第9話
バリヤの3チームは示されたポイントから少し離れたあたりで移動車を降り、目的の場所へ向かう。そこには見慣れた次元の扉が口を開いていた。
「さあーて、どーこに通じているのかな~♪。俺、入ってみようか? 」
「いきなりはダメだぜ、怜。しばらく様子を見る」
慣れた様子で中をのぞき込み、のんきにやりとりする怜とブライアン。
その横では、川山が璃空に報告をしている。
「今のところ特に異常なし。見慣れた次元扉です」
「わかった。今、技術班とR4が護衛ロボットを運んできてくれた。便利だな、この部屋は。すぐに残りの隊員たちもそちらへ向かわせる」
「R4エライでしょー。ほめてほめて」
「おい、こら」
通信を乗っ取られた? のか、璃空の慌てた声がする。
「R4にかかっちゃ、真面目な国王も形無しだな」
と、ブライアンが言って、皆が苦笑し、和やかな雰囲気がだよったそのとき。
ひゅう…
開いた次元扉の奥から風が吹いてきた。
「!」
怜とブライアン、川山の3人にさっと緊張が走り、「何か来る、気を抜くな! 」と、川山が周りに声をかける。
最初に扉から現れたのは、かなり古いタイプの戦闘アンドロイド。動きが遅い上に、離れたところからの攻撃も出来ないヤツだ。
「ひっさしぶりだねー、アンドロイドちゃん。でも、懐かしいからって手加減はしないよ」
怜が余裕でそんな風に言いながら、ドン、と、目とおぼしきところに銃を撃ち込む。戦闘アンドロイドは、すぐさまガラガラと崩れ去った。
それを見た若い隊員たちは「おおー」「すげー」と感心しつつも、ゆっくりとした動きしかできないロボットに拍子抜けしたようになる。
その上、
「なんだ、簡単なんじゃん」
「指揮官、休んでてくれてもいいですよー」
などと軽口を叩く。
怜はそんな隊員たちに向かって、珍しく少し厳しい言い方をする。
「いま倒したのは、いちばん古いタイプ。もうじきすごいのが出てくるから、気を抜かない! 」
日頃優しい怜のきつい口調に、ビクッとした隊員たちは、気を引き締めて扉に向かい合った。
すると、後から後から同じタイプのが大量に現れだした。
「うへっ、数に物言わせてる」
「とにかく破壊しなければ。皆、行くぞ」
「「「はい!」」」
新しい隊員たちにとっては、動きの遅い旧型ロボットは射撃に慣れるためにはうってつけだった。いくら遅いとは言え、動いている相手の、しかも小さな目に弾丸を正確に打ち込むのは、なかなかどうして難しいのだ。
隊員たちは「あれ?」とか、「あたらねー」、「すげえ難しいじゃん」などと言いながらも、次第に自分の感覚をつかみ取って行く。
「倒せども、倒せども…、ロボットちゃんはいなくならず。でもさ、どうしてこんなに残ってたんだろ」
怜が愚痴っぽく言ったのを受けて、通信から璃空の声がする。
「ブラックホールを強制的に閉じた後、建築物の地下倉庫はすべて調べたんだがな。これはもっと深いところに隠されていたのか。それとも別のところか」
「次元の扉だから、向こうに行ってみないとわからないよね。よおーっし、皆、こいつら破壊して、扉がどこに通じてるのか調べるぞー」
「おー!」
威勢の良い隊員の声に、「無理は禁物だぞ」と、諫めるような璃空の声。
だが状況は、あと少しのところでまた変わろうとしていた。
ドオン
ほとんどいなくなった旧型ロボットを押しのけるようにして、今度は動きの速いヤツらが飛び出してくる。
「うわっ」
「な、なんだこいつら」
隊員たちは今までと全然勝手が違うロボットに、少しひるみ気味だ。気勢をそがれて銃を打つ手が止まっている。そのときだった。
ドンッドンッ ! ! ! ! !
「なに?」
ものすごい連射の音に驚く隊員たちがそちらに目をやると。
ブライアンが目にもとまらぬ早さで、次々に動きの速いロボットを倒していく。
彼だけではない。怜も川山も、ブライアンには劣るが、さっきとは段違いの早さで銃を撃っている。
「何ぼんやりしてる! 数は倒さなくてもいいから、正確に狙っていけ! 」
川山の言葉が合図になって、若い隊員たちも戦闘に加わった。
幸いこちらには、クイーン自慢の護衛ロボットがいる。彼らのおかげで、敵からの攻撃はほぼないに等しい。その性能は、衰えるどころか、どんどん進化しているようだ。
隊員に混じって銃を撃っていたルティオスが、
「やはり俺にはこっちがいいようだ」
と、銃をホルスターに納めて剣を抜いたのはそんな時だった。彼は近くで銃を撃つ怜に聞いた。
「この護衛ロボットというのは、どこへ動いても必ずついてくるのですか? 」
「え? もっちろん。クイーンの技術ってすごいんだよー。ちょっと見てて」
怜は言うが速いが、ダダッと敵を誘導するように走り出す。護衛ロボットの守備範囲から飛び出した者を見逃すはずのない戦闘アンドロイドが、すかさず攻撃を仕掛ける。
ドオン
格好の標的だった怜は、あわれ敵の銃弾の餌食に…、なるはずが、なんと、怜に覆い被さるようにクジャクの羽が広がっている。護衛ロボットだった。
「ね? 」
羽の向こうから怜の声がする。
その光景に満足そうに微笑んだルティオスは、1つ頷くと、ダダッと敵の真っ只中へと飛び込んで行った。
「ルティオス? 」
「何してるんだ! 」
あっけにとられる隊員たちを尻目に、動きの速いロボットめがけて走りより、剣を振り下ろす。
スパァァン!
なんと言うことか、ルティオスの剣は、戦闘アンドロイドの頭を、ちょうど目のあたりから真っ二つに切り落とした。ガラガラと崩れ落ちるアンドロイド。その後も向かってくる敵に、次々に切り込んでいくルティオス。
戦闘ロボットは大立ち回りをするルティオスにどんどん攻撃を仕掛けるのだが、護衛ロボットがそれをみごとに阻んでいる。ただ、ルティオスは守りをアンドロイドに頼り切るのではなく、自分の持つ盾で、わずかな死角をついてくる敵の攻撃を防いでいる。
「へえー、あんな倒し方、初めて見たね」
「そうだな。それにしてもあの剣の威力はすごいな」
「一角獣の角を使っているんだ。昔から剣にはあの角が最適だったんだな」
3人の元バリヤ隊員たちは、戦闘しながらもそんなことを言い合っている。敵の動きに合わせるのが精一杯の若い隊員たちにとってそれは尊敬に値する。
そして、この速いロボットの動きについていくばかりか、至近距離でそれを倒すルティオスにも、尊敬の念を抱かずにはおられないのだった。
後から来た隊員たちの加勢もあって、ようやく次元の扉周辺は静かになった。奥からロボットが来る気配も、もう感じられないようだ。そのことを報告すると、璃空は少し間を置いてから指示を返してきた。
「皆、良くやった、ご苦労だったな。ところで、たぶんすぐ扉の中へ入りたい奴ばかりだと思うんだが、ここはいったん引き上げてきてくれ」
「ええー?! なんでー」
案の定、怜が文句を言う。他の若い隊員たちも声には出さないが、その表情が不満そうだ。
「まあいいから。国王命令だ」
璃空は日頃滅多に使わない最高権限を出してきた。それを聞くと、さすがの怜も「ずるーい」などと言いながらも、従わざるを得ない。
護衛アンドロイドを外に置いて、隊員たちは移動車に乗り込む。中には璃空の他に技術班も待機していた。
「勢いづいてるところを悪かったな、怜」
「ホントだよー、皆、やる気満々だったのにぃ」
璃空が怜の肩に手を置いて言うと彼は少し不満げに言う。
「ルティオス! 」
その横から、キョロキョロと誰かを探していた星月が、ルティオスの姿を見つけて飛んでいった。
「大丈夫だった? ケガしてない? いきなり敵の中に飛び込んで行くから、心配しちゃった。あ、はいこれ、飲み物よ」
ルティオスは少し驚きながら「ありがとう」と言うと、今度は優しい微笑みを浮かべてドリンクを受け取っている。
その様子をポカンとしながら眺めていた怜が、こっそりと璃空に何か耳打ちしたあと、星月に呼びかける。
「星月ちゃーん。こっちにも飲み物ないのー」
ドリンクを口に運ぶルティオスを嬉しそうに見上げていた星月は、その声にハッとした様子で返事を返す。
「あ、あ。ごめんなさい。皆さん、飲み物がありますので、どうぞこちらへ」
と、アタフタしながら他の隊員にもドリンクを配りだした。
璃空は複雑そうな表情を苦笑いに変えて星月を眺めていたが、全員に飲み物が渡ったのを確認すると、すっと表情を引き締め、良く通る声で言い出した。
「皆、ありがとう。皆のおかげで、ロボットをこんなに短時間で、その上こんな狭い範囲で食い止める事ができた。クイーンシティ市民に変わって礼を言わせてもらう」
と、深々と一礼する。そしてまた頭を上げて話を続ける。
「ところで、今後のことだ。あの扉は戦闘アンドロイドが出てきたという事実から、そのままにしておくわけにはいかない。どこへ通じているかを確認して、対策を立てねばならない。だが、トンネルの通り抜けは大人数ではかえって動きがとりにくいだろう。…そこで、はじめは技術班と戦闘班で小チームを編成して入る事にしたいのだが、どうだろう? 」
問いかける璃空に、皆、黙ったままだ。当然賛成ということである。
「皆、賛成で良いんだな、よし。そこでとりあえず戦闘班を1つ選びたいんだが、」
「はいっ! 俺のチーム! 」
すかさず怜がピッと手を上げる。怜チームの隊員たちも目をキラキラさせて大きく頷いている。璃空は仕方がないと言うように笑いながら、他チームの指揮官に聞いた。
「怜がああ言っているんだが、他に候補はないか? 」
すると他の指揮官が口々に言う。
「行きたいのは山々だが、怜に恨まれそうだ」
「ああ、後でさんざん泣き言を聞かされるのは嫌だぜ」
聞くまでもなく、言い出したら聞かない怜の性格を皆よくわかっているようだ。璃空も頷いて怜に許可を出した。
「わかったよ、だったら戦闘班は怜のチームに任せる」
「イヤッホーイ」と、飛び上がって喜ぶ怜チームのメンバー。
すると別の方向から声がした。
「だったら俺も加えてくれ」
ルティオスだった。
驚いてそちらを見る璃空たちに、笑って答えるルティオス。
「さっきも、俺は怜のチームだったから」
「だが…」と、言いかけた璃空よりも速く星月の声がする。
「ダメよ! 貴方はもともとこの時代の人じゃないのよ! そんな危険を冒す必要なんてないわ! 」
「星月? 」
驚いて声をかけるルティオスに続けて言う。
「どうしてもって言うなら、私も行く! だって、だってルティオス、まだ言葉が全部わかってるわけじゃないもの。通訳は必要よね? 」
「(あー、コホン。俺はi国語しゃべれます)」
すると、何と怜チームの一人がi国語で話し出す。怜が「グッジョブ」と、親指を立てたあと、星月に向かって言う。
「ごめーん、星月ちゃん。そういうこと。でさ、星月ちゃんはバリヤ戦闘チームじゃないもん。これは危険な任務なんだよ」
「だったらルティオスだって! 」
必死で言う星月に、ルティオスが毅然とした声で言った。
「俺は戦士であり、軍人だ」
その言葉に星月は声をなくして、ルティオスを見上げる。射貫くような迷いのない瞳で見つめられて、星月は涙をこらえながら唇をかんだ。
「星月」
そんな星月を、また複雑な表情で見ながら璃空が声をかける。
「お前は移動車に残って俺たちと通信をとりながら、ここでのサポートをしてくれ。これは大事な仕事だぞ」
「え? 」
「ええ?! 俺たちって国王も中に入るの? 」
驚く星月と怜に、当然のように答える璃空。
「当たり前だろう。隊員だけを危険な目に遭わせると思ったか? 」
「だって、だってじゃあ、ここの指揮は誰がとるのさ? 」
「ああ、それなら適任者を呼んでおいた」
と、璃空が指さす先には。
「お待たせしました、真打ち登場でーす」
一段高いところでうやうやしく頭を下げる、広実 忠志の姿があった。




