表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

two:チカイノコトバ



健やかなときも



病めるときも



悩めるときも



喜ばしきときも




たとえ死が、二人を分かつとも



永久に私達は寄り添い、一緒に居ることを



チカイマス。







私がまだ『幸那』だったころ。




私は不義の子供。

愛人の子供だと父母に疎まれ生きてきた。




でもね、それって不公平だよね。

私だってそんな生い立ちに生まれたくて産まれたわけじゃ無いのに。



寧ろあなたが悪いんだよ、父さん。

ちゃんとした奥さんがいるのに火遊びなんかするから、私が産まれちゃったんじゃない。



だからね、父さんの首をキュッと締めた。

父さんの奥さんも寂しくならないように、父さんのコレクションの銃剣で喉の奥を掻き回してあげた。




だから警察に追われてるのは当たり前。

苦しかったから云々は言うけど、あの人たちみたく他人のせいにする気はない。






そして逃げている内に、私は運命の出会いを果たす。




傍らに血を流しながら倒れる女の人。

そのそばで満たされた笑みを浮かべる、血がべったりついた彼を―。













黒須もまた、私と同じで不義の子だった。

ただ私と違い、すぐに捨てられたらしい。



だから復讐に父母を殺し、財産を奪い逃げて、逃げて、逃げている。




親近感を覚えた私は、黒須についてゆく。

黒須は、最初は私を拒んでいたけど、私の生い立ちを話すとすんなりと側にいることを許してくれた。




その時

私は15で、彼は17


奇妙なカップルの誕生だ。



それから一年間、私達は病める時も、悩める時も、健やかな時も一緒にいた。



彼が私を必要として

私が彼を必要として




素晴らしい毎日だった。









「これは?」



私の薬指にはめられるリング。

飾りも何も無い、無骨な鉄の輪を通し、黒須は私の肩を抱く。



「…俺なりの、結婚指輪だ」

「え……」


正直言って意外だ。

黒須はいつも仏頂面で、何を考えているか分からないから。


でも、どこかはにかみながらコレを渡す黒須が可愛くて、私はプッと吹き出してしまった。

それでうろたえる黒須も可愛い。







私は、それを承諾した。

黒須の指輪に唇をつけ、黒須の、生涯のパートナーを受け入れた。




健やかな時も

病める時も



私はいつまでも黒須と共にある。



その筈が




「幸那!」



黒須の叫びとともに胸が熱くなる。


陶酔とかではない。

焼けたような熱さだ。




胸から突き出るナイフの刃。

赤く染まったそれには、私の肉の一辺がこびりついている。



地面が揺れる。

血を吐き出しながら倒れる私を見下しているのは、見知らぬ奴。



そいつは私の腹を引き裂き、臓物を引き出し美味そうに咀嚼する。



小腸が相手にチュルチュルと吸われる度に、私の体は快感と苦痛に支配される。

もし黒須にやられているなら、私は何度もだらしなく絶頂に達しているんだろうか。



黒須の泣き叫ぶ声が聞こえて、私は闇に意識を投げ入れた。





泣き叫ぶ黒須と

臓物を喰われる感触




『死が二人を分かつまで』



そんなチカイノコトバを瞼の裏に残しながら













「……ぁ」



小さい息と共に目覚めた私は、体を見る。

私はショーツ以外見につけておらず、胸にはYの字に縫い傷がつけられている。



辺りを見回すと、凹凸の目立たない、さながら無菌室のような白い部屋の真ん中に存在している台に、私は寝かされていたことが分かる。




『気がついたかね』



不意に聞こえた機械的な音声に、私は身構えた。


『落ち着きなさい。私は敵ではない。…不死者に襲われた君達を保護した』

「あん…でっど?」

『そう、未練を残した人間が死んだ時、また蘇る。それが不死者』



信じられない話だが、私は信じた。

信じなければならないような気がしたから。



『不死者は腐ってゆく体を保つために人を襲う。人の器官が必要なのだ』



私は胸の傷を触る。

だからあの時、私は不死者とかに内臓を―。


「じゃあ、私の内臓は…」

『運良くあの場に居合わせたドナーが居てね、都合良く君との相性もばっちりだから使わせてもらった』

「…誰?」

『彼だ』



後ろを見たまえ、という声に従い、私は振り向く。

そこには―



「黒須!」



黒尽くめの格好で立ち尽くす彼がいた。



『彼から摘出したのは、大腸、小腸、腎臓、…そして心臓だ』



心臓?

でも黒須はここにいる。

幽霊では無いのだから、おかしい。










もしかして










『彼は、不死者になった。せめて我々に従うように施術させてもらったが……』









嫌だった

私の大切な人が、私のために死んで、死に損なっている。



私は駆け寄り、彼の胸を思い切り叩いた。



「なんで…こんな……」

「すまなイ。だが、幸那には生きて欲しかっタ」


そっと彼が私を包む。

血の臭いと、彼の香りが私を犯す。


行き場のない哀しみに陵辱され、彼が死んでも尚側に居てくれる嬉しさに身を委ね、私は黒須に包まれながら涙を流し続けた。






私たちを保護した団体は『刻印教会』だと名乗った。



今世紀、突如増え始めた不死者を抹殺するために法王庁が用意した、一騎当千の聖堂騎士クルセイダー数人で組織された対異端用特務機関。




私達は、それにスカウトされた…と言うより、事態の漏洩を良しとしない彼らに加入させられた。


だがそれは渡りに船だ。

黒須を不死者にさせてしまった身腐り共を、皆殺しにするほか償わせる方法は無い。

―私が、黒須を不死者にさせてしまった償いもまた、それしかない。




黒須の一部と一緒になった私は、ますます彼に惹かれた。

男と女は元々一つだといったらしいが、ならば私の半身は間違いなく黒須だろう。




「健やかなときも」

「病めるときモ」

「悩めるときも」

「喜ばしきときモ」




死が二人を分かつことは無く、永遠に一緒―。




それが私から黒須への




チカイノコトバ。






【ツヅク……】




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ