第2話。夕日の国に眠る記憶
このお話は、私が幼い頃疑問に思った
『朝日はのぼる。夕日は沈む…じゃあ、その朝日どこへ行ったの?夕日は、どこから登るの?』とお母さんに聞いていた幼い頃疑問に思ったことをテーマに、Aiに文章を作ってもらった共同制作の作品です。
私自身がゴビの調整や行間の演出など、こころを込めて編集しています。
幼い疑問への物語
読者の私と一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです
第2話:夕日の国に眠る記憶
「過去をやり直して、お母さんを救ってくれ!」
10年後の未来の私が放ったその言葉は、私の耳の奥でいつまでもリフレインしていた。
気がつくと、未来の私の姿はかき消え、目の前にはオレンジ色の暖かな光に包まれた街並み――
【夕日の国】への入り口だけが残されていた。
私は形見の懐中時計を握りしめ、意を決してその光の中へと一歩を踏み出した。
一瞬、目の前が真っ白になり、次に視界が開けたとき、私は見覚えのある懐かしい景色の中に立っていた。
夕暮れ時の、私の生まれ育った地元の商店街。
すれ違う人々はみんな、少し古いデザインの服を着ている。
(ここは……いつの時代だろう?)
きょろきょろと辺りを見回していると、自転車のベルの音が響いた。
「危ないわよ、お嬢さん」
声をかけてきたのは、買い出しの袋を前カゴに入れた、30代前半ほどのお母さんだった。まだ病気に侵される前、元気で、肌にツヤがあって、私の記憶よりもずっと若いお母さん。
そして、その自転車の後ろのチャイルドシートには、5歳になったばかりの私がちょこんと座り、眠そうに目をこすっていた。
(私が5歳の頃……。お母さんが、あの大きな事故に遭った年だ……!)
未来の私が言っていた「過去の分岐点」とは、まさにこの時期のことだった。
お母さんはこの年の秋、私をかばって大きな乗用車にはねられ、長い入院生活を送ることになった。
それがきっかけで体調を崩しがちになり、やがてあの病気へと繋がっていったのだ。
「あの、すみません!」
私は思わず、自転車を漕ぎ出そうとしたお母さんの前に立ちはだかった。
「あら、どうかしたの?」
お母さんは不思議そうな顔で、大人の姿をした私を見つめる。
まさか目の前の24歳の娘が、自分の未来の子供だとは夢にも思っていないだろう。
「あの、今日……これから先にある交差点には行かないでください! 大きな黒い車が突っ込んできます! 本当なんです、信じてください!」
必死に訴える私を、お母さんは少し警戒するような、でも困ったような目で見つめた。
「あの……お姉さん、大丈夫? 疲れているのかしら」
「違うんです! 本当に危ないから……!」
その時、背後のチャイルドシートにいた5歳の私が、私の顔をじっと見つめて言った。
「あ、このおねえちゃん、夢でみたことある。朝日のくにからきたの?」
お母さんはハッとしたように目を見開いた。
「朝日の国……? あなた、まさか……」
お母さんが何かを察したように言葉を失った、
その瞬間だった。
商店街の向こうから、キキィーッ!という激しいブレーキの音が響き渡る。
振り返ると、狂ったようにスピードを出した黒い乗用車が、こちらに向かって猛スピードで暴走してくるのが見えた。
歴史の通りなら、ここでお母さんは私をかばって車にはねられる。
「お母さん、危ない!」
私は叫ぶと同時に、お母さんの自転車のハンドルを思い切り引っ張り、歩道の頑丈なガードレールの内側へと突き飛ばした。
ズガガガガーン!!
激しい衝撃音とともに、黒い車はガードレールに激突し、激しい煙を上げて止まった。
車はぐしゃぐしゃに変形していたが、ガードレールの内側に倒れ込んだお母さんと5歳の私は、かすり傷一つ負っていなかった。
「あ……防げた……?」
私は震える手を見つめた。お母さんの身体を壊した、あの忌まわしい大事故を、私は自分の手で防いだのだ。これで歴史は変わる。お母さんは病気にならず、長生きしてくれるはずだ。
「ありがとう、お姉さん……。あなたのおかげで、私たち助かったわ」
地面に座り込んだまま、お母さんが涙を浮かべて私を見上げる。
「良かったです……本当に、良かったです……」
涙が溢れて止まらなかった。
お母さんを救えた。未来を変えられたんだ。しかし、安堵したのも束の間、私のポケットの中で、懐中時計が
「ジリリリリ!」
と、これまで聞いたこともないような不協和音を立てて鳴り響いた。
同時に、私の周りの景色が、まるでガラスが割れるようにパリンとひび割れを始める。
(な、にこれ……!?)
世界が激しく歪み、私は強烈な目まいに襲われた。お母さんと5歳の私の姿が、歪んだ空間の向こうへと消えていく。
「お母さん!!」
叫びながら目を開けると、私は再び
【ひかりの交差点】
の真ん中に倒れ込んでいた。
しかし、そこから見える景色は、先ほどとは全く違っていた。
右側の
【朝日の国】
の光は、どす黒い紫色に変色し、不気味な嵐のような風が吹き荒れている。
そして、
左側の
【夕日の国】
の街並みは、まるで砂のようにサラサラと崩れ落ちようとしていた。
「どういうこと……? 事故を防いだのに、なんで……!?」
パニックになる私の前に、再びあの、10年後の未来の私(34歳のアサヒ)が姿を現した。
しかし、彼女の身体は、まるでノイズの走るホログラムのように激しく点滅し、足元から消えかかっていた。
未来の私は、絶望に満ちた表情で私を睨みつけ、消え入るような声で叫んだ。
「バカな……! 事故は防いだのに、どうして未来がもっと悪くなっているの!? お母さんは生きてる……生きてるけど、別の、もっと恐ろしい運命に巻き込まれて……! それに、過去を変えたせいで、私たちの存在そのものがタイムパラドックスで消えかけている……!!」
「え……? そんな……」
私は自分の手を見た。爪の先から、じわじわと光の粒子になって、身体が透明に透き通り始めていた。(第2話・おわり)




