第11話
「ああ、ここにちょうど良い椅子がある。ゆっくり腰掛けろ、そう、ゆっくりとな」
エネルギー供給室に入ると、川山は真っ先に隊員を椅子に座らせ、傷の応急処置を始める。その間に他の戦闘隊員は油断なく部屋を見て回る。
「OK。こっちにはロボットはいないぜ」
「こっちもでーす」
璃空は四方の安全を確認し終えると、技術班に声をかけた。
「それでは技術班、この工場の機能を完全にストップさせてくれ。よろしく頼む」
「わかりました」
技術チームは持ってきた機器を手に、装置の前へと散らばっていく。そのあと璃空は戦闘チームにも指示を出した。
「ブライアンのチームは、俺と一緒にちょっと来てくれるか? 怜チームは川山たちと護衛をしていてくれ」
「OK。どうしたんだ? 」
「いや、ここへ来る途中の部屋に、見たことがないタイプのアンドロイドがあっただろう。それが少し気になったんだ」
言うと、璃空は供給室を出て、部屋の1つへと急ぐ。
「ああ、これだ…。ブライアン、すまないが確実にこいつの機能を止めるように、銃を撃ち込んでくれ。なるべく他に損傷が及ばないように」
「それで俺か。わかったよ」
ブライアンはアンドロイドの顔にあたるあたりをのぞき込んでいたが、うんうんと頷いて少し離れると、
ドン
と、銃を撃ち込んだ。
「これで目の破壊は完璧だと思うぜ」
「ありがとう、さすがだな。では、これを供給室まで運び込んでくれるか? 」
次に璃空は、若く力のありそうな隊員に声をかけた。
「「はい!」」
璃空たちがロボッを抱えてエネルギー供給室へ戻ると、傷の応急処置がちょうど終わったところだった。
工場の機能停止はあと少し。
それを確認した後、璃空は広実に連絡を取る。
「移動車、応答願います」
「はい、こちら移動車です」
「ああ、星月か。ちゃんとサポートはしているようだな」
「はい」
「わかった。ではこの通信をR4の部屋へ繋いでくれるか」
「R4の部屋? 了解しました」
星月はすぐさま通信を例の部屋へと繋ぐ。
「R4だよー」
すると予想はしていたが、R4の声がした。
「ああ、また通信を乗っ取っているのか。技術班と替わってくれ」
「わーヒドイ。ここはもともとR4たちの部屋です! 」
「ははは、悪かった。すまない」
「素直に謝るのは良いことデース」
と、口の減らないR4だが、すぐに技術班の1人と交代する。
「替わりました、どうしましたか? 」
「ああ、頼みがある。この工場で、今まで見たこともないようなロボットを回収したんだが、こいつを抱えて帰るのはどうにも時間がかかりすぎる。それで、その部屋を…」
「そちらに繋げば良いのですね。わかりました、やってみます」
技術班は最後まで言わずとも、璃空の考えがわかったようだ。璃空はよしよし、と言うように頷いて、技術班からの連絡を待つことにした。
そして、待つ間の時間を利用して、手の空いたこちらの技術屋に、くだんのロボットを調べてもらう。
「このロボットはデータにないタイプですね。うーん、中を開けてみたいなあ。でも時間がかかりそうだし」
技術班の隊員は、興味津々で嬉しそうにあちこち眺めたり触ったりしていたが、解体はあきらめたように璃空に言う。
「詳しく調べてみないと、どういう動きをしたり、機能があるのかはわかりませんね。外から見ただけではどうも…」
「そうか、」
そんな話をしていると、エネルギー供給室の一番大きな壁から、
ジジ、…ジジ
と、音が聞こえてきた。
そして壁がフニャフニャと揺れると、そこにポッカリと黒い穴が開きはじめた。
「お、もしかして! 早いねー優秀だねー、技術チーム」
怜が嬉しそうに言う。
予想通り、それはR4の部屋がつながった音だった。ただ予想外だったのは、一番始めに降り立ったのが星月だったという事だ。
「お待たせしました」
「星月! 」
璃空が驚いて言う。すると間髪入れずに通信から忠志の声がした。
「国王さま、ごめーん。どうしても行きたいって言うから俺が許可したんだよ。叱らないでやってー」
「広実…」
璃空が、ため息ともつかない声でつぶやいた。
「いいじゃん。星月ちゃんはその部屋で移動するの慣れてるし。それにとっても優秀だ」
あきれた顔で通信を聞いていた璃空は、改めて昔からバリヤはこういう組織だったと思い出す。
臨機応変。
口の悪い言い方をすれば何でもあり。
当時のリーダーだった手塚が、世の中の馬鹿な常識にとらわれないタイプだったため、バリヤはかなり自由な組織だった。
真面目な璃空も、その点だけは身体に染みついているらしく、人を陥れたり、命に危険が及ぶような事以外は、色んな事に対してかなりおおらかである。
「わかったよ。広実がそう言うのなら、間違いないな。よろしく頼む」
「ありがとうございます」
ニッコリ笑って、だが他人行儀に答えた星月は、早速仕事を始める。
「まず、負傷した方をこちらへ」
と、隊員をベッドへと誘導する。
「すみません」
「いいえ、無理をしないでゆっくり横になって下さい」
撃たれた肩をかばいながら、そっとベッドに横たわる隊員。そのあと彼は、安心したのか、ほう、と息をついた。
すると、見慣れないロボットがスルスルと近づいてきて、応急処置をはずしてしまう。驚く隊員を無視して、そのロボットはケガに光線を当て、透明なシートをかぶせた。
「あ、説明が遅れてごめんなさい。この子は医療ロボットなの」
「はあ…」
何とも間の抜けた答えを返した隊員だったが、シートをかぶせたところから痛みが引いていくのを感じると、かなり驚いていた。
「それからアンドロイドは、ここへ寝かせてもらっていいかしら。ええ、そのあたりに、どうもありがとう。…ええっと、R4」
星月はアンドロイドを部屋の入り口近くに運び込むと、R4ともう1体のロボットを呼んだ。
また見慣れぬロボットがやってくると、入り口に寝かされたアンドロイドに機械の手を当て、ビビッと音をさせながら計算するように動きを止めた。しばらくして、ガクンと頭を1つ振ったロボットが、今度はR4に手を伸ばす。
「…、…。このアンドロイド、目を撃ち抜いただけでは止まりません。もう一つ、左胸。人で言う心臓のあたりに銃を撃ちこんでー」
「! 」
思わぬR4の言葉に、驚く璃空たち。ならばと、またブライアンが出てきてR4の指示するところに銃を撃った。
ドン!
すると、一瞬ヴィーン…と音がして、だがすぐにそれが消えていった。
「やっぱりすごいな、このロボットたちは。たったあれだけで、そこまでわかるなんて」
さっきロボットのことを聞かれた技術隊員がほれぼれした様子で言う。そんなにすごいのなら、工場の機能停止をしてもらえば良いと思うだろうが、R4以外のロボットは、なぜか決して部屋の外へ出ようとはしないのだった。
「R4たち、天才ー、と言いたいけど。トッテモ遠い未来から来たから、ただデータを持ってるだけー。このロボットもそのうちのヒトツ」
「そうなのか」
「ソウなのダ」
「機能停止、完了しました」
そんな中、技術班から声が上がる。
「終わったか、ご苦労だったな。ありがとう」
「いえ」
隊員たちにホッとした空気が流れ、
「では、そろそろ引き上げるぞ」
と、璃空が指示を出したそのときだった。
クイーンシティの一番北端にある工場から通信が入る。
「こちらはクイーンシティ北工場! 見たこともないアンドロイドが、工場に! 」




