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第1話


「それにしても、こんな砂しかないところに、飽きもせずによくやってくるよなー。あっちの人間は」

 ここの扉が開いてもう数年たつ。

 すっかり観光地と化したこの砂漠は、今日も制限人数いっぱいの賑わいだ。

 国境のなごりとして残っている見張り台から、砂漠の観光客を眺める警備員。

「ただの砂漠なら、あちらの世界にもたくさんあると、さっき来た人が教えてくれたよ。けど、この二重壁と砂漠のコントラストが珍しいそうだ」

「へーえ」

 彼ら、1人はもとバリヤ隊員をしていたという中年の男。もう1人はバリヤの事は話に聞いたことがあるという程度の、若い男だった。2人はのんきそうに、自分たちのいる見張り台と、左右に続く鉄格子、そして完璧にそれに沿わせるように作り上げられた美しい壁を、あらためて眺めてみるのだった。

「たしかに、クイーンの技術は一見の価値があるけどね。本当にわかって来てるのかなあ」

「そうだな。俺も何度か護衛ロボットに助けられたことがあるが、あの技術はすごいとしか言いようがないな」

「へーえ」


 若い方の男は返事をしながらも、もとバリヤ隊員かなんか知らないが、いかにものほほんとして、事あるごとに娘の写真を嬉しそうに見せてくるこの中年男が、そんなに強いとはどうにも思えないのだ。

 実際、若い男は、もしもの時は俺が守ってあげるよ、おじさん。と、心の中ではちょっとバカにしたように思っているのだった。





 今回新たに開いた次元の扉は、クイーンシティからはかなり離れたところにある。

 それを理由に、ネイバーシティ政府は、今まで人数制限のかかっていたトンネルの通り抜けを、一般にも広く開放するようにと要求してきた。

〈クイーンシティから、高い壁を二つも隔てているのだから、人民の生活に影響は及ぼさないだろう〉

〈調査によると、次元のトンネルに住み着いて? トンネルの存続を図っているリトルペンタグラムたちも、こちらの通り道のものは、なぜか人に触れてもあまりはじけて消えないと報告を受けている〉

〈ブラックホールも、すでに十年以上現れていないのだから、そろそろ警戒をといても良いのではないか〉

 などの言い分で。



 十何年か前、当時のバリヤ組織によって、次元の扉を通り抜ける者はかなり吟味され制限されていた。それは、戦争に明け暮れさせられて、絶滅をも覚悟していたクイーンシティ人民の心をおもんばかるものだったのた。

 もう一つ、次元の扉を構成しているもののひとつで、呼び名をリトルペンタグラムと言う(金銀に輝きながらフワフワと空中に浮遊している)生物は、人に触れるとパチンとはじけて消えてしまい、その数が減ると、次元の通り道が閉じてしまうのだ。


 当時バリヤ隊員の他に通ることを許されたのは、クイーンシティの再建のために、純粋に生涯をかけてもいいと願った者たちだけ。

 彼らは老いも若きも、未婚者も既婚者も、当時はまだ危険の残るクイーンシティに移住して、なんとかこの街が消えてしまわないようにと尽力してくれた。

 おかげでクイーンシティは美しくよみがえり、人々は快適な暮らしを送ることが出来ている。破壊兵器だった戦闘アンドロイドも、改造されプログラムが組み替えられて、今では作業ロボットとして街の整備のために働いていた。


 そして現在、クイーンシティには二つの高い壁がある。

 戦争中に建設された、クイーンシティからほど近いところにある高い壁は、二度と争いを繰り返さぬ戒めにと、取り壊さずに残されたもの。


 もうひとつ、こちらは街からかなり遠い国境のあたり、当時は鉄格子のみだった仕切りに沿わせるように作られた高い壁。


 昔、この国境の向こうにもいくつか国があった。そしてその頃、こちらの次元の人々はとどまることなく戦争を繰り返していた。その報いか、あるときからどの国にも男子が生まれなくなり、人口がどんどん減っていき。とどめに、ブラックホールを有する次元の扉が開いたのだ。

 この国境の向こうにある国々は、場所を変えては次々現れるブラックホールにことごとく飲み込まれ、その後の大地には、なぜか多くの砂の平原だけが残されていった。

 とうとうクイーンシティ近くにそれが現れたとき、バリヤと異界の魔物、そしてリトルペンタグラムと一角獣が互いの力を合わせて立ち向かい、その入り口を封鎖したのだ。

 あの出来事以降、ブラックホールを有するような次元の扉は現れていない。


 その事実を盾に、ネイバーシティ政府は数年の年月をかけてクイーンシティを説得し、新しい扉にかぎり、トンネル通り抜けの人数制限を大幅に緩めてもらうことに成功した。

 ただし、観光できるのは砂漠の一定範囲のみで、しかも決められたツアー客のみ。

 滞在時間は3時間。

 など、厳しい基準が定められている。





 以上のような経緯があって、今2人の警備員が見下ろしている砂漠は、楽しそうに写真を撮ったり、歩いたり走ったりする観光客ばかりののどかな光景だった。


「今日も暇そうだな」

「そうですねー」

 生返事をした若い男は、中年男が「この前、学校の運動会があってね」と、嬉しそうにゴソゴソとなにやら取り出すのを見て、あーまた娘の写真がふえたのか、また見せられるのかなー、とちょっとガックリする。

 そのとき、かすかに、キューイーン、と言う機械のこすれるような音が聞こえる。

 ハッとしながら外を見た彼が、真剣な顔で砂漠の方に耳を澄ませていたかと思うと、

「何かおかしい。おい! すぐに国王府に連絡を取ってくれ」

 と、言うが早いが、もしもに備えて盾などを入れてあるロッカーへと走って行く。


「? なんだよ、おじさん」

 若い方が不審そうにその後ろ姿を見送っていると、砂漠の方から「あれは何だ! 」と、驚いたような声が聞こえてきた。

 思わずそちらを見ると、砂漠の一部にぽっかり穴が空き、その中へザザーっと砂が落ちていくところだった。

 もしかして、あれがブラックホール? 

 いやでも誰も吸い込まれてないし。

 のんきにそんなことを考えていた男と同じようなヤツがいたのだろう。ちょっと怖がりながらも、穴の中をのぞき込みにいく人が見えた。

「あーあ、さすがにあれは止めなきゃあとで怒られるなー」

 と、見張り台を降りるため、出口へと向かったそのとき。


「きゃあー!」

 いきなり女性の金切り声が聞こえ。

 ビシュッ

 まるで効果音がしたかのように、血しぶきが飛んだ。


「!」

 声も出なかった。

 穴の中からいきなり剣を持った人が飛び出してきて、すぐそばにいた男の肩の辺りを切りつけたのだった。

「あ、あ、わわ」

 若い男があまりの事に、その場に座り込んでしまうと同時に、中年男がロッカーから脱兎の勢いで帰ってきた。その手には、盾と、なんと黒光りするライフルや銃を持っている。

「おい! 国王府に連絡は取ったのか! 」

 中年男がいつもとは大違いの形相で怒鳴るのに、首を振ることしか出来ない若い男。

「早く連絡を取って救援を頼んでくれ! 」

 若い男が這って通信機のところまで行き、連絡を取りだしたのを見て彼は、窓のそばへと走り寄る。


 中年男は窓から外を狙うと、

 チュイーン

 と、何のためらいもなく引き金を引く。

「くそ! 外れたか。やっぱり腕がなまっちまってるな」

 言いながらもう一度、銃を構える。

 チュイーン!

「人が多すぎてまともに狙えやしねえ。くそう、こっちへ来やがる」


 舌打ちをした彼が、ライフルを短銃に持ち替えて、若い方へ声をかける。

「俺が時間を稼ぐから、おまえは連絡をとり続けろ。それから、」

 と、ドンっと見張り台の出入り口に、背丈ほどもある盾を置いて言う。

「もし奴が来ても、これで出口をふさいで隠れていろ、助けが来るまで」


 ブルブル震えながらうんうん、とうなずく若い男に、一つ微笑んで、中年男は外へと飛び出して行った。



 どれほどの時間、ここに隠れていたのだろう。

 いきなり、コンコン、と、隠れていた盾を叩く音がして、「ひー! やめてくれー! こ、殺さないでー」と、叫ぶ。すると頭の上の方から、

「あ、やっぱりいた」

 と、なんとものんきそうな声が返ってきた。


「だーいじょうぶだよー。俺たちは、味方。もう出ておいで」

 その言い方があまりにも脱力系なので、安心した男はそおーっと盾の上から顔を出す。

「ばあー」

「ひえっ」

 からかうようにそこに立っているのは、見慣れない戦闘服をまとって、こちらを見下ろしている男だった。


「無事で良かった。じゃあとりあえずクイーンシティへ帰ろうか。あ、俺はバリヤ国王チームの、神足っていいます。よろしくね」

 自分より、少し?年上だと思われるその男は、へらへらとした口調でとんでもないことを言った。

 バリヤ? バリヤって大昔に解散したんじゃないの?

 それよりも、気持ちが落ち着いてきたところで、若い男は大事なことを思い出した。


「そ、それより。川山さんは? ここに隠れていろって言って、あの怖い奴に向かっていったんですけど」

 思わず窓から外を覗く。

 すると砂漠には、ところどころに点々と赤いかたまりができていた。

 男はサアーッと血の気が引くのがわかった。あれは、血だよな。

「ああ、それも大丈夫。幸い亡くなった人はいなかったよ。その川山さんも今、応急手当してクイーンシティに搬送中」

「良かったー。じゃああの怖い奴は捕まったんですね」

 ホッとして言うと、

「うーん、それがさ。取り逃がしちゃったんだよねー」

「え! 」

「出てきたところとはまた違うところに穴が開いてね。そこへひょいって。だから、ここから早く引き上げた方がいいと思うんだよねー」

 いかにものんきに言うその男とはうらはらに、若い男は必死の形相で彼の袖にすがりつきながら見張り台を降りると、横付けされていた移動車に飛び乗ったのだった。





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