、手元に戻ってきた。
「うわぁ…」
弓を左肩に、驚くポラリスを右肩に抱えて、左手に盾を持って城を後にした。
「門をしめろ!」
城の中から近衛兵が顔を出して城門を固める兵士に向って叫ぶ。
(くそ、城門まであと少しだっつーのに!)
開き戸のようになっている城門が重い音と共に動きだした。
その時、ヒュンという風切り音が耳に届く。咄嗟にポラリスに盾を被せて攻撃から守る。城内から弓兵が放った弓のほとんどは、盾によって阻まれたが、2本が俺の脇腹と左腕に鋭く突き刺さった。
「くそ…」
「カウスさん!!」
ポラリスの叫びと痛みを受け流しながらしまりかけている門に向かって盾を投げる。
間一髪、横に盾が挟まった。衛兵は少女が気絶させたらしく、皆、地に倒れ伏している。
すぐ後ろには煙から脱した兵士達が来ている。動く度に走る尋常じゃない痛みを無視して走る。少女に続いて門をくぐり抜け、盾を抜き取った。ワラワラと追ってきた兵士は城門に阻まれて少し時間が稼げるはずだ。
「しくじったな…」
宿の厩舎で連れてきた馬に鞍と轡をしながら痛みに呻く。すぐ隣にはポラリスが回復魔法の詠唱を行ってくれている。そのおかげで出血は止まったが、まだ痛みは消えていない。
「城内から兵士達が出てきたわよ、結構増えたわね。」
厩舎の屋根から城の様子を見ていた少女が知らせてくる。
「そうか…ありがとうポラリス、もう大丈夫だ。」
ポラリスに詠唱を止めさせる。
「でも…」
不安そうなポラリスを抱き上げて鞍に乗せる。
「後の治療は国を出てから頼む。」
持ってきた必要最低限の荷物を括りつけて自分も馬に乗りこむ。少女を見て黙考してから聞いた。
「……来るか?」
少女は未だ火の消えていない城を見ながら頭をふった。
「辛いこともあったけど…やっぱりここが私の国で、故郷よ。」
少女はこちらに体を向けるとニッコリと笑った。
「それに、家族のお墓もある事だしね。」
兵士の俺達を探す声が近付いてくる。後ろに乗っているポラリスが口を開いた。
「また会いましょう、えーっと…」
「ヴィーラよ、ヴィーラ=ソーイング。また会いましょ。この国が落ち着いたら是非来てちょうだい。それと…」
ヴィーラが俺に向ってナイフを差し出してくる。
「こんな物騒な物持ってたら疑われちゃうわ、貴方達にこれは上げる。私の事、忘れないでね?」
「あぁ、」
頷いて握手を交わす。
「早く行きなさい。来るわよ?」
「おう」
「またね!」
馬を走らせて数分、関所が見えてきた。兵士達によってがっちりと固められている。ポラリスが悲痛そうな叫びを上げた。
「どうするんですか!?」
「安心しろ!策はある。馬の手綱を持ってくれ。」
「えぇ?無理ですよ!」
「大丈夫!真っ直ぐ進むだけだ!」
手綱をポラリスに渡して、弓を構える。もし、執務室での弓を包んだ光が、火薬、というものを『弓』が学んだ結果だとしたら…
「サターニ!!」
放たれた弓は関所の門へと突き刺さった。指揮官が叫ぶ。
「下手くそが!槍兵!構えろ!」
その時、パチンと火花が弾けた。扉が吹き飛び、爆炎が兵士達を襲う。風と熱がこちらまで迫ってくるが、馬は速度を落とすことなく走り抜けた。気絶している兵士達を飛び越え、壁の中から、外へ。
机のトリックの説明が分かり難いと感じた方は、ナショナルトレジャー(リンカーン大統領暗殺の日記?みたいなサブタイでした。)をご覧になって下さい。よく分かると思います。
ハムナプトラシリーズも自分は好きなんですが、いかんせんあれはギミックと言うよりも争奪戦重視の映画ですからねー。ダンジョンの参考にはあんまりならなかったりします。