トクソテスの神弓:0
拝啓・オリベア
君が見たいといっていた、カウスの手記を同封したよ。日記帳の一部分のようだ。君もこんなものが読みたいなんて変わった人だね。一応見つけた部分のみ送らせてもらうよ。今度の晩餐会には来てくれるだろう?みんな楽しみにしているんだ。
1078年7月9日
ニメヌス大陸に入る、うまく雨季と乾季の間に来たかったが失敗したようだ。森で即席のテントを作ってそこで過ごすことにする。
1078年7月10日
ひどい雨だ、動けそうにない。乾パンで食事を済ませる。
1078年7月11日
奇跡だ!雨が止んでいる!雨がまた降り出す前に移動することにした。ん?あれはなんだ?もしかして……人か?
地面に突っ伏しているナニカは、体のシルエットから、どうやら女性のようだ。死体か?
倒れている女性が持っていた杖を拾い上げ、ツンツンと脇腹を突っついてみると少し反応があった。
「や………ださ……」
「ん?」
「や、めてくださ…ぃぃ…」
「あ、すまん」
杖を地面に置き、しゃがみこんで話しかける。
「どうした?俺に出来ることならしてやるが」
するとまたなにかボソボソと言っている
「え?なんだって?」
「ご、ご飯を……下さい…」
乾パンを上げてみると食べる食べる、2日分の乾パン、合計六食分を全て食われた。その後、川で服のあちらこちらにこびりついていた泥を落とすと、衣装から司祭であるらしい事が分かる。持っていた杖も、シンプルながら装飾が入り宝石がはまっている。
行き倒れの司祭は、バシャバシャと顔についている泥を洗い流し、顔を拭きながら後ろにいる俺に振り返った。
「いやー、助かりました本当に、えーと…」
「カウスだ。お前見たところアネモス教の司祭か?それにしては格好がなんか特殊だが…」
すると水色の髪をビッグテールに結び琥珀色の目をした少女はくるりと俺の目の前で一回転してみせた。
「えっへん!私、ポラリスという名の者です!実は私、アネモス教の布教の為世界中を旅しているので、この格好は司祭と一目で分かりながらも動きやすい旅人の衣装が組み込まれているんです!」
「ほ~~」
行き倒れ、もといポラリスを改めて見てみると中々綺麗な顔をしている。色白で、『美しい』よりは『可憐』という言葉が似合うだろう。
そんな事を考えた直後、なにか冷たいモノが顔にあたった、空から落ちてきた水滴は段々と勢いを増していく。
「くそっ!しまった!」
とっさにナイフを出して近くの大きな葉を切り落とし木の枝を組み立てて2人用の即席テントを作る。
「ほら!早く入れ!」
ポラリスの手を引っ張ってテントに引き入れた。
あっという間に豪雨になってしまった、テントの外は数歩先も見えそうにない。
「すごーい!こうやって雨を凌ぐんですか!」
驚いてポラリスの顔を見つめる。
「は!?お前……テントのつくり方も知らずに今までどうやって過ごしてきたんだよ!」
するとポラリスは頬を掻きながら呟いた。
「いや、それはその…あの…洞窟とかで…」
「へぇー…お前運が良いんだなぁ」
「ぅえ!?どういう事ですか!?」
俺の一言に、今度はポラリスが俺を見つめてくる。
「雨季にはこの大陸の生き物達は食い溜めをして地面に潜るか洞窟に入るかして過ごすんだよ。下手したらお前、喰われてたぞ。」
「ま、マジですか……」
雨がしばらく止みそうにないので荷物の整理をしていると、気まずくなったのかポラリスがおずおずと話しかけてきた。
「あ、あの…カウスさんは何をしているんですか?」
「荷物の整理だが?」
顔を向けずに答える。
「いや、そういう事ではなくてですね、職業?みたいなのは何ですか?」
なるほど、そういう事か、
「さぁ?なんだと思う?」
ポラリスにいたずらっぽい笑みを向けた。すると
「冒険者ですかね?」
と一瞬で正解を言い当てられてしまった。
「なんだつまらん。まぁ正しくはトレジャーハンターと呼んでくれ。なんで分かった?」
途端にポラリスはドヤ顔をしながら説明してきた。
「最初弓矢とナイフが見えたので狩人かと思ったんですけど次に宝石がチラッと見えたのでもしかしたら盗賊!?とも考えたんです。でも盗賊にしては紳士だなーと思ってたら地図が見えたので冒険者に行き着いたんです!どうです?すごいでしょ!」
胸を張るポラリスに苦笑する。
「紳士な盗賊もいるかもだろ?それに地図なんて誰でも持ってるしな、まぁ及第点だろ。」
俺の採点にえー、と不満そうなポラリスだったが、いきなり真面目な顔になった。
「あの、カウスさん!トレジャーハンターっていう事は世界中を旅してるんですよね?」
「あ、あぁ、まあな。まだ新米だが。」
そう答えるとポラリスにがっしりと手を掴まれた。
「だったら私も、一緒に連れていって下さい!」
「……は?」
「カウスさんに付いていったら死ななさそうな気がするんです!世界中を旅してるんだったら一緒に布教も出来るし一石二鳥!」
べらべらと捲し立てるポラリスの口をぎゅむと塞ぐ。
「待った!俺の旅は過酷だしそんな素人がほいほいついてこれるようなもんじゃないんだ!悪いが飯も十分に確保出来ないような奴には無理だ!」
「だから付いていくんじゃないですか!」
……なるほど、うん?なんかおかしくないか?
ポラリスは自分の杖をふりながら続けた。
「私は風魔法も使えますし司祭だから回復魔法だってそれなりに高位のモノが扱えます!足はひっぱりません!」
自己PRを一段落させたポラリスの顔を見ながら考える、回復魔法が使えるのはかなり便利だ。居るとありがたいのは確かだが、しかし…
ポラリスの琥珀色の瞳からは頑固で正義感が強い事が分かる、そして覚悟も。もしだめだと言ってもどこまでも付いてくる事が簡単に予想できた。
「……分かった、負けたよ。」
「本当ですか!」
ポラリスの顔がパァッと明るく輝いた。
「ありがとうございます!やったー!」
ピョンピョンと跳ねるポラリスを落ち着かせて話す。
「ただし!条件がある!一つ、俺の名字は聞かないし調べない事。二つ、迷宮に入ったら俺の言うことを絶対に聞くこと。良いな?」
二つをぶつぶつと繰り返していたポラリスは頷くと二本指を立てた。
「なら私からも条件があります!一つはアネモス教の行為に関して理解を示して下さい。魚や鳥は食べれません。あと寝る前と起きた後にお祈りをしなくてはなりません。」
「分かった。」
「二つ目は対等に扱って下さい、相棒なんですからね!」
相棒……ねぇ……
「分かったよ、よろしく。相棒さん」
「はい!」
二人は固く握手を交わした。
1078年7月12日
朝起きると雨が止んでいた。どうやら雨季を抜けたらしい。ポラリスと共に山を越えて町に入る事にする。
「カウスさんは何かこの旅の目的とかあるんですか?」
ポラリスにそう聞かれたので俺の手帳の、一ページを開いて見せる。
「これ」
指差したのは弓の絵とその上に書かれている文字『トクソテスの神弓』
「トクソテスって神に仕えたと言われる十二柱のうちの一柱ですよね?」
「よく知ってるな。」
またえっへんと胸を張るポラリス
「知ってますとも!半人半馬で弓の名手なんですよね!」
「そうそう、この世界には十二柱が遺した物や体の一部が一つずつ世界中に散らばってる。俺の目標はそれを全て集める事だ。」
「それの最初がトクソテスの神弓なんですか…」
ほえー、と驚いていたポラリスが突如目を輝かせながら叫んだ。
「町が見えてきましたよ!カウスさん!」
「お!あれがニメヌス大陸最大の国『ニメヌス』だ!」
「カウスさん!走りましょ!」
元気に腕を突き上げるポラリスを見てふと思う。
(こいつとは良い相棒になれそうだ。)
これが俺の旅の、最初の出会い。そして、運命の出会い。
ここまで読んでくださりありがとうございました。主人公二人に代わってお礼を申し上げさせていただきます。
ご意見、ご感想ございましたらぜひとも下さい。読み続けて下されば作者にとってこれ以上の幸福はありません。それではまたお会いしましょう。