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現代に転生した元カノと、異世界の騎士になった俺。雨の日のコインランドリーで、三年の時を超えて再会した件  作者: 寝不足魔王


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第2話:洗濯機と再会は、回るもの

 乾燥機が「ピーッ」と間の抜けた電子音を鳴らして止まりました。

 その瞬間、世界から音が消えた。

 ゆっくりと、ベンチに座っていた女がこちらを振り向く。

 三年前の、あの雨の夜。

 最後の方で少しだけ短く切った、癖のある黒髪。

 大きな瞳が、甲冑姿の俺を捉えて、大きく見開かれました。


「……拓也? うそ……死んだんじゃ……」

「あかり……。本当に、あかりなのか?」


 俺の喉はカラカラに乾いて、まるで砂でも飲み込んだようでした。

 一歩、また一歩。

 この三年間、夢の中で千回は抱きしめようとして、そのたびに霧のように消えていったその肩。

 俺は我慢できず、カチャカチャと音を立てる甲冑も構わずに、彼女を抱き寄せました。


「会いたかった……! あかり、ずっと、お前のこと……!」

「ちょ、ちょっと待って! 痛い! 冷たいわよ、拓也!」


 感動の再会。

 涙、涙の抱擁……のはずでしたがね。

 あかりは俺の胸板――もとい、王家特注の冷え切った白銀のプレートを全力で押し返しました。


「あんた、その格好何よ! コスプレ? それとも鉄の塊? 服が汚れちゃうじゃない! クリーニング代請求するわよ!」

「……え、あ。ごめん、これ一応、騎士団の制服なんだわ」

「騎士団? 何言ってんのよ、このバカ……」


 呆れ顔。

 あぁ、これだ。

 この、俺の言葉を鼻で笑うような、ちょっと生意気な口の利き方。

 俺は、彼女が間違いなく「あかり」であることを確信し、逆に笑いが込み上げてきました。


「……あかり。お前、生きてたんだな。いや、死んだのか? どっちだ?」

 俺たちは、プラスチックのベンチに並んで座りました。

 隣り合うと、彼女からは洗剤の「フローラルな香り」がする。

 俺からは「魔物の返り血と、馬の汗の匂い」がする。

 この、どうしようもないほどの世界線の違い。


 あかりは、震える手で膝の上のタオルを握りしめ、ぽつりぽつりと話し始めました。

「……私も、あの事故で死んだの。でもね、気づいたら、現代の日本に生まれ変わってた。名前も一緒、顔も一緒。でも、前世の記憶は全部忘れてたのよ。ただの二十五歳のOLとして、普通に、毎日生きてた」

「……日本? 生まれ変わった? じゃあ、今のお前は、あの時のあかりじゃないのか?」

「いいえ、違うの。さっき、このコインランドリーに入った瞬間、全部思い出したのよ。……拓也との喧嘩も、あの雨の夜のことも、全部。まるで、乾燥機の中でぐるぐる回されてた記憶が、一気に乾いて飛び出してきたみたいに」


 彼女の瞳に、涙が滲む。

 俺は自分の三年間を、精一杯、落語の口上こうじょうみたいに面白おかしく、けれど必死に語りました。

 異世界で「無能騎士」と呼ばれて馬に蹴られたこと。

 王女様の護衛中に魔物に囲まれ、「ナルトが食いたい!」と叫んで覚醒したこと。

 夜、星空を見上げるたびに、彼女が作る、野菜炒めがちょっと焦げた味噌ラーメンを思い出して泣いたこと。


「……バカね、相変わらず。味噌ラーメンなんて、コンビニに行けばいくらでも売ってるのに」

 あかりが、ふふっと笑う。

 その笑顔を見て、俺は思わず彼女の手を握ろうとしました。

 ……が。


「……ねぇ、拓也。私、今の世界で……現代で、婚約してるの」


 俺の伸ばした手が、空中で凍りつきました。

 ガラガラ、ガラガラ。

 隣の乾燥機が、まるで俺の心臓を洗濯機にかけているような、無慈悲な音を立てて回り続けました。


「婚約……? 三年前の、あの喧嘩の続きじゃないのか? 俺たちは……」

「時間は、残酷よ。拓也。あんたが異世界で剣を振るってる三年の間に、私は日本で、別の三年の月日を重ねちゃったの」


 異世界の騎士と、現代の婚約者のいる女。

 コインランドリーの蛍光灯が、チカチカと不気味に、俺たちの「境界線」を照らし出していました。


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