(3)みさ子とタカ
何度もお礼を口にしながら、石野さんが帰って行った。私に比べればだいぶ小柄な彼女の背中を見送った後、横に立つタカをチロッと睨む。
「連絡を入れなかった私も悪いけど、あんなに強引に部屋に上がることはないでしょう」
「ごめん。お詫びという訳じゃないけど、お土産があるんだ」
タカと一緒にリビングに戻り、ソファに横並びで腰掛ける。すると、彼が通勤バッグの横に置いていた小さな手提げ袋から何やら取り出した。
「これ、買って来たんだ」
楽しげな表情で、タカは手のひらに乗せた品物を見せてくれる。それは、このところテレビや雑誌で度々取り上げられているスウィーツだった。
「CMで良く見かけるわ。確か、“君想いマカロン”っていう商品名だったかしら。売れきれ続出で、なかなか手に入らないって聞いたけど」
私の言葉に、タカの表情が楽しげなものから得意げなものに変わる。
「実は、外回りルートの途中にあるコンビニの店長が友達のお兄さんでさ。それで、お願いして確保してもらったんだ。みさ子さんと食べたくて」
そう言って、パッケージされたマカロンを私の手に握らせる。
「このマカロンのキャッチコピーは“君に会いたい……だから君を想う”なんだって」
私の手を、タカの手が優しく包み込む。
「俺は、いつもみさ子さんを想っているよ。いつでもみさ子さんを想ってる。いつまでも……」
とても穏やかに、だけど真剣に彼が告げる。
「みさ子さん、愛してる」
彼のやさしい表情は、チョコよりもクッキーよりもマカロンよりも甘やかなモノだった。