カルキノスの盾:4
オリベアの手記
オーウェンってなんて失礼な人なのかしら!手記集めを手伝うから『ディデュモイの首飾り』を寄越せですって!?
ただ綺麗だからって、あれはただの首飾りじゃないのよ!?うちの家宝だっていうのに…
まぁいいわ、オーウェンが持っている手記はこれが最後だもの、もうあんな人に用はないわ。次の手記はどこにあるのかしら
「でも私はどうやってあなたたちを信じればいい訳?」
少女が疑わしげな目でこちらを見つめてくる。うーん…そこで思い出したのが村での出来事だ。兵士は俺達のなにかを確認していた。そのなにかは脱国者かどうかを見分けるものだったとすると…
俺は服の裾を捲ると少女に見せた、少女がじっと俺の腕を見つめる。どうだ?あってるか?
正解だったらしい、少女は頷くと口を開いた。
「焼印がないからこの国の人じゃないわね。いいわ、信用してあげる。」
どうやら王は国からの脱国をさせない為に国民全員に刻印を押していたようだ。言論の過度な制限、出国不許可に、人々の職を奪うような事をしてちゃそりゃ暗殺者も動き出すだろうな…
計画に同意した少女と別れて、宿に入る。ポラリスはやはり人を殺す計画だからか、ずっと釈然としない顔だった。俺達は王から盾のありかを聞き出したら後は少女に任せる事にしてある。
「カウスさん」
部屋に入るとポラリスが神妙な面持ちで話しかけてきた。
「お?」
返事はしたが、俺の意識は明日の計画に向いていた。潜入までは大丈夫なはずだが、後は盾がどこにあるかだな…それによって計画も…
「私、決めました!」
「うわぁ!びっくりしたぁ!」
唐突な大声に飛び上がる。
「私はアネモス教を世界中に広めます!」
ポラリスの宣言に首を傾げる。
「お前その為に旅をしてたんだろ?」
「あー、えっと…その…旅を始めた時はぼんやりとそう思っていたんですけど、この国に来て、色々なモノを見て、しっかりとそう思えた…そんな感じですかね…」
ポラリスは口調を変えて淀みのない瞳で言い放つ。
「アネモス教では人は全て平等だと教えられています。アネモス教には王も無く、司祭や司教は人々に正しいアネモス教を教える存在です。私は…私は全ての人が平等な世界を創る。」
沈黙が二人の間を満たしていく、ため息をついてから窓を開けて空を眺めた。と、思いっきり後ろから杖でどつかれる。
「何か言って下さいよ!」
「えぇ?うーん、そんな気張らなくてもいいように俺は思うけどな~。」
「え?」
ポラリスの拍子抜けした顔に苦笑する。
「ポラリス、お前両手を左右に広げてみ?」
ポラリスが頭に?を浮べながら両腕を一直線に広げる。
「それがお前の手の届く距離だ。お前が人に手を差し伸べられる距離だ。」
「私の…これだけ?」
ポラリスは固く握られた手をじっと見つめる。
「がっかりしたか?」
素直にポラリスが頷いた。
「確かにそれだけじゃ世界は覆えない、だけどな。」
ポラリスの手を掴んで俺も手を一直線に伸ばす。
「こうすれば2倍だろ?」
ポラリスが俺の目を見つめる。
「賢い者は知識によって見えない長い手を得る、お前はこの旅で見聞をひろめ、知識を深め、人との繋がりを持て、嫌いな奴でも友達でもいい、多くの知り合いを持つと良い。いつかその輪は世界を覆う。」
こちらを見つめ続けるポラリスに少し顔を熱くしながら頭を撫でた。
「ゆっくりやればいいさ。よし、飯にするとしよう!」
7月29日
決行日だが…成功するかは神のみぞ知るってところだ。曇り。
暗殺者、であろう少女と昼頃に顔を一旦合わせる。あろうと言ったのは見た目は普通に普通の少女だからに他ならない、この当たりの人々特有の明るい茶と綺麗な黒が入り交じる髪をお下げに結び、薄桃の民族衣装を身にまとっている。こんな感じの少女ならそこら辺にゴロゴロいる。
目立たない、も暗殺者の素養の一つなんだろうか
夜中に計画を始めるまずは『侵入』
兵士から奪った鎧を身につけた少女がポラリスを連行する。
「異教に入信した女を見つけた。連行する。」
「お、ご苦労。地下牢にぶち込んどけ。」
城門の兵士は鎧に付いている紋章を見るとすぐに信用したらしい、『侵入』クリア
「さて、次は俺の番か」
次は『陽動』
2人が城に入ったのを城の近くにある民家の屋根から確認すると、屋根から屋根を飛び越えて城に隣接する武器庫を真っ直ぐに狙える所に陣取る。神弓を引きながら古代語を呟いた。
「フランマ・エリックス」
作り出されたのはパッと見普通の火矢だが、矢じりが螺旋状になっており、羽もねじられている。この矢は放つと普通の矢の数十倍の回転をかけながら飛んでいき、貫通性が跳ね上がる仕掛けの特殊な矢だ。
(トクソテスも同じ矢を考えついていたとはな)
俺もこの矢を作ったが、火をつけても矢の回転で消し消えてしまうのだ。しかし…
夜風を読みながらベストの瞬間に矢を放つ。火を保ったまま強烈な回転をかけつつ飛んでいく矢はまるで爆炎の槍のようだ。
半分をレンガ造りの武器庫に突き刺さしている火矢を眺めながら考える。
(うーん、あの女に武器庫に火を放てって言われたけど…武器庫にある物っていったら剣、盾、鎧…後弓ぐらいだろ?一体何の為に…)
その直後、武器庫が爆炎と轟音と共に吹き飛んだ。
「うわっ!うわっ!何だ!!」
爆風に襲われ屋根から引き剥がされて地面に打ち倒される。火薬がまだほとんど世に広まっていなかった時代の事だ。もちろん俺も知らなかった。
恐る恐る家の影から城を覗くと武器庫は影も形もなくなっており、城に火が移っている。
(中は大騒ぎだな…)
周りの人々も家々から出てきて騒ぎ始めている。俺は闇夜に紛れて城の中に入った。『陽動』クリア
次は『分断』
城の内部に入るとやはり中は蜂の巣をつついたような騒ぎだった。俺が入っても誰も何も気にしていない。
中でこの城に勤める給仕の制服を手に入れてから、廊下で2人と合流する。角を曲がれば王の寝室だ、俺達は廊下で待機し、俺が手に入れた給仕の服を着たポラリスが寝室へと近づいていく。が、途中でポラリスが引き返してきた。作戦では給仕に化けたポラリスが王を逃がすフリをしてこちらに連れてくるはずでは…
少女の目の前に立つとポラリスが口を開いた。
「やっぱり…やっぱり私は目の前の殺しに目を瞑る事は出来ません!私はあなたを止めます!」
ポラリスの思いがけない言葉に動きを止めた俺とは逆に暗殺者の少女はいたって冷静だ。
「どんなに極悪非道な男でも?」
「どんな人にでもです。それがアネモス教の教えですから、私は信仰を曲げません。」
まさに一触即発、しかも王が逃がされないうちにさらわなければいけないから時間もそうない。
どうする、どうする、その時、王の寝室から叫び声がした。男の叫び声だ。三人とも廊下から寝室のある方を覗くとパタパタと給仕が部屋から出ていった。
「?」
何かあったのだろうか?すると少女が口を開いた。
「あの給仕、なにか怪しい。」
「なにかって何だ?」
聞くと少女はたった一言、勘と言って寝室に向かう。慌てて追いかけるといるはずの王はおらず、少女が窓の下を指さしている。窓の下を覗くと十数メートル下の地面に血溜まりの中、男が倒れている、艶のある寝間着には紋章が飾られている。こんな高級な寝間着を着れるのは多分…
「現ヒットリア王だ。さっきの給仕は多分暗殺者、私以外にも居たなんて…」
「えぇ!?」
ポラリスが言う。
「じ、じゃあ私達があそこで話してるうちに給仕が入って突き落としたっていうことですか!?」
俺とポラリスは圧政を敷き、暗殺の計画までたてたヒットリア王の声を聞くことなく、彼の骸を見下ろしていた。
その時、近衛兵が寝室の扉を破って入ってきた。彼等が見たのは兵士、給仕、そして弓を背負った謎の男、彼等の槍が誰を向いたかは明らかだ。
「男!貴様何者だ!」
「やっべ!」
どうも、3:33です。楽しんで頂けてますか?王のクズっぷりをもっと出していきたかったのですが、足りませんでしたね。
後、執筆してるとやっぱりスマホを持っている時間が長くなりますよね、だからスマホ依存症だ!みたいな事を親から言われてます。ゲームもやらないし、SNSもやらないド健全高校生だというのに!