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屑拾いルバンク  作者: 白猫野明良
屑拾い偽りの章
3/19

2

カッと目を見開いた老人がこちらを凝視しているが、こちらに伸ばした片手は小屋の地面の土を掻いたまま動かない。


 あばら小屋を離れるという選択肢は私には無い。

死体になればいつもの盗人作業が出来るからだ。

いつだって、生きている人間よりも死人の方が自分に優しい。

しかし、目の前の老人のこの状態が嘘だとしたら、自分が動いた瞬間、飛び上がって襲って来るかもしれないなどと嫌な想像が頭を駆け巡る。完璧に死んだと信じられるまで、それから一刻近くそこで眺めていた。


 私は今までに無い程の幸運で嬉しくて踊りたい気分だった。

死体は死体でも綺麗なままで、しかも身につけている物は極上だ。

それに、青年から宝物らしき物を渡されていたではないか。

あれを手に入れたら腹一杯の肉が食えるかもしれないのだ。

私はワクワクして老人の死体に手をかけた。


 まずは財布の巾着を手にして、にんまりとほくそ笑む。こんな重い財布を手にしたのは何時ぶりだろうか。

以前戦場で金の入った巾着を手に入れた時は、周りに同じ様なルバンク達がおり、身体の小さな私は全部奪われてしまったのだ。

それが今はどうだろう。誰も居ない場所で独り占め出来るのだ。


 そして、目を付けていた、あの宝物を死体の懐から取り出す。

ずっしりと重い包みの刺繍布を開くと四角い木の箱が出てきた。

幾分がっかりしたが、蓋を開けるためにドキドキしながら指に力を入れる。

重さからして中身は大層なお宝かもしれない。

自分の幸運に酔いながら蓋を外すと、出てきたのはまたもや小さな木箱だった。

「え……」

騙された気分になって、再び蓋を開けるとまた木箱が出てきた。

「何だよ。偽物、嘘っぱちか!」

最後に手にしたのは、手の平に握り込める程の四角い木の塊だった。

賭博で使用する賽子と似ている。

「畜生っ」

地面に叩き付けたかったが、その賽子の柄が珍しいし、玩具で遊ぶ習慣はないが、持っていても荷物にならないからと巾着に一緒に入れようと口を開く。


 その巾着の口を開けた時に見えた銀貨や金貨、白金貨に恐れ戦く。

「す、すげぇ……っ」

老人の遺体の武器を見ると、やはり何かの模様が持ち手の部分の先に彫り込んであった。

この老人は貴族と呼ばれる人種だ。

こういう武器は金にならないと知っている。

余程の伝手が無いと売り払う事が出来ないのだ。

武器を金に替えようとしたルバンク達が掴まったのを何度も見ている。

足が付かない方法は懐の財布や小物のみだ。

後ろ髪を引かれるが、自分へ嫌疑が罹らない様にしないと生き残れない。

自分の汚い麻袋に金を移し、綺麗な布や財布は老人の懐に戻す事にした。

木箱は最後の賽子だけ貰う事にして、他は元通り布に包み死体の懐に戻しておく。

物取りにあった形跡が無いならば疑われる事もない。


 私はさっさと、その場を後にする事にした。

この老人が貴族ならば、お付きの従者がそのうちこの辺りに探しに来るだろう。

しかしこのままでは、金貨を奪われる可能性があるかもしれない。

落ちていた切れそうな縄で下半身の急所付近の内股に巻き付けて、その上に汚れきったズボンをはいた。


 街道を出てから暫くすると、後ろの関所方面から兵団が煙を立てて移動してきた。

私は街道の脇の木立の影でその団体が通り過ぎるのを踞って待つ事にする。

戦の期間が長かったからか、兵達は傭兵が多い。

農村からの徴兵で農民の数が減った事から、食料の供給に支障をきたし、ガルトマ国では各国から流れてきた傭兵を徴用する様になっていた。

農民上がりの兵士と違い、元傭兵の兵士は気性が荒く、八つ当たりでルバンク達を斬り捨てる事もあるのだ。


 自分の付近から音がしなくなって、もう大丈夫かと思い立ち上がった。

すると目の前には、小便をした後だろう、身繕いしていた大柄な兵士が居た。

「ちっ、驚かせやがって! 屑っころが!」

お互いに驚いたのだが、兵士が顔を赤くして怒鳴り、私は髪を掴まれて街道に引きずり出されると、その元傭兵に蹴飛ばされる。

ゴロゴロと地面を転がり腹を抱えて嘔吐く。

「汚ったねぇな! 手が黒くなっちまった。臭せーしよっ、と」

もう一度蹴られると、鉄の臭いのする唾液が口端から垂れる。

逆らったら斬られるかもしれない。

怯えて頭を抱え身体を丸くさせる。

「おい。遊んでる場合じゃない。置いてかれるぞ」

後ろから来た兵士に肩を叩かれた傭兵は、私をいたぶるのを止めて、鼻でフンと息を吐き出しそこから離れて行った。


(やっぱり、生きてる人間は、怖い)

どうにか街道脇の窪みまで這っていって、そこに身体を横たえた。

蹴られた箇所が熱を持っていた。

力尽きて意識が遠くなる。

目覚める事が出来るのか、という不安のまま私は暗闇に沈んでいった。


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