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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕とかな子と異世界の扉

作者: Noro

 僕の座る席はいつも決まってる。一番後ろの窓際の席だ。

通常、いじめられっ子の指定席は教卓の前と相場が決まっているけれど、うちのクラスではこの席が暗黙のルールになっている。


 普通だったら特等席のはずのこの場所が、クラスにいらない人間の処分場になっているのには、

やっぱりそれなりに訳がある。ゴミ箱が古くていつも辺りに臭いが漂ってくるのと、隣の席にいつも大場かな子が座るのがその理由だ。

 大場かな子は、モノクロ写真なら誰もが認める整った顔立ちの女の子だ。その薄い唇や

澄んだ大きな瞳、そして真っ直ぐに伸びる鼻筋は、大抵の男子の好みに当てはまるだろう。

しかし、かな子はカラーにした途端に不気味なお化け女に豹変する。

顔の右半分に大きな赤い痣が貼り付いているのだ。白く透き通るような肌とのコントラストがまたいっそう不気味さを浮き立たせている。


 さらに残念なことに無口な性格と時折一人浮かべる不気味な笑みのせいで、

入学して1週間とたたないうちに完全に女子から避けられるようになっていた。

女子の中での評価や序列が確定すると、それはさほど間を置かずに男子にも伝わっていく。

こうして、クラスの男子と女子の結束が深まるにつれて、僕とかな子は次第に教室の隅に追いやられていった。


僕も、それでも初めは頑張ってクラスの地味目なグループや一匹狼を気取った奴らに話しかけていた。

話を会わせようと、大して興味もないアニメを録画したり、騒々しいだけの洋楽CDを買ったりと、それなりの努力もしてきたつもりだ。


けれどもその努力も、山田や山本といった不良達や原みたいな女子の派手グループから「五味って、かな子と出来てるらしいよ」

と、根も葉もない噂を立てられるようになってからは完全に無駄になった。

 僕がどんなに一生懸命クラスの奴らに話しかけても、皆一様に薄笑いを浮かべながら「お前は、かな子としゃべってろよ」

とか「オバケはオバケどうし仲良くやってくださいね」と一言で済ませられてしまう。

僕はただ、生まれつきちょっと足が悪くて全力疾走ができないだけなんだけど。


 そんな訳で、窓際の一番後ろの席は、足オバケ男と顔オバケ女の指定席となっていた。

でも、だからといって僕は、かな子と仲良くするつもりは全くなかった。

かな子に話しかけるのは、山田や山本の言いなりになるようで、たまらなく嫌だったし、

かな子のほうも僕のことは眼中にない様子で、いつもぼんやり空を眺めたり、一心不乱に何かをノートに何かを書きとめていたりした。


 そんな僕とかな子との関係に変化が起きたのは、夏休みも間近に迫ったある日のことだった。

その日は、一時間目が始まる前にTシャツがべったりと貼りつくような蒸し暑い日で、窓からも少しの風も入って来なかった。

そんなときに限って僕は、家に数学の教科書を忘れてしまった。

数学のオダ先生は、『信長』とあだ名されているだけあって気性が荒く、何とかして教科書を見れるようにしないといけなかった。

仕方なく僕は、隣でぼんやり外を見ているかな子に教科書を見せてもらうことにした。


 かな子は、特に嫌がる様子も見せずに、無表情に僕の方に教科書を突き出した。

机の真ん中に教科書を置いて、教科書の両脇から眺める感じになった。

僕の雑にアンダーラインや書き込みの入った教科書とは違って、かな子の教科書は新品のようにきれいだった。


かな子のしなやかな指が、三角関数のページをめくった。

と、僕は右側のページの片隅に、何か書き込みがあるのに気がついた。

新品の教科署のそこだけに、神経質な細かい文字で何か書かれている。

目を凝らして見てみるとそこにはこう書かれていた。

「五味君、放課後時間ある?」と。

僕はおどろいてかな子のほうを見たが、かな子は僕を無視して黒板のほうを凝視している。

何か話しかけようかと思ったが、信長に目をつけられたくなかったのでそれはできなかった。

代わりに、かな子の教科書の右下、ページ番号のそばに小さく「OKです」と書いた。


 その日は放課後になるまでが本当に長かった。僕はいろいろ気になってかな子のほうを何度も

見てしまったが、かな子はいつもと変わらず心ここにあらずといった感じだった。

いっぽう、僕のほうはいろいろな妄想をしてしまって全然ノートを取れなかった。


 放課後の教室には、僕とかな子だけが残った。

かな子は窓から入る西日を浴びて、顔の半分がまぶしく金色に輝いて見える。

「放課後暇って何の用?」

僕は、内心では緊張していたが、それを隠してわざとそっけなくたずねた。

「五味君、学校って楽しい?」

「きまってるじゃないか。そんなの」

僕ははっきり否定も肯定もしなかった。いうまでもないことだから。

「そうよね。私も」

「だからって俺らにはどうにもならないだろ」

「そんなことないよ!」

珍しくかな子が声を荒げた。こういう反応を見せるのは初めてかもしれない。

「どういうこと?」

「見つけたのよ。異世界への扉! ここから脱出するための自由への扉」

「なんのこと?」


 そんな扉、もしあるのならいうまでもなく扉の向こうへ逃げたい。今すぐにでも。

しかし、僕はそんなものがあるとはとても信じられなかった。

正直に言うと、僕も時々そんな妄想をしたことはある。

クラスメイトに無視されっぱなしの昼休みとか、クラスの皆が楽しそうに話すホームルームの時とかに。

だけど、そんな扉などどこにもありはしないのだ。

これは、学校を休んで家に引きこもったとしても同じことだ。


 家にこもると、家の空気はあっという間によどみ、どこにもいけない閉塞感が体にまとわりついて離れなくなる。

体も思考も重くなって、何もできなくなり、息をして寝るだけの動物に成り下がる。

そのことを知る僕は、今日もこうして歯を食いしばって一人ぼっちの学校生活をすごしているのだ。


 「五味君。一緒に……一緒に行こうよ。ここから脱出して私達の異世界に!」

そういうとかな子は、僕の手を握ってきた。予想に反してかな子の手は温かかった。

「は?意味わかんねえよ!いかねえよ」

僕はとっさに手を離した。離してしまった。


「そう……五味君なら分かってくれると思ったのに」

そういうとかな子は、うつむいてしまった。目にうっすら涙がにじんでいる。


「だってわかんねえものそんなの。じゃ見せてくれよ異世界に行くとこ。本当ならば俺も後からついていくから」

「本当?」

かな子の声が少しだけ明るくなった。

「ああ、本当さ。早くみしてよ」

「待って。ちょっと準備するから」

かな子はそういうと、カバンからパワーストーンの数珠とクリスタルの十字架を取り出した。

「お前それって……」

かな子は、口に人差し指を当てシーっとつぶやくと、胸に手を当ててなにか奇妙な呪文を唱え始めた。


「○▲@?+W#%%>?!!」

何、何が起こったんだ?


 僕が不思議に思ったのを見透かしたように、かな子は、いたずらっぽく笑った。

「今の呪文で、異世界への扉が開いたの。その窓から飛び降りれば異世界への扉をくぐれるわ」

「ちょっと何?何をいってるんだよ?」

「まあ見てて」

そういうと、かな子は自分の机に足を乗せると、教室の窓を開けて、窓から身を乗り出した。

「おい、ちょっと待てよ!ここって4階だろ!まさかお前?」

「大丈夫。途中で異世界に転送されるから。私が行ったら、五味君もすぐついてきてね!」

 そういうと、かな子は教室から身を躍らせた。


 僕が大場かな子と話をしたのはそれが最期だった。











友達いない主人公の長編が書きたいです。

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