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神託の翻訳者~僕だけ読める神託の石板は最強のアーティファクトでした~  作者: 猫柱


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07.目指せ! 入学式


 会場はざわついていた。


「...行方不明?」


「本当かよ...」


新たな門出を祝う晴れ舞台。

入学式の遅れを告げるアナウンスが会場全体に動揺を走らせている。


そして、教師たちは真剣な表情で集まり、別室に姿を消した。


『ダンジョン学園』にトラブルは付き物だ。

学校とはいえ、教室間の移動すらダンジョン内を徘徊する必要がある内部構造は、問題が発生しないことの方が少ないのである。


そこで発生した行方不明事件。

通常、話題にすらならないそれが会場をざわつかせているのは、その人物の背景故。


─新入生代表が行方をくらましていた。


授業前に教室に辿り着けないことは、良くある出来事。

しかし、『代表』に選ばれるほど強力な実力者の所在が分からなくなることは稀なのだ。


閑話休題。

入学式のように生徒全員が同じ場所、時間を指定された行事はあまりない。


学校側の時間差さえ評価の一環として捉えたカリキュラム故である。


つまり、着席順は実力の視覚化と同等。

実質的なナンバリング。


席を離れることは自殺行為。

自らの優位を投げ捨てる蛮行。

ならばこそ、トラブルが発生しようが、生徒が自主的に動くことはあり得なかった。


見ず知らずの他人を助けるために、自らの評価を下げる必要はない。

当然の、至極当然の考え方である。


そんな暗黙の了解を破るように少年がひとり、立ち上がった。


先頭に陣取る、いわば主席。

石板を抱き抱える少年は、真剣な面持ちで興奮冷めやらぬ中、会場を後にした。


「...まさか、行方不明者の探索に向かったのか?」


問い掛けるような視線だけが、少年の背中を射ぬいていた。


Ж


「...危なかったぁ」


黄金の泉が、静かに流れるのを肌で感じる。

お花摘みを終えた少年は、すっきりした面持ちで手を洗う。


そして、次の瞬間、困惑に近い感情によって眉を歪ませる。


ジャバジャバ流れる水をそのままに、石板を覗き込んだマルスは眉をひそめた。


【莨壼�エ縺ォ謌サ繧九↑】


会場に戻らないよう助言する神託、その意味が分からなかったのである。


だが、しかし─意味は分からずとも神託を無下にすることは憚られた。


誰もいないことをきょろきょろと確認してから、会場とは逆方向に足を向けた。

行く宛もなく。


無数に枝分かれする迷路道をふらふらと徘徊する。

すると、迷路の分岐点に落とし物を発見。


落とし物と言っても、それは殻に包まれたアーモンドのような木の実。


美味しそうな木の実に、ぱぁっと顔を輝かせながら拾い集めた。


「あれ?」


10個以上続けて拾った木の実、分岐点に必ずあったそれが失くなってしまった。

ご褒美を失い、マルスは肩を落とす。


念のため薄暗い十字路を汲まなく探した。

中央に回転テーブルのような円形の台座が置かれた空間(じゅうじろ)の台座に飛び乗り、くるくる回りながら室内を見回す。


「おっとっと!」


徐々に早くなる台座。遠心力に抗い、両手を伸ばして体勢を整えながら耐えると、目線の変化に気が付く。

回転に合わせ台座が沈んでいたのだ。

くるくる回り続けるマルス。


「あわわわっ」


ポタポタ水の滴る鍾乳洞のような空間で、回転テーブルは停止した。


ふらつく足を整えながら、無骨な岩が転がった面を踏みしめる。

湿った洞窟内には、()()()()()()()()()


吹き抜ける風に体温を奪われ、身震いする。

回転テーブルが固く閉ざされ、戻ることの出来ないマルスは、木の実を拾いを続行した。


流石にわかる─意図的に置かれたであろう木の実。

そんな風に疑ってしまうほど、不自然な置き方。


『──ッ─』


凹凸の多い岩壁が、振動を跳ね返して反響させた。

甲高い、悲鳴のような音が次第に大きくなり、心臓をぎゅっと握られるような恐怖心が芽生え始める。


不気味な感覚。


そう思った瞬間に、洞窟全体が振動した。


何度も、何度も...


そして、辿り着いたのは揺れの発生源。

高い天井から、鍾乳石が垂れ下がる広間。

岩肌剥き出しの地面には、キィーキィー不協和音を鳴らす両開きの扉。


それが、定期的に跳ね上がる。

鎖と錠前で雁字搦めにされていなければ、いまにもモンスターが飛び出して来そうな雰囲気。


さらに気になるのは、不自然な祭壇。

そこに、眠りにつく少女。


学園の生徒だろうか?

白を基調とした制服が、清潔感を漂わせる。

肩に掛かった赤いリボンはふわりと風に揺られていた。


まるで雪のように清らかな肌は純粋無垢な天使のようで、祭壇から流れる金髪が、キラキラ輝く宝石のよう。


とても美しい。

絵に描いたような美貌を持つ少女に、そんな安易な感想しか思い付けなかった。


触れることすら一瞬、躊躇してしまう。

しかし、その手足が縄で縛られていることが分かり、そんな感情は消え去った。


─助けないと!


「キミ、大丈夫!? 動ける?」


返事がない、ただの屍のようだ。

...いや、微かだが息はある。


早いとこ連れ出して、病院に行った方が良いだろう。


少女を抱き抱えた瞬間、扉が激しく叩かれた。

まるで、生け贄を持ち帰ろうとする不届きものに怒るように、打ち鳴らされる扉がより強く、激しく揺れる。


ビキリ、と鎖で巻かれた錠前に罅が入った。

吹き飛ぶ錠前。

ムワッとした熱気が室内を埋め尽くす。


真っ赤に燃えるような腕が、扉から伸びる。

這い出ようともがく巨体が触れた地面が、溶けた。

ジュウジュウ煙を放つ地面に、逃走を決意する。


あれは、恐らくオーガと呼ばれるモンスター。

何故断定出来ない理由は、異常な温度。


凄まじい熱気に、離れていても肌が焼けそうなほどヒリヒリ傷んだ。


『グゥオオオオオオオオ!!』


神託の石板に進路が表示される。

脇目も振らずに走り出した少年を、赤い眼差しが捉えていた。




『オオオオオオオオオオオオオオオッ!』


鍾乳石を撒き散らす、獰猛な唸り声がふたりを追い掛ける。


モンスターが壁に突っ込む衝撃が、振動となり洞窟を震わせた。

薄暗い洞窟内で背後など気にしようものなら、躓き、あっという間に追い付かれてしまう可能性がある。

一心不乱に洞窟の通路を駆けた。


目指すは入学式会場。

そこなら、少なくとも自分より強者が待機していてもおかしくないのだ。


バクバク破裂しそうな心臓から意識を剃らすように、唇を強く、噛み締めた。

口内に鉄の味が広がり、覚束ない足に再び、力を籠めた。


歯車のように同じ速度で回転を繰り返す門に飛び込んで、忘れていた息を吐く。


そんな僕を待ち受けていたのは、

騎士剣、戦斧、長槍、杖。

色とりどり、さまざまな武装に身を包んだ大人達。


「ひいっ!」


「待て! 君はマルスか?」


「クロムさぁん、だずげでぐだざぁ゛い゛」


「マルス。一体、何が」


─轟音が轟く。

全ての音を打ち消す、鼓膜を打ち破らんばかりの轟音。


それは、圧縮された炎がアーチ型の校門を吹き飛ばした音。

天高く飛び立つ校門と、熱気漂う地獄穴。


絶望は、確実に近付いていた。

音もなく、狡猾に、たった一人の獲物を見逃さないよう執拗に。


騎士団長だけが、それに気付いた。

剣を構え、『スキル』を解放する。


色彩操作(クロマ・ドミニオン)・赤」


奈落の底から這い出た赤鬼を赤騎士が迎え撃った。

獲物を掴まんと伸ばされた腕に、幾重もの剣線が刻まれる。

血飛沫が壁面を真っ赤に染めた。


『グルゥオオオオオオッ』


負傷したモンスターは地盤を崩壊させんばかりに暴れ周り、土煙を巻き上げる。


その目に怒りを灯した赤鬼(オーガ)は、腕を切り落とした『敵』のみに狙いを定めた。


門番鬼(ゲート・オーガ)だ。『円陣』で対象を保護!」


殺人的な速度で喉元を狙う爪を軽くいなした騎士団長は、腹部に激しい蹴りを入れ、ゲート・オーガを吹き飛ばす。


ジュウジュウ音を立てて熱気を放つグリーヴ、その爪先から騎士鎧の色が侵食されていく。


色彩操作(クロマ・ドミニオン)・青」


青く染まった騎士鎧は、まるで氷のように冷たい空気を漂わせ、地表を霜柱が押し上げる。


青騎士は半身で、片手を前に出しながら挑発するように指を動かした。


『グオオオオオオッ』


挑発に理性を失ったモンスターが飛び掛かり、その懐に潜り込んだ青騎士が一刀両断する。


青い騎士団長が、赤く染まった。


少女が目を覚まし、騎士団長がふたりに問うた。


「君達が向かう先は、病院かな? ...それとも」


「あ」


「「入学式!」」

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