予告
まだ、大丈夫
《おめでとうございます!》
そんな題のメールが届いた。好奇心で開いたのが、そもそもの間違いだったかも知れない。この時、こんなメールなんて無視していれば──
《おめでとうございます!あなたは当ゲームのテストプレイヤーに選ばれました!早速ゲームを開始されますか? YES/NO》
どうやら新作ゲームのようだ。ゲーム名は『実実』。おかしな名前だが、興味を引かれるものがある。テストプレイヤーというのも気に入ったし、スマホの画面に浮かぶYESの文字をタップした。
《ダウンロードはコチラから。》
その下にURLが続いている。少しだけ不信感が出てきた。もしかして詐欺メール?お金とか、かからないよね?もし詐欺メールだったら……。考えるだけでゾッとした。何百万円要求されるのだろう。
《お問い合わせはこの電話番号へどうぞ。》
都合の良いことに、そんな文面もあった。そっと部屋を抜け出して廊下に出る。いつもは温かいのに、今日はなぜだかひんやりとして、床が私を叱っているように感じる。
「だから施設に預ければ良いって言ったじゃない!」
「仕方ないだろう?それに、僕たちを裏切ったのはあの子なんだ。僕に責任を押しつけないでくれ」
遠くから聞こえるのは両親の声。きっとまた、弟のことだろう。金切り声が耳にガンガンと響いた。それと同時に、『こんな親になら迷惑かけて良いや。』なんてことを思った。
コンコンコン、と隣の部屋をノックする。扉に貼られた紙には下手くそな字で《アヤトの部屋》と書いてある。私の弟、赤坂アヤトの部屋。中にはいるのは何年ぶりかな。最近疎遠気味だったし、まともに顔を合わせてさえいない。悲しい家族だな、とつくづく思う。
「アヤトー、入るよー?」
返事も聞かずに勝手に入った。アヤトのことだ、どうせマンガでも読んでいるだろう。野球バットを傍らに置いて。
「……ああ、姉貴か。久しぶり」
一瞬で外されたアヤトの視線。これがコミュニケーションを怠った姉弟の末路か。昔は「あ、お姉ちゃん!」なんて言って笑顔で駆け寄ってきてくれたのに。
「久しぶりだね、アヤト。顔見るのも、話すのも、全部」
「……そうだな。オレ、姉貴のこと避けてたし」
一泊遅れて返ってきたアヤトの声は、すっかり声変わりしていることが身に染みて分かった。さっき、「ああ、姉貴か。久しぶり」って言われたときは、緊張で声があまり聞こえていなかったから。
「今日は、アヤトに相談しに来たの」
ピリッと、背筋に冷たいものが走った。体が震える。
「何?オレが施設に行くよう説得しろって頼まれた?」
弟から注がれるのは、軽蔑、警戒の視線。殺気の籠もった目だ。
「違う、よ。このゲームについて……。アヤトなら、分かると思ったの」
ゆるゆると腕を持ち上げて画面を見せる。氷の視線はふっと解かれ、私は心底安心した。あの目は怖い。冷や汗が止まらなくて、Tシャツが背に引っ付いている。
「……悪いけど知らない。多分裏ゲームじゃないと思う」
その言葉に息をついて、「ありがとう」と言った。アヤトは何も言わなかったけれど、どこか嬉しそうに見えた。
さて、これは無害なゲームと判明したんだし、ダウンロードしようかな。URLをタップすると、画面が変わった。
地獄のゲームが幕を開けてしまったのだ。




