虹の降る丘
暗雲垂れ込める低い空
落ちゆく雫に ため息一つ
雨は嫌いだ
大嫌い
濡れないようにと 傘をさす
広い街中 僕は一人だ
行き交う人々 全てが他人
そいつらなんて いようがいまいが
僕にとっては同じこと
最初は 濡れない傘の中で
綺麗な自分を保ちたかった
大勢の仲間といたかった
それが出来ると信じていたのに
自分の汚さを見つけてしまった
他人の狡さに気づいてしまった
綺麗な傘のその中は
すでに汚れでいっぱいだった
なんて無様な話だろうか
所詮 人間は醜いモンだ
僕も あんたも 皆狡い
知らん顔で 美しく繕う
綺麗さなんて幻想だ
裏切り合って傷つくくらいなら
繋がる必要なんてないだろう
一人の世界で生きればいいのさ
誰かと生きても 得られるものなどありはしない
遥か遠くで 雷鳴一つ
大地を震わすその衝撃が
僕の胸をざわつかせる
苦しいんだよ
つらいんだ
一人でなんていたくはないよ
聞こえないはずの声が
仲間を連れてやってくる
何度も何度も 地鳴りが響く
耳を塞いで 僕は走った
追ってくるのは嫌な声
聞きたくなかった弱い声
かき消すように
逃げるように
走って 走って
僕は弱い
僕は汚い
こんな僕は――――生きていていいのだろうか
気づけば 雨は止んでいて
全身濡れて泥だらけ
そんな時 丘の上に見えたのは
いようがいまいが変わらない
ほとんど他人のあいつだった
「きったねーの」
目が合いそう言い あいつは笑う
そんなあいつも泥まみれ
笑えるような話だが
なんだかそれが嬉しくて
泥臭い笑顔が
何より綺麗に見えてしまった
どうしてだろう
あいつにつられて僕も笑った
あんなに嫌った雨だって 濡れてしまえば平気なもんだ
あんなに拒んだ泥だって 二人並べば笑えるさ
泥にまみれた汚く狡い あいつと僕
おかしなことに 汚くたって嫌じゃない
泥も受け入れ笑ってみようか
泥があるから いまの僕らでいられるのだから
汚いからこそ見える 綺麗な虹がここにあったよ
所詮人は醜い者だ
自分が大事で 弱くて狡い
一人でいる方が 楽だろう
傷つくこともないし
他人に 迷惑をかけることもない
それでも
傷ついたって 傷つけたって
歩み寄りたい 誰かと居たい
相手を通して自分を知りたい
自分を通して相手を知りたい
そうしてはじめて
まだ見ぬ何かが得られる
何でかわからないけど
そんな気がしたんだよ
僕は雨が嫌いだ
大嫌いだ
濡れたくないし
汚いこともわかるから
だけど それ以上にもっと
雨が好きだ
大好きだ
虹が降って 誰かと心を繋いでくれる
不安も汚れも 誰もが同じだ
それがあるから こんなにも人は綺麗で
こんなにも世界は面白い
そう笑い飛ばせるようになるのだから