第10話
「それでは、行ってくる」
移動車のモニター画面に、手を上げる璃空たちの姿が映る。
その団体は、するすると次元の扉へと消えていった。
「いってらっしゃい、お父さん。……ルティオスも」
移動車から聞こえた星月の声に、璃空だけに聞こえるようにささやく怜。
「…あーあ。お父さん、より、ルティオスも、の方に、より気持ちが入ってたなー」
「星月もそんな年頃になったんだ。怜もふざけるんじゃない」
こちらもつぶやくように言うと、ずんずんと先へと行ってしまう璃空。
「親なんてつらいねえ。あ、ところでルティオス」
今度は普通の声に戻って言う。
「ルティオスってさ、いくつ? 」
「いくつ? 」
「ああ、わかんない? 年は何歳ですかー」
「あ、はい。23です」
「ええー、そうかー、じゃあ彼女が17だから、6歳違い、うーんいいねー」
あごに手をあてながら、嬉しそうに言う怜。
「? 」
訳がわからず首をひねるルティオスの背を叩いて、「じゃ、行こうか」と、先を急がせる怜だった。
次元のトンネルは、璃空たちにとっては通り慣れたもので、その様子は以前と少しも変わっていなかった。ただ、若い隊員たちは初めての者も多く、皆、キョロキョロとあたりを見回しながら、なぜともなく嬉しそうだ。
「面白いか? 」
璃空が聞くと、隊員の一人が「はい! 」と、元気よく答えてくれる。
「こんな狭いところでリトルペンタ見るの初めてなんで。しかもこいつら、習ったとおり俺たちにぶつかると、パチンとはじけちまうんですね。何だか可哀想なんで、なるべく当たらないように通ってます」
「お、お前もか? 俺も俺も」
「俺もだよ、こいつら、かーわいいもんな」
口々に言いあう隊員たち。
璃空は、彼らのその様子を感心しながら眺めていた。
こんな状況なのに、リトルペンタに心配りできる優しさ。彼らの優しさや必要以上の欲のなさは、平和が続いているからこそ備わってきたものだと思う。その素質を出来れば生涯、手離してほしくない。これまでの歴史はどうあれ、自分たちは自分たちのままで、自信を持って世界を形作っていってもらいたい。
そのためには、経験を積んだ年かさの大人が、地道に平和を唱えながらそれを継続させていかねばならないだろう。
そんなことを考えながら、前へと進んでいった。
トンネルの中は、順調に進んでいった。
しばらくすると出口が見えてくる。
「お! 出口だ、やったね。どこへつながってるんだろう、楽しみー」
怜が勇んで外へ出ようとするのを遮る璃空。
「国王? 」
「まず俺が様子を見てからだ。安全を確認したら合図するから出てきてくれ」
言い終えると、反論される前に光の中へ消える璃空。怜は自分が最初に出て行けないのが悔しくて、文句タラタラだ。
「もう、相変わらず高みの見物が出来ない性格なんだからー。でも、今はただの指揮官じゃなくって、国王なんだよー、こ・く・お・う。少しは自分の立場ってものを」
「わかってるさ」
出口から引き返してきた璃空が答える。
「うわ、もう帰ってきた」
「ああ、安全に関しては問題ない。だがちょっと驚くぞ」
と、言いながら、また外へと出て行く。
その後に続いて怜のチーム、そして技術班、最後にルティオスが外へ出た。
「これは…」
「うわあー」
隊員たちが目にしたのは、荒廃した建物と、その上を覆っている木々や草花。そして深い森が延々と続いている景色。一歩その森の中へ踏み込んだら、きっと帰ってこられないだろうと思わせるような。
そして次元出口のすぐ足下には、地下へ通じる階段が草木に半分覆われてその口を開けている。驚くことに、ロボットが無理矢理こじ開けたのか、斜めに傾いた地下への扉には、クイーンシティの紋章が刻まれていた。
「ここって、クイーンシティなの? 」
怜が驚いたように言う。
「ああ、どうもそうらしい。だが、こんな地区があることすら知らなかったな」
と言いながら、璃空が試しに通信機を使ってみた。
「こちら国王だ。この通信を傍受した者は、応答願います」
するとあちこちから返事が返ってくる。
「はいはーい。こちら広実。もう通り抜けちゃったの? 通信が使えるって事は、違う次元じゃないんだね」
「はい、こちらクイーンシティ王宮警護班です。どうされましたか? 」
「こちらは研究所」
「クイーンシティ工場です」
「こちら天文観測所です」
「技術班がR4の通信も使えるようにしてくれたー」等々。
璃空は、広実と研究所、そして警護班以外には断りを入れて通信を切ってもらうと、その3つに指示を出した。
「まず広実。とりあえず次元通路は安全だったので、あと2チームほど戦闘員を送ってくれ。それから研究所。俺が今いる正確な位置はわかるか? 」
すると2つとも、即、返答が来る。
「へいへい。じゃあ、さっきと同じく川山さんとこと、ブライアンとこに行ってもらうね」
「こちら研究所。今、調べています」
しばらくして研究所からの返事が入った。
「場所がわかりました。クイーンシティには間違いないのですが、おそらくかなり前に、なぜか閉鎖した工場だったところと思われ、最近では人が入ることはまずありません」
「閉鎖した工場? 」
それは璃空も初耳だった。詳しくは後でゼノスに確認してみることにして。
「場所としては、現在の工場の北の方、ポイントとしては…」
そこで会話が途切れる。どうしたのだろうと思っていると、困惑するような苦笑するような声で、研究員が答えた。
「ポイントもありませんね。本当に地図にもない地域になってしまっています」
研究員が苦笑した意味がわかった。璃空はこちらも苦笑いを返しながら言った。
「わかった。どうもありがとう。それと、もうひとつ頼みがある」
「何でしょう」
「ゼノスや他のキングたちに連絡を取って、昔のこのあたりの様子を聞いてくれ。今の話だと工場はこれ1つのようだが、他にも何か重要な建物があったかもしれない」
「わかりました。早急に連絡を取ってみます」
そのあと警護班に呼びかける。
「最後に警護班、今聞いたとおり、ここはクイーンシティ中心部からはかなり離れている上に、まわりは見通しも足場も悪い森だ」
「はい」
「だが、次元の扉に入らなかった戦闘アンドロイドが街へ向かうかもしれない。クイーンシティ市街全域の警護を強化するように」
「了解しました」
その間に、川山・ブライアン両チームが到着する。
「よし。皆揃ったな。…ではこれから地下の捜索を開始する。各自、護衛ロボットを必ず1体、つけること。連絡は密に。そして決して無理はするな」
「「「はい! 」」」
降りていった地下は真っ暗だった。
「あれ? 電気ないのかな。おおもとの電源はどこなんだろー。まさかランプとかじゃないよね? 」
「さすがにそれはないだろう。じゃあさっきのロボットはネジで動いていたとか? 」
怜と川山が冗談ともつかないことを言っている。
「なにバカなことを言ってるんだ」
璃空は可笑しそうに言うと、装備していたライトを取り出してあたりを照らす。
「何らかの原因で、電気やそのほかがストップしてしまったようだ。アンドロイドの攻撃が途切れたのも、たぶんそのせいだろう。まずエネルギーの供給源を探して完全に止めてしまおう。それでこの工場とロボットはおしまいだ」
すると同じように壁を照らしていた隊員が声を上げた。
「ここに工場の見取り図があります」
「お、やったじゃん。どれどれ、えーとじゃあ画像撮って皆に通信で送ってよ」
「わかりました」
隊員は見取り図を取り込むと通信を操作する。彼はその場にいる者の他に、移動車とR4のいる部屋へも通信を送ったようだ。
「結構広いね。…あ、エネルギー室っていう表示がある」
「そうだな。では、怜チームは技術班の護衛をしながら進んでいけ。ブライアン・川山両チームと俺は各部屋を確認しながら先導する」
「ラジャー」
「わかった」
「OK」
エネルギー供給室は、工場のかなり奥にあった。
途中、重そうな扉がしまっているところでは、2つのチームが順にいちいちそれを開けながら進んでいく。工場とはいえ、どうやらここは新しいロボットの開発もしていたようで、それらの格納庫も兼ねているようだ。
はじめから扉が開いていた部屋は、どこももぬけの殻。ここにいたヤツらが外へと出ていったのだろうか。
反対に、閉まっている扉の向こうには、アンドロイドが丸い充電板の上に並べられていた。
見たことがあるヤツもいれば、初めて見るようなタイプもある。ただ、電源が入る前にエネルギー供給がストップしたのだろう、そいつらはピクリとも動かない。
あと少しというところで正面にドアが見え、その扉に文字が書かれていた。
「あ、エネルギー供給室って書いてありますよ。うっし! 」
川山チームの隊員が、少しだけ開いていた扉の前を、室内の確認もせずに走り過ぎようとした時だった。
「部屋の中を確認しろ! 」
川山が隊員に叫ぶのと、ドオン、と言う音がほぼ同時に起こる。いきなりドアが全開になり、中から攻撃が仕掛けられたのだ。予想外な隊員の行動に不意を突かれた護衛ロボは、それでもすばやく彼を覆い隠したが、なにより隊員自身がほとんど警戒をしていなかった。
「うわ! 」
扉の前にいた隊員が後ろへとはじけ飛ぶ。
すかさず川山が彼をかばうように前へ立ち、ドンドン! と銃を撃った。
ガラガラと崩れ去るロボット。
だが、部屋の中にはまだ何体かロボットがいるようだ。川山チームが負傷した隊員をかかえて部屋の前から離れる。ブライアンチームが間髪入れずそのあとを引き継いで、部屋へと飛び込んで行った。
ドオン! ドンドン!
何発かの銃声の後、部屋の中は静かになった。
「もう大丈夫だぜ」
銃を片手にブライアンが姿を現す。後から他の隊員たちも部屋を出てきた。
「大丈夫か? とりあえずエネルギー供給室へ入って手当をするぞ」
璃空が負傷した隊員と、そのチームに声をかける。
「すんません。…ちょっと、…浮かれてました」
「わかったから、しゃべるな」
川山がなだめるように言うと、隊員はほんの少し頷いて黙り込む。
そして、ブライアンチームが室内の安全を確認した後、隊員たちはエネルギー供給室へと入って行ったのだった。




