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第8話


 ルティオスたちがこちらに現れて、ふた月ほどたった頃。

 砂漠の次元扉が、今度は急速に閉じ始めたとの報告が入る。



「どうだ、様子は? 」

 璃空は報告を受けてから、毎日のように経過を見に現地へ行くようにしていた。

「今までには考えられないような早さですね。通り抜け禁止にしておいて良かったと言えます。もしあのまま行き来していたら、次元の扉に取り残されてしまった者が出たかもしれないですから。偶然かもしれませんが、まるで図ったように、ルティオスとあの部屋が現れたみたいです」

「そうか…」

 では、ルティオスもR4も現れるべくして現れたのだろうか。ここが閉じるときに誰も通させないように…。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、急に砂漠の方がザワザワし始めた。


「リトルペンタが! 」

 ひとりが叫んで指さす方を見ると、次元の扉から、おびただしい数のリトルペンタグラムが空へと昇り始めたのだ。

「うおおー」

「すごい」

 警備にあたっていた者たちは、歓声を上げてそれを見上げている。


 ブラックホールが閉じたときのことを知っている璃空たちにすれば、問題にならないほどの数だったが、あのときのことを知らない若者にとって、こんなに多くのリトルペンタグラムを見る機会は初めてかもしれない。

 どんどんどんどん。空へと吸い込まれる小さいやつら。

 そうして最後とおぼしきリトルペンタグラムが外へ飛び出すと、静かにその扉は閉じていったのだった。


「へえー、こんな風に閉じていくものなんだ」

「ああ、にしても、リトルペンタ、綺麗だったなー」

 警備隊員たちは、まだ余韻に浸っている。

 璃空も、久々に多数で空へ上るリトルペンタグラムの姿を見て、懐かしい思いに浸る。そのとき、砂漠の上空に移動車が現れて、そろそろと降り立つと、思いがけない訪問者がやってきた。



「お父さん! じゃなくて、国王! 」

 星月と家庭教師たち。ルティオスもいる。そして最後に、ニヒルに笑いながら降りてきたのは、なんと、ブライアンだった。

「ブライアン、どうしたんだ? まさか星月が無理矢理」

「いや、今日は休日だよ」

「もうー、おとうさ…、国王ったらひどい! 前々からね、ルティオスがブライアンおじさんに会いたいからって面会をお願いしてたのよ。やっと叶えられて、それがねそれがね、たまたま今日だったの。でも…」

 そう言うと、星月は空のかなたを見上げて、ふうーっと息をついた。

「すごく素敵なものが見られちゃった…。リトルペンタ、綺麗だった」


 つられたように他の者たちも空を見上げる。

 しばらくして、璃空が星月に聞いた。

「そう言えば、どういうことだ、星月」

「ああ、それは、俺がどうしてもとお願いしたのです。針の穴を通すほどの腕前を持つ銃使いに会いたいと」

 星月の代わりにルティオスが答える。最初にここに現れたとき、ルティオスの持つ剣を寸分の狂いもなくはじき落としたのがブライアンだった。その光景が目に焼き付いて離れなかったルティオスが、会わせてほしいと前々から星月に頼んでいたのだ。


 ブライアンが、ルティオスの言葉に答えるように説明する。

「ただ銃を撃つだけならクイーンシティの射撃場でも良かったんだ。けどこいつらが針の穴ほど小さい的って言うからさ。さすがの俺でもそれは無理だと言いつつ、挑戦してみるかと思ってな」

「挑戦するとは? 」

「まあ、銃の射程距離もあるだろうが、一角獣にまたがって撃てる銃の限界ってやつ。それには砂漠のような広い場所が必要だろ? 」

 しばらくポカンとしていた璃空は、苦笑いしながらも了解した。

「まあいいだろう。ただし、次元の扉がたった今閉じたばかりだから、充分に注意するように。俺もしばらくここにいる予定だから、見学させてもらおう」

「OK」


 国王の許可をもらった星月は、嬉しそうに移動車の方へと駆けていく。

 一緒に乗ってきた家庭教師たちには、もしもの時のために、高い壁に設置された頑丈な見張り台へと移動してもらう。

 そのあと星月が先導して、中から降りてきたのは一角獣だった。星月は彼らに順番にほおずりして、ブライアンとルティオスにその手綱を渡す。

 まず始めに、ブライアンがルティオスに、銃のレクチャーをするようだ。2人は短銃を持って一角獣にまたがった。空へと舞い上がった彼らは、移動車から打ち上げられた的を銃で撃ち落とす。

 最初は一角獣の揺れる身体に戸惑っていたルティオスも、程なく慣れてしまい、かなりの確立で的に当てられるようになった。

「わあー、ルティオス、すごい」

「もともと身体能力の高いルティオスだ。慣れればもっと精度が増すはずだ」



 しばらくすると合図しあって、一度地上に降り立つ2人。

 少しの休憩を挟んで、今度はブライアン1人が一角獣に乗った。短銃ではなくライフルを抱えている。

「頑張って! ブライアンおじさん! 」

「腕前、楽しみにしています」

 2人の声援に、親指を立てた後、すうっと空へと舞い上がるブライアン。

 そうして、遙か遠くへと飛んでいく。


 その姿が手のひらに隠れるほどになったところで、通信が入る。

「こちらブライアン。的をあげてくれ」

「了解」

 ほどなく移動車から小さな的が空へと打ち放たれた。

 すると…


 キューイーンンン! 


 思うまもなくそれが打って落とされる。

「え? 」

「すごい…」

「さすがだな」

 璃空以外のものは皆、あっけにとられている。


 その後も、1つも外すことなく的を打ち抜くブライアン。

「もう少し離れてみるか」

 と、彼から通信が入る。当然、反対する者もなく、移動車から「それじゃああと少し、移動お願いしまーす」と声がした。

「OK」

 と、ブライアンからの声が聞こえて来たすぐあとだった。




 ギュイーン、ギュイーン…

「? 次元の開く音? 」

 たった今閉じたはずの次元が開く音が聞こえてきた。ただし、さっきとは違う方角からだ。なぜか胸騒ぎがした璃空は、すぐさま近くに止まっていた、彼自身の乗ってきた移動車に飛び乗ると、指示を始める。

「ブライアン! 戻ってきてくれ。次元の扉がまた開き始めた! 」

「OK」

 ブライアンはただそれだけで意味を理解したようだ。

 続けて璃空が言う。

「次元の扉の正確な位置を至急確認! 警備隊は戦闘準備に入っておけ! 」

 戦闘準備。

 実戦では初めて聞くその言葉に、少し戸惑いを見せる若い隊員たち。

 そのときだった。


「みーんな。戦闘準備ってのはね、こーするの」

 のほほんとした口調が聞こえる。そこには砂よけのゴーグルをかけ直し、戦闘服に装備された数々の道具を服の上からぽんぽんと確認した後、銃の安全装置をカシャッとはずす怜の姿があった。

 若い隊員たちは顔を見合わせて、「うっし! 」などと声をかけながら怜にならう。ルティオスの登場からバリヤは10何年ぶりに再結成されていた。厳しい訓練をかいくぐってきた若者たちは皆、それなりの腕を持っているはずだ。

 同じく国境警備に配属されていた川山のチームには、あのとき川山をバカにした若者もいた。彼は自分を救ってくれた川山に心底惚れ込んで、バリヤに入ってきたのだ。


「用意できた? わかんない人いないー? じゃあ、教えられたとおりのチームとフォーメーション組んで、散らばってみて」

「「「はい!」」」

 怜の言葉で、小さな隊を組んで方々へ散らばる隊員たち。璃空はそれを頼もしく見ながら、ルティオスと星月にも指示をする。


「ルティオスは剣と銃を持って戦いに参加してくれるか? もしアンドロイドと言う人型のロボットが現れたときは、躊躇なく破壊してくれ。人間の目とおなじところを剣でひと突きするか、銃で打てば相手はおしまいだ」

「はい」

「星月は移動車に乗り込んで、負傷者の救護」

「ええ?! 私も戦う」

「戦闘を甘く見るな」

 思いがけない璃空の厳しい口調と言葉に、黙り込む星月。悔しそうに唇をかむが、ルティオスがその肩を優しく叩いて頷くと、かすかに頷きかえして移動車へと入っていった。



「国王。わかりました。次元の開く音は、ポイントψからです」

 移動車のパネルに位置が映し出される。

「よし、すぐに急行。ただし、新人隊員は必ず護衛ロボを1体連れて行くこと。数が足りない場合は、移動車周辺の警護。応援が来るまでここを離れるな」

「「「はい!」」」


 移動車からは次々と護衛ロボットが降りてくる。実際のところ、旧バリヤのベテラン以外は新人だ。移動車で運んできたロボットでは、やはり数が足りないようだ。

 けれど次元の扉は待ってくれない。結局、怜と川山のチーム、そして今日は休日だったブライアンだが、急遽もうひとつのチームの指揮官を引き受けて先行することになった。怜のチームには特別にルティオスも加わる。

「俺も行きたいが、今はここで総指揮をしなければならない。頼むぞ」


「まっかせときー」

「ああ」

「OK」

 3人の指揮官たちは、三者三様の返事を返して、ポイントへと急いだのだった。





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