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第2話


 なんなんだ、あれは? 

 なんだ、あいつらは?


 それよりも、まだ人が生き残っていたのか、あんなにたくさん。

 そのことが、驚きで、そして、何だろう、こんな時なのに、とてつもなく嬉しかった。





 彼の名はルティオス。

 クイーンシティからかなり離れたある国で軍を率い、次々に隣国を落として領地を広げていた立役者だ。彼の統率力と軍略はずば抜けて天才的だったため、あるときまでは向かうところ敵なしだった。

 そう、あのブラックホールが現れるまでは。


 あの日も、優勢、優勢で戦いを進めていたルティオス軍は、敵国国境まであと一息に迫っていた。敵国も最後の力を振り絞って、銃を持ち出し抵抗を試みてくる。しかし新式とは言え、銃はまだ照準があいにくい上にあまり威力もなく、盾を使えば恐れることはない。

「ひるむな! 」

 先頭を切って進むルティオスが、国境の壁にたどりついた時だった。


 グウォーー

 と言う不気味な音が鳴りだした。しばらくすると、遠くの地面の上にぐるぐると渦巻きが起こり、それが真ん中から少しずつ開きだしたのだ。

 敵国の兵器か? と、思ったのもつかの間。

 開いた扉の底は真っ暗な空間。

 それがあろうことか国境の壁をバラバラと崩しながら吸い込みだしたのだ。


 壁だけではない、人も木も草も。敵も味方もない。どんどんどんどん、それはすべてを吸い込んでいく。

「うわあー! 」

 ルティオスは恐怖に駆られて逃げ惑う兵士たちを立て直すべく、「落ち着け! 落ち着け! 」と、叫び続けたが、その努力もむなしく軍は散り散りになっていく。

 とにかく今は少しでも、1人でもこの場から救い出さねば、と、ルティオスが兵を誘導しようとしたそのとき、

 グオン!

 とひときわ大きな音がして、あの黒い空間が引き込む力を増した。


 見ると、国境の見張り台が吸い込む力に耐えきれずに崩れだし、崩壊したまま空間に引きずられていく。

 さすがのルティオスもこれにはどぎもを抜かれて、「皆! 走れ! とにかくここから遠ざかれ!」と叫ぶのが精一杯だった。

 心臓がパンクするのではないかと思うほど走って走って…

 まだ吸い込んでいるのか、と、一瞬振り向いたそのとき。

 すぐうしろにいた兵士の身体がフワッと浮かび上がり、後ろへと運ばれる。あ!、と思うまもなく、ルティオスも何かに捕まれたように身体が浮かび上がると、あの空間の方へと飛ばされたのだった。


 う、…ん…。

 身体のあちこちが痛い。

 うっすらと目を開けると、黒い天井。ぎこちなく首を動かして少し横を向いたルティオスは、目を見張る。飛び退きたいが身体が言うことをきかなかった。

 人ではない、けれども人のようなかたちをした機械? が横たわるルティオスを見つめている。そいつはルティオスのケガの上からピンポイントで、ジジ…、と何やら光線を浴びせかけ、上から透明なシートをかぶせていく。

 機械が手当をしている? このようなすごいものを、いつの間に、誰が作り上げたのだろう。

 それはともかく、幸いなことに、どうやら自分はあの空間に引き込まれはしたが、助かったらしい。


 ならば、他にも助かった者はいるのだろうか。

 ルティオスは無駄と思いながら、たった今、手当をしてくれた機械に話しかけてみる。

「俺の他にも、だれか助かった者はいるのか? 」


 すると、向こうへ行きかけた機械が動きを止める。しばらくすると、その機械はまたウィンと言う音を残して遠ざかってしまった。

 ルティオスはガッカリしたが、機械では仕方がない。


 また天井を見上げて、どうしたものかと考えにふけっていると、今度はさっきのとはまた別の機械が現れる。

「…☆▽↑」

 何かおかしな音がしているが、さっぱりわからない。

「何だ? おまえはなにをしたいのだ? 」

 思わず話しかけてしまうと、その機械は何やら目のあたりをピカピカと光らせていたが、急に言葉をしゃべり出した。

「旧……、i帝国言語……、カナリデータ不足…」

「おまえ、言葉を話せるのか? 」

「アト、何語………カ、情報ヲ下さい、ナン…トカ」


 ルティオスは心底驚いたが、機械の言うとおり、挨拶や短い文章をその機械に話して聞かせる。


 すると、また機械の目がチカチカ光り。

「解析終了シマシタ」

 と、今度は幾分なめらかに言葉を紡ぎ出す。

 ルティオスはかなり驚きながらも、いくつか質問をぶつけてみた。


 残念ながら、あの場から救い出されたのはルティオスただ一人。

 そして、今いるこの場所は、どうやら他のどの空間とも切り離されているらしい。なぜそうなっているのかは誰にもわからない、奇跡としか言いようがない、とは、機械らしからぬ答えだが、そいつはそんな風に答えた。

 そして、空間だけではなく、ここは時間をも行ったり来たりしているらしい。


 こいつらからすれば、ルティオスはかなり昔の年代に生きていたと言うことだ。

 なぜルティオスだけが助かったのか、それは、本当に偶然だったとしか言いようがないらしい。


「アナタガ、飛んだサキニ、たまたま、ココヘノトオリミチガ、開きマシタ。ソシテ、私たちハ、人ヲ、助けるように、プログラム、されてイマス」

 そのため、医療ロボットが瀕死のルティオスを賢明に蘇生させたとのことだった。




 そのあと何度か、この部屋は時間と空間を飛んで、あらゆる場所へと出入り口を開いたが、到着したところはことごとく砂漠が続くだけで、ついぞ人を見ることはなかった。

 自分がいた時代、住んでいた国に、どうにか返れないものかとルティオスは願う。

 だが、何度扉が開いても、やはり出てくるのは、砂、砂、砂…。


 もうあきらめようかと思った頃に、なにやら周りがザワザワしたことがあった。

 人の声?

「人がいる! おい! ロボット! 今、扉を開けられないのか? 」

 ルティオスが頼むが、扉はこちから操作しても開かない。

「くそう…」


 何度か悔しい思いをした。

 しかしあるとき、ようやく時が巡ってきた。


 ルティオスは開いた扉から砂が落ちてくるのを見て、今回もまた砂漠かとガックリ肩を落とす。しかしその直後、穴の上にそおっと言う感じで、人が顔を覗かせたのだ!

 ルティオスが歓喜したのは言うまでもない。あいつは何か知っているかもしれない。

 しかし、ただ出て行ったのでは、きっと自分は弁明の余地もなく殺されて終わりだろう。


 ならば。


 ルティオスは、上から覗いている男を殺さぬ程度に傷つけるつもりで、外へ思い切り飛び上がり、その刹那、そいつの肩口を切りつけた。


「きゃあー! 」

 女が叫ぶ声がする。女の戦士がいる国か。

 しかし、今切りつけた男は武器も持っていない。周りにいるやつらも、青い顔をして、ただ叫びながら逃げ惑うだけだ。

 しかも、なんだこいつらは? なんでこんなにヒョロヒョロしている奴らばかりなんだ。


 あきれて彼らを見回していたそのとき、

 チュイーン! 

 と、音がして、すぐそばの砂が飛んだ。


 銃か! しかも、かなり威力がありそうだ。ここは自分のいた時代よりも未来らしい。

 どこから撃ってきた!? 


 チュイーン!

 逃げ惑うヒョロヒョロが盾になってくれているらしく、次の弾も当たらなかった。


 見渡すと、見張りの塔の上で、長筒の銃を構えている男がいた。

 あそこか!


 ルティオスは背中に背負った盾を手に持ち直し、見張り台の塔へと走り出す。

 すると、しばらくして、こんどは短銃を手にしたあの男が、塔を降りてこちらへ向かってくるのが見えた。

 その男は銃を構えて撃とうとするが、幸いなことにヒョロヒョロたちがうまく自分を隠してくれる。

 「(皆! 伏せてくれ!)」

 男が訳のわからぬ言葉で叫ぶと、自分の前にいた奴らが大慌てで砂にうつぶせで寝そべる。


 ドン!

 男はすかさず銃を撃つが、ルティオスも負けじと盾で弾を防ぐ。

 ドン! ドン!

 かなり威力のある銃だが、ルティオスはぐんぐん間合いを詰めていき、まだかなり距離があるところから、「ウオーッ」と叫んで跳躍し、男に剣を振り下ろした。


 ガシッと音がして、男が銃で剣を受け止める。

 そして、銃を振り払おうとしたところ、勢い余って剣も一緒に飛んでいってしまう。

 二人はしばらく素手で戦いを繰り広げていた。


「!」

「!」

 なかなか決着がつかない中、ルティオスはじりじりと剣の方へと進むように戦いを進める。そしてとうとう、相手のほんの一瞬の隙を突いて横っ飛びし、落ちていた剣を手に取った。

「覚悟! 」

 と、男に向けて剣を振り上げたそのとき。


 チュイーーン


 どこから飛んできたというのだ。その弾は、ルティオスの手から剣をはじき飛ばした。

 まわりを見回しても誰もいない。

「ブライアン…」


 そう男がつぶやいて空のかなたを見る。

 手のひらに隠れそうなほど小さく見える距離から、動物にまたがった男が銃を構えているように見えた。あの遠さから撃ったのか? しかも動物に乗ったまま? ルティオスは自分の目を疑った。

 チュイーン!

 もう一度銃声がした時、ルティオスは右足にひどい衝撃を受けた。


「うう!」

 傷口をおさえて、これまでか…、と思ったそのとき。


 ザザアー

 と音がして、またあの出入り口が開いたのだ。ルティオスは薄まる意識を立て直し、落とした剣を拾ってその中へと自ら落ちていったのだった。





「う…、」

 目が覚めたとき、ルティオスは、見覚えのある黒い天井を見ていた。

「また助かったのか、不思議なものだ。…だが、なんなんだ、あれは? なんだ、あいつらは? 」

 ふと漏らすと、あのしゃべる奴が答えを返す。そいつはルティオスが寝ているベッドからは少し離れた、何やらジージーと音がしている台の近くにいた。


「ヒト、です。フツウノ」

「そんな当たり前の事を言ってるんじゃない。あの、精巧な長筒だとか、短銃だとか」

 そこまで言ったとき、ふたたび答えが返ってきた。

「コノ銃ノ型式ハ、VZX。製造ハ〇ネン。アナタガいた時代カラ、ほぼ、100年タッテ、サイショニ製造、サレマシタ」

 ルティオスが驚いて台の上を見ると、そこには、さっき振り払ったときに男の手から落ちた短銃が乗っていた。

「それは? 」

「アナタト、一緒ニ、落ちてキマシタ」


 どうやら2度目に開いた扉は、短銃が落ちたあたりだったらしい。

 しかも、あの世界は俺がいた世界から、少なくとも100年は後の時代だと言うことだ。

 まだあんなに人が生きている。それは単純に嬉しく思う。

 ただ、どうにも解せないのは、逃げ惑うだけのヒョロヒョロと、銃を撃ち、俺と互角に戦えるような者とがなぜ混在しているのか。あまりにもあの世界はアンバランスだ。

 なにより、男は戦闘するためだけに生きているはずた。物心ついたときから、男子は戦闘の仕方だけを覚えて成長していくものだ。それがルティオスの時代の常識なのだから。


 しかし、と、ルティオスは思った。

 あの、寸分の狂いもない腕前で長筒銃を撃ってきた男。あの男にはもう一度、どうしても会ってみたい。あの、みごとなまでの銃の腕をもう一度この目で見たいと、切に願う彼だった。

「あの神業のような銃の腕前を、もう一度この目で見たいものだ。なあ、どうにか、さっきの時代、さっきの空間の近くに出ることはできないか?」


 すると、最近はすぐに返事をかえしてくるようになったしゃべるロボットが、珍しく考え込んでいる。ピカピカとせわしなく目が光り、短銃とルティオスに交互に顔を向けている。


 そのあと反応がなくなってしまったロボットに、やはり無理だったのだと思った矢先、そいつは驚くような答えをはじき出したのだった。

「カクリツ、は、ナキニシモアラズ」





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