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神託の翻訳者~僕だけ読める神託の石板は最強のアーティファクトでした~  作者: 猫柱


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09.一騎討ち! 


「俺はリク。女神に召還され、その寵愛を受かった勇者だ。君とは違って、ね」


一騎討ち。

それは戦場の華ともいえる戦闘形式。

互いの力をぶつけ合い、名誉を奪う千載一遇のチャンス。


「僕はマルス。『翻訳者』です!」


慣習に従って、名乗り合う両者。


たかが『名乗り』と侮ってはいけない。慣習になると言うことは必ず意味がある。

自己紹介、挑発、士気向上、喧伝。


思い付く限り理由を羅列してみれば、リクの『名乗り』は正しく、意味を成していた。


「非戦闘スキル、運良く得た『スキル』がそれでは人生詰んだも同然だね。僕なら耐えられない。見ろ、これが本物のスキルだ!」


大袈裟に、仰々しく両手を広げ、自らのスキルをひけらかす。


右手、左手、首筋。それぞれに三つの刺青。

スキルの強弱は研究の結果、刻まれた文字の長尺、紋様の大きさに比例することが判明した。


もちろん、長ければ長いほど、大きければ大きいほど強力になる。


その理論でいえば、マルスはリクより弱者であることは確実だ。


『翻訳』スキルは小さな幾何学模様きかがくもようで表され、リクの模様は見える範囲、全てを埋め尽くしていた。


「大丈夫です。僕には神託の石板がありますから!」


スキルで劣るなら、アーティファクトに頼れば良い。

マルスは全幅の信頼を置く石板を掲げ、自慢げな顔で虎の子を披露した。


そんなマルスを嘲笑う勇者。


「神託...なんたる奇遇。俺も、神の守護を得ている。どちらの神が本物か、競い合おうじゃないか!」


自信故の慢心。

開示した、自称最強スキルの断片。


「神から授かりし最強のスキル─絶対地圏(アブソリュート・オラクル)


大袈裟に広げた両手を握り締め、指の隙間から目映い光が漏れ出すのと、地面から土板が出現したのは、同時だった。


宙に浮く土板は平たい無地。

傷ひとつない表面は、鏡のように艶やかに煌めき、神託を写し出すことは無さそうだった。


神託の石板とは完全に別物。

ならば考え付く用途は攻撃か、防御の二択。


神託(オラクル)スキルがどんな神託を下すのか

想像出来ないが、考えても結論は出ないだろう。


勇者スキルの可能性は未知数。

通常、スキルは単一効果だが、異世界召還された者が授かるスキルは基本的に強力(チート)

複数の効果を持ち合わせていたとしても、おかしくはない。


あらゆるスキルの上位置換になり得る、それが『勇者スキル』なのだ。


その知識が、未知のスキルに対する恐怖心を煽り、足をすくませた。


─深呼吸。

落ち着かないといけない。

息を吐き、動かない足に活を入れる。


ポケットから取り出したのは沢山の文字(かんじ)が重なって球状になったボール。


圧縮されて尚、蠢き、脈動を繰り返す球体─それは卒業試験で学長に圧縮された(モンスター)


マルス唯一の攻撃手段。

投げつければ良い。そう神託は示している。


大きく足を踏み出し、全身全霊を振り絞って腕を振り下ろす。


くるくる弧を描いて飛ぶ球体に向けて、石板に刻まれた呪文を叫ぶ。


「行けっモンスターボ◯ル!」


戦いの火蓋が、切って落とされた。


Ж


 一面に溢れ出した漢字の塊。

一字、一言、単独で意味を成す文字達。


それが、球体から撒き散らかされた。


大小さまざまな文字は、磁石に引き寄せられるかのように、徐々に形を成して行く。


骨で出来た白い骨格を赤い肉が包み込み、屈強な鱗が覆った。


槍のように鋭い尾先。大地を抉る爪、捕食者を彷彿させる牙。クリクリな御目目。


きゅう~?」


抱き抱えるのに丁度いい、お手頃サイズ。

愛らしい外見。


余った文字が胴体の中心、臍の位置から垂れ下がり、鎖のように纏まった。


─ドラゴン、いや、子ドラゴン。


潰されたら小さくなる。至極当然の道理。

しかし、物理的に圧縮された子ドラゴンは思考さえ幼児化してしまったように愛嬌を振り撒いた。


よちよち歩き、笑顔を振り撒く子ドラゴンは可愛さの分だけ、戦力的には心許なさを感じた。


だが、後悔してもなにも変わらない。

勝負を受けた以上、神託を信じて突き進むしかないだ。


「ファイヤーボール!」


ビクッと身を震わせた子ドラゴンが指先に視線を向ける。そこには、木剣を投げつけようと構えた少年がいた。


『叫叫叫!』


大きく見開かれた目に、赤い火が灯った。

牙を向いた口の隙間から煙が漏れ、熱気が(ほとばし)る。


開け放たれた口腔から、真っ赤に染まった『炎』が弾丸のように放たれた。


大炎上。

熱風を巻き起こす炎の海。一面の赤。

立ち込める煙に視界は狭まり、冷や汗が頬を伝い流れ落ちる。


(あわわ、大惨事!)


燃え盛る炎は、想定外の威力だった。

勝負とはいえ、相手に大怪我を負わせてしまったのではないかと逡巡する。


煙が薄れ、晴れた視界の中、赤く染まった土板の隙間から覗く、張り詰めた表情の少年。


「まさか、殺す気で来るとはね。おまえを侮っていた。ここからは、本気を出そう!」


炎に耐性があったのか、燃え盛る炎を前に少年は無傷だった。


しかし、直撃した土板は限界を迎えた。

焼けた土板が砕け、ボロボロ崩れ落ち、土煙が漂い始める。


「─断層剣フォルトエッジ」


二つ目のスキル。

土砂が吹き出し空中で積み重なっていく。


それが剣となって、地に突き刺さる。

スキルによって、召還、作成された剣がなんの変哲もない剣と言うことはあり得ない。


魔剣あるいは聖剣。

その刃には文字が刻まれていて、読めた。 


「...欠陥(けっかん)? 欠点、あるいはズレかな?」


英雄譚えいゆうたん、その主人公の如く構えたリクが、僅かに動揺する。


「効果がわかろうと対処出来なければ問題ない!」


殺気を放ち、剣先を石板の少年に狙いを定め、一目散に駆け出した。

─狙いは短期決戦。


だがそれは、子ドラゴンが無視してくれて初めて成り立つ話だ。


疾走する少年を二度目の炎が渦巻き照らす。


絶対地圏(アブソリュート・オラクル)


轟音と爆炎。

再び生成された土板。二枚目の土板が赤熱した一枚目を置き去りにして動き出した。


燃え盛る炎は遮られ、降り注ぐ火の粉ひとつさえ通さない姿はまさに神の盾。


炎の海突き破り、子ドラゴンが襲い掛かる。

盛大な衝突音を撒き散らし、宙に爪が固定された。意識外の攻撃さえ、届かない。


─絶対防御。


恐らく神託が告げるのは攻撃予測。

つまり、()()()()()()()()()


最強のスキル。

それは決して誇張などではなく、子ドラゴンの猛攻を弾き返しながら自らの有用性を証明する。


流れは完全に劣勢。攻撃が通らない限り勝ち目がないことは明白。

勝ち筋はひとつ、互いの神を競合わせるしかない。


最終的には、神託に縋るお決まりのパターン。

そして、絶望する...。


【豁、蜃ヲ謗倥l繧上s繧上s】


─どうやら、神様に見捨てられたようだ。

的を射ない神託が、脳に混乱をもたらす。


それも一瞬。

神託を疑う自分を改めた。きっと、意味があるはずだとすぐに思い直した。


「ここ掘れわんわんと言われても、犬は、いないよね?」


マルス、リク、子ドラゴン。

三者を除く生命体は存在しない。近しいと言えば子ドラゴンだろうが、彼? は今手一杯のようだ。


二者の間に割って入る子ドラゴン。


相変わらず攻撃は衝撃音のみを響かせ、突破することは叶っていないようだが、目的は他にあるように思えた。


進行を防ぐこと。


自動(オート)で攻撃を防ぐ盾は、当然正面もガードする。即ち対面すれば進むことは出来ない。

マルスを攻撃させないための策だろう。


子ドラゴンの頭脳プレーに感嘆した。


そんな後ろ姿に頼るのは若干忍びなかったが、他に方法は考え付かず問いかけた。


「地面、掘れないかな!?」


攻撃が止むことはなく、鋭利な爪が土盾に阻まれ、握った。全体重を腕に預け強く地を蹴る。


綺麗な海老剃りを描くボディに天を差すような尻尾。それが、しなるように地面を突き刺す。


甲高い、鉄を打津ような、音と共に地面が振動を繰り返した。


吹き出す水。


噴水のように絶え間なく涌き出る水に、傍観に徹していた副学園長が動き出した。


「戦闘は一時中止! 水道管破裂だ!」

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